商標無効審判
2019-890057
スクラムマスター、スクラム、マスター
- 審判番号
- 2019-890057
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2017-080867
- 登録番号
- 6042646
- 請求日
- 2019年09月27日
- 審決日
- 2022年10月27日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】KDDI 株式会社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】スクラム インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 永和システムマネジメント
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】Scrum Inc. Japan 株式会社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 翔泳社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 アトラクタ
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】アギレルゴコンサルティング 株式会社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 オージス総研
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】グロース・アーキテクチャ&チームス 株式会社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 アットウェア
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 EXIN JAPAN
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】クリエーションライン 株式会社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】株式会社 ITプレナーズジャパン・アジアパシフィック
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】ギルドワークス 株式会社
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【請求人】一般社団法人 スクラムギャザリング東京実行委員会
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】中村 稔
- 【請求人代理人】松尾 和子
- 【請求人代理人】井滝 裕敬
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】藤倉 大作
- 【請求人代理人】飯田 圭
- 【請求人代理人】苫米地 正啓
- 【被請求人】株式会社 アーク
- 審判長/審判官
- 審判長 大森 友子
- 審判官 清川 恵子
- 審判官 馬場 秀敏
- 分類
- T111 .13 -ZC (W41)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第3号、商標法第3条第1項、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第16号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6042646号商標の商標登録無効審判事件についてされた令和3年7月21日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和03年(行ケ)第10100号、令和4年5月19日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
登録第6042646号の指定商品及び指定役務中、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,情報管理システムに関する教育訓練研修,情報技術の使用に関する教育訓練研修,それらのコンピュータ・電気通信を利用して行う教育訓練,組織の経営管理及び事業の変革管理・業務改善・後方支援への取り組みに関する教育訓練研修,マネジメント・コミュニケーション・営業・リーダーシップ・人材育成の能力向上の教育訓練研修,マネジメント・コミュニケーション・営業・リーダーシップ・人材育成の能力向上の教育・研修に関するコンサルティング・助言・指導及び情報の提供,プログラム・プロジェクト・ポートフォリオの管理及び作成のための教育訓練研修,コーチング(教育及び訓練),資格の認定及び付与の企画・運営並びにこれに関する情報の提供,資格検定試験並びに資格認定試験の企画・運営又は実施並びにこれに関する情報の提供,試験問題の作成,教育情報の提供,セミナーの企画・運営又は開催,ビジネス・事業戦略・科学・技術のセミナー・シンポジウム・会議・講演会・研修会・討論会・講習会の企画・運営・開催に関する助言・指導及び情報の提供,その他のセミナー・シンポジウム・会議・講演会・研修会・討論会・講習会の企画・運営・開催に関する助言・指導及び情報の提供,図書及び記録の供覧,インターネット又はコンピュータネットワークを通じた通信端末を用いた書籍・雑誌の供覧」についての登録を無効とする。
審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
理由
第1 本件商標
本件登録第6042646号商標(以下「本件商標」という。)は、「Scrum Master」の文字を標準文字で表してなり、平成29年6月19日に登録出願、同30年4月17日に登録査定、第16類、第35類及び第41類に属する別掲のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年5月11日に設定登録されたものである。
そして、令和元年9月27日の本件審判の請求により、本件商標の指定商品及び指定役務中、第16類「教材,書籍,定期刊行物,印刷物」及び第41類「電子出版物の提供,電気通信回線を通じて行う静止画像・動画像・音声付き静止画像・音声付き動画像・映像・電子出版物・教育情報の提供」についての登録を無効とする旨の審決が同3年10月6日に確定し、その確定審決の登録が同4年7月5日にされたものである。
第2 手続の経緯
本件商標については、令和元年9月27日に「本件商標の登録を無効とする。」旨の無効審判の請求があったところ、当該請求については、同3年7月21日付けで「本件商標の指定商品及び指定役務中、第16類「教材,書籍,定期刊行物,印刷物」及び第41類「電子出版物の提供,電気通信回線を通じて行う静止画像・動画像・音声付き静止画像・音声付き動画像・映像・電子出版物・教育情報の提供」についての登録を無効とする。その余の指定商品及び指定役務についての審判請求は成り立たない。」旨の審決(以下「第一審決」という。)がされた。
