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特許拒絶査定不服審判

2020-009050

プリント配線板の製造方法、及び樹脂組成物

審判番号
2020-009050
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-527441外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年06月30日
審決日
2021年06月22日
公報発行日
2021年08月27日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (H05K) / P18 .537-WY (H05K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2017-527441「プリント配線板の製造方法、及び樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日国際公開、WO2017/006893、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 14項目
【理 由】

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2016年7月4日(優先権主張 2015年7月6日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和1年10月29日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年12月18日に意見書の提出がなされたが、令和2年3月26日付けで拒絶査定(原査定)がなされた。これに対して、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、当審による令和3年1月20日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年3月9日に手続補正がなされ、当審による同年3月24日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年4月27日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし19に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明19」という。)は、令和3年4月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である(なお、下線部は補正箇所を示す。)。

「【請求項1】
プリント配線板用の絶縁層の表面をアルカリ水溶液に接触させるアルカリ処理工程と、
前記アルカリ処理工程を経た前記絶縁層の前記表面の少なくとも一部に導体層を形成する導体層形成工程と、
を有するプリント配線板の製造方法であって、
続きを表示(全61行)
前記アルカリ処理工程は、デスミア処理を兼ねていないものであり、
前記絶縁層は、熱硬化性樹脂と、(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物と、無機充填材と、を含む樹脂組成物を含み、
前記アルカリ処理工程は、前記絶縁層の前記表面付近に存在する前記シラン化合物を加水分解し、前記絶縁層の前記表面に露出している前記無機充填材を剥落させる工程である、製造方法(ただし、前記アルカリ処理工程の前に粗化工程を有するものを除く。)。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂として、マレイミド化合物を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、前記マレイミド化合物として、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン及び下記式(6)で表されるマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の製造方法。
【化1】
(式中、R5は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、n1は1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂として、アルケニル置換ナジイミドを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、前記アルケニル置換ナジイミドとして、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項4に記載の製造方法。
【化2】
(式中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R2は、炭素数1~6のアルキレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、又は下記式(2)若しくは(3)で表される基を示す。)
【化3】
(式中、R3は、メチレン基、イソプロピリデン基、CO、O、S、又はSO2で表される置換基を示す。)
【化4】
(式中、R4は、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数5~8のシクロアルキレン基を示す。)
【請求項6】
前記樹脂組成物は、前記アルケニル置換ナジイミドとして、下記式(4)及び/又は(5)で表される化合物を含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
【化5】
【化6】
【請求項7】
前記樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物として、下記式(C)で表される化合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【化7】
(式中、R13は加水分解性基又は水酸基を示し、R14は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、R13又はR14が複数の場合は、複数のR13又はR14は、互いに同一であっても異なっていてもよく、R15は水素原子又はメチル基を示し、R16は炭素数2~10のアルキレン基を示し、jは1~3の整数を示す)。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、スチレン骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物、エポキシ骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物、アミノ基と加水分解性基又は水酸基とを有するアミノ系シラン化合物、ビニル基と加水分解性基又は水酸基とを有するビニル系シラン化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、エポキシ骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物を更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物は、前記エポキシ骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物として、下記式(D)で表される化合物を含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
【化8】
(式中、R10は加水分解性基又は水酸基を示し、R11は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、R10又はR11が複数の場合は、複数のR10又はR11は、互いに同一であっても異なっていてもよく、R12は炭素数1~10のアルキレン基を示し、mは1~3の整数を示す)。
【請求項11】
前記樹脂組成物は、シアン酸エステル化合物を更に含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物は、前記シアン酸エステル化合物として、下記式(7)及び/又は(8)で表される化合物を含む、請求項11に記載の製造方法。
【化9】
(式中、R6は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n2は1以上の整数を表す。)
【化10】
(式中、R7は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n3は1以上の整数を表す。)
【請求項13】
前記無機充填材は、シリカ、アルミナ及びベーマイトからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記絶縁層は、前記樹脂組成物を基材に含浸又は塗布したプリプレグから得られるものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記基材が、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス及び有機繊維クロスからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記絶縁層は、前記樹脂組成物を支持体に塗布したレジンシートから得られるものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記絶縁層は、前記樹脂組成物を基材に含浸又は塗布したプリプレグ、及び前記樹脂組成物を支持体に塗布したレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種を1枚以上重ねて硬化して得られる積層板から得られるものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記絶縁層は、前記樹脂組成物を基材に含浸又は塗布したプリプレグ、及び前記樹脂組成物を支持体に塗布したレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種と、金属箔とを積層して硬化して得られる金属箔張積層板から得られるものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記導体層はめっき処理により形成された層である、請求項1~18のいずれか1項に記載の製造方法。」

