特許拒絶査定不服審判
2020-015518
ディーゼルエンジン
- 審判番号
- 2020-015518
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-075998外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年11月10日
- 審決日
- 2021年04月20日
- 公報発行日
- 2021年06月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社豊田自動織機
- 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 【請求人】トヨタ自動車株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (F02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-75998「ディーゼルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-178785、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成29年4月6日に出願され、令和2年5月7日付け(発送日:同年5月19日)で拒絶理由が通知され、令和2年7月13日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和2年7月31日付け(発送日:同年8月18日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和2年7月13日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
燃焼室を有するエンジン本体と、
前記エンジン本体を経由せずに排気通路を吸気通路と接続し、排気ガスの一部を前記吸気通路に還流するように構成されたEGR装置と、
前記燃焼室内に燃料を噴射するように構成された燃料噴射装置と、
前記エンジン本体が発生するトルクの上限に従って決定される燃料噴射量の上限を示すトルク限界噴射量を前記燃料噴射量が超えないように前記燃料噴射装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記EGR装置によるEGR率の低下に従って前記トルクが上限を超えないように、前記EGR率の低下に従って前記トルク限界噴射量を低下させ、
前記制御装置は、前記EGR率が最大EGR率であるときの前記トルク限界噴射量を示す第1のマップから求まる前記トルク限界噴射量と、前記EGR装置が非作動のときの前記トルク限界噴射量を示す第2のマップから求まる前記トルク限界噴射量との間を、前記EGR率に応じて補間することによって、前記EGR率の低下に従って前記トルク限界噴射量を低下させる、ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記制御装置は、前記エンジン本体に吸入される吸気ガス量及び前記吸気通路に供給される空気量を用いて前記EGR率を推定し、前記EGR率の推定値の低下に従って前記トルク限界噴射量を低下させる、請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1のマップから求まる前記トルク限界噴射量と、前記第2のマップから求まる前記トルク限界噴射量との間を、前記EGR率に応じた線形補間を行なうことによって、前記EGR率の低下に従って前記トルク限界噴射量を低下させる、請求項1又は請求項2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記最大EGR率は、前記エンジン本体の全負荷時の最大EGR率である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のディーゼルエンジン。」
第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。
本願の下記の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1、3
・引用文献等 1、2、4
・請求項 2
・引用文献等 1-4
<引用文献等一覧>
1.特開平11-141373号公報
2.特開2003-3894号公報
3.特開2012-102682号公報
4.特開2006-249972号公報
第4 引用文献、引用発明
1 原査定の拒絶の理由に引用した特開平11-141373号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「内燃機関の燃料噴射量制御装置」に関して、図面(特に図1、8及び10を参照。)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した(以下、同じ)。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御装置に関し、特に全負荷時における最大噴射量を好適に制御する装置に関するものである。」
(2)「【0002】
【従来の技術】一般に、自動車等のディーゼルエンジンの全負荷時のトルク、すなわち最大トルクはエンジンや駆動系の耐久性によって規制されており、この規制の範囲内で同エンジンに供給される燃料の最大噴射量が設定されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記最大噴射量は一般に、エンジン回転数に依存するマップにより設定(算出)されている。しかし、同設定された最大噴射量に対して実際に発生するトルクはエンジンに供給される空気の温度(吸気温)によってばらつきを有していることが発明者によって確認されている。すなわち、吸気温が低いときには空気密度が高いために発生トルクが大きくなり、一方、吸気温が高いときには空気密度が低いために発生トルクが小さくなる。したがって、最大噴射量は高めにトルクが発生する吸気温が低い場合に合わせて少なめに設定しておく必要があり、この段階でトルク損失を招いていた。
【0004】なお従来、例えば特開昭58-25529号公報に記載された装置のように、吸気温に応じて最大噴射量を補正制御する装置はあったが、上記トルク損失についてはこれを補償することはできなかった。