請求人は、第一審決において、審判請求は成り立たないとされた本件商標の指定商品及び指定役務中、結論掲記の指定役務(以下「請求に係る指定役務」という場合がある。)に係る部分の取消しを求めて知的財産高等裁判所に出訴し、これが令和3年(行ケ)第10100号事件として審理された結果、令和4年5月19日に「1 特許庁が無効2019-890057号事件について令和3年7月21日にした審決のうち,登録第6042646号の別紙2記載の役務(請求に係る指定役務)に係る部分を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決が言い渡された。
そして、上記判決が確定した結果、第一審決で審判請求は成り立たないとされた本件商標の指定商品及び指定役務中、請求に係る指定役務については第一審決が取り消された。
第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び審判事件弁駁書において、その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第359号証及び、甲第383号証ないし甲第428号証(令和4年8月1日受付回答書により提出)(枝番を含む、枝番をすべて引用する場合は枝番を省略する。なお、甲第360号証ないし甲第382号証並びに甲第401号証の46及び47は欠番。)を提出した。
1 請求の理由
(1)被請求人について
被請求人は、その公式ウェブサイトにおいて、「弊社は、コンサルタント約50名を擁し、情報セキュリティマネジメントシステム分野に関しては、日本では大手のコンサルティングファームである」旨述べ、情報システム、情報セキュリティ、システム開発等の情報技術(IT)に関するセミナー等を提供している企業である(甲3)。
被請求人は、「Scrum」、「Agile」等のソフトウェアやコンピュータシステムの分野の需要者・取引者であれば誰もが知るアジャイルソフトウェア開発方法やオープンソース技術に係る一般名称を多数出願しており、被請求人は、それら一般名称について登録を受けては、当該一般名称を使用している善意の事業者に対して警告状を送付し(甲4)、ソフトウェアその他情報技術(IT)分野における経済活動を不当に混乱させ、当該分野に看過し難い悪影響を及ぼしている。
本件商標も、世界的に著名なアジャイルソフトウェア開発方法「Scrum」に関わる一般用語であり、不当・不正な目的により出願され、商標登録されてしまったが、直近の商標登録出願の審査状況をみると、現在、これらの出願は、軒並み商標法第3条第1項各号等の拒絶理由通知書・拒絶査定を受けている。
被請求人は、同分野の関係者をはじめ一般公衆から非常に問題視され、強く非難を受けており(甲5~甲11)、被請求人による一連の出願行為についてのコメントや現状などをまとめた「まとめサイト」のようなものまで立ち上がっており(甲12)、一般公衆から高い関心と注意を集めている。
また、日本経済新聞社は、被請求人による一連の不当な出願行為について取材・報道を開始している(甲13)。
(2)利害関係について
本件商標の登録は、「Scrum」に関わる業界全体に対して影響と懸念・不安を与え、経済活動に不当な悪影響を及ぼしており、「Scrum」に関わる各種役務を提供している本件審判の請求人に名を連ねる事業者全員に、本件審判を請求する利害関係がある(甲14~甲25)。
(3)「Scrum」について
ア 「アジャイルソフトウェア開発」について
ソフトウェアやコンピュータシステムの開発に関する分野において、「アジャイルソフトウェア開発」という、日本国内はもとより世界的に広く知られた開発方法概念が存在する。「アジャイルソフトウェア開発」とは、「ソフトウェア工学において迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法群の総称であり、近年、アジャイルソフトウェア開発手法が数多く考案されている」(甲26)、「ソフトウェア要求仕様の変更などの変化に対して機敏な対応ができ、顧客に価値あるソフトウェアを迅速に提供することを目的とするソフトウェア開発方法論の総称。」(甲27)であり、他の様々な文献においても、同様の説明がなされている(甲28~甲30)。
イ 「Scrum」の定義・概要
「アジャイルソフトウェア開発」には、開発方法が様々あり、「Scrum」は開発方法の一つである。現在、世界中で広く普及し、アジャイルソフトウェア開発方法のスタンダードともなっている「Scrum」は、1986年に、現大学名誉教授であるN氏とT氏が、「新製品開発のプロセス」について日本とアメリカとの比較を行った研究に関して発表した論文における理論が元となっている(甲31)。
「Scrum」の名称は、当該論文の中で、柔軟で自由度の高い日本発の製品開発手法がラグビーのスクラムにたとえて「Scrum(スクラム)」として紹介されたことに由来している。
その後、当該論文に着想を得たJeff Sutherland氏及びKen Schwaber氏らが、現在の「スクラム」ソフトウェア開発方法をまとめ、プログラミングに関する国際会議「OOPSLA‘95」において発表し、当該方法は現在の発展につながっている。
つまり、「Scrum」は、本件商標の登録出願より約25年も前の1995年に提唱されたものであって、「アジャイルソフトウェア開発」に係る方法のなかで、代表的かつ最も利活用されているものの一般・普通名称であり、本件商標の登録出願前に発行されている文献においても一様に、「Scrum」はアジャイルソフトウェア開発方法の一般・普通名称として定義されている(甲32~甲38)。
このことは、「Scrum」の提唱者であるJeff Sutherland氏らが、「Scrum」を正しく普及・周知するために作成・公表した「Scrum Guide(スクラムガイド)」において詳しく定義・説明されおり(甲39~甲42)、各号証においても一様に同じ説明がなされている。
ウ 「Scrum」の一般名称性に関する被請求人自身の自認
被請求人自身の公式ウェブサイトにおける説明(甲3)は、アジャイルソフトウェア開発手法の一つとして広く知られる「Scrum」の説明そのものであって、被請求人自身が「Scrum」が定義どおりの一般名称であることを自認している。
エ 「Scrum」に関する歴史と日本国内での普及状況
「Scrum」が情報技術(IT)分野において、請求人が提出した「Scrum」の誕生から現在に至るまでの「Scrum」に関わる情報技術(IT)業界における出来事を年表化したもの(甲43~甲104)を概観するだけでも、「アジャイルソフトウェア開発」の代表的な方法である「Scrum」が、いかに広く一般に普及・認識・使用されているかは明白である。
オ 「Scrum」に関する雑誌記事・新聞記事・インターネット記事
「Scrum」を紹介・説明した雑誌記事・新聞記事・インターネット記事及びその抜粋等(甲105~甲281、別紙2)によれば、「Scrum」というアジャイルソフトウェア開発方法がいかに我が国において一般的かつ有名であるかは明らかである。
カ 「Scrum」を題号・題材とした書籍並びに論文等
本件商標の登録出願より前からアジャイルソフトウェア開発手法「Scrum」を題号、主たる題材・内容としている書籍、論文等がある(甲282~甲309、別紙3)。
