特許拒絶査定不服審判
2019-015984
電気化学デバイス用電解液および電気化学デバイス
- 審判番号
- 2019-015984
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-179416外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年11月27日
- 審決日
- 2020年11月24日
- 公報発行日
- 2021年01月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2018-179416「電気化学デバイス用電解液および電気化学デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月 2日出願公開、特開2020- 53488、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)9月25日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 1年 5月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 1年 7月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 8月26日付け:拒絶査定
令和 1年11月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 7月22日付け:当審による最後の拒絶理由の通知
令和 2年 8月28日 :意見書、手続補正書の提出
第2 原査定の概要
原査定(令和1年8月26日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。
本件出願の請求項1-5、7に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
また、本件出願の請求項1-7に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献Aに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献A:国際公開第2016/009994号
第3 令和2年7月22日付け当審の拒絶理由通知の概要
令和2年7月22日付けの当審が通知した拒絶理由は以下のとおりである。
本件出願の請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明および引用文献2-3に記載の技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2018-056404号公報
引用文献2:国際公開第2016/009994号(拒絶査定時の引用文献A)
引用文献3:特開2015-207538号公報
第4 本願発明
本件特許出願の請求項に係る発明は、令和2年8月28日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1から5に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明1ないし5」という。)は、次の事項により特定されるものである。(なお、下線部は補正箇所である。)
「【請求項1】
プロピレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートのみからなる溶媒に電解質が溶解した電解液であって、
前記プロピレンカーボネートと前記エチルメチルカーボネートとの体積比は25:75~60:40であり、
前記電解質は、0.8mol/L~1.6mol/Lの濃度で前記電解液に溶解され、かつイミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とをモル比で1:9~10:0の割合で含み、
前記電解液に、オキサラトリチウム塩が0.5wt%~2.0wt%の濃度で添加されたことを特徴とする電気化学デバイス用電解液。
【請求項2】
前記イミド系リチウム塩はリチウムビスフルオロスルホニルイミドであり、前記非イミド系リチウム塩はリチウムヘキサフルオロホスフェートであることを特徴とする請求項1に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項3】
前記電解液に、前記溶媒よりも高い電位で還元分解するエステル化合物が0.1wt%以下の濃度で添加されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項4】
前記エステル化合物が、炭酸エステルとスルホン酸エステルのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の電気化学デバイス用電解液。
【請求項5】
正極及び負極がセパレータを介して積層された蓄電素子を備え、
前記正極の活物質及び前記負極の活物質、又は前記セパレータに、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学デバイス用電解液が含浸されていることを特徴とする電気化学デバイス。」
第5 引用文献、引用発明等
引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【0013】
以上の現状に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高い入出力特性を有しながら、優れた高温保存耐久性、サイクル耐久性、高い安全性を同時に有する非水系リチウム型蓄電素子を提供することである。」
イ.「【0125】
[電解液]
本実施形態の電解液は、非水系電解液である。すなわち、この電解液は、後述する非水溶媒を含む。非水系電解液は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上のリチウム塩を含有することが好ましい。すなわち、非水系電解液は、リチウムイオンを電解質として含む。
【0126】
[リチウム塩]
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩として、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、及びLiN(SO2C2F5)2のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とし、入出力特性、高温保存ガス抑制の観点から、LiN(SO2F)2を含むことが好ましい。正極上で酸化分解したリチウム化合物の反応物とLiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、及び/又はLiN(SO2C2F5)2とが負極上に安定で低抵抗な被膜を生成することにより、入出力特性が向上し、さらに高温耐久性も向上する。