【0005】本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、いかなる吸気温の変化に対しても、内燃機関や同機関の駆動系の耐久性を損なわない範囲での最大トルクが得られる最大噴射量に制御することのできる内燃機関の燃料噴射量制御装置を提供することにある。」
(3)「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は内燃機関の回転数に応じてトルク限界に係る燃料の最大噴射量を算出する最大噴射量算出手段と、前記機関に供給される空気の温度を検出する吸気温検出手段と、前記検出される吸気温に応じて、高い吸気温では前記算出される最大噴射量を増量補正し、低い吸気温では同最大噴射量を減量補正する補正手段とを備えることをその要旨とするものである。
【0007】上記トルク限界に係る燃料の最大噴射量は上記機関や同機関の駆動系の耐久性を保証した上で最大のトルクが得られる噴射量として算出される。ただし、上記機関に生じる実際のトルクは、吸気温が高いときには空気密度が低いために小さくなる。したがって、この小さめに発生する実際のトルクと設定されたトルク限界値との間に余裕が生じる。そこで同構成によるように、高い吸気温ではトルク限界に係る燃料の最大噴射量を増量補正し、低い吸気温では同最大噴射量を減量補正することにより、上記余裕の幅を少なくし、設定されたトルク限界値により近い値までトルクを高めることができる。」
(4)「【0013】図1に示すように、このディーゼルエンジン2は、同エンジン2に燃料を供給するための燃料噴射ポンプ1を備える。その燃料噴射ポンプ1は、エンジン2のクランクシャフト40にベルト等を介して駆動連結されたドライブプーリ3及びドライブシャフト5を有する。燃料噴射ポンプ1は、そのドライブプーリ3の回転によって駆動され、ディーゼルエンジン2の各気筒に設けられた燃料噴射ノズル4から燃料を噴射する。
【0014】なお、ディーゼルエンジン2は、トランスミッション(図示しない)に駆動連結され、クランクシャフト40等により駆動系が構成されている。このディーゼルエンジン2では、シリンダボア41、ピストン42及びシリンダヘッド43によって各気筒に対応する主燃焼室44が形成されている。また、各主燃焼室44に連通する副燃焼室45が各気筒に対応して設けられている。そして、各副燃焼室45には、燃料噴射ノズル4から噴射される燃料が供給されるようになる。
【0015】ディーゼルエンジン2には、吸気通路47及び排気通路48がそれぞれ設けられている。また、その吸気通路47には過給機を構成するターボチャージャ49のコンプレッサ50が設けられ、排気通路48にはターボチャージャ49のタービン51が設けられている。また、排気通路48には、過給圧を調節するウェイストゲートバルブ52が設けられている。周知のように、このターボチャージャー49は、排気ガスのエネルギーを利用してタービン51を回転させ、その同軸上にあるコンプレッサ50を回転させて吸入空気を昇圧させる。この作用により、密度の高い混合気を主燃焼室44へ送り込んで燃料を多量に燃焼させ、ディーゼルエンジン2の出力を増大させる。
【0016】また、ディーゼルエンジン2には、排気ガス再循環装置(EGR)が設けられている。その装置は、排気通路48内の排気の一部を吸気通路47の吸入ポート53へ還流させるEGR通路54と、そのEGR通路54の途中に設けられたダイヤフラム式のEGRバルブ55とからなる。さらに、そのEGRバルブ55を負圧の導入調節によって開度調節させるために、デューティ制御された電気信号により開度調節されるエレクトリックバキュームレギュレーティングバルブ(EVRV)56が設けられている。そして、このEVRV56の作動により、EGRバルブ55の開度が調節され、この調節により、EGR通路54を通じて排気通路48から吸気通路47へ導かれるEGR量が調節される。」
(5)「【0022】こうした燃料噴射ポンプ1にあっては、ドライブシャフト5が回転されて燃料フィードポンプ6が駆動されることにより、燃料タンク(図示せず)から燃料供給ポート20を介して燃料室21内へ燃料が供給される。また、プランジャ12が復動されて高圧室15が減圧される吸入行程中に、吸入溝16の一つが吸入ポート19に連通することにより、燃料室21から高圧室15へと燃料が導入される。一方、プランジャ12が往動されて高圧室15が加圧される圧縮行程中に、分配通路18から各気筒の燃料噴射ノズル4(図1)へ燃料が圧送されて噴射される。」
(6)「【0029】また、ディーゼルエンジン2にはこうした回転数センサ35に加えて、同エンジン2の運転状態を検出するための各種センサが設けられている。図1に示すように、吸気通路47の入口に設けられたエアクリーナ64の近傍には、吸気温THAを検出する吸気温センサ72が設けられている。また、スロットルバルブ58の近傍には、同スロットルバルブ58の開閉位置から、ディーゼルエンジン2の負荷に相当するアクセル開度ACCPを検出するアクセルセンサ73が設けられている。吸入ポート53の近傍には、ターボチャージャ49によって過給された後の吸入空気圧力、すなわち吸気圧PMを検出する吸気圧センサ74が設けられている。さらに、エンジン2のウォータージャケットには、エンジン2の冷却水温THWを検出する水温センサ75が設けられている。また、エンジン2にはクランクシャフト40のエンジン回転再基準位置を検出するクランク角センサ76が設けられている。加えて、前記トランスミッションには、そのギヤの回転によって回されるマグネット77aによりリードスイッチ77bをオン・オフさせて車両速度(車速)SPDを検出する車速センサ77が設けられている。」
(7)「【0033】次に、こうしたECU71により実行される燃料噴射量制御に係る処理動作について図4乃至図9に従って説明する。図4は、「燃料噴射量制御」のための処理ルーチンを示すフローチャートであり、この処理は所定のクランク角ごとの角度割り込みで実行される。
【0034】処理がこのルーチンへ移行すると、まずステップ101において、ECU71は、現在のエンジン回転数NE及びアクセル開度ACCPの値を読み込み、ステップ102に移行する。なおここで、エンジン回転数NEは前記回転数センサ35からの出力に基づき算出された値である。
【0035】ステップ102においてECU71は、エンジン回転数NE及びアクセル開度ACCPをパラメータとする周知の2次元マップから、基本噴射量QBASEを算出し、ステップ103に移行する。
【0036】次に、ステップ103においてECU71は、後述する「最大噴射量算出ルーチン」に従って最大噴射量QFULLを算出し、ステップ104に移行する。そして、ステップ104においてECU71は、上記算出された最大噴射量QFULL及び基本噴射量QBASEのうち小さい側の値を最終噴射量QFINとして算出し、ステップ105に移行する。