(4)「Scrum Master」について
ア 「Scrum Master」の定義・概要
「Scrum」の3つの役割において、基本かつ不可欠な要素として、「Scrum Guide(スクラムガイド)」において、定義・説明され(甲39~甲42)、「スクラムマスターは、スクラムの理解と成立に責任を持つ。そのためにスクラムマスターは、スクラムチームにスクラム理論・プラクティス・ルールを守ってもらうようにする。スクラムマスターは、スクラムチームのサーバントリ-ダーである。」と定義されている。
イ 「Scrum Master」の一般名称性に関する被請求人自身の自認
被請求人自身が、公式ウェブサイト上で、「Scrum Master」が一般名称であることを自認している。
ウ 「Scrum Master」に関する雑誌記事・新聞記事・インターネット記事・書籍・論文等
「Scrum Master」は、「Scrum」を実践するためには絶対的に不可欠な役割であり、「Scrum」を説明する雑誌・新聞・インターネット記事・書籍・論文等において、「Scrum Master」について紹介されている(別紙4)。
(5)「Scrum」又は「Scrum Master」を内容とする又はそれらに関連する各種商品及び役務について
「Scrum」は、アジャイルソフトウェア開発の代表的かつ最も利活用されている方法であることから、「Scrum」の概要やノウハウを教授・啓発するためのソフトウェア開発方法「Scrum」を内容・題材とする書籍その他出版物がすでに存在し、それらの書籍等は、「Scrum Master」についても、その役割・心得やノウハウ等を教授・啓発する内容になっている(甲282、甲284~甲289、甲292)。
また、請求人を含む多くの企業が、「Scrum」に関する講座・セミナー・コンサルティング・イベントを提供・開催し、資格認定・研修・検定試験等のサービスを提供したり、「Scrum Master」の認定・研修・検定試験等のサービスや「Scrum Master」に対するコンサルティングその他支援業などを提供している(甲14~甲25、甲310~甲322)。
このように、ソフトウェアその他の情報技術(IT)分野においては、「Scrum」及び「Scrum Master」を内容とする書籍等のコンテンツ商品、コンサルティング・人材支援等のビジネス支援サービス、講座・セミナー等の教育関連サービスが、広く提供されている実情がある。
(6)商標法3条第1項第3号及び同項第6号該当性について
ア 「Scrum」は、アジャイルソフトウェア開発に関する代表的で著名な方法として、また、「Scrum Master」は、当該方法を構成する又は実践するために不可欠な役割として、ソフトウェアその他情報技術(IT)分野において、広く知られている一般名称であるところ、「Scrum」「Scrum Master」の概要やノウハウを教授・啓発する内容の書籍等のコンテンツ商品が広く販売されているから、本件商標が、その指定商品及び指定役務のうち、コンテンツ関連商品及び役務に当たる第16類「教材」等の商品及び第41類「電子出版物の提供」等の役務について使用された場合には、単に前記内容の商品及び役務の(品)質を表示するにとどまる。
イ 我が国において、「Scrum」の導入を希望する企業へのコンサルティング、「Scrum」を利活用したビジネス支援、「Scrum Master」に対するコンサルティングや人材支援など、「Scrum」及び「Scrum Master」に関するビジネス支援サービスが、広く提供されている実情が存在するから、本件商標が、その指定役務のうち、ビジネス支援サービスに当たる第35類について使用された場合には、単に「Scrum」又は「Scrum Master」に関連する役務であること、つまりは役務の質等を表示するにとどまる。
ウ 第35類「コンピュータデータベースへの情報編集」等は、一般的に情報技術(IT)事業者によって提供されるサービスであって、コンピュータシステムの開発・保守に深く関わるサービスであるから、「Scrum」及び「Scrum Master」は、当該サービスを提供するための方法又はその方法を実行する者を表す一般用語にすぎないから、本件商標は、これら役務との関係で、役務の質等を表示するにすぎない。
エ 人材募集の分野において、「Scrum開発経験者」等を募集する求人広告や、「Scrum Master経験者」又は「Scrum Master」としての採用を募集する求人広告等が存在する(甲323~甲327)から、本件商標が、第35類「職業のあっせん,人材募集,人材の紹介,求人情報の提供」について使用されたとしても、募集人材の内容を表示するにとどまる。
また同様に、第三者のために「Scrum」又は「Scrum Master」に関する広告物等を制作する場合には、「Scrum」又は「Scrum Master」は、広告の内容表示となるものであるから、第35類「広告業,広報活動の企画,広告用具の貸与」についても、本件商標は、単に役務の内容表示にとどまる。
オ 我が国において「Scrum」又は「Scrum Master」に関する事項を内容とする認定・研修・検定試験サービスなどの教育関連サービスが広く提供されている実情が存在するから、本件商標が、その指定役務のうち、教育関連サービスである第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等の役務について使用された場合には、単に前記内容の教育関連サービスであること、つまりは役務の質等を表示するにとどまる。
カ 被請求人の出願商標「ScrumProductOwner」について拒絶査定となっているところ、アジャイルソフトウェア開発方法「Scrum」は、「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「(開発)チーム」という3つの役割により構成されるところ、当該出願商標は、前記「プロダクトオーナー」を指すものであるから、上記に鑑みれば、本件商標も同様に、商標法第3条第1項各号に該当すべきものである。
キ 小括
以上のとおり、本件商標は、少なくとも前記の具体的な指定商品及び指定役務との関係で使用される場合には、「アジャイルソフトウェア開発方法における『Scrum Master』という役割」を内容とする又はそれに関連する商品及び役務であると認識させるにとどまり、商品及び役務の(品)質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であることが明らかであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
もしくは、本件商標が、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標であることは明白であり、同法第3条第1項各号の総括条項にあたる同項第6号にも該当する。
(7)商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、「Scrum」又は「Scrum Master」を内容とする又はそれらに関連する商品及び役務との関係で、単に特性をいい表すものとして一般に認識され、商標法第3条第1項第3号に該当するものである。
