2019-015519
オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用
- 審判番号
- 2019-015519
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-700013外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年11月20日
- 審決日
- 2020年09月16日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
- 【請求人代理人】特許業務法人 津国
- 分類
- P18 .71 -WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法67条の3第1項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第67条第2項、特許法第67条の3第1項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 8項目
1 手続の経緯
本件出願は、平成28年2月19日に出願された特許権存続期間延長登録
願であって、令和1年8月1日付けで拒絶査定がなされた。その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和 1年11月20日 拒絶査定不服審判請求書の提出
令和 1年12月24日 審判請求書の補正書の提出
令和 2年 1月17日付け 拒絶理由通知
令和 2年 7月16日 意見書の提出
2 本件出願の内容
本件出願は、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必
要であったために、特許第4430229号(以下、「本件特許」という。
)の特許発明の実施をすることができない期間があったとして、特許権の存
続期間の延長を求めるものであり、本件出願の願書には、次のとおりの記載がある。
「2.延長を求める期間3年7月 」
「6.特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2)処分を特定する番号承認番号 22100AMX02237000(3)処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液50mg有効成分:オキサリプラチン(4)処分の対象となった物について特定された用途胃癌における術後補助化学療法」
以下、上記6.に記載の処分を「本件処分」といい、上記6.(3)に記載の処分の対象となった物を「本件医薬品」という。
3 本件特許の内容
本件特許は、1999年2月25日(優先権主張 1998年2月25日 英国(GB))を国際出願日とし、平成21年12月25日に設定の登録がされたものである。
本件特許に対して、平成26年7月16日に特許無効審判(無効2014-800121号)が請求され、当該無効審判手続において、平成26年12月2日付けで訂正請求がなされた。
そして、当該訂正を認める、審判請求は成り立たないとの結論の平成30年3月7日付け審決については、平成30年4月16日に確定しており、本件特許に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。以下、訂正後の請求項1~17に係る発明を、請求項順に「本件訂正発明1」等といい、また、これらをまとめて「本件訂正発明」という。
「【請求項1】 オキサリプラチン、有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって、製薬上許容可能な担体が水であり、緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり、1)緩衝剤の量が、以下の:(a)5x10- 5 M ~1x10- 2 M 、(b)5x10- 5 M ~5x10- 3 M 、続きを表示(全34行)(c)5x10- 5 M ~2x10- 3 M 、(d)1x10- 4 M ~2x10- 3 M 、または(e)1x10- 4 M ~5x10- 4 Mの範囲のモル濃度である、pHが3~4.5の範囲の組成物、あるいは2)緩衝剤の量が、5x10- 5 M~1x10- 4 Mの範囲のモル濃度である、組成物。【請求項2】 緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムである請求項1の組成物。【請求項3】 緩衝剤がシュウ酸である請求項2の組成物。【請求項4】 緩衝剤の量が1x10- 4 M ~5x10- 4 M の範囲のモル濃度である請求項1の組成物。【請求項5】 緩衝剤の量が4x10- 4 M のモル濃度である請求項4の組成物。