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特許拒絶査定不服審判

2020-008108

蓄電デバイスの製造方法および蓄電デバイスのプレドープ方法

審判番号
2020-008108
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-158667外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年06月11日
審決日
2021年04月23日
公報発行日
2021年06月25日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (H01G) / P18 .537-WY (H01G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016-158667「蓄電デバイスの製造方法および蓄電デバイスのプレドープ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月15日出願公開、特開2018- 26497、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 17項目
【理 由】

第1 手続の経緯

本願は、平成28年8月12日の出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成29年10月31日  :手続補正書の提出
令和 1年12月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月24日  :意見書の提出
令和 2年 4月22日付け:拒絶査定
令和 2年 6月11日  :審判請求書の提出
令和 3年 1月27日付け:拒絶理由通知書(当審)
令和 3年 2月15日  :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要

原査定(令和2年4月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし10に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2又は3に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>

1.特開2015-43310号公報

2.国際公開第2012/053553号(周知技術を示す文献)

3.特開2014-216211号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願は、特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記

・請求項 1-10

請求項1、10に「芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体」と記載されている。

ここで、「層状構造体」に関し、本願明細書及び図面には「層状構造体」を形成する金属として「アルカリ金属」以外の金属を用いることは記載されていない。

しかし、請求項1、10において、「層状構造体」は「芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体」と特定されていることから、該「層状構造体」は「アルカリ金属」以外の金属を含むと解釈できる。

よって、請求項1、10に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

また、請求項1を引用する請求項2ないし9についても同様である。

第4 当審拒絶理由について

令和3年2月15日にされた手続補正により、請求項1の発明特定事項である「芳香族ジカルボン酸金属塩」が、「芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩」と補正された結果、当審拒絶理由は解消した。

第5 本願発明

本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、令和3年2月15日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし本願発明10はそれぞれ以下のとおりの発明と認める。

「 【請求項1】
電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の層状構造体を含む前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする工程、を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
続きを表示(全25行)
前記ドープ溶液は、次式(1)及び式(2)のうち1以上である前記芳香族炭化水素化合物を含む、請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【化1】
【請求項3】
前記ドープ溶液は、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニル、アントラセン及びパラターフェニルのうち1以上である前記芳香族炭化水素化合物を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記ドープ溶液は、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1以上である前記金属イオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記ドープ溶液は、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン及びジオキサンのうち1以上の溶媒を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ドープ溶液は、次式(3)及び式(4)のうち1以上により得られたものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【化2】
【請求項7】
前記蓄電デバイスは、2、6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩、4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩及びテレフタル酸アルカリ金属塩のうち1以上の前記層状構造体を活物質として含む前記電極を備えている、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記電極は、導電材を1質量%以上20質量%以下の範囲で含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、
前記プレドープ後の電極を負極とし該負極と正極との間に、前記金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を入れる工程、を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
電極を備えた蓄電デバイスのプレドープ方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の層状構造体を含む前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする、蓄電デバイスのプレドープ方法。」

第6 引用文献、引用発明

1 引用文献1について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2015-43310号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

ア 「【0001】

本発明は、アルカリ金属含有活物質の製造方法と、当該製造方法によって製造されたアルカリ金属含有活物質を電極に含む二次電池に関する。

【背景技術】

【0002】

アルカリ二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)の負極(負極活物質)には、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素,黒鉛系材料が用いられてきた。炭素,黒鉛系材料では、リチウムイオンの黒鉛結晶中への吸蔵,放出により充放電がなされるため、最大のリチウム導入化合物である黒鉛(LiC6)から得られる理論容量(372mAh/g)に限界がある。一方、SiやSn等の合金系負極の理論容量は4200mAh/gの充放電容量が得られる。合金系負極では、炭素,黒鉛系の負極活物質と比較して、活物質重量が少なくなることで、エネルギー密度(Wh/g)が向上させることが可能と考えられる。

【0003】

ところが、合金系負極では、エネルギー密度が向上せず、リチウムが挿入脱離する際の体積変化が著しいという課題がある。

(中略)

【0008】

本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、上述した二つの課題を解決するとともに、下記の目的を達成しうるアルカリ金属含有活物質の製造方法および二次電池を提供する。第1の目的は、電極や活物質自体へのドープが均一にできることである。

(中略)

【0026】

(錯体生成工程)