したがって、本件商標が、それら商品及び役務のうち、「Scrum」又は「Scrum Master」を特性としない商品及び役務について使用された場合には、商品及び役務の(品)質について誤認を生じさせるおそれがあるので、本件商標は同法第4条第1項第16号に該当する。
(8)商標法第3条第1項柱書違反について
被請求人の事業との関係で、本件商標が自他商品及び役務識別機能を発揮することはなく、被請求人は、一般名称に係る商標を商標登録し、その一般名称を善意で使用している第三者に対して、不当に警告状を送付することなどを目的として、本件商標の出願に及んだことは明らかであり、本件商標を自他商品及び役務識別のための「商標」として使用する意思は、全くないものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、その指定商品及び指定役務の全てについて、被請求人が使用することについて合理的な疑義があり、商標法第3条第1項柱書に違反するが、とりわけ、被請求人の事業内容とは全く関係の無い商品又は役務、例えば、第16類「紙類,文房具類,書画,写真,写真立て」、第35類「トレーディングスタンプの発行,インターネット上でのオークションの運営,競売の運営」、第41類「書画の貸与,おもちゃの貸与,通訳,翻訳」などとの関係においては、本件商標は、使用の意思に関して強い疑義があり、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない。
(9)商標法第4条第1項第7号該当性について
被請求人は、本件商標を含め、一連の不当な出願行為により、悪意により情報技術(IT)分野の経済活動に対して看過し難い悪影響を与えている状況であり、同分野の関係者から強い非難と懸念が表明されているだけでなく、主要な報道機関もその状況を報じている。
被請求人の代表者であるA氏は、請求人の一人であるKDDI株式会社が2018年に行った「Scrum Inc.認定資格Scrum@Hardware&AI研修」「Scrum Inc.認定資格スクラムマスター研修」「Scrum Inc.認定資格スクラムプロダクトオーナー」に参加をしている(甲328~甲330)。同氏は、当該講習などを介しても、「Scrum」、「Scrum Master」の語が、本件商標の指定商品及び指定役務の関係で一般・普通名称にすぎないことを充分認識しながら、「Scrum」、「Scrum Master」が商標登録されていないことを奇貨として、これらの語について登録を受け、KDDI株式会社らの合弁により設立された「Scrum Inc.Japan株式会社」に対して、警告状を送付してきた。このような状況及び経緯は、商標審査基準において該当事例として説明されているものに該当するものであることは明らかであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(10)「Scrum」及び「Scrum Master」の考案・発展・普及に深く携わった関係者による陳述
世界的な普及・発展を遂げ、本来、広くその使用が解放されていなければならない「Scrum」及び「Scrum Master」の名称が、それと密接な関係を有する商品及び役務について、不当に出願され商標登録されてしまったという事態を受け、N氏、T氏、Jeff Sutherland氏3名が本件商標の登録に対して強い異議を表明していることから、同3名の陳述書を提出する(甲334~甲336)。
(11)結語
本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号の規定に該当し、かつ、同法第3条第1項柱書にも違反するから、その登録は、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)利害関係について
被請求人が、自認するとおり、請求人の一部はすでに被請求人から一般名称の自由使用を阻害されており、他の請求人も、被請求人から一般名称の自由使用を阻害される懸念・不安を抱えながら業務を行っている。
(2)商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第16号該当性について
ア 「Scrum」は、本件商標の登録査定日前から、「アジャイルソフトウェア開発方法」の代表的なものの一般名称として、「Scrum Master」は、「Scrum」を実践するための役割の一般名称としてソフトウェアその他IT(情報技術)に関わる需要者の間で、広く認識されていた。
イ 第16類、第35類及び第41類の商品及び役務のコンテンツ(内容物)のテーマ又はジャンルを示す一般名称のみからなる商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして拒絶された審決があり(甲338~甲347)、「Scrum」及び「Scrum Master」を内容とする印刷物、ビジネスコンサルティング・人材サービスその他ビジネス支援、教育、セミナーなどが現実に提供されているから、本件商標は、第16類、第35類及び第41類の商品及び役務との関係でも、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する。
また、本件商標の指定商品及び指定役務とほぼ同一の商品及び役務が指定商品及び指定役務とされた出願について、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして、いずれも拒絶査定を受けている(甲348~甲352)。
ウ 請求人中、グローズ・アーキテクチャ&チームス株式会社、株式会社アットウェア、クリエーションライン株式会社及びギルドワークス株式会社の4社は、「Scrum Master」の語を用い、「Scrum」に関連する業務を行っており(甲353~甲358)、請求人は、ソフトウェア開発の方法に関する一般名称「Scrum Master」を、自己のサービス名称の一部に取り入れて使用しているから、「Scrum Master」の一般名称性が否定されるものではない。
請求人の多くは、本件商標の登録査定日前から、「Scrum」に関する業務を行っており、現に、KDDI株式会社と永和システムマネジメントが、「Scrum」の手法に準拠したアジャイル開発教育プログラムの提供(「Scrum Master」の育成等を含む)を発表したのは平成29年(2017年)年1月であり(甲80)、本件商標の登録査定日前から「Scrum Master」に関連する研修等は各事業者によって行われている(別紙4)。
よって、本件商標の登録査定日前より、「Scrum Master」が、ソフトウェア開発の方法に関する一般名称として定着していた事実のみをもってしても、本件商標は少なくとも以下の指定商品及び指定役務との関係においては商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する。
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、コンテンツ関連商品及び役務に当たる第16類「教材」等の商品及び第41類「電子出版物の提供」等の商品及び役務に使用された場合には、単に商品及び役務の(品)質を表示するにとどまる。