【請求項6】 オキサリプラチンの量が1~5mg/mL である請求項1~5のいずれかの組成物。【請求項7】 オキサリプラチンの量が2~5mg/mL である請求項1~5のいずれかの組成物。【請求項8】 オキサリプラチンの量が5mg/mL であり、そして緩衝剤の量が2x10- 4 M のモル濃度である請求項3の組成物。【請求項9】 オキサリプラチンの量が5mg/mL であり、そして緩衝剤の量が4x10- 4 M のモル濃度である請求項3の組成物。【請求項10】 オキサリプラチン、有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含するオキサリプラチン溶液組成物の安定化方法であって、有効安定化量の緩衝剤を前記溶液に付加することを包含し、前記溶液が水性溶液であり、緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり、緩衝剤の量が、以下の:(a)5x10- 5 M ~1x10- 2 M 、(b)5x10- 5 M ~5x10- 3 M 、(c)5x10- 5 M ~2x10- 3 M 、(d)1x10- 4 M ~2x10- 3 M 、または(e)1x10- 4 M ~5x10- 4 Mの範囲のモル濃度である方法。【請求項11】 請求項1~9のいずれかの組成物の製造方法であって、製薬上許容可能な担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含する方法。【請求項12】 請求項1~9のいずれかの組成物の製造方法であって、以下の:(a)製薬上許容可能な担体および緩衝剤を混合し、(b)オキサリプラチンを前記混合物中に溶解し、(c)工程(b)からの混合物を冷却して、製薬上許容可能な担体を補って最終容積を満たし、(d)工程(c)からの溶液を濾過し、そして(e)工程(d)からの生成物を任意に滅菌する工程を含む方法。【請求項13】 前記方法が不活性大気中で実行される請求項12の方法。【請求項14】 工程(d)から生じる生成物が熱に曝露されることにより滅菌される請求項12の方法。【請求項15】 密封容器中に請求項1~9のいずれかの組成物を包含する包装製剤製品。【請求項16】 容器がアンプル、バイアル、注入袋または注射器である請求項15の包装製剤製品。【請求項17】 容器が目盛付注射器である請求項16の包装製剤製品。」
4 令和2年1月17日付け拒絶理由通知の概要
当審が令和2年1月17日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとお
りのものである。
本件医薬品は本件訂正発明の発明特定事項を備えていないから、本件訂正発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要
であったとは認められず、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該
当する。
5 当審の判断
(1)本件特許明細書の記載
ア 本件特許明細書に記載された事項
(本1)「本発明は、製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物、癌腫の治療におけるその使用方法、このような組成物の製造方法、およびオキサリプラチンの溶液の安定化方法に関する。」(【0001】)
(本2)「・・・Ibrahim 等(豪州国特許出願第29896/95号、1996年3 月7 日公開)(WO96/04904、1996年2 月22日公開の特許族成員)は、1 ~5mg/mL の範囲の濃度のオキサリプラチン水溶液から成る非経口投与のためのオキサリプラチンの製薬上安定な製剤であって、4.5 ~6 の範囲のpHを有する製剤を開示する。同様の開示は、米国特許第5,716,988 号(1998年2 月10日発行)に見出される。」(【0010】)
(本3)「オキサリプラチンは、注入用の水または5%グルコース溶液を用いて患者への投与の直前に再構築され、その後5%グルコース溶液で稀釈される凍結乾燥粉末として、前臨床および臨床試験の両方に一般に利用可能である。しかしながら、このような凍結乾燥物質は、いくつかの欠点を有する。中でも第一に、凍結乾燥工程は相対的に複雑になり、実施するのに経費が掛かる。さらに、凍結乾燥物質の使用は、生成物を使用時に再構築する必要があり、このことが、再構築のための適切な溶液を選択する際にそこにエラーが生じる機会を提供する。例えば、凍結乾燥オキサリプラチン生成物の再構築に際しての凍結乾燥物質の再構築用の、または液体製剤の稀釈用の非常に一般的な溶液である0.9 %NaCl溶液の誤使用は、迅速反応が起こる点で活性成分に有害であり、オキサリプラチンの損失だけでなく、生成種の沈澱を生じ得る。凍結乾燥物質のその他の欠点を以下に示す:
(a)凍結乾燥物質の再構築は、再構築を必要としない滅菌物質より微生物汚染の危険性が増大する。
(b)濾過または加熱(最終)滅菌により滅菌された溶液物質に比して、凍結乾燥物質には、より大きい滅菌性失敗の危険性が伴う。そして、
(c)凍結乾燥物質は、再構築時に不完全に溶解し、注射用物質として望ましくない粒子を生じる可能性がある。
水性溶液中では、オキサリプラチンは、時間を追って、分解して、種々の量のジアクオDACHプラチン(式I)、ジアクオDACHプラチン二量体(式II)およびプラチナ(IV)種(式III ):
(※合議体注:化学構造式は省略)
を不純物として生成し得る、ということが示されている。任意の製剤組成物中に存在する不純物のレベルは、多くの場合に、組成物の毒物学的プロフィールに影響し得るので、上記の不純物を全く生成しないか、あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発することが望ましい。
したがって、前記の欠点を克服し、そして長期間の、即ち2年以上の保存期間中、製薬上安定である、すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって、すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが、本発明の目的である。
より具体的には、本発明は、オキサリプラチン、有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物に関する。」(【0012】~【0018】)
(本4)「オキサリプラチンは、種々の種類の罹患しやすい癌および腫瘍、例えば結腸癌、卵巣癌、類表皮癌、胚細胞(例えば、精巣、縦隔、松果体)の癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、乳癌、上気道および消化管の癌、悪性黒色腫、悪性肝癌、尿路上皮癌、前立腺癌、小細胞肺癌、膵臓癌、胆嚢癌、肛門癌、直腸癌、膀胱癌、小腸癌、胃癌、白血病および種々のその他の種類の固形腫瘍の治療に有用な細胞増殖抑制性抗新生物剤である。」(【0020】)
(本5)「緩衝剤という用語は、本明細書中で用いる場合、オキサリプラチン溶液を安定化し、それにより望ましくない不純物、例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。したがって、この用語は、シュウ酸またはシュウ酸のアルカリ金属塩(例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等)等のような作用物質、あるいはそれらの混合物が挙げられる。緩衝剤は、好ましくは、シュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり、最も好ましくはシュウ酸である。
緩衝剤は、有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は、約5x10- 5 M ~約1x10- 2 M の範囲のモル濃度で、好ましくは約5x10- 5 M ~5x10- 3 M の範囲のモル濃度で、さらに好ましくは約5x10- 5 M ~約2x10- 3 M の範囲のモル濃度で、最も好ましくは約1x10- 4 M ~約2x10- 3 M の範囲のモル濃度で、特に約1x10- 4 M ~約5x10- 4 M の範囲のモル濃度で、特に約2x10- 4 M ~約4x10- 4 M の範囲のモル濃度で存在するのが便利である。
製薬上許容可能な担体という用語は、本明細書中で用いる場合、本発明のオキサリプラチン溶液組成物の調製に用いられ得る種々の溶媒を指す。概して、担体は、水、1種又はそれ以上のその他の適切な溶媒、あるいは水と1種又はそれ以上のその他の適切な溶媒の混合物である。好ましくは、担体は、水あるいは水と1種又はそれ以上の適切な溶媒の混合物であり、さらに好ましくは、担体は水である。用いられる水は、好ましくは純水、即ち注射用滅菌水である。本発明に利用され得るその他の適切な担体(溶媒)の代表例としては、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等、およびそれらの混合物;エタノール、1-ビニル-2-ピロリドンポリマー(ポビドン)ならびに製薬上許容可能なラクトース、デキストロース(グルコース)、スクロース、マンノース、マンニトール、シクロデキストリン等またはそれらの混合物の糖溶液が挙げられる。」(【0022】~【0024】)
(本6)「本発明はさらに、オキサリプラチンの溶液を安定化するための方法であって、有効安定化量の緩衝剤を前記の溶液に付加することを包含する方法に関する。この方法の好ましい局面では、溶液は水性(水)溶液であり、緩衝剤はシュウ酸またはそのアルカリ金属塩である。