【0037】ステップ105においてECU71は、前記最終噴射量QFINに相当する噴射量指令値(時間換算値)TSPを算出し、ステップ106に移行する。そして、ステップ106において、上記算出された噴射量指令値TSPを出力し、その後の処理を一旦終了する。この噴射量指令値TSPの出力により、前記燃料噴射ポンプ1の前記電磁スピル弁23が駆動制御され、燃料噴射が実行される。」
(8)「【0038】次に、本実施の形態において、上記最大噴射量QFULLを算出し決定するための「最大噴射量算出ルーチン」について、図5に基づき説明する。処理がこのルーチンへ移行すると、まずステップ201において、ECU71は、吸気温THAの値を読み込み、ステップ202に移行する。
【0039】ステップ202においてECU71は、先に読み込んだエンジン回転数NEに関する図6の1次元マップから黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMを算出する。この黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMは、ある基準温度において、黒煙の発生を抑制するための最大噴射量となっている。黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMを算出したECU71は、ステップ203に移行する。
【0040】ステップ203においてECU71は、エンジン回転数NE及び吸気温THAの2次元マップから求められる黒煙に対する吸気温補正係数MQFASMを算出する。この黒煙に対する吸気温補正係数MQFASMは、吸気温THAに応じ、黒煙の発生を抑制する範囲で最大トルクが得られるように上記黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMを補正するものである。同吸気温補正係数MQFASMはあるエンジン回転数NEを選択した場合に、図7に示すように吸気温THAが上昇するに従い、減少する特性を有している。なお、同吸気温補正係数MQFASMは、上記基準温度において「1.0」の値となる。この黒煙に対する吸気温補正係数MQFASMを上記黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMに乗ずることにより、黒煙限界の最大噴射量QFULSM’(=MQFASM*QFULSM)が算出される。したがって、黒煙限界の最大噴射量QFULSM’は、吸気温THAが上記基準温度に対して低い側にある場合には、黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMに対して多めに補正され、一方、吸気温THAが上記基準温度に対して高い側にある場合には、黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMに対して少なめに補正される。
【0041】このように黒煙に対する吸気温補正係数MQFASMを算出したECU71は、ステップ204に移行する。ステップ204においてECU71は、先に読み込んだエンジン回転数NEに関する図8の1次元マップから求められるトルク限界の基準最大噴射量QFULJを算出する。このトルク限界の基準最大噴射量QFULJは、ある基準温度において、エンジンや駆動系の耐久性によって規制される最大噴射量となっている。トルク限界の基準最大噴射量QFULJを算出したECU71は、ステップ205に移行する。
【0042】ステップ205においてECU71は、エンジン回転数NE及び吸気温THAの2次元マップから求められるトルクに対する吸気温補正係数MQFATQを算出する。このトルクに対する吸気温補正係数MQFATQは、吸気温THAに応じ、エンジンや駆動系の耐久性を損なわない範囲で最大トルクが得られるように上記トルク限界の基準最大噴射量QFULJを補正するものである。同吸気温補正係数MQFATQはあるエンジン回転数NEを選択した場合に、図9に示すように吸気温THAが上昇するに従い、増加する特性を有している。なお、同吸気温補正係数MQFATQは、上記基準温度において「1.0」の値となる。また、同吸気温補正係数MQFATQはエンジン回転数が高くなるに従い、上記吸気温THAの上昇に対する増加率が低減される。このトルクに対する吸気温補正係数MQFATQを上記トルク限界の基準最大噴射量QFULJに乗ずることにより、トルク限界の最大噴射量QFULTQ(=MQFATQ*QFULJ)が算出される。したがって、トルク限界の最大噴射量QFULTQは、吸気温THAが基準温度に対して低い側にある場合には、トルク限界の基準最大噴射量QFULJに対して少なめに補正され、一方、吸気温THAが基準温度に対して高い側にある場合には、トルク限界の基準最大噴射量QFULJに対して多めに補正される。
【0043】このようにトルクに対する吸気温補正係数MQFATQを算出したECU71は、ステップ206に移行する。ステップ206においてECU71は、上記算出された黒煙限界の最大噴射量QFULSM’(=MQFASM*QFULSM)とトルク限界の最大噴射量QFULTQ(=MQFATQ*QFULJ)とを比較し、小さい側の値を最大噴射量QFULLとして算出する。この算出された最大噴射量QFULLがその後(図4ステップ104)、基本噴射量QBASEとの比較のもとに、いずれか小さい側の値が最終噴射量QFINとして設定されるようになることは前述したとおりである。
【0044】このように、本実施の形態にあっては、黒煙限界の基準最大噴射量QFULSM及びトルク限界の基準最大噴射量QFULJに対して吸気温THAに基づく各別の補正係数MQFASM,MQFATQを乗じることにより、図10に示す態様でその補正が行われるようになる。なお、同図10において細線で示される側が上記黒煙限界の最大噴射量QFULSM’を表し、太線で示される側が上記トルク限界の最大噴射量QFULTQを表す。また、各線において実線は前記吸気温THAが基準温度であるときの特性、破線は同吸気温THAが基準温度よりも高いときの特性、一点鎖線は同吸気温THAが基準温度よりも低いときの特性をそれぞれ示す。