錯体生成工程では、アルカリ金属と、アルカリ金属に溶媒和する有機溶媒と、求電子置換反応性を有する配位子とを混合してアルカリ金属錯体を生成する。

【0027】

アルカリ金属は、リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs),フランシウム(Fr)が該当する。単体でもよく、アルカリ金属を含む合金でもよい。

(中略)

【0031】

配位子は、芳香環に求電子剤が攻撃しやすい物質,すなわち多環式芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素群であることが望ましい。例えば2環では、アズレン,ナフタレン,ビフェニレン,1-メチルナフタレン,サポタリンなどを用いてよい。3環では、アセナフテン,アセナフチレン,アントラセン,フルオレン,フェナレン,フェナントレンなどを用いてよい。4環では、ベンゾアントラセン(ベンゾ[a]アントラセン),ベンゾ[a]フルオレン,ベンゾ[c]フェナントレン,クリセン,フルオランテン,ピレン,テトラセン,トリフェニレンなどを用いてよい。5環では、ベンゾピレン,ベンゾ[a]ピレン,ベンゾ[e]ピレン,ベンゾ[a]フルオランテン,ベンゾ[b]フルオランテン,ベンゾ[j]フルオランテン,ベンゾ[k]フルオランテン,ジベンズ[a,h]アントラセン,ジベンズ[a,j]アントラセン,ペンタセン,ペリレン,ピセン,テトラフェニレンなどを用いてよい。6環以上では、アンタントレン,1,12-ベンゾペリレン,サーキュレン,コランニュレン,コロネン,ジコロニレン,ジインデノペリレン,ヘリセン,ヘプタセン,ヘキサセン,ケクレン,オバレン,ゼトレンなどを用いてよい。

【0033】

錯体生成工程において、アルカリ金属は上述した有機溶媒によって酸化されてアルカリ金属イオンになる。さらに、配位子として用いる芳香族化合物の電子親和力と、溶媒和溶液の電子供与性によって、溶媒和溶液中にアルカリ金属錯体が生成される。配位する基としては、スルホン基,水酸基,アミノ基,フォスフィノ基,カルボキシル基,チオール基などが該当する。アルカリ金属錯体の生成過程の化学式を下記に示す。ただし、アルカリ金属としてリチウム(Li金属)を用い、芳香族化合物を「ARO」とし、溶媒和溶液を「SOL」とする。生成される[ARO-・Li+・SOL]はアルカリ金属錯体である。

【0034】

【化1】

【0035】

図1には、アルカリ金属としてリチウム(Li)を用い、溶媒和溶液SOLとしてテトラヒドロフラン(THF)を用い、配位子LIG(芳香族化合物ARO)としてナフタレンを用いて生成されるアルカリ金属錯体AMCの一例を示す。この例では、リチウムイオン(アルカリ金属イオンAMI)が錯体の中心原子(中心金属)になる。アルカリ金属錯体AMCが生成されると、一般的な錯体と同様に変色するので(分光学的特性による呈色反応)、錯体生成の有無を目視判定で行える。

【0036】

(プレドープ工程)

プレドープ工程では、錯体生成工程によって生成されたアルカリ金属錯体と活物質とを接触させて反応させ、活物質にアルカリ金属イオンをプレドープする。

【0037】

活物質には、アルカリ金属錯体から脱溶媒和できる任意の物質を用いることができる。言い換えると、アルカリ金属のインターカレーション(Intercalation)反応を有しない物質を用いる。電池容量を増大化させる観点から、合金系材料を用いることが望ましい。合金系材料は、電池反応の進行に伴い、アルカリ金属の吸蔵や脱離、溶解や析出可能な材料であればよい。具体的には、合金化,脱合金化,化合物化,脱化合物化のうちで一以上が行える材料である。「合金」は2種以上の金属元素で構成してもよく、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素を組み合わせて構成してもよい。その組織には、固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物や、これらのうちで2種以上が共存するものを含む。

【0038】

このような金属元素あるいは半金属元素としては、マグネシウム(Mg),ガリウム(Ga),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb),ヒ素(As),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),銀(Ag),金(Au),亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),水銀(Hg),銅(Cu),バナジウム(V),インジウム(In),ホウ素(B),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),ハフニウム(Hf)などが該当する。上記合金系材料は、これらの元素を単体または合金に含むことができる。