エ 我が国において、「Scrum」の導入を希望する企業へのコンサルティング、「Scrum」を活用したビジネス支援、「Scrum」に関するビジネス支援サービス、「Scrum Master」に対するコンサルティングや人材支援などが、広く提供されている実情が存在するから、本件商標が、その指定役務中、ビジネス支援サービスに当たる第35類「経営の診断又は経営に関する助言」等の役務に使用された場合には、単に「Scrum」又は「Scrum Master」に関連する役務であること、役務の質等を表示するにとどまる。
オ 本件商標の指定役務中、第35類「コンピュータデータベースへの情報編集」等の役務は、一般的に情報技術(IT)事業者によって提供されるサービスであって、コンピュータシステムの開発・保守に深く関わるサービスであるから、「Scrum」又は「Scrum Master」は、当該サービスを提供するための方法又はその方法を実行する者を表す一般用語にすぎないから、本件商標は、これら役務との関係で、役務の質等を表示するにすぎない。
カ 人材募集の分野において、「Scrum開発経験者」又は「Scrum開発に携わりたい人」を募集する求人広告、「Scrum Master経験者」又は「Scrum Master」としての採用を募集する求人広告が存在する(甲323~甲327)から、本件商標が、第35類「職業のあっせん,人材募集,人材の紹介,求人情報の提供」について使用されても、募集人材の内容を表示するにとどまる。
キ 第三者のために「Scrum」又は「Scrum Master」に関する広告物等を制作する場合、「Scrum」又は「Scrum Master」は、広告の内容表示となるから、第35類「広告業,広報活動の企画,広告用具の貸与」についても、本件商標は、単に役務の内容表示にとどまる。
ク 我が国において「Scrum」又は「Scrum Master」に関する事項を内容とする認定・研修・検定試験サービスなどの教育関連サービスが広く提供されている実情が存在するから、本件商標が、その指定役務中、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等の教育関連サービス等の指定役務について使用された場合には、単に前記内容の教育関連サービスであること、役務の質等を表示するにとどまる。
(3)商標法第3条第1項柱書違反について
本件商標は、第35類「職業のあっせん、人材募集、人材の紹介、求人情報の提供」との関係では、職種等の内容を表示するものであって商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、ここでの反論は不要である。
次に、被請求人は、「通訳、翻訳」について、事業化の準備を進めている(乙13)が、記載内容が不明であるから、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない。
(4)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、被請求人が「Scrum」及び「Scrum Master」の語が、本件商標の指定役務との関係で一般・普通名称にすぎないことを充分認識しながら、「Scrum」及び「Scrum Master」が商標登録されていないことを奇貨として、これらの語について登録を受け、「Scrum」及び「Scrum Master」を一般名称として使用している者に対して、権利を濫用し、使用の中止を求めていることが、公序良俗に反することを問題にしている。
被請求人は、「Scrum」及び「Scrum Master」がソフトウェア開発分野における一般名称であることを認識していた(甲3)にもかかわらず、ソフトウェア開発に関連する一般名称を多数出願し、ソフトウェア開発分野において、それら一般名称を使用する必要がある者に対して、強い懸念・不安を与えるばかりでなく、実際に、請求人に対して警告状を送付し、情報技術(IT)分野の経済活動に対して看過し難い悪影響を与えている。
以上に鑑みると、被請求人による一連の出願行為は、極めて利己的かつ社会公共に反する行いといわざるを得ず、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当する。
第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、答弁書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第19号証を提出した。
1 被請求人について
被請求人の事業内容(甲3)について異議はない。
被請求人の商標登録出願の申請累計件数は25件ほどであり、「・・・警告状を送付し」については、商標権の侵害のあるところにしか送付しておらず、権利行使をいきなり行わず、警告状を送付した。請求人は、被請求人の商標登録出願の半分近くが登録に至っている事実を無視している。
被請求人による一連の不当な出願行為をめぐる報道は、本件審判の対象である「Scrum」とは異なる「Python」に関する主張である。
「情報技術(IT)分野の経済活動に対して看過し難い悪影響を与えている」としているが、証拠を全く挙げておらず、Scrum Inc.Japan株式会社は、本件商標を含む資格セミナーをこれまでと変わらず開催し(乙1)、将来についても毎月開催している(乙2)。
2 利害関係について
利害関係については、Scrum Inc.Japan株式会社に警告状を送付したことは事実であり、利害関係者が1社でも審判請求は成り立つと思われる。
3 「Scrum」について
(1)「アジャイルソフトウェア開発」について
本件審判請求は、第16類、第35類及び第41類に対してであり、ソフトウェア開発の区分第42類とは異なる。
(2)「Scrum」の定義・概要
いくつかの辞典に、「Scrum」が紹介されているが、被請求人の知らない用語も含めほぼ同格の記述がされているから「一般・普通名称」とする証拠にはなり得ず(甲32)、甲第37号証の公開日は、登録査定日よりも後の日付である。
(3)「Scrum」の一般名称性に関する被請求人自身の自認
ホームページ(甲3)はPRのためのページであり、当該ホームページ中には「まだまだ国内では導入事例が少ない」とし、「一般名称であることを自認している」わけではない。
(4)「Scrum」に関する歴史と日本国内での普及状況
「Scrum Master」の文字は2件しかない上(年表(別紙1))、それらは記事中の説明にすぎず(甲46、甲95~甲96)、甲第95号証及び甲第96号証は、本件商標の登録査定日より後日付の記事である。
また、請求人が主張するものは、本件商標とは、商標の構成自体が異なり、請求人の主張に係るソフトウェア開発の役務と本件商標に係る指定役務とは区分が異なる。
(5)「Scrum」に関する雑誌記事・新聞記事・インターネット記事 「スクラム(Scrum)などのアジャイルプロセスを導入する企業は日本でも増えてきている」(甲203)、「スクラム(Scrum)開発を取り入れるSIベンダーも増えている」(甲207)とあるが、いずれの記事も本件商標が登録された日より後の日付であるから、本件商標が登録された以前には、紹介記事はあるものの、増えているとか、一般化しているとする記事は一切なく、「Scrum Master」に関する記事は1件もない。