本発明は、本発明のオキサリプラチン溶液組成物の製造方法であって、製薬上許容可能な担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含する方法にも関する。
本発明のオキサリプラチン溶液組成物の好ましい製造方法は、以下の: (a)製薬上許容可能な担体および緩衝剤を、好ましくは約40℃で混合し、
(b)オキサリプラチンを前記混合物中に、好ましくは約40℃で溶解し、 (c)工程(b)からの混合物を、好ましくは約室温に冷却して、製薬上許容可能な担体を補って最終容積を満たし、
(d)工程(c)からの溶液を濾過し、そして
(e)工程(d)からの生成物を任意に滅菌する
工程を含む。前記の方法は、不活性大気の存在下または非存在下で実行するのが便利であるが、しかし不活性大気中で、例えば窒素中で実行するのが好ましい、ということを留意すべきである。」(【0027】、【0028】)
(本7)「本発明の組成物は、オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており、このことは、オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明の組成物中に生成される不純物、例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」(【0031】)
(本8)「以下の実施例で本発明をさらに説明するが、しかしながら本発明はそれらに限定されない。温度はすべて摂氏(℃)で表される。
表1Aおよび1Bに記載された実施例1~14の組成物は、以下の一般手法により調製した:
注射用温水(W.F.I.)(40℃)を分取し、濾過窒素を用いて約30分間、その中で発泡させる。
必要とされる適量のW.F.I.を、窒素中に保持しながら容器に移す。最終容積を満たすために残りのW.F.I.を別に取りのけておく。
適切な緩衝剤(固体形態の、または好ましくは適切なモル濃度の水性緩衝溶液の形態の)を適切な容器中で計量して、混合容器(残りのW.F.I.の一部を含入する濯ぎ容器)に移す。例えば、磁気攪拌機/ホットプレート上で、約10分間、または必要な場合にはすべての固体が溶解されるまで、溶液の温度を40℃に保持しながら混合する。
適切な容器中でオキサリプラチンを計量して、混合容器(残りのW.F.I.の一部を含入する濯ぎ容器)に移す。例えば、磁気攪拌機/ホットプレート上で、すべての固体が溶解されるまで、溶液の温度を40℃に保持しながら混合する。
溶液を室温に冷却させた後、残りのW.F.I.で最終容積を満たす。0.22μm フィルター(例えば、ミリポアGV型47mm直径フィルター)を通して減圧下で溶液を濾過する。
充填ユニット、例えば滅菌0.2 μm 使い捨て親水性充填ユニット(Minisart-NML, Sartorius )を用いて、適切に滅菌された密封容器(例えばバイアルまたはアンプル)中に窒素下で溶液を充填し、密封容器は充填前に窒素でパージされ、ヘッドスペースは密封前に窒素でパージされる。
例えば、SAL (PD270 )オートクレーブを用いて、121 ℃で15分間、溶液をオートクレーブ処理、即ち最終的に滅菌する。
前記の工程は、好ましくは不活性大気中で、例えば窒素中で実行されたが、しかし本発明の組成物はこのような不活性大気の非存在下でも便利に調製され得る、ということに留意すべきである。
[図:0001416844000001.jpg]
注:実施例1~7の組成物のために用いられた密封容器は、20mL透明ガラスアンプルであった。
[図:0001416844000002.jpg]
注:実施例8~14の組成物のために用いられた密封容器は、20mL透明ガラスアンプルであった。
* シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は、付加されたシュウ酸二水和物の重量である。
表1Cに記載した実施例15および16の組成物は、実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製した。
[図:0001416844000003.jpg]
注:実施例15~16の組成物のために用いられた密封容器は、20mL透明ガラスアンプルであった。
* シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は、付加されたシュウ酸二水和物の重量である。
表1Dに記載した実施例17の組成物は、実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製したが、但し、(a)窒素の非存在下で(即ち酸素の存在下で)密封容器中に溶液を充填し、(b)充填前に密封容器を窒素でパージせず、(c)容器を密封する前に窒素でヘッドスペースをパージせず、そして(d)密封容器はアンプルよりむしろバイアルであった。