【0045】前述のように、黒煙限界の最大噴射量QFULSM’は、黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMに前記図7に示した吸気温補正係数MQFASMを乗じた値であるため、同最大噴射量QFULSM’は高い吸気温THAでは減量し、低い吸気温THAでは増量している。これは、黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMはある基準温度において黒煙の発生を抑制した上で最大のトルクが得られる噴射量であるが、上記黒煙が実際に発生するときの噴射量は、吸気温THAが低いときには空気密度が高いために多くなることによる。すなわち、この多めになる黒煙が実際に発生するときの噴射量と黒煙限界の基準最大噴射量QFULSMとの間に余裕が生じる。そこで、高い吸気温THAでは黒煙限界の最大噴射量QFULSM’を減量し、低い吸気温THAでは同最大噴射量QFULSM’を増量することにより、上記余裕の幅を少なくし、実際に黒煙が発生するときの噴射量により近い値まで噴射量を補正してトルクを高めている。
【0046】一方、トルク限界の最大噴射量QFULTQは、トルク限界の基準最大噴射量QFULJに前記図9に示した吸気温補正係数MQFATQを乗じた値であるため、同最大噴射量QFULTQは高い吸気温THAでは増量し、低い吸気温THAでは減量している。これは、トルク限界の基準最大噴射量QFULJはある基準温度においてエンジンや駆動系の耐久性を保証した上で最大のトルクが得られる噴射量であるが、上記機関に実際に生じるトルクは、吸気温THAが高いときには空気密度が低いために小さくなることによる。すなわち、この小さめに発生する実際のトルクとトルク限界値との間に余裕が生じる。そこで、高い吸気温THAではトルク限界の最大噴射量QFULTQを増量し、低い吸気温THAでは同最大噴射量QFULTQを減量することにより、上記余裕の幅を少なくし、トルク限界値に近い値まで噴射量を補正してトルクを高めている。
【0047】さて、同図10からわかるように、ある吸気温THAにおいてエンジン回転数NEが高い場合には、トルク限界の最大噴射量QFULTQは黒煙限界の最大噴射量QFULSM’よりも小さくなる傾向にある。すなわち、エンジン回転数NEが高い場合には、上記トルク限界の最大噴射量QFULTQが最大噴射量QFULLとして算出されるようになる(図5ステップ206参照)。トルク限界の最大噴射量QFULTQは、吸気温補正係数MQFATQによりエンジンや駆動系の耐久性を損なわない範囲で最大トルクが得られるように増減補正されたものであることから、エンジン回転数NEが高い場合の上記最大噴射量QFULLは吸気温THAに応じてエンジンや駆動系の耐久性を損なわない範囲で最大トルクが得られるように、すなわち前述したトルク損失が補償されるように補正される。なお、このときの最大噴射量QFULLは、黒煙の発生までに余裕を有した噴射量となっている。
【0048】一方、ある吸気温THAにおいてエンジン回転数NEが低い場合には、黒煙限界の最大噴射量QFULSM’はトルク限界の最大噴射量QFULTQよりも小さくなる傾向にある。すなわち、エンジン回転数が低い場合には、上記黒煙限界の最大噴射量QFULSM’が最大噴射量QFULLとして算出される(図5ステップ206参照)。黒煙限界の最大噴射量QFULSM’は、吸気温THAにより黒煙の発生を抑制する範囲で最大トルクが得られるように増減補正されたものであることから、エンジン回転数NEが低い場合の上記最大噴射量QFULLは吸気温THAに応じて黒煙の発生を抑制する範囲で最大トルクが得られるように制御される。なお、このときの最大噴射量QFULLは、トルク限界値に相当する噴射量までに余裕を有した噴射量となっている。
【0049】ちなみに、上記算出された最大噴射量QFULLが、前記基本噴射量QBASEよりも小さい場合、例えば全負荷時には、前記最終噴射量QFINとして採用され、同最終噴射量QFINに基づき、前記燃料噴射ポンプ1の前記電磁スピル弁23が駆動制御され、燃料噴射が実行されることは前述のとおりである(図4ステップ104~106)。
【0050】以上、このような制御態様においては、上記トルク限界の最大噴射量QFULTQが最大噴射量QFULLとして算出され、更に同最大噴射量QFULLが最終噴射量QFINとして採用される場合、例えば全負荷時には、エンジンや駆動系の耐久性を損なわない範囲で最大トルクが得られるように制御される。
【0051】一方、上記黒煙限界の最大噴射量QFULSM’が最大噴射量QFULLとして算出され、更に同最大噴射量QFULLが最終噴射量QFINとして採用される場合、例えば全負荷時には、吸気温THAに応じて黒煙の発生を抑制する範囲で最大トルクが得られるように制御される。
【0052】これらにより、吸気温THAに応じてエンジンや駆動系の耐久性を損なうことなく、黒煙の発生も併せ抑制して最大トルクを得ることができる。以上詳述したように、本実施の形態においては、以下に示す効果が得られるようになる。」
(9)「【0056】次に、以上の実施の形態から把握することができる請求項以外の技術的思想を、その効果とともに以下に記載する。
・請求項1記載の内燃機関の燃料噴射量制御装置において、前記算出されるトルク限界に係る燃料の最大噴射量は前記機関回転数及び吸気温に応じて補正されることを特徴とする内燃機関の燃料噴射量制御装置。同構成によれば、上記算出されるトルク限界に係る燃料の最大噴射量に対して前記機関回転数及び吸気温に応じて補正を加えることにより、設定されたトルク限界値により近い値までトルクを高めることができる。」
上記(4)の段落【0013】及び(5)の段落【0022】の記載から、引用文献1に記載されたディーゼルエンジンにおいて、燃料噴射ポンプ1、燃料噴射ノズル4等により燃料供給装置が構成されていることが分かる。
前記(1)ないし(9)に摘記した事項並びに図1、8及び10の図示内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
《引用発明》
「主燃焼室44及び副燃焼室45を有する各気筒と、
前記各気筒を経由せずに排気通路48を吸気通路47と接続し、排気の一部を前記吸気通路47に還流するように構成された排気ガス再循環装置と、
前記主燃焼室44及び副燃焼室45内に燃料を噴射するように構成された燃料噴射装置と、
前記各気筒が発生するトルク限界値に従って決定される燃料噴射量の上限を示すトルク限界の最大噴射量QFULTQを前記燃料噴射量が超えないように前記燃料噴射装置を制御するECU71とを備えるディーゼルエンジン2。」
2 原査定の拒絶の理由に引用した特開2003-3894号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面(特に図16、30及び31を参照。)とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、電子制御弁で空気流量を制御する燃料先行型内燃機関において燃料量もしくは空気量を精度よく制御する内燃機関の制御装置に関する。」