第3 当審の拒絶の理由について

1.当審拒絶理由の概要

当審において令和3年1月20日付け及び同年3月24日付けでそれぞれ通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

1-1.令和3年1月20日付け拒絶理由

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

記

請求項1において、「プリント配線板用の絶縁層の表面をアルカリ水溶液に接触させるアルカリ処理工程と」と記載されているが、ここでいう「アルカリ処理工程」におけるアルカリ処理は、絶縁層に対する如何なる処理(絶縁層にどのように作用する処理)であるのか、特に絶縁層が「(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物」を含むこととの技術的関係が明らかでなく、請求項1に係る発明は明確なものでない。

また、アルカリ処理の条件(pH値、処理時間、処理温度など)によっては、必ずしも本願明細書の段落【0014】に記載のように、「絶縁層の表面付近に存在し、無機充填材を絶縁層表面に結合させて保持する役割を有するアクリル系シラン化合物が加水分解されることで、絶縁層の表面に露出していた無機充填材が剥落する結果、絶縁層表面に存在する無機充填材が減少する。」とは限らず、「プリント配線板の無機充填材を含む絶縁層と導体層との密着性を高くするプリント配線板の製造方法を提供する」という課題を解決するための事項が適切に反映されているとはいえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるともいえる。

よって、請求項1に係る発明及び請求項1に従属する請求項2~19に係る発明は、明確なものでないとともに、発明の詳細な説明に記載されたものとも認められない。

1-2.令和3年3月24日付け最後の拒絶理由

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記

請求項1において、「前記アルカリ工程」なる記載(下から1行目)に誤記が認められる。

2.当審拒絶理由についての判断

上記「1-1.」の指摘に対して、令和3年3月9日の手続補正により、請求項1に「前記アルカリ処理工程は、前記絶縁層の前記表面付近に存在する前記シラン化合物を加水分解し、前記絶縁層の前記表面に露出している前記無機充填材を剥落させる工程である」との特定事項が追加され、令和3年4月27日の手続補正においても請求項1には上記特定事項が記載されている。したがって、「アルカリ処理工程」におけるアルカリ処理が絶縁層のシラン化合物を加水分解し、絶縁層の表面に露出している無機充填材を剥落させる処理であることが明確となり、絶縁層が(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物を含むこととの技術的関係が明らかなものとなるとともに、導体層形成工程の前に当該アルカリ処理工程によって絶縁層の表面に露出している無機充填材を剥落させるものであるから、その結果、導体層と絶縁層との間の密着性を低下させる原因となる絶縁層表面に存在する無機充填材は減少しているといえ、「プリント配線板の無機充填材を含む絶縁層と導体層との密着性を高くするプリント配線板の製造方法を提供する」という課題を解決するための事項も適切に反映されたものとなったということができる。

また、上記「1-2.」の指摘に対して、令和3年4月27日の手続補正により、請求項1において、下から1行目の「前記アルカリ工程」なる記載が「前記アルカリ処理工程」と正しい記載に補正された。

したがって、当審拒絶理由で指摘した不備な点はすべて解消され、本件出願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たすものと認められる。

第4 原査定について

1.原査定の概要

原査定(令和2年3月26日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記

・請求項1、7~11、13~19に対して引用文献1、2

・請求項2、3に対して引用文献1、2、3

・請求項4~6に対して引用文献1、2、4

・請求項12に対して引用文献1、2、5

<<引用文献一覧>>

1.特開2013-189577号公報

2.特開2007-299875号公報

3.特開2008-133414号公報

4.特開2012-197336号公報

5.国際公開第2013/047041号

2.原査定についての判断

(1)引用文献、引用発明等

(1-1)引用文献1

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-189577号公報)には、「熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ及び積層板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「【請求項1】

下記一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)~(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10~50質量部、(b)成分40~80質量部、(c)成分10~50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる少なくとも一種の溶媒中で80~120℃で反応させ、(b)成分の反応率が30~70モル%である相容化樹脂(A)及び、分子構造中にイミダゾール構造を含有し、2級アミン部分が変性された化合物(B)を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【化1】