(6)「Scrum」を題号・題材とした書籍並びに論文等
論文及び講演で、本件商標が登録された2017年においても提案や試行報告がなされている程度であり、「スクラムというソフトウェア開発方法が我が国において一般的かつ有名であるかは明らかである」とはいえない(甲308、甲309)。
4 「Scrum Master」について
(1)「Scrum Master」の定義・概要
請求人は仕組みを説明し、「Scrum Master」は3つの役割の中の一つであると述べているが、役割のような小さな項目は、記事中で説明されることはあっても、商標として使われるとは考え難い。
(2)「Scrum Master」の一般名称性に関する被請求人自身の自認
請求人の記載(甲3)は単なる説明である。
(3)「Scrum Master」に関する雑誌記事・新聞記事・インターネット記事・書籍・論文等
「Scrum Master」について、名称が1回出現するだけで説明すらなく(甲114)、「Scrum Masterの育成やセミナーなどが行われている」(甲244)とするが、その具体的な内容は記述がなく、実施団体のスクラムアライアンスは米国の組織であり米国での事例であり、日本で行われているものではない。その他は、Scrum Masterの機能の説明であり、唯一、「認定スクラムマスター研修というのがあり」とあるものは、インターネットのリンクは切れており確認が取れない(甲259)。
5 「Scrum」又は「Scrum Master」を内容とする又はそれらに関連する各種商品及び役務について
書籍(別紙3)16冊中、「Scrum Master」が目次に出現するのは7冊にすぎず、掲載されている書籍での扱いの大小を項番で見ると、ほとんどがかなり小さな扱いとなっていることから、「Scrum Master」が書籍等の大きな内容・題材の一つとなっているとはいえない。
また、請求人の中に「Scrum Master」を使用した「Scrum」に関する講座・セミナー・コンサルティング・イベントや、資格認定・研修・検定試験などのサービスを提供している企業は2社にすぎない(甲14~甲25、甲310~甲322)。
6 商標法第3条第1項第3号及び同項第6号該当性について
「Scrum Master」を商標として使用した研修やセミナーや「Scrum Master」を商標として使用したコンサルティングなどが広く行われているという事実や「Scrum」又は「Scrum Master」に関する事項を内容とする認定・研修・検定試験サービスなどの教育関連サービスが広く提供されている事実はない。
また、被請求人の出願商標「ScrumProductOwner」に関して拒絶査定となったことは事実だが、事業を開始する前に、特許庁の判断を仰ぐという目的の一環なので、何ら問題はない。
請求人は、「Scrum Master」を請求人の世界にのみ矮小化、極小化して諭じており、Weblio(乙18)やgoo辞書(乙19)で「Scrum Master」や「スクラムマスター」を検索すると、ともに一致するものはなく、請求人の主張する一般名称性もない。
7 商標法第4条第1項第16号該当性について
「商標法第3条第1項第3号」に該当するという主張が否定されるので、本項の主張も当然に否定される。
8 商標法第3条第1項柱書違反について
被請求人は本件商標を使用する事業の準備を進めており、第35類では、「職業のあっせん、人材募集、人材の紹介、求人情報の提供」は、すでに厚生労働大臣より職業紹介事業の許可を新たに受け準備を進めている(乙11)。
人材募集は、特定の技能をもった人のみについて行われる訳ではなく、あらゆる職種・技能について、人材募集が行われているところ、請求人は、あたかも「Scrum Master」に限って、人材募集が行われているように主張している。
第41類の「技芸・スポーツ又は知識の教授」について、一般社団法人日本アジャイル・スクラム協会を設立し(乙12)、研修内容を充実させるため情報収集にも努めており、その中には、他社情報の収集も含まれる(甲328~甲330)。また、「通訳,翻訳」についても、人力ではないAIを利用した新しい事業化の準備を進めている(乙13)。
9 商標法第4条第1項第7号該当性について
被請求人の代表者が研修に参加したことを述べ、研修参加が先で、申請を後と記述し、当該研修で「Scrum」「Scrum Master」が商標登録されていないことを知り、それを奇貨として商標登録を申請したと述べているが、商標登録の申請が先で、当該研修は後である(甲328~甲330)。
10 結論
以上により、本件商標は、請求人の主張するいずれにも該当しない。
第5 当審の判断
1 利害関係について
請求人は、「Scrum」に関わる各種役務を提供している事業者であり、被請求人から請求人の一部に対して警告状が送付されている(甲4)旨主張し、被請求人は、請求人の一部に対して警告状を送付したことは事実である旨主張している。
そうすると、請求人は、本件審判を請求することについて利害関係を有するものであって、本件審判の請求人適格を有するというべきである。
2 請求に係る指定役務の商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)請求人が提出した証拠によれば、次の事実が認められる。
ア 「Scrum(スクラム)」の語は、「最新パソコン・IT用語事典」(甲32~甲34。それぞれ、平成21年1月10日、平成22年4月1日、平成23年4月25日発行)、「ソフトウェアテスト標準用語集(日本語版)」(甲35。平成26年3月28日発行)、「IT用語辞典e-Words」(甲36。平成27年2月7日作成)において、「見出し語」として取り上げられ、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つと説明されている。
また、「Scrum(スクラム)」について、「最新パソコン・IT用語事典」では、「ソフトウェア開発において、ソフトウェアの作成→動作確認→製品化という過程を反復的に行う開発アプローチが特徴である。」と、「IT用語辞典e-Words」では、「スクラムとは、ソフトウェア開発手法の一つで、チームが一丸となって仕事に取り組むための方法論を中心にまとめられた方式。」などと説明され、ウィキペディア(甲31。平成29年10月31日最終更新)では、「スクラム(Scrum)」とは、ソフトウェア開発における反復的で漸進的なアジャイルソフトウェア開発手法の一つである旨説明されている。
イ 「Scrum Master(スクラムマスター)」は、「IT用語辞典e-Words」(甲36)の「スクラム」の「語」の説明の中で、「チームには・・・チーム内外の調整や外部との窓口となるスクラムマスターと呼ばれる役職が置かれる。」と説明されている。
また、「スクラムマスター」について、平成29年10月31日最終更新のウィキペディア(甲31)では、「スクラムフレームワークが正しく適用されていることを保証する役割である」と、平成30年3月11日に作成された「アジャイル用語集」(甲38)では、「スクラムではコーチとマネージャを合わせたようなスクラムマスターという役割がある」と説明されている。