(2)「【0027】内燃機関20は、多気筒の筒内噴射式内燃機関で構成され、吸気系は、外部からの空気がエアクリーナ1を通過し、吸気マニホールド4、コレクタ5を経てシリンダ9内に流入し、流入空気量は、電子スロットル3により調節されるが、アイドル時はバイパス用空気通路30に設けられたISCバルブ31によって空気量を調節し、内燃機関回転数を制御する。各気筒のシリンダ9には、点火プラグ8と燃料噴射弁7が取付られる一方、リフト時期制御型電磁駆動吸気弁27とリフト時期制御型電磁駆動排気弁28が配置されている。」
(3)「【0032】燃料噴射弁7からシリンダ(燃焼室)9内に噴射された燃料は、吸気マニホールド4から流入した空気と混合されて混合気を形成する。混合気は、所定の点火時期で点火プラグ8から発生される火花により爆発する。その燃焼圧によりピストン29を押し下げ、内燃機関20の動力となる。爆発後の排気ガスは、排気マニホールド10を経てリーンNOx触媒11に送り込まれ、HC,CO,NOxの各排気成分は、リーンNOx触媒11内で浄化され、再び外部へと排出される。排気還流管18を通って吸気側に還流される排気ガスの還流量は、EGRバルブ19によって制御される。また、電子スロットル3、リフト時期制御型電磁駆動吸気弁27及びリフト時期制御型電磁駆動排気弁28を用いて、内部排気環流量及び新気量が制御される。」
(4)「【0056】2.燃料噴射量演算部と燃料量補正値演算部
図28に示したものが、燃料噴射量演算部62と燃料量補正値演算部70(70c)であり、燃料噴射量演算部62では、目標燃焼圧トルクTgTcをテーブルTblTiを用いて基本燃料噴射量Tiに変換する。ここに基本燃料噴射量Tiは、一気筒、一サイクルあたりの燃料噴射量であり、したがって、基本燃料噴射量Tiは、トルクと比例する。この比例関係を用いて目標燃焼圧トルクTgTcを基本燃料噴射量Tiに変換する。
【0057】更に、図28のように、基本燃料噴射量Tiは、上限値リミッタ62bで該基本燃料噴射量の上限値TI0Maxによりリミッタを施した後、燃料噴射量TI0を演算する。基本燃料噴射量の上限値TI0Maxは、電磁駆動吸気弁27の開時期IVCと該電磁駆動吸気弁27の閉時期IVOにより燃料噴射量補正部70cのマップTblTI0Maxを参照した値である。すなわち、電磁駆動吸気弁27の開時期IVCと閉時期IVOにより変化するシリンダ内量の最大値に応じて燃料噴射量の最大値を調整するものである。
【0058】また、図29のように、変換部62cで、基本燃料噴射量TiにゲインGTI0を乗じて、燃料噴射量TI0に変換するのもよい。ここにゲインGTI0は、燃料量補正値演算部70bで、電磁駆動吸気弁27の開時期IVCと閉時期IVOによりマップTblGTI0を参照して演算された値である。
【0059】シリンダ内空気量の最大値を変化せしめる要因としては、排気還流量であるEGR量もある。図30,図31は、EGR量により変化するシリンダ内空気量の最大値に応じて燃料噴射量の最大値をもしくはゲインを調整するものである。 上限値TI0Maxは、あるいは、ゲインGTI0は、燃料噴射量補正部70e、70fで、目標EGR率TgEgrと内燃機関回転数Neにより、テーブルTblTI0Max、もしくは、テーブルTblGTI0を参照して演算した値である。テーブルTblTi、テーブルTblTI0MaxおよびテーブルTblGTI0の設定値は、実機データから決定するのが望ましい。」
上記(1)ないし(4)に摘記した事項並びに図16、30及び31の図示内容から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。
《引用文献2記載事項》
「EGR量により変化するシリンダ内空気量の最大値に応じて燃料噴射量の最大値を調整すること。」
3 原査定の拒絶の理由に引用した特開2012-102682号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「多気筒内燃機関の制御装置」に関して、図面(特に図1、2及び9を参照。)とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、機関排気通路内の排気の一部を機関吸気通路に再循環させる排気再循環システムを備えた多気筒内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、排気再循環(EGR)システムは、機関吸気通路および機関排気通路を連通するEGR通路と、同EGR通路の通路断面積を変更するEGR弁とを備えている。そして、機関運転状態に基づくEGR弁の開弁制御(EGR制御)の実行を通じて、機関排気通路から機関吸気通路に戻される排気の量(EGR量)が調節される。このようにして排気の一部を再循環させることにより、気筒内における燃料の燃焼温度が低下するようになるため、排気中の窒素化合物(NOx)の低減が図られるようになる。
【0003】
ディーゼル機関のEGR制御では基本的に、EGR量が多くなるほど排気中のNOxを低減する効果が大きくなる。ただし、EGR量を多くし過ぎると、気筒内における燃料の燃焼状態が悪化してしまうために、これに伴う排気通路への未燃燃料の排出量の増加によって白煙の発生を招いてしまう。
【0004】
そのため従来、EGR量を適正な量に調節するために、燃料噴射量と吸入空気量とに基づいてEGR量を調節する装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の装置では、排気中のNOxの低減と白煙発生の抑制との両立を図ることの可能な空燃比の目標値(目標空燃比)が定められるとともに、ディーゼル機関の吸入空気量が検出される。そして、吸入空気量と燃料噴射量の制御目標値(目標燃料噴射量)とに基づいて、EGR量が上記目標空燃比と実際の空燃比とを一致させることの可能な量になるように、EGR制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-36993号公報」
(2)「【0025】