[図:0001416844000004.jpg]
注:実施例17の溶液組成物1000mLを、5mL 透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル)、これをWest Flurotec ストッパーで密封し(以後、実施例17(a)と呼ぶ)、実施例17の残りの1000mL溶液組成物を5mL 透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル)、これをHelvoet Omniflexストッパーで密封した(以後、実施例17(b)と呼ぶ)。
* シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は、付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(【0034】~【0047】)
(本9)「実施例18
比較のために、例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3 月7 日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を、以下のように調製した:
1000mLより多い注射用水(W.F.I.)を分取し、濾過窒素を約30分間、溶液中で発泡させる。磁気攪拌機/ホットプレート上で攪拌し、W.F.I.を40℃に加熱する。
800mL のW.F.I.を1000mLスコットボトル中に移し、N2 霧中に保持する。最終容積を満たすためにW.F.I.の残り(200mL )を別に取りのけておく。
オキサリプラチン(5.000g)を小ガラスビーカー(25mL)中で計量して、スコットボトル中に移し、約50mLの温W.F.I.でビーカーを濯ぐ。
混合物を、磁気攪拌機/ホットプレート上で、すべての固体が溶解されるまで、温度を40℃に保持しながら攪拌する。
溶液を室温に冷却させた後、それを1000mL容積フラスコに移して、冷(約20℃)W.F.I.で最終容積を1000 mL とする。
真空管路を用いて、ミリポアGV型直径47mm、0.22μm フィルターを通して、溶液を1000mLフラスコ中に濾過する。
次に溶液を、滅菌1.2 μm 使い捨て親水性充填ユニット(Minisart-NML, Sartorius )を用いて、洗浄、滅菌済の20mLガラスアンプル中に充填した。充填前に窒素でアンプルをパージし、ヘッドスペースを密封前に窒素でパージした。
23本のアンプルをオートクレーブ処理せずに保持し(以後、実施例18(a)と呼ぶ)、即ちそれらを最終滅菌せず、残り27本のアンプル(以後、実施例18(b)と呼ぶ)を、SAL (PD270 )オートクレーブを用いて、121 ℃で15分間オートクレーブ処理した。」(【0050】~【0053】)
(本10)「実施例1~17の組成物に関する安定性試験
実施例1~14のオキサリプラチン溶液組成物を、6ヶ月までの間、40℃で保存した。この試験の安定性結果を、表4および5に要約する。
[図:0001416844000005.jpg]
[図:0001416844000006.jpg]
[図:0001416844000007.jpg]
ND=検出されず
実施例15および16のオキサリプラチン溶液組成物を、9ヶ月までの間、25℃/相対湿度(RH)60%および40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。この試験の安定性結果を、表6に要約する。
[図:0001416844000008.jpg]
[図:0001416844000009.jpg]
ND=検出されず
実施例17(a)および17(b)のオキサリプラチン溶液組成物を、1ヶ月までの間、25℃/相対湿度(RH)60%および40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。この試験の安定性結果を、表7に要約する。
[図:0001416844000010.jpg]
ND=検出されず
これらの安定性試験の結果は、緩衝剤、例えばシュウ酸ナトリウムおよびシュウ酸が、本発明の溶液組成物中の不純物、例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体のレベルを制御する場合に非常に有効である、ということを実証する。
比較例18の安定性
実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を、40℃で1ヶ月間保存した。この安定性試験の結果を、表8に要約する。