リチウム塩としては、これらのほかにLiN(SO2CF3)(SO2C2F5)、LiN(SO2CF3)(SO2C2F4H)、LiC(SO2F)3、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiPF6、LiBF4等を混合して用いてもよい。
リチウム塩濃度は、非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましい。0.1mol/L以上であれば、陰イオンが十分に存在するので蓄電素子の容量を十分高くできる。他方、リチウム塩濃度が2.0mol/L以下であれば、未溶解のリチウム塩が非水系電解液中に析出すること、及び電解液の粘度が高くなり過ぎることを防止でき、伝導度が低下せず、出力特性も低下しないため、好ましい。」
ウ.「【0129】
[非水溶媒]
本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、プロピレンカーボネートを、該非水系電解液に含まれる非水溶媒の総量を基準として、70vol%以上含有することを特徴とする。非水系電解液がプロピレンカーボネートを70vol%以上含有することで、正極上でリチウム化合物が酸化分解して生成した生成物と、リチウム塩として使用される、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、及び/又はLiN(SO2C2F5)2と、非水溶媒のプロピレンカーボネートとが負極上で低抵抗な被膜を生成するため、入出力特性、高温耐久性を向上する。さらに、釘刺し試験時には、プロピレンカーボネートの高い引火点と正極中のリチウム化合物が分解して発生する難燃性のガスの効果と相まって、高い安全性を発現する。さらに、所望の濃度のリチウム塩を溶解させることが可能となり、高いリチウムイオン伝導度を発現することができる点、及び正極活物質上にリチウム化合物を適量堆積させることが可能となり、電解液の酸化分解を抑制することができる点でも有利である。」
エ.「【0137】
[鎖状カーボネート]
本実施形態の非水系電解液は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートから選択される少なくとも1種の鎖状カーボネートを含む非水溶媒をさらに含有することが好ましい。非水系電解液がこれらの鎖状カーボネートを含有することで、非水系電解液の粘度が低下するため、高いリチウムイオン伝導度を発現し、高い入出力特性を発現し、サイクル特性も向上する。鎖状カーボネートの添加量は、非水溶媒の総量を基準として、30vol%未満で、かつ非水系電解液の引火点が70℃を超えない範囲に調整することが好ましい。これによって、過充電試験、釘刺し試験における安全性を低下させることなく、高い入出力特性が得られる。」
オ.「【0183】
[実施例1]
[電解液の調製]
有機溶媒として、プロピレンカーボネート=100(体積比)の単独溶媒を用い、全電解液に対してLiN(SO2F)2及びLiPF6の濃度比が25:75(モル比)であり、かつLiN(SO2F)2及びLiPF6の濃度の和が1.2mol/Lとなるようにそれぞれの電解質塩を溶解して得た溶液を非水系電解液として使用した。
ここで調製した電解液におけるLiN(SO2F)2及びLiPF6の濃度は、それぞれ、0.3mol/L及び0.9mol/Lであったため、MA=0.9mol/L、MB=0.3mol/Lであり、MA/(MA+MB)=0.75であった。
・・・(中略)・・・
【0203】
[実施例2~53並びに比較例1~20]
作製条件を、それぞれ、以下の表2に示す通りとした他は、実施例1と同様にして、実施例2~53と比較例1~20の非水系リチウム型蓄電素子をそれぞれ作製し、各種の評価を行った。得られた非水系リチウム型蓄電素子の評価結果を以下の表3に示す。
【0204】
【表2-1】
【表2-2】
・・・(中略)・・・
【0206】
尚、表2における略称等は、それぞれ以下の意味である。
[非水溶媒]
溶媒1:プロピレンカーボネート
溶媒2:エチレンカーボネート
溶媒3:メチルエチルカーボネート
溶媒4:ジメチルカーボネート
溶媒5:ジエチルカーボネート
[リチウム塩]
塩A1:LiPF6
塩A2:LiBF4
塩B1:LiN(SO2F)2
[添加剤]
PN-A:モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン
PN-B:ジエトキシテトラフルオロシクロトリホスファゼン
PN-C:フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン
PN-D:ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン
エーテル1:1,2-ジメトキシエタン
エーテル2:1,2-ジエトキシエタン
エーテル3:1,2-ジプロポキシエタン
[引火点]
70℃未満:電解液の引火点が70℃に至らなかった場合
70℃以上:電解液の引火点が70℃以上80℃未満であった場合
80℃以上:電解液の引火点が80℃以上90℃未満であった場合
90℃以上:電解液の引火点が90℃以上であった場合」
上記ア、イによれば、非水溶媒を含み、リチウム塩を電解質として含む非水系リチウム型蓄電素子の電解液について記載されている。
上記ウないしオによれば、非水溶媒としてプロピレンカーボネートを70vol%以上含有し、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートから選択される少なくとも1種の鎖状カーボネートを30vol%未満でさらに含有すること、特に、【表2-1】の実施例9,実施例10に着目すると、プロピレンカーボネートを70vol%とメチルエチルカーボネートを30vol%、もしくは、プロピレンカーボネートを75vol%とメチルエチルカーボネートを25vol%含有することが記載されている。
上記イおよびオによれば、リチウム塩としてLiN(SO2F)2を含むことが好ましくLiPF6等を混合して用いてもよいこと、リチウム塩濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましいこと、特に、【表2-1】の実施例9,実施例10に着目すると、LiPF6を0.9mol/LとLiN(SO2F)2を0.3mol/L含有することが記載されている。