内燃機関10には、排気通路18内の排気を吸気通路11に再循環させるための排気再循環(EGR)システム30が設けられている。このEGRシステム30は具体的には、EGR通路31とEGR弁32とEGRクーラ33とを備えている。EGR通路31は内燃機関10の排気通路18における上記タービン22より排気流れ方向上流側の部分と吸気通路11における上記吸気絞り弁13より下流側の部分とを連通するものであり、同EGR通路31を通じて排気通路18内の排気が吸気通路11に導入される。EGR弁32はEGR通路31の通路断面積を変更するためのものであり、同EGR弁32の開度を調節することによりEGR通路31を通じて吸気通路11に再循環される排気の量(EGR量)が調量される。上記EGRクーラ33はその内部を通過する排気を外気との熱交換を通じて冷却するための熱交換器である。
【0026】
本実施の形態にかかる装置は、内燃機関10の運転状態を検出するための各種センサを備えている。それらセンサとしては、例えば内燃機関10の出力軸17の回転速度(機関回転速度NE)を検出するための回転速度センサ41や、EGR弁32の開度(EGR開度VR)を検出するための開度センサ42、吸気通路11における吸気絞り弁13より下流側の部分の圧力(過給圧P)を検出するための過給圧センサ43が設けられている。また、アクセルペダル19の踏み込み量ACを検出するためのアクセルセンサ44や、吸気通路11を通過する空気の量(通路吸気量GA)を検出するためのエアフロメータ45、排気の酸素濃度を通じて内燃機関10の気筒14内で燃焼した混合気の空燃比(実空燃比A/F)を検出するための空燃比センサ46が設けられている。この空燃比センサ46は、排気通路18における排気浄化装置18aより排気流れ方向下流側(以下、単に下流側)に設けられている。その他、内燃機関10(詳しくは、その排気ポート)に設けられて気筒14から排出される燃焼ガス(排気)の温度Texを検出する排気温度センサ47や、燃料噴射弁16に一体に取り付けられて同燃料噴射弁16の内部の燃料圧力PQを検出する燃料圧力センサ48なども設けられている。なお、排気温度センサ47および燃料圧力センサ48は共に、内燃機関10の各気筒14に一つずつ、すなわち内燃機関10の気筒14毎に設けられている。
【0027】
また本実施の形態にかかる装置は、例えばマイクロコンピュータを中心に構成される電子制御ユニット40を備えている。この電子制御ユニット40は、各種センサの出力信号を取り込むとともにそれら出力信号をもとに各種の演算処理を実行し、その演算結果に基づいて吸気絞り弁13の開度制御や、燃料噴射弁16の作動制御、EGR弁32の開弁制御などの各種制御を実行する。
【0028】
本実施の形態では、吸気絞り弁13の開度制御やEGR弁32の開弁制御が上述したEGR量を調節するべく実行される。排気の再循環は吸気通路11の圧力と排気通路18の圧力との差を利用して行われる。このことをふまえて本実施の形態では、吸気絞り弁13の開度制御を通じて吸気通路11の通路断面積を変更することによって上記圧力差(具体的には、過給圧P)を調節しつつEGR弁32の開弁制御を通じてEGR通路31の通路断面積を変更することにより、同EGR通路31を通過する排気の量(EGR量)が調節される。
【0029】
以下、EGR量を調節するための処理(EGR量調節処理)について説明する。
図2は上記EGR量調節処理の実行手順を示すフローチャートであり、このフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット40により実行される。
【0030】
図2に示すように、この処理では先ず、機関回転速度NE、通路吸気量GAおよび過給圧Pに基づいて、実回転当たり吸気量Rgnと実EGR率Regrとがそれぞれ算出される(ステップS101)。実回転当たり吸気量Rgnは、内燃機関10の出力軸17が一回転する間に同内燃機関10の各気筒14内に吸入される空気の量(回転当たり吸気量)についての推定値である。実EGR率Regrは、内燃機関10の気筒14内に吸入されるガスの量のうちのEGR量が占める割合(EGR率)についての推定値である。
【0031】
なお、実際のEGR率や回転当たり吸気量は、次のような考えのもとに推定することが可能である。過給圧Pおよび機関回転速度NEに基づいて内燃機関10の気筒14内に吸入されるガス(新気とEGRガスとを含むガス)の量を推定することができる。また、通路吸気量GAと機関回転速度NEとに基づいて内燃機関10の出力軸17が一回転する間に各気筒14内に吸入される空気の量(新気量)を推定することができる。そして、上記ガスの量から新気量を減じた量(=ガスの量-新気量)を実際のEGR量に相当する量として求めることができ、同量とガスの量とから実際のEGR率(=「ガスの量-新気量」/ガスの量)を推定することができる。」
上記(1)及び(2)に摘記した事項並びに図9の図示内容から、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。
《引用文献3記載事項》
「内燃機関10の気筒14内に吸入されるガスの量及び各気筒14内に吸入される空気の量(新気量)を用いて実際のEGR率を推定すること。」
4 原査定の拒絶の理由に引用した特開2006-249972号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「内燃機関の燃料噴射制御装置」に関して、図面(特に図5A~5C及び6を参照。)とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、スモークの発生を抑制すべく燃料噴射量を制限する機能を備えた内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EGR装置を備えたディーゼル機関の燃料噴射制御装置として、筒内に流入する吸入ガスの酸素濃度をセンサで検出してその検出値から酸素量を算出し、算出された酸素量に基づいてスモーク発生量を許容限界内に抑制するために必要な燃料噴射量の最大値を決定する燃料噴射制御装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。その他に、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2~4が存在する。
【特許文献1】特開平9-195825号公報
【特許文献2】特開平9-126060号公報
【特許文献3】特開平9-4519号公報
【特許文献4】特開平10-37786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スモークの発生量は筒内における燃焼速度と相関関係を有しているが、燃焼速度は吸入ガス中の酸素量のみならず吸入ガスの組成によっても変化する。すなわち、吸入ガス中の酸素量が同一であっても、例えばEGR率の上昇に伴ってCO2やH2Oのように比熱が大きい分子の分圧が増加すれば燃焼速度が遅くなり、スモークが発生し易くなる。従来の燃料噴射制御装置は酸素濃度を検出していても、その検出された酸素濃度を酸素量の算出に使用しているだけであり、スモーク許容限界量の決定において酸素濃度の変化を考慮していない。従って、スモークの抑制に関する燃焼制御の精度が十分ではないことがある。