【0039】

特に、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体または合金を用いるとよい。好ましいのは、ケイ素(Si)やスズ(Sn)、あるいはこれらの合金である。結晶質のものでもよく、アモルファスのものでもよい。

【0040】

プレドープ工程は、任意の装置で行えるが、本形態では効率化のために図2に示すプレドープ装置10で行う。コインセル型のプレドープ装置10は、正極ケース11,シール材12(ガスケット),プレドープ液13,正極集電体14,アルカリ金属片15,セパレータ16,負極ケース17,負極18,保持部材19,負極集電体1aなどを有する。これらのうち、正極ケース11,シール材12,セパレータ16,負極ケース17,保持部材19などは必要に応じて備える部材である。

(中略)

【0042】

正極ケース11は、正極集電体14を介してアルカリ金属片15が面接触して導電する。正極集電体14は、導電性の金属(例えばアルミニウムなど)で成形する。アルカリ金属片15の形状は問わない。負極ケース17には負極集電体1aを介して負極18が面接触する。負極集電体1aは導電性の金属(例えば銅など)で成形する。負極18には、プレドープするための上記活物質を含む。

(中略)

【0044】

正極集電体14,アルカリ金属片15,セパレータ16,負極18,負極集電体1aは、プレドープ液13に浸される。プレドープ液13は、図1に示すアルカリ金属錯体AMCを含む溶媒和溶液SOLである。

(中略)

【0046】

プレドープ装置10で行われるプレドープ工程では、アルカリ金属のインターカレーション反応を行わずに、アルカリ金属イオンAMIを活物質にドープ(吸蔵)する。具体的には、プレドープ液13に含まれるアルカリ金属錯体AMCからアルカリ金属イオンAMIが脱溶媒和され、負極18に含まれる活物質AMにドープする(図1の矢印D1で示す)。活物質AMに対するアルカリ金属イオンAMIのドープ量は、当該アルカリ金属イオンAMIが中心原子となってアルカリ金属錯体AMCが生成される際に用いるアニオン性反応物(すなわち芳香族化合物ARO)の濃度で制御可能である。そのため、ドープ量を任意に設定することもできる。ドープの進行は、溶媒和溶液SOLおよび芳香族化合物AROと、負極18(特に活物質AM)との電子親和力の化学的作用に依存する。ドープが進行するに伴って、図3に示すように負極18の負極電位は低下してゆく。すなわち負極18の活物質AMにアルカリ金属イオンAMIがドープされることで、負極18の容量(電池容量)が増加する。

(中略)

【0050】

ただし、アルカリ金属のインターカレーション反応によって、アルカリ金属錯体AMC自体がドープ(供挿入)されるような物質は活物質AMに適さない。このような物質として、例えば黒鉛(グラファイト)などが該当する。黒鉛を活物質AMとして用いると、ドープに伴って図4に「(002)graphite」で示すように層間距離が12.44Åまで拡大する。なお、リチウムイオンがドープされた場合の層間距離は5~8Å程度である。図4には縦軸を回折強度(Intensity)とし、横軸を回折角(2θ;CuKα)とするX線回折パターンの一例を示す。このようにアルカリ金属錯体AMC自体がドープされる物質は、抵抗値が増加する(黒鉛の場合は層間距離が増加する)ため、活物質AMから除く。

【0051】

〔二次電池〕

次に、図5~図7に示す二次電池20の製造について説明する。コインセル型の二次電池20は、図2に示すプレドープ装置10と一部を除いて同等の構成である。よって、図2と同じ要素には同一符号を付して説明を省略する。

【0052】

図5に示す二次電池20Aは、二次電池20の一例である。図2に示すプレドープ装置10でプレドープを確認した後に解体し、アルカリ金属片15の代わりにアルカリ金属を含む正極22を用い、プレドープ液13の代わりに電解液21を用いて組み立てることで二次電池20Aを製造することができる。ただし、負極18はプレドープ工程を行って活物質AMにアルカリ金属イオンAMIがプレドープされたものを取り出して用いる。なお、プレドープ工程が施されて取り出された負極18は、後述の第二実施形態の場合と同様に、洗浄(被膜形成)を行った後に二次電池20Aを組み立ててもよい。