[図:0001416844000011.jpg]
」(【0063】~【0074】)
イ 本件特許明細書に記載された事項から把握される内容
上記明細書の記載事項を踏まえると、本件訂正発明に関して、以下の内容が把握できる。
(ア)オキサリプラチンは、【化5】で示される化合物で、癌、腫瘍及び固形腫瘍の治療に有用な細胞増殖抑制性抗新生物剤であること(本4)。
(イ)オキサリプラチンは、水性溶液中では、経時的に分解し、ジアクオDACHプラチン、ジアクオDACHプラチン二量体及びプラチナ(IV)種を不純物として生成し得るため、上記の不純物を全く生成しないか、あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量の不純物を生成する、オキサリプラチンのより安定な溶液組成物の開発が望まれていたこと(本3)。
(ウ)上記(イ)の技術的課題を解決するために、本件訂正発明では、オキサリプラチン、有効安定化量の緩衝剤及び製薬上許容可能な担体を包含するオキサリプラチン溶液組成物としたこと(本3)。
(エ)上記(ウ)の溶液組成物は、製薬上許容可能な担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することにより製造され、本件訂正発明のオキサリプラチン溶液組成物の好ましい製造方法は、以下の:
(a)製薬上許容可能な担体および緩衝剤を、好ましくは約40℃で混合し、
(b)オキサリプラチンを前記混合物中に、好ましくは約40℃で溶解し、 (c)工程(b)からの混合物を、好ましくは約室温に冷却して、製薬上許容可能な担体を補って最終容積を満たし、
(d)工程(c)からの溶液を濾過し、そして
(e)工程(d)からの生成物を任意に滅菌する工程を含むこと(本6)。
(オ)実施例1~17においては、上記(エ)の好ましい製造方法に準拠し、緩衝剤を計量して水と混合したのち、オキサリプラチンを計量して、緩衝剤と水の混合物に添加してオキサリプラチン溶液組成物を製造しており、各実施例における緩衝剤の量は、前記計量された緩衝剤の量であること(本8、本10)。
(カ)本件訂正発明の組成物は、オキサリプラチンと水を混ぜただけの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であり、従来既知の水性組成物の場合よりも本件訂正発明の組成物中に生成される不純物、例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体は少ないこと(本2、本7)。
(キ)緩衝剤を添加しなかった比較例18のオキサリプラチン溶液組成物を40℃で1ヶ月保存した場合に比して、請求項1又は請求項10に規定される緩衝剤の量を満足する量の緩衝剤を添加した実施例2~7、9~17のオキサリプラチン溶液組成物を40℃で1ヶ月保存した場合は、初期及び1ヶ月経過時点で、ジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成は、有意に抑制されたこと(本9、本10)。
(2)本件訂正発明における「緩衝剤の量」について
本件訂正発明は、上記3のとおり、17の請求項に係る発明からなるところ、
・請求項1~9に係るオキサリプラチン溶液組成物、及び当該組成物を包含する請求項15~17に係る包装製剤製品(組成物関連発明)
・請求項10に係るオキサリプラチン溶液組成物の安定化方法(安定化方法発明)
・請求項1~9に係るオキサリプラチン溶液組成物の製造方法である請求項11~14に係る発明(製造方法発明)の3つに大別することができる。
そして、これらのいずれの発明も、請求項1あるいは請求項10に規定される所定の「緩衝剤の量」を発明特定事項として含むものである。
そして、上記(1)イ(ア)~(キ)に鑑みれば、この「緩衝剤の量」とは、オキサリプラチン溶液組成物の作製時に、オキサリプラチン及び担体に添加、混合された緩衝剤の量を意味し、オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は、当該「緩衝剤の量」に含まれないと解するのが相当である。
(3)本件医薬品を製造販売する行為が本件訂正発明の実施行為に該当するかどうかについて
ア 合議体の判断
処分の対象となった医薬品がいずれの請求項に係る特許発明についてもその発明特定事項のすべてを備えているといえない場合、処分の対象となった医薬品の製造販売の行為は、延長登録の出願に係る特許発明の実施行為に該当するものではなく、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないので、以下、この点を検討する。