ウ 「Scrum(スクラム)」の提唱者であるJeff Sutherland氏及びKen Schwaber氏が執筆した「スクラムガイド」(甲39~甲42。それぞれ、平成23年10月、平成25年7月、平成28年7月、平成29年11月発行)は、「スクラム」の定義、ルール等を説明したものであり、「スクラム」について、「複雑なプロダクトを開発・維持するためのフレームワークである。」、「スクラムは、スクラムチームとその役割・イベント・成果物・ルールで構成される。」、「スクラムチームは、プロダクトオーナー・開発チーム・スクラムマスターで構成される。」などと説明されている。また、「スクラムマスター」について、「スクラムマスターは、スクラムの理解と成立に責任を持つ。そのためにスクラムマスターは、スクラムチームにスクラムの理論・プラクティス・ルールを守ってもらうようにする。スクラムマスターは、スクラムチームのサーバントリ-ダー(・・・)である。」などと説明されている。
エ 平成15年から本件商標の登録査定日(平成30年4月17日)までの間に発行された「日経コンピュータ」、「日経SYSTEMS」、「日経ITプロフェッショナル」、「日経ソフトウェア」等のコンピュータやIT関連の雑誌(甲44、甲48、甲49、甲69、甲76、甲114、甲124、甲136、甲139、甲141、甲146、甲154、甲156~甲158、甲160、甲161、甲165、甲181、甲184、甲186、甲190、甲194~甲198、甲205~甲207、甲209、甲214、甲215)において、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」を主なテーマとする記事中に「Scrum Master(スクラムマスター)」に関する記載がある。
例えば、平成15年10月20日に発行された「日経コンピュータ第585号」(甲44)には、「スクラム(Scrum)」は、プロジェクトマネジメントの手法であり、海外では数千に上る採用実績があり、日本でもシステム・インテグレータの豆蔵や全日空システム企画が部分的に採用したこと、「スクラム・マスター」について「スクラムチームのカギを握る」、「チーム作り、各種ミーティングの開催、その他の意思決定に加えて、作業の障害を取り除くあらゆる手段を講じる」、「チーム・リーダー、プロジェクト・リーダー、プロジェクト・マネジャのいずれか」、「技術とマネジメント双方の高い能力が求められる」などの記載がある。
また、平成17年3月1日に発行された「日経ITプロフェッショナル第34号」(甲124)には、「スクラム」におけるプロジェクトの構成要員として、プロジェクト・マネジャーに相当する「スクラム・マスター」がいること、「スクラム・チームの自主性を保つ上で重要になるのが、スクラム・マスターの役割」であり、「スクラム・マスター」は、「開発作業の“障害”からスクラム・チームを守り、開発に専念させる」などの記載がある。
オ 平成16年から本件商標の登録査定日までの間に作成されたウェブサイトやブログ等(甲53、甲58、甲242、甲243、甲252、甲254、甲256、甲258、甲259、甲261~甲269、甲271)において、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」を主たるテーマとする記事中に「Scrum Master(スクラムマスター)」に関する記載がある。
例えば、平成16年10月5日に公開されたウェブサイト上の記事「アジャイル開発手法「SCRUM」の真実(1/3)(甲242)には、「スクラムマスターとは、簡単にいうとスクラムにおけるプロジェクトマネージャーである。進ちょく管理、要求事項管理等通常のプロジェクトマネージャーの行う仕事のほかに、チーム内のエンジニアに対するメンター(保護者)としての技術指導や助言も行う。そのためソフトウェア・エンジニアとしての高い素養が求められる。」との記載がある。
カ 平成15年から平成28年までの間に発行された書籍である「アジャイルソフトウェア開発スクラム」(甲282。平成15年9月20日発行)、「スクラム入門-アジャイルプロジェクトマネジメント」(甲284。平成16年9月13日発行)、「実践!アジャイルプロジェクト管理」(甲285。平成21年11月10日発行)、「アジャイルサムライ」(甲294。平成23年7月25日発行)、「アジャイルなゲーム開発」(甲286。平成24年9月3日発行)、「スクラムを活用したアジャイルなプロダクト管理」(甲287。平成24年11月30日発行)、「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」(甲289。平成25年2月12日発行)、「エッセンシャルスクラム」(甲292。平成26年7月7日発行)「スクラム-仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」(甲293。平成27年6月25日発行)、「スクラム現場ガイド」(甲295。平成28年2月29日発行)は、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」を主たる題材とするものであり、これらの中には「Scrum Master(スクラムマスター)」についての記載がある。
また、本件商標の登録査定前に発行された雑誌に掲載された論文である「アジャイル開発手法スクラムを用いたPBLの実施と評価」(甲298。平成22年発行)、「アジャイル開発の特徴とその真の価値」(甲299。平成23年発行)、「システム価値向上を目的としたScrumの試行・評価」(甲300。平成25年9月発行)、「社内業務システムの統合におけるSCRUM開発手法の適用事例」(甲308。平成29年6月15日発行)は、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」を主たる題材とするものであり、これらの中に「Scrum Master(スクラムマスター)」についての記載がある。
キ(ア)平成21年6月、Scrum Alliance公認の「スクラムマスター研修会」が実施された(甲46)。
(イ)請求人のアギレルゴコンサルティング株式会社は、平成23年10月、同24年1月、同25年1月、同年10月(2回実施)、同26年6月、同年10月、同27年5月、同年10月、同28年1月、同年5月、同年9月、同29年1月、同年6月、同年10月、同30年1月(2回実施)に、「認定スクラムマスター研修」を実施した(甲384の14、甲384の16の1~9)。
(ウ)Enterprise Scrum(請求人の株式会社アトラクタが共催)は、平成26年1月に2回、「認定スクラムマスタ研修」を実施した(甲384の15)。
(エ)株式会社日立ソリューションズは、平成28年8月頃、「認定スクラムマスター資格取得(CSM)と題する講座を実施した」(甲384の7)。
(オ)請求人であるKDDI株式会社、スクラム インコーポレイテッド及び株式会社永和システムマネジメントは、平成29年2月、「認定スクラムマスター研修」を実施し、その後、上記3社は、平成30年3月19日までに、同研修を4回開催した(甲80~甲82、甲88、甲89、甲384の1、8)。
(カ)デジタルビジネス・イノベーションセンターは、平成29年9月、「スクラムマスターの役割について学ぶ」と題する研修を開催した(甲384の5)。