イ 「
」
ウ 「
」

(2)引用文献1の上記記載及び図面から、次のことがいえる。

ア 上記「(1)」「ア」の段落【0051】、【0052】によれば、引用文献1には、プレドープされた負極18を用いた二次電池20Aの製造方法が記載されている。

イ 上記「(1)」「ア」の段落【0042】、【0044】、【0046】によれば、プレドープ工程は、プレドープするための活物質AMを含む負極18を、アルカリ金属錯体AMCを含む溶媒和溶液SOLであるプレドープ液13に浸し、アルカリ金属のインターカレーション反応を行わずに、プレドープ液13に含まれるアルカリ金属錯体AMCからアルカリ金属イオンAMIが脱溶媒和され、アルカリ金属イオンAMIを負極18に含まれる活物質AMにドープする。

ウ 上記「(1)」「ア」の段落【0035】によれば、引用文献1には、アルカリ金属としてリチウム(Li)を用い、溶媒和溶液SOLとしてテトラヒドロフラン(THF)を用い、配位子LIG(芳香族化合物ARO)としてナフタレンを用いてアルカリ金属錯体AMCを生成することが記載されており、段落【0034】に示されたアルカリ金属錯体の生成過程の化学式【化1】からすれば、該アルカリ金属錯体AMCには、還元状態のナフタレン及びリチウムイオンが含まれるといえる。

エ 上記「(1)」「ア」の段落【0037】によれば、活物質には、合金系材料を用いることが望ましいことから、負極18に含まれる活物質AMも合金系材料を用いるといえる。

(3)上記アないしエによれば、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「プレドープされた負極18を用いた二次電池20Aの製造方法において、
プレドープするための活物質を含む負極18を、アルカリ金属錯体AMCを含む溶媒和溶液SOLであるプレドープ液13に浸し、アルカリ金属のインターカレーション反応を行わずに、プレドープ液13に含まれるアルカリ金属錯体AMCからアルカリ金属イオンAMIが脱溶媒和され、アルカリ金属イオンAMIを負極18に含まれる活物質AMにドープするプレドープ工程を含み、
前記アルカリ金属錯体AMCは、還元状態のナフタレン及びリチウムイオンを含み、
前記負極18に含まれる活物質AMは、合金系材料を用いる、
二次電池20Aの製造方法。」

2 引用文献2について

(1)原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献2(国際公開第2012/053553号)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

「[0018] 本発明の非水系二次電池は、アルカリ金属を吸蔵・放出する正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。本発明の非水系二次電池は、負極及び正極の少なくとも一方に、本発明の層状構造体を電極活物質として備えている。本発明の層状構造体は、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有している。この本発明の層状構造体は、負極活物質とするのが好ましい。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。また、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属は、アルカリ金属元素層のアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。ここでは、説明の便宜のため、層状構造体を負極活物質とし、アルカリ金属元素層にLiを含み、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属をLiとした非水系二次電池を以下主として説明する。
(中略)
[0047][実施例1]
層状構造体としての2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウム(式(7)参照)を合成した。2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウムは、出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。まず、水酸化リチウム1水和物0.556gにメタノール100mLを加え、撹拌した。水酸化リチウム1水和物を溶解したのち、2,6-ナフタレンジカルボン酸1.0gを加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料を得た。得られた白色粉末試料を実施例1の活物質粉体とした。
(中略)
[0051][実施例2]
実施例1の2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウムの代わりに4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウム(式(8)参照)とした以外は実施例1と同様の工程を経て得られた白色粉末試料を実施例2の活物質粉体とした。また、実施例2の活物質粉体を用い、実施例1と同様の工程を経て、実施例2の非水系二次電池用電極を作製すると共に、この実施例2の非水系二次電池用電極を用いて二極式評価セルを作製した。」

(2)引用文献2の上記記載によれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2の技術事項」という。)が記載されている。

「負極活物質を有する負極を備えた非水系二次電池において、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として備え、層状構造体として2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウム又は4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムを用いること。」

3 引用文献3について

(1)原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献3(特開2014-216211号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