上記(2)で説示したとおり、本件訂正発明の発明特定事項である「緩衝剤の量」は、オキサリプラチン溶液組成物の作製時に、オキサリプラチン及び担体に添加、混合された緩衝剤の量を意味するものであるから、本件医薬品についても、その作製時に、オキサリプラチン及び担体に対して、本件訂正発明の発明特定事項の濃度となるよう緩衝剤が添加、混合されたものでなければならない。
この点、願書に添付した「延長の理由を記載した資料」及び参考資料1~10のいずれをみても、本件医薬品において、緩衝剤が外から添加されたものとは認められない。
具体的には、本件医薬品の製造販売承認あるいはその申請に係る参考資料2、3、5~7、9、10のいずれにも、その製造時に緩衝剤を添加する工程や、添加成分として緩衝剤を含むことは記載されておらず、参考資料3の1~2ページには、本件医薬品の成分として、オキサリプラチン及び注射用水のみが記載されている。また、「延長の理由を記載した資料」では、本件医薬品の3ロットについて、25℃±2℃/60%RH±5%RHの条件下で12ヶ月及び24ヶ月保存後のシュウ酸含有量を測定したところ、その含有量がいずれも本件訂正発明1における緩衝剤の量、すなわち「2)緩衝剤の量が、5x10-5 M~1x10-4 Mの範囲のモル濃度である」との発明特定事項を充足する旨主張するのみである。
そうしてみると、本件医薬品については、その製造時に外から添加された緩衝剤を含むものとは認められないから、訂正後の請求項1~17のいずれの請求項に係る発明についても発明特定事項のすべてを備えているといえず、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない。
イ 請求人の主張
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(ア)審判請求書の手続補正書において、請求人は、本件訂正発明の実施行為該当性について、以下のとおり主張する。
a オキサリプラチンを水に加えると、オキサリプラチンが水の付加により解離されて、シュウ酸が遊離してくること。
b 本件医薬品も、その成分がオキサリプラチンと注射用水であるから、実際に、当該製剤中でシュウ酸が遊離してきて、それが緩衝剤の役割を果たしているといえること。
c 令和1年7月5日付け提出の意見書に添付した資料1:実験報告書から、以下のことがいえること。
(c-1)本件医薬品の製造直後のシュウ酸濃度は、本件訂正発明1における濃度範囲の下限値と一致しているが、製造直後においてさえも、同じ製造直後のオキサリプラチン原薬中のシュウ酸の濃度よりも高く、さらには60ヶ月保存後のオキサリプラチン原薬中のシュウ酸濃度よりも高くなるのは、オキサリプラチンが水中に注がれると必然的にシュウ酸が生成されるのが原因であること。
(c-2)本件医薬品は、製造直後においてさえも、本件訂正発明1においける緩衝剤の量の範囲の下限値と一致し、そこからさらに36ヶ月保存した後も、シュウ酸濃度はわずかに増加したものの、依然として、本件訂正発明1における範囲内に止まっていること。
(c-3)これらのことから、本件医薬品中に含有されるシュウ酸のモル濃度は常に本件訂正発明1における緩衝剤の量の範囲内にあるのは明らかであること。
(イ)また、請求人は、上記4の当審拒絶理由通知に対する令和2年7月16日提出の意見書において、「緩衝剤の量」に関して、以下のとおり主張する。
以下の点を踏まえると、本件訂正発明の発明特定事項である「緩衝剤の量」は、「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に、オキサリプラチン及び担体に添加、混合された緩衝剤の量に限らず、オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量も含まれる、と解釈するのが相当であり、そうすると、本件医薬品は、本件訂正発明1(及び本件訂正発明2~17)の発明特定事項のすべてを備えているといえるから、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったものである。
d 合議体の上記(1)イの(エ)、(オ)の認定のとおり、オキサリプラチン及び担体に緩衝剤を添加、混合する態様は、あくまでも好ましい態様として本件特許明細書中に記載されていること。
e 本件特許明細書[0027]には、「本発明は、本発明のオキサリプラチン溶液組成物の製造方法であって、製薬上許容可能な担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含する方法にも関する。」と記載されており、オキサリプラチン及び担体に緩衝剤を添加、混合する態様が、あくまでも一態様として本件特許明細書に記載されていること。
f 更に、本件特許明細書[0022]には、「緩衝剤という用語は、本明細書中で用いる場合、オキサリプラチン溶液を安定化し、それにより望ましくない不純物、例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」と記載されていること。