【0004】
そこで、本発明はスモークの抑制に関する燃焼制御の精度を従来よりも向上させることが可能な内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。」
(2)「【0015】
[第1の形態]
図1は本発明の一形態に係る燃料噴射制御装置を内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下、エンジンと略称する。)1に適用した一形態を示している。エンジン1は車両に走行用動力源として搭載される。エンジン1には複数(図では4つ)のシリンダ2が設けられ、それらのシリンダ2には吸気通路3及び排気通路4が接続されている。吸気通路3には吸気濾過用のエアフィルタ5、ターボチャージャ6のコンプレッサ6a、吸気量調節用の絞り弁7が、排気通路4にはターボチャージャ6のタービン6bがそれぞれ設けられている。排気通路4のタービン6bよりも下流側には排気浄化触媒(一例としてNOx吸蔵還元型排気浄化触媒)8を含んだ排気浄化装置9が設けられている。また、エンジン1には筒内(シリンダ2の内部)に燃料を噴射する燃料噴射弁10と、各燃料噴射弁10に供給されるべき高圧の燃料を蓄えるコモンレール11とが設けられている。排気通路4のエキゾーストマニホールド4aと吸気通路3のインテークマニホールド3aとの間にはEGR通路12が設けられ、そのEGR通路12にはEGRクーラ13及びEGR弁14が設けられている。EGR通路12、EGRクーラ13及びEGR弁14によってEGR装置が構成される。」
(3)「【0026】
[第2の形態]
次に、図4~図7を参照して本発明の第2の形態を説明する。なお、これらの図において、第1の形態と共通する部分には第1の形態と同一符号を使用し、それらの詳細な説明は省略する。上述した第1の形態では図3に示した酸素濃度一定線L1と吸入ガス量一定
線L2とで囲まれたハッチング領域の全域を対象としてマップを用意するものとしたが、実用上における最大噴射量限界値QOXMLMTは図4において実線L3で区切られた狭い範囲に限られる可能性が高い。このような狭い範囲においては、酸素量OXM及び酸素濃度OXCのそれぞれに対して最大噴射量限界値QOXMLMTがほぼ一定の関係を保ちつつ変化する。従って、酸素濃度一定線L1及び吸入ガス量一定線L2上における最大噴射量限界値QOXMLMTを予め把握しておき、それらの最大噴射量限界値QOXMLMTに基づいて中間点、すなわち酸素濃度一定線L1及び吸入ガス量一定線L2から離れた点における最大噴射量限界値QOXMLMTを補間演算することができ、その補間演算された最大噴射量限界値QOXMLMTを用いて燃料噴射量を制限すればスモークの発生やトルク特性の変化を実用上許容できる範囲に抑えることができる。
【0027】
以上の前提に従って、最大噴射量限界値QOXMLMTの補間演算を行うため、第2の形態では、図5A~図5Cに示した3種類のマップが予め作成されてECU20のROMに書き込まれる。図5AのマップはEGR弁14の開度PEGACTが0%、すなわちEGR弁14が全閉状態にあるときの最大噴射量限界値QOXMLMTをエンジン回転数NE吸入ガス中の酸素量OXMと対応付けたマップである。図5BのマップはEGR弁14の開度PEGACTが100%、すなわちEGR弁14が全開状態にあるときの最大噴射量限界値QOXMLMTをエンジン回転数NE吸入ガス中の酸素量OXMと対応付けたマップである。図5CのマップはEGR弁14の開度PEGACTが100%のときの酸素濃度OXCをエンジン回転数NE吸入ガス中の酸素量OXMと対応付けたマップである。そして、ECU20は、第1の形態における図2のルーチンに代え、上記のマップを利用しつつ図6のスモーク限界制御ルーチンを実行することにより、スモーク発生量が許容限界を超えないように燃料噴射量を制限する。
【0028】
図6のスモーク限界制御ルーチンにおいて、ECU20は図2のルーチンと同様にステップS1及びS2にて吸入ガス中の酸素濃度OXC及び酸素量OXMをそれぞれ判別する。続くステップS11にてECU20は図5Aのマップを利用して現在のエンジン回転数NE及び酸素量OXMに対応した最大噴射量限界値QOXMLMT1を特定する。続くステップS12にて、ECU20は図5Bのマップを利用して現在のエンジン回転数NE及び酸素量OXMに対応した最大噴射量限界値QOXMLMT2を特定する。さらに、ステップS13にて、ECU20は図5Cのマップを利用して現在のエンジン回転数NE及び酸素量OXMに対応した最小酸素濃度OXCMINを特定する。
【0029】
続くステップS14において、ECU20はステップS11~13でそれぞれ特定した最大噴射量限界値QOXMLMT1及びQOXMLMT2、並びに最小酸素濃度OXCMINに基づいて、現在のエンジン回転数NE、酸素量OXM及び酸素濃度OXCに対応する最大噴射量限界値QOXMLMTを補間演算する。例えば、図7に示すように最大噴射量限界値QOXMLMT1及びQOXMLMT2の間で最大噴射量限界値QOXMLMTが酸素濃度OXCに比例して変化すると仮定したならば、現在の酸素濃度OXCに対応する最大噴射量限界値QOXMLMTは、最大噴射量限界値QOXMLMT1とQOXMLMT2との差、及び酸素濃度の最大値21%(つまりEGR弁開度PEGACT=0%のときの酸素濃度)と最小酸素濃度OXCMINとの差とを利用して酸素濃度の変化量と最大噴射量限界値QOXMLMTの変化量との関係(比例係数)を求め、その関係に従って現在の酸素濃度OXCと最大酸素濃度21%又は最小酸素濃度OXCMINとのずれ量に対応する最大噴射量限界値の変化量を求めることにより、現在の酸素濃度OXCに対応する最大噴射量限界値QOXMLMTを補間演算することができる。なお、図7では酸素濃度と最大噴射量限界値とが比例関係にあると仮定したが、最大噴射量限界値QOXMLMTの補間演算は線形補間に限らず、各種の補間演算法を利用してよい。ステップS11~S14の処理によりECU20はスモーク許容限界量設定手段として機能する。
【0030】