「【0014】
本発明の非水系二次電池は、アルカリ金属を吸蔵・放出する正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。本発明の非水系二次電池は、電極である負極及び正極の少なくとも一方に、本発明の層状構造体を電極活物質として備えている。本発明の層状構造体は、ベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備えている。この本発明の層状構造体は、負極活物質とするのが好ましい。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。また、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属は、アルカリ金属元素層のアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。ここでは、非水系二次電池用の電極において、アルカリ金属元素層にLiを含む層状構造体を負極活物質とする場合について主として説明する。また、非水二次電池においては、上記層状構造体を負極活物質とし、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属をLiとするものを主として以下説明する。
(中略)
【0035】
[実施例1]
(1,4-ベンゼンジカルボン酸ジリチウムの合成)
図1、2に示す層状構造体としての1,4-ベンゼンジカルボン酸ジリチウムを合成した。この合成には、出発原料として1,4-ベンゼンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。水酸化リチウム1水和物(2.78g)にメタノール(200mL)を加え撹拌した。水酸化リチウム1水和物がとけた後に、1,4-ベンゼンジカルボン酸(5.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより実施例1の層状構造体である活物質粉末を得た。」

(2)引用文献3の上記記載によれば、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3の技術事項」という。)が記載されている。

「負極活物質を有する負極を備えた非水系二次電池において、ベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として備え、層状構造体として1,4-ベンゼンジカルボン酸ジリチウムを用いること。」

第7 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)引用発明の「プレドープされた負極18」は、本願発明の「電極」に相当する。

また、引用発明の「二次電池20A」は、繰り返し充放電可能なデバイスであるから、本願発明1の「蓄電デバイス」に相当する。

よって、引用発明の「プレドープされた負極18を用いた二次電池20Aの製造方法」は、本願発明1の「電極を備えた蓄電デバイスの製造方法」に相当する。

(イ)引用発明の「アルカリ金属錯体AMC」は、「還元状態のナフタレン及びリチウムイオン」を含むから、引用発明の「アルカリ金属錯体AMCを含む溶媒和溶液SOLであるプレドープ液13」も「還元状態のナフタレン及びリチウムイオン」を含む。

ここで、本願発明1の「芳香族炭化水素化合物」に関し、本願特許請求の範囲の請求項3には、「前記ドープ溶液は、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニル、アントラセン及びパラターフェニルのうち1以上である前記芳香族炭化水素化合物を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイスの製造方法。」と記載され、本願発明1の「金属イオン」に関し、本願特許請求の範囲の請求項4には、「前記ドープ溶液は、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1以上である前記金属イオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。」と記載されているから、本願発明1の「芳香族炭化水素化合物」及び「金属イオン」は、「ナフタレン」及び「リチウムイオン」を含み得るものである。よって、引用発明の「還元状態のナフタレン及びリチウムイオン」が含まれる「プレドープ液13」は、本願発明1の「還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液」に含まれる。

そして、引用発明の「プレドープ工程」は、「プレドープするための活物質を含む負極18を、アルカリ金属錯体AMCを含む溶媒和溶液であるSOLプレドープ液13に浸」し、「プレドープ液13に含まれるアルカリ金属錯体AMCからアルカリ金属イオンAMIが脱溶媒和され、アルカリ金属イオンAMIを負極18に含まれる活物質AMにドープする」のであるから、引用発明と本願発明1とは、「還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする工程」を備える点で共通する。

ただし、「電極」に関し、本願発明1は「芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の層状構造体を含む」のに対し、引用発明はその旨特定していない点で相違する。

イ 上記(ア)、(イ)より、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)

「電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする工程、を含む蓄電デバイスの製造方法。」

(相違点)

「電極」に関し、本願発明1は「芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の層状構造体を含む」のに対し、引用発明はその旨特定していない点

(2)相違点についての判断

ア 引用文献1の記載(上記「第6」「1」「(1)」「ア」の段落【0002】、【0003】、【0008】を参照)によれば、アルカリ二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)の負極(負極活物質)には、炭素,黒鉛系材料が用いられてきたが、最大のリチウム導入化合物である黒鉛(LiC6)から得られる理論容量(372mAh/g)に限界がある一方、SiやSn等の合金系負極の理論容量は4200mAh/gの充放電容量が得られ、合金系負極では、炭素,黒鉛系の負極活物質と比較して、活物質重量が少なくなることで、エネルギー密度(Wh/g)が向上させることが可能と考えられるところ、合金系負極では、エネルギー密度が向上せず、リチウムが挿入脱離する際の体積変化が著しいという課題があり、引用文献1に記載された発明は、該課題を解決するとともに、電極や活物質自体へのドープが均一にできることを達成しうるアルカリ金属含有活物質の製造方法および二次電池を提供するものである。