(式中、R1は各々独立に炭素数1~5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基,Ar1は各々独立に単結合、アリーレン基又は炭素数1~5のアルキレン基であり、mは5~100の整数である。)

【請求項2】

更に無機充填剤(C)を含有する請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。

・・・・・(中 略)・・・・・

【請求項7】

無機充填剤(C)が官能基を有するシラン化合物で表面処理したものである請求項2~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。」

イ.「【0021】

以下、本発明について詳細に説明する。

先ず、本発明の熱硬化性樹脂組物は、下記一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)~(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10~50質量部、(b)成分40~80質量部、(c)成分10~50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる少なくとも一種の溶媒中で80~120℃で反応させ、(b)成分の反応率が30~70モル%である相容化樹脂(A)及び、分子構造中にイミダゾール構造を含有し、2級アミン部分が変性された化合物(B)を含有することを特徴とするものである。

【0022】

【化8】

(式中、R1は各々独立に炭素数1~5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基,Ar1は各々独立に単結合、アリーレン基又は炭素数1~5のアルキレン基であり、mは5~100の整数である。)」

ウ.「【0041】

本発明の熱硬化性樹脂組成物には、更に無機充填剤(C)を配合することが好ましい。無機充填剤(C)としては、例えば、溶融シリカ、破砕シリカ、マイカ、タルク、ガラス短繊維又は微粉末及び中空ガラス、炭酸カルシウム、石英粉末、金属水和物等が挙げられ、これらの中で、低熱膨張率や高弾性の観点から溶融シリカが特に好ましい。

また、無機充填剤(C)として、耐熱性、難燃性の点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水和物が好ましく、さらに金属水和物の中でも、高い耐熱性と難燃性が両立する点から熱分解温度が300℃以上である金属水和物、例えばベーマイト型水酸化アルミニウム(AlOOH)、あるいはギブサイト型水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を熱処理によりその熱分解温度を300℃以上に調整した化合物、水酸化マグネシウム等がより好ましく、特に、安価であり、350℃以上の特に高い熱分解温度と、高い耐薬品性を有するベーマイト型水酸化アルミニウム(AlOOH)が特に好ましい。

・・・・・(中 略)・・・・・

【0043】

本発明で用いる無機充填剤(C)は、官能基を有するシラン化合物で表面処理したものであることが好ましい。

無機充填剤(C)に用いる官能基を有するシラン化合物には、官能基とアルコキシル基を有するシラン化合物であれば特に制限されないが、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが上げられる。・・・(以下、略)」

エ.「【0075】

本発明の熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸、又は塗工して得たプリプレグ、及び該プリプレグを積層成形することにより製造した積層板は、ガラス転移温度(Tg)が高く、低熱膨張率を発現する電子機器用プリント配線板として有用である。」

上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。

・上記「エ.」の記載事項によれば、引用文献1に記載の「積層板」は、所定の熱硬化性樹脂組成物を基板に含浸、又は塗工して得たプリプレグを積層成形したものであり、電子機器用プリント配線板として用いられ得るものである。

・上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の記載事項によれば、所定の熱硬化性樹脂組成物は、一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を反応させてなる相容化樹脂及び、分子構造中にイミダゾール構造を含有し、2級アミン部分が変性された化合物とを含有するものである。

・上記「ア.」の【請求項2】と【請求項7】、「ウ.」の記載事項によれば、所定の熱硬化性樹脂組成物は、官能基を有するシラン化合物で表面処理した無機充填剤を含有してなるものであり、官能基を有するシラン化合物は、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどである。

以上のことから、上記記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「所定の熱硬化性樹脂組成物を基板に含浸、又は塗工して得たプリプレグを積層成形した積層板を用いるようにした電子機器用プリント配線板の製造方法であって、
前記所定の熱硬化性樹脂組成物は、一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を反応させてなる相容化樹脂と、分子構造中にイミダゾール構造を含有し、2級アミン部分が変性された化合物と、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの官能基を有するシラン化合物で表面処理した無機充填剤と、を含有する製造方法。」

(1-2)引用文献2

同じく原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2007-299875号公報)には、「多層プリント基板の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「【請求項1】

(a)第1の回路層を形成した絶縁基板上に絶縁層を形成する工程、(b)絶縁層にバイアホールを形成する工程、(c)絶縁層表面を酸化性溶液により粗化する工程、(d)絶縁層表層に残存している無機充填剤を除去する工程及び(e)絶縁層表面及び前記バイアホール内壁に銅めっきをして第2の回路層及びバイアホールによる層間接続を形成する工程をこの順に行うことを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。