図6に戻って、ECU20はステップS14で最大噴射量限界値QOXMLMTを求めた後、ステップS4に進んで要求噴射量QDMDが最大噴射量限界値QOXMLMTよりも大きいか否か判断し、要求噴射量QDMDが最大噴射量限界値QOXMLMTよりも大きい場合にはステップS5で最大噴射量限界値QOXMLMTを指令噴射量QFINとして決定し、他方、要求噴射量QDMDが最大噴射量限界値QOXMLMT以下の場合にはステップS6で要求噴射量QDMDを指令噴射量QFINとして決定する。指令噴射量QFINを決定した後、ECU20は図6のルーチンを終了し、決定された指令噴射量QFINが実現されるように燃料噴射弁10の動作を制御する。
【0031】
第2の形態においては、図5A~図5Cに示した3種類のマップを用意するだけで最大噴射量限界値QOXMLMTを決定することができるので、図3の3次元マップをエンジン回転数毎に用意する場合と比較してマップ容量を削減することができ、またそれぞれのマップ作成時に変化を与えるべき定数の数を削減し、ベンチ適合試験に要する手間を軽減してマップの作成効率を向上させることができる。」
上記(1)ないし(3)に摘記した事項並びに図5Aないし5C、6及び7の図示内容から、引用文献4には、次の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されているといえる。
《引用文献4記載事項》
「酸素濃度と最大噴射量限界値とが比例関係にあると仮定して、最大噴射量限界値QOXMLMTの補間演算を線形補間を用いて行うこと。」
第5 対比、判断
1 本願発明1について
(1)対比
引用発明の「主燃焼室44及び副燃焼室45」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明1の「燃焼室」に相当し、以下同様に、「各気筒」は「エンジン本体」に、「排気通路48」は「排気通路」に、「吸気通路47」は「吸気通路」に、「排気」は「排気ガス」に、「排気ガス再循環装置」は「EGR装置」に、「トルク限界値」は「トルクの上限」に、「トルク限界の最大噴射量QFULTQ」は「トルク限界噴射量」に、「ECU71」は「制御装置」に、「ディーゼルエンジン2」は「ディーゼルエンジン」に、それぞれ相当する。
以上を踏まえると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
《一致点》
「燃焼室を有するエンジン本体と、
前記エンジン本体を経由せずに排気通路を吸気通路と接続し、排気ガスの一部を前記吸気通路に還流するように構成されたEGR装置と、
前記燃焼室内に燃料を噴射するように構成された燃料噴射装置と、
前記エンジン本体が発生するトルクの上限に従って決定される燃料噴射量の上限を示すトルク限界噴射量を前記燃料噴射量が超えないように前記燃料噴射装置を制御する制御装置とを備えるディーゼルエンジン。」
《相違点》
本願発明1においては、「前記制御装置は、前記EGR装置によるEGR率の低下に従って前記トルクが上限を超えないように、前記EGR率の低下に従って前記トルク限界噴射量を低下させ、前記制御装置は、前記EGR率が最大EGR率であるときの前記トルク限界噴射量を示す第1のマップから求まる前記トルク限界噴射量と、前記EGR装置が非作動のときの前記トルク限界噴射量を示す第2のマップから求まる前記トルク限界噴射量との間を、前記EGR率に応じて補間することによって、前記EGR率の低下に従って前記トルク限界噴射量を低下させる」ものであるのに対し、引用発明においては、ECU71がそのような制御を行うかどうか明らかでない点。
(2)判断
上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項は「EGR量により変化するシリンダ内空気量の最大値に応じて燃料噴射量の最大値を調整すること。」というものであるが、ディーゼルエンジンに関するものではなく、トルク限界噴射量に関するものでもない。
してみれば、引用発明において、引用文献2記載事項を適用するための十分な動機が存在せず、また、仮に、引用発明に引用文献2記載事項を適用したとしても、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を得ることはできない。
そうすると、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者といえども容易とはいえない。
また、引用文献3記載事項は「内燃機関10の気筒14内に吸入されるガスの量及び各気筒14内に吸入される空気の量(新気量)を用いて実際のEGR率を推定すること。」というものであり、引用文献4記載事項は「酸素濃度と最大噴射量限界値とが比例関係にあると仮定して、最大噴射量限界値QOXMLMTの補間演算を線形補間を用いて行うこと。」というものであるが、引用文献3及び4にも、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項について記載も示唆もされていない。
してみれば、引用発明において引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項を適用したとしても、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を得ることはできない。
そうすると、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基づいても、相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者といえども容易とはいえない。
そして、本願発明1は、運転環境やその他フェールセーフ等により、EGR率を低下させた際に、EGR率の低下に従ってエンジントルクTRが上限を超えないように、EGR率の低下に従ってトルク限界噴射量を低下させることができる(段落【0011】、【0034】、【0042】及び【0056】を参照。)という格別の作用効果を奏することができるものである。
してみると、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基づいて、本願発明1を発明することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
(3)小括
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本願発明1についての判断と同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし4は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-015518