したがって、【表2-1】の実施例9,実施例10に着目して上記アないしオの記載事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「非水溶媒を含み、リチウム塩を電解質として含む非水系リチウム型蓄電素子の電解液であって、
非水溶媒として、プロピレンカーボネートを70vol%とメチルエチルカーボネートを30vol%、もしくは、プロピレンカーボネートを75vol%とメチルエチルカーボネートを25vol%含有し、
リチウム塩として、LiPF6を0.9mol/LとLiN(SO2F)2を0.3mol/L含有する、
非水系リチウム型蓄電素子の電解液。」
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「非水系リチウム型蓄電素子」は本願発明1の「電気化学デバイス」に相当するから、引用発明の「非水溶媒を含み、リチウム塩を電解質として含む非水系リチウム型蓄電素子の電解液」は本願発明1の「溶媒に電解質が溶解した」「電気化学デバイス用電解液」に相当する。
イ.引用発明の「非水溶媒として、プロピレンカーボネートを70vol%とメチルエチルカーボネートを30vol%、もしくは、プロピレンカーボネートを75vol%とメチルエチルカーボネートを25vol%含有」することは、非水溶媒を「プロピレンカーボネート」と「メチルエチルカーボネート」の2種類のみで構成しているといえるから、本願発明1の「プロピレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートのみからなる溶媒」に相当する。
ただし、本願発明1が「前記プロピレンカーボネートと前記エチルメチルカーボネートとの体積比は25:75~60:40であり」とするのに対し、引用発明は、プロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの体積比が70:30もしくは75:25である点で相違する。
ウ.引用発明の「LiPF6」、「LiN(SO2F)2」は各々、本願発明1の「非イミド系リチウム塩」、「イミド系リチウム塩」に相当し、引用発明の「リチウム塩として、LiPF6を0.9mol/LとLiN(SO2F)2を0.3mol/L含有する」ことは、リチウム塩の濃度を1.2mol/Lとし、イミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とのモル比を0.3:0.9(=1:3)とすることであるから、本願発明1の「前記電解質は、0.8mol/L~1.6mol/Lの濃度で前記電解液に溶解され、かつイミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とをモル比で1:9~10:0の割合で含み」とすることに含まれるものである。
エ.本願発明1が「前記電解液に、オキサラトリチウム塩が0.5wt%~2.0wt%の濃度で添加」されているのに対し、引用発明にはそのような特定がされていない点で相違する。
オ.そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「プロピレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートのみからなる溶媒に電解質が溶解した電解液であって、
前記電解質は、0.8mol/L~1.6mol/Lの濃度で前記電解液に溶解され、かつイミド系リチウム塩と非イミド系リチウム塩とをモル比で1:9~10:0の割合で含む電気化学デバイス用電解液。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1が、プロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比が25:75~60:40であるのに対し、引用発明は、プロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比が70:30もしくは75:25である点。
[相違点2]
本願発明1が、「前記電解液に、オキサラトリチウム塩が0.5wt%~2.0wt%の濃度で添加」されているのに対し、引用発明にはそのような特定がされていない点。
(2)相違点についての判断
[相違点1]について
引用文献1の段落【0129】には、「本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、プロピレンカーボネートを、該非水系電解液に含まれる非水溶媒の総量を基準として、70vol%以上含有することを特徴とする。」と記載されており、プロピレンカーボネートを70vol%以上含有することを必須の構成要件としていることから、引用発明から上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
なお、引用文献2(段落[0028]-[0042]、[表1]参照)および引用文献3(段落【0015】、【0022】参照)にも、溶媒が「プロピレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートのみ」からなると共に、「前記プロピレンカーボネートと前記エチルメチルカーボネートとの体積比は25:75~60:40であり」とすることについて記載されていない。
よって、相違点1に係る事項は、引用発明から容易ではない。
(3)小括
よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本願発明2ないし5について
請求項1の従属請求項である請求項2-5は、本願発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記判断と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 原査定についての判断
令和2年8月28日にされた補正により、補正後の請求項1-5は、「プロピレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートのみからなる溶媒に電解質が溶解した電解液であって、前記プロピレンカーボネートと前記エチルメチルカーボネートとの体積比は25:75~60:40」であるという技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献A(当審拒絶理由における引用文献2)には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1ないし5は、当業者であっても、原査定における引用文献Aに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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