【請求項2】

(d)絶縁層表面に残存している無機充填剤を除去する工程が、アルカリ金属水酸化物あるいはアルカリ土類金属水酸化物を水に溶解させたpH10以上のアルカリ溶液に浸漬する工程である請求項1に記載の多層プリント配線板の製造方法。」

イ.「【0009】

以下図1を参照して本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下に限定されるものではない。

まず、第1の回路層1を形成した絶縁基板2(図1-a)上に、絶縁層3を形成する(図1-b)。本発明で用いられる絶縁基板2としては、プリント配線板の基板として使用できるものであればよく、特に制限はない。例えば、ガラス布基板エポキシ樹脂積層板に回路層1を形成したものを用いる。 【0010】

絶縁層3としては、耐めっき液性、耐熱性及び絶縁性を備えている他、酸化性溶液により樹脂表層に凹凸を形成するための粗化性を備えている必要があり、具体的には、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート、酸変性エポキシ樹脂などに硬化剤、難燃剤を添加した樹脂組成物に、粗化性を得るための酸化性溶液に対し分解、又は溶解可能なゴム成分やフィラーなどを加えた組成物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、樹脂の熱膨張係数を低減する目的で添加する無機充填剤には、アルミナ、シリカ、水酸化アルミニウムなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。

【0011】

絶縁層3を形成する方法は、液状の材料を用いてロールコール、カーテンコート等の方法で塗布する方法、シート化した絶縁樹脂材料を用いてラミネート方式で貼り合わせる方法や鏡板に挟んで加圧積層プレスする方法等いずれも採用できる。絶縁層3を形成する前に、絶縁層3の接着性を高めるために、第1の回路層1の導体表面を酸化して凹凸を形成したり、酸化して形成した凹凸をさらに水素化ホウ素ナトリウムやジメチルアミンボラン等のアルカリ性還元剤を用いて還元するのが好ましい。次に絶縁層3に、第1の回路層1と第2の回路層5と接続するためのバイアホール4を形成する(図1-c)。バイアホール4を形成する方法としては、主にレーザが採用される。

【0012】

次に、過マンガン酸カリのアルカリ溶液など公知の酸化性粗化液に浸漬することにより絶縁層3の表面に粗化面を形成する。粗化面を形成したのち、絶縁層表層に残存する無機充填剤を除去するためアルカリ溶液に浸漬するが、アルカリ溶液としては、アルカリ金属水酸化物の水溶液、アルカリ土類金属水酸化物の水溶液が挙げられる。このとき無機充填剤のみを取り除くという観点から、アルカリ溶液のpHが10以上であるのが好ましく、pHが10~13であるのがより好ましい。pHが10未満であると無機充填剤の除去に長時間要する傾向がある。

【0013】

次に絶縁層3表面に銅めっき層6を形成する(図1-d)。無電解めっき前処理として所定のアルカリあるいは酸性コンデショナー処理した後、絶縁層3の表面及びバイアホール4の内壁に無電解めっきにより厚さ0.3~1.0μm程度にめっき銅を析出させ、次いで、この上に所望の厚さになるまで電解めっきにより銅を析出させることにより形成される。

【0014】

最後に、第2の回路層5の形成は、めっきレジストの形成に続くパターンめっき、レジスト剥離、エッチング工程を経て形成される(図1-e)。これにより、絶縁基板の両面に各1層の絶縁層3を介して各2層、合計4層の回路を有する多層プリント配線板が得られる。これをさらに多層化するときは、絶縁層形成以下、図1のb~eの工程を繰り返せばよい。」

ウ.「【0025】

本発明によれば、多層プリント配線板の製造方法において、絶縁層表面の粗化工程において残存する無機充填剤をPH10以上のアルカリ溶液洗浄で除去することによって、絶縁樹脂層とめっき銅との密着力低下や耐熱性レベルの低下を大幅に改善でき、セミアディティブ法による多層プリント配線板の信頼性向上に寄与するところ大である。」

上記「ア.」ないし「ウ.」の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術事項が記載されているといえる。

「多層プリント配線板を構成する絶縁層とめっき銅(回路層)との密着力低下や耐熱性レベルの低下を改善するために、前記めっき銅(回路層)を形成する工程の前に、前記絶縁層の表面を酸化性溶液により粗化する工程と、粗化後の前記絶縁層の表層に残存している無機充填剤を除去するためにpH10以上のアルカリ溶液に浸漬する工程とを設ける」技術。