そして、引用文献1(上記「第6」「1」「(1)」「ア」の段落【0037】、【0039】を参照)によれば、アルカリ二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)の負極(負極活物質)には、実施形態における「活物質」として、電池容量を増大化させる観点から「合金系材料」を用いることが望ましく、好ましい材料として、ケイ素(Si)やスズ(Sn)、あるいはこれらの合金であることを説示している。

ここで、引用文献2に、「負極活物質を有する負極を備えた非水系二次電池において、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として備え、層状構造体として2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウム又は4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムを用いること」(上記「第6」「2」「(2)」の引用文献2の技術事項を参照)が、引用文献3に、「アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極を備えた非水系二次電池において、ベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として備え、層状構造体として1,4-ベンゼンジカルボン酸ジリチウムを用いること」(「第6」「3」「(2)」の引用文献3の技術事項を参照)が、それぞれ記載されている。

しかしながら、引用文献1には、「活物質」として「合金系材料」以外のものを用いることは記載されておらず、これを示唆する記載も見当たらないし、引用発明の「活物質AM」として、あえて「合金系材料」とは異なる、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を用いる動機付けも見当たらない。

イ また、引用発明における「プレドープ工程」では、「アルカリ金属のインターカレーション反応を行わ」ずに、アルカリ金属イオンAMIを負極18に含まれる活物質AMにドープするものであって、引用発明の「負極18」に含まれる「活物質AM」に関し、引用文献1の段落【0037】に「活物質には、アルカリ金属錯体から脱溶媒和できる任意の物質を用いることができる。言い換えると、アルカリ金属のインターカレーション(Intercalation)反応を有しない物質を用いる。電池容量を増大化させる観点から、合金系材料を用いることが望ましい。」、同段落【0050】に「ただし、アルカリ金属のインターカレーション反応によって、アルカリ金属錯体AMC自体がドープ(供挿入)されるような物質は活物質AMに適さない。このような物質として、例えば黒鉛(グラファイト)などが該当する。・・・(省略)・・・このようにアルカリ金属錯体AMC自体がドープされる物質は、抵抗値が増加する(黒鉛の場合は層間距離が増加する)ため、活物質AMから除く。」とそれぞれ記載されていることから、引用発明における「活物質AM」として、「アルカリ金属のインターカレーション反応を有する物質」は除外されているといえる。

ここで、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層上構造体は、アルカリ金属のインターカレーション反応を有する物質であることは技術常識(必要とあれば、萩原信宏、安田智美、岸田佳大、インターカレーション金属有機構造体負極材料における結晶構造と電気化学特性の関係、第56回電池討論会講演要旨集、(公社)電気化学会 電池技術委員会、2015年11月10日、583頁、萩原信宏、安田智美、岸田佳大、大砂哲、宮本開任、大庭伸子、充放電時の体積変化の少ないインターカレーション金属有機構造体負極材料、第55回電池討論会講演要旨集、(公社)電気化学会 電池技術委員会、2014年11月19日、296頁、Angew.chem.Int.Ed.2014,53,11467頁左欄1ないし10行、11470頁左欄2ないし23行、11471頁1ないし13行、Figure4、を参照)である。

してみれば、引用発明の「活物質AM」を、「合金系材料」から、引用文献2に記載された技術事項における「2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体」や、引用文献3に記載された技術事項における「ベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体」を採用することには阻害要因がある。

ウ したがって、引用発明、引用文献2の技術事項及び引用文献3の技術事項に基づいて、本願発明1の相違点に係る発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(3)小括

よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、引用文献2の技術事項及び引用文献3の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし10について

本願発明1を引用する本願発明2ないし9、独立請求項の本願発明10は、いずれも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用文献2の技術事項及び引用文献3の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第8 原査定について

本願発明1ないし10は、上記「第6」で述べた相違点に係る「芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の層状構造体を含む前記電極」なる発明特定事項を含む。

そして、上記「第6」で述べたように、引用発明、引用文献2の技術事項及び引用文献3の技術事項に基づいて、上記相違点に係る発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

よって、本願発明1ないし10は、引用発明、引用文献2の技術事項及び引用文献3の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-008108

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