(キ)平成30年4月までに、日本において、「Certified ScrumMaster」(認定スクラムマスター。Scrum Allianceによる認定資格)の資格を取得した者は3310名であり、「Certified ScrumMaster」の研修は163回開催された(甲384の17、甲385の5)。
ク 平成16年から本件商標の登録査定日までの間に発行・作成された雑誌やウェブサイト等(甲46、甲48、甲80~甲83、甲88、甲89、甲165、甲207、甲242、甲244、甲259、甲270)に「Scrum Master(スクラムマスター)」の認定制度、研修やセミナー等に関する記載がある。
例えば、平成21年11月11日発行の「日経コンピュータ第743号」(甲48)には、「アジャイル開発に特化した教育やコンサルティングを提供する企業Odd-e Japanは、アジャイル開発手法の一つである「スクラム」に関する資格取得サービスを強化する。2010年中に「スクラムマスター」を育成する認定ワークショップを東京と大阪で年4回以上実施する方針を決めた。・・・160人が認定される見込みだ。これまで日本にいる認定スクラムマスターが150人程度だったので一気に倍増する。」との記載があり、また、平成30年1月1日発行の「日経SYSTEMS第297号」(甲207)には、「2017年10月時点で、310人が「Certified Scrum Master(CSM)」を・・・持っている。」との記載がある。
(2)前記(1)の認定事実によれば、(ア)「Scrum(スクラム)」の語は、本件商標の登録査定前に発行、作成されたコンピュータ、IT関連の事典、用語集等において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つと説明されていること(前記(1)ア)、(イ)「Scrum Master(スクラムマスター)」の語は、本件商標の登録査定前に作成されたウェブサイト上の辞典等において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の名称として説明されていること(同イ)、(ウ)「Scrum」の提唱者が執筆した「スクラムガイド」において「スクラムマスター」の定義が説明されていること(同ウ)、(エ)本件商標の登録査定前に発行されたコンピュータやIT関連の複数の書籍、雑誌、ウェブサイトやブログにおいて、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」をテーマとした記事等に「Scrum Master(スクラムマスター)」についての記載があること(同エないしカ)、(オ)平成21年から同30年4月までの間に複数の団体が、スクラムマスターの研修を複数回実施していること(同キ)、(カ)本件商標の登録査定前に発行・作成された雑誌やウェブサイト等に「Scrum Master(スクラムマスター)」の認定制度、研修やセミナー等に関する記載があること(同ク)が認められる。
以上の(ア)ないし(カ)を総合すれば、本件商標の登録査定時において、「Scrum」の語は、コンピュータ、IT関連の分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つを表すものとして認識され、また、「Scrum Master」の語は、同分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表すものとして認識されていたものと認められる。
2 本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)商標法第3条第1項第3号が、「その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について商標登録の要件を欠くと規定しているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。
そうすると、商標が、指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、商標が指定役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標が当該指定役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、必ずしも当該商標が現実に当該指定役務に使用されていることを要しないと解される。
以上を前提に、本件商標の請求に係る指定役務との関係における同号該当性について判断する。
(2)本件商標は、「Scrum Master」の文字を標準文字で表してなり、「Scrum」の語及び「Master」の語から構成される結合商標である。本件商標から「スクラムマスター」の称呼が生じる。
前記1(2)認定のとおり、本件商標の登録査定時において、「Scrum」の語は、コンピュータ、IT関連の分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つを表すものとして認識され、また、「Scrum Master」の語は、同分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表すものとして認識されていたものと認められる。
また、「マスター」(master)の語は、一般に、「あるじ。長。支配者」、「修得すること。熟達すること」等(広辞苑第7版。甲391の2の2)の意味を有することからすると、「Scrum Master」の語からは、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得した者、「Scrum」に熟達した者などの観念をも生ずるものと認められる。
そうすると、本件商標が請求に係る指定役務に含まれる「教育訓練、研修会及びセミナー等」に使用された場合には、取引者、需要者は、当該教育訓練等がアジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得することや、「Scrum」における特定の役割に関する教育訓練等であることを示したものと理解するものといえるから、本件商標は、かかる役務の質(内容)を表示したものとして一般に認識されるものと認めるのが相当である。
そして、本件商標は、標準文字で構成されており、「Scrum Master」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるといえるから、本件商標は、請求に係る指定役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法第3条第1項第3号)に該当するものと認められる。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、結論掲記の指定役務についての登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから、その余の無効理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-890057