(2)対比・判断

(2-1)本願発明1について

ア.対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)本願発明1でいうプリント配線板用の「絶縁層」について、本願請求項17や本願明細書の段落【0053】~【0054】に記載のように、樹脂組成物を基材に含浸又は塗布したプリプレグを1枚以上重ねて硬化して得られる積層板から形成されるものであってもよいことを踏まえると、引用発明における「所定の熱硬化性樹脂組成物を基板に含浸、又は塗工して得たプリプレグを積層成形した積層板」は、本願発明1でいうプリント配線板用の「絶縁層」に相当するということができる。

また、引用発明の「電子機器用プリント配線板の製造方法」にあっても、「プリント配線板」の製造方法である以上、積層板の表面の少なくとも一部に配線となる導体層を形成する工程を有することは自明なことである。

したがって、本願発明1と引用発明とは、「プリント配線板用の絶縁層の表面の少なくとも一部に導体層を形成する導体層形成工程と、を有するプリント配線板の製造方法」である点で共通するといえる。

ただし、本願発明1ではプリント配線板用の絶縁層の表面を「アルカリ水溶液に接触させるアルカリ処理工程」を有し、導体層形成工程が「前記アルカリ処理工程を経た」絶縁層の表面に対して行われるものであるのに対し、引用発明では導体層形成工程の前にアルカリ処理工程を有することの特定がない点で相違する。

(イ)アルカリ処理工程について、本願発明1では「デスミア処理を兼ねていないもの」であると特定するのに対し、引用発明ではそもそもアルカリ処理工程を有することの特定がない点で相違する。

(ウ)アルカリ処理工程について、本願発明1では「前記絶縁層の前記表面付近に存在する前記シラン化合物を加水分解し、前記絶縁層の前記表面に露出している前記無機充填材を剥落させる工程」であると特定するのに対し、引用発明ではそもそもアルカリ処理工程を有することの特定がない点で相違する。

(エ)引用発明における「所定の熱硬化性樹脂組成物」が含有する組成物のうち、少なくとも「1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物」や「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物」は熱硬化性樹脂である。

さらに引用発明における「所定の熱硬化性樹脂組成物」は「3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの官能基を有するシラン化合物で表面処理した無機充填剤」を含むものであるところ、「3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの官能基を有するシラン化合物」、そのシラン化合物で表面処理した「無機充填剤」は、本願明細書の段落【0032】~【0033】に(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物(アクリル系シラン化合物)の具体例の一つとして「3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン」が挙げられ、また、段落【0035】には「これらの無機充填材は、アクリル系シラン化合物で予め表面処理されているものであってもよい。」と記載されていることも踏まえると、それぞれ本願発明1でいう「(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物」、「無機充填材」に相当するといえるものである。

したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記絶縁層は、熱硬化性樹脂と、(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物と、無機充填材と、を含む樹脂組成物を含」むものである点で一致する。

(オ)そして、本願発明1では「前記アルカリ処理工程の前に粗化工程を有するものを除く」旨特定するのに対し、引用発明ではそもそもアルカリ処理工程や粗化工程を有することの特定がない点。

よって、上記(ア)ないし(オ)によれば、本願発明1と引用発明とは、

「プリント配線板用の絶縁層の表面の少なくとも一部に導体層を形成する導体層形成工程と、
を有するプリント配線板の製造方法であって、
前記絶縁層は、熱硬化性樹脂と、(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物と、無機充填材と、を含む樹脂組成物を含む、製造方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]

本願発明1ではプリント配線板用の絶縁層の表面を「アルカリ水溶液に接触させるアルカリ処理工程」を有し、導体層形成工程が「前記アルカリ処理工程を経た」絶縁層の表面に対して行われるものである旨特定するのに対し、引用発明では導体層形成工程の前にアルカリ処理工程を有することの特定がない点。

[相違点2]

アルカリ処理工程について、本願発明1では「デスミア処理を兼ねていないもの」であると特定するのに対し、引用発明ではそもそもアルカリ処理工程を有することの特定がない点。

[相違点3]

アルカリ処理工程について、本願発明1では「前記絶縁層の前記表面付近に存在する前記シラン化合物を加水分解し、前記絶縁層の前記表面に露出している前記無機充填材を剥落させる工程」であると特定するのに対し、引用発明ではそもそもアルカリ処理工程を有することの特定がない点。

[相違点4]

本願発明1では「前記アルカリ処理工程の前に粗化工程を有するものを除く」旨特定するのに対し、引用発明ではそもそもアルカリ処理工程や粗化工程を有することの特定がない点。

イ.相違点についての判断

事案に鑑み、まず上記相違点3及び相違点4について検討する。

本願発明1の「アルカリ処理工程」は、相違点3に係る発明特定事項のように、絶縁層の表面付近に存在する(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物を加水分解する処理であり、絶縁層が(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物を含むことと密接な技術的関係があるといえるものである。

これに対して引用文献2には、多層プリント配線板を構成する絶縁層とめっき銅(回路層)との密着力低下や耐熱性レベルの低下を改善するために、前記めっき銅(回路層)を形成する工程の前に、前記絶縁層の表面を酸化性溶液により粗化する工程と、粗化後の前記絶縁層の表層に残存している無機充填剤を除去するためにpH10以上のアルカリ溶液に浸漬する工程とを設ける技術が記載(上記(1)(1-2)を参照)されている。このうちの「粗化後の前記絶縁層の表層に残存している無機充填剤を除去するためにpH10以上のアルカリ溶液に浸漬する工程」(以下、「工程A」という。)は、絶縁層の表面に露出している無機充填材を剥落させる工程であるとはいえるものの、引用文献2には、絶縁層が(メタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物を含むことの記載はなく、絶縁層の表面に露出している無機充填材の剥落を、絶縁層の表面付近に存在するシラン化合物を加水分解することによって行うようにしたものではない。上記引用文献2に記載の技術は、工程Aの前に、「絶縁層の表面を酸化性溶液により粗化する工程」(以下、「工程B」という。)を有することを前提として、絶縁層の表面に露出している無機充填材を除去しようとするものであり、工程Aと工程Bとは一体的なものである。これらのことを踏まえると、絶縁層にメタ)アクリル骨格と加水分解性基又は水酸基とを有するシラン化合物を含む引用発明に対して、あえて引用文献2に記載の技術のうちの工程Aのみを採用すべき動機がないといえ、したがって、引用発明において相違点3及び相違点4に係る事項を導き出すことはできない。

また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2008-133414号公報)、引用文献4(特開2012-197336号公報)、及び引用文献5(国際公開第2013/047041号)のいずれについても、相違点3及び相違点4に係る事項について記載も示唆もない。そして、他に相違点3及び相違点4に係る事項を開示した文献も発見しない。

ウ.まとめ

したがって、上記相違点1及び相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2-2)本願発明7ないし11、13ないし19について

請求項7ないし11、13ないし19は請求項1に従属する請求項であるから、請求項7ないし11、13ないし19に係る発明は、相違点3及び相違点4に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3)本願発明2、3について

請求項2、3は請求項1に従属する請求項であるから、請求項2、3に係る発明は、相違点3及び相違点4に係る発明特定事項を備えるものである。

ここで、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2008-133414号公報)には、プリント配線板に用いられる熱硬化性樹脂組成物において、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン等のマレイミド化合物を含むことが記載(特に段落【0053】~【0060】を参照)されているものの、相違点3及び相違点4に係る事項については記載も示唆もない。

よって、本願発明1と同様の理由により、請求項2、3に係る発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-4)本願発明4ないし6について

請求項4ないし6は請求項1に従属する請求項であるから、請求項4ないし6に係る発明は、相違点3及び相違点4に係る発明特定事項を備えるものである。

ここで、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2012-197336号公報)には、プリント配線板の樹脂層の形成に用いられるイミド樹脂組成物が丸善石油化学(株)製の「BANI-M」や「BANI-X」を含むことが記載(特に段落【0001】、【0024】、【0058】、【表3】を参照)されているものの、相違点3及び相違点4に係る事項については記載も示唆もない。

よって、本願発明1と同様の理由により、請求項4ないし6に係る発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-5)本願発明12について

請求項12は請求項1に従属する請求項であるから、請求項12に係る発明は、相違点3及び相違点4に係る発明特定事項を備えるものである。

ここで、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(国際公開第2013/047041号)には、プリント配線板に用いられる樹脂組成物において、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物を含むことが記載(特に段落【0004】~【0011】、【0038】を参照)されているものの、相違点3及び相違点4に係る事項については記載も示唆もない。

よって、本願発明1と同様の理由により、請求項12に係る発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1ないし19に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし引用文献5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-009050

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