g そうすると、オキサリプラチン及び担体に緩衝剤を添加、混合する態様が本件訂正発明のあくまでも一態様であること、並びに緩衝剤がオキサリプラチン溶液を安定化し、それにより望ましくない不純物の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性剤を意味することからすると、緩衝剤としては、オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸であってもよいし、そのような緩衝剤(即ち、シュウ酸)であっても、合議体が認定した上記(1)イ(イ)の技術的課題を解決し得る、と理解するのが相当であること。
ウ 請求人の主張についての合議体の判断
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事案にかんがみ、まず上記イ(イ)の主張について判断する。
本件特許明細書の記載((本2)、(本9)、(本10))によれば、製造時に外から緩衝剤を添加しない、オキサリプラチンの単なる水溶液は、本件訂正発明の従来技術であり、比較例に相当する態様である。
そして、上記(1)イで説示したとおり、本件訂正発明は、製薬上許容可能な担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することで、オキサリプラチンと水を混ぜただけの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であり、従来既知の水性組成物の場合よりも生成される不純物が少なくなるというものである。
これに対して、上記イ(イ)の主張は、オキサリプラチン及び担体に緩衝剤を添加、混合する態様は、あくまで一態様にすぎず、緩衝剤としては、オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸であってもよいというものである。しかしながら、上記のとおり、製造時に外から緩衝剤を添加しない、オキサリプラチンの単なる水溶液は、本件訂正発明の従来技術であり、比較例に相当する態様であって、そのようなものが本件訂正発明の具体的態様として包含されないことは、明らかである。
また、上記イ(イ)のdについては、(本6)における「本発明のオキサリプラチン溶液組成物の好ましい製造方法」とは、本発明のオキサリプラチン溶液組成物の製造方法であって、製薬上許容可能な担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含する方法として、混合順序や加熱・冷却条件等の細かな要件を規定している点で「好ましい」と述べているのであって、製造時に緩衝剤を添加する態様自体が好ましい一態様にすぎないと解することはできないから、失当である。
さらに、上記イ(イ)のeの主張が依拠する段落【0027】の記載については、本件訂正発明は、「オキサリプラチンの溶液を安定化するための方法」に加えて、「オキサリプラチン溶液組成物の製造方法」も含むことを述べているにすぎず、担体、緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含するオキサリプラチン溶液組成物の製造方法自体が、一態様にすぎないという主張も、失当である。
よって、上記イ(イ)の主張は、採用できない。
次に上記イ(ア)の主張について検討する。
上記イ(ア)の主張は、一貫して、本件医薬品中に含まれるシュウ酸が、オキサリプラチンに対して水が付加することで解離したシュウ酸であり、その量が本件訂正発明の発明特定事項を満足するというに留まり、本件医薬品を製造する際に、オキサリプラチン及び注射用水に対して緩衝剤を添加したことについては何ら言及がない。
むしろ、審判請求書の手続補正書における「本件処分の対象となった医薬品・・・も、その成分がオキサリプラチンと注射用水ですから」との記載(2ページ下から6~5行)や、意見書に添付された実験報告書における「これらエルプラット点滴静注液には、シュウ酸は添加されていないが、溶液中でのオキサリプラチンの分解によってシュウ酸が発生して「緩衝剤」として作用していることが分かった。」(4ページ3~5行)との記載からは、本件医薬品製造時にはオキサリプラチン及び注射用水に対して緩衝剤を添加していないことを自認しているものと考えられる。
実際、本件医薬品のインタビューフォーム(2020年1月改訂(第14版)(https://www.yakult.co.jp/ph/?action=File&type=matrix&id=20011409461013.pdf)の「IV.製剤に関する項目」における「2.製剤の組成 (2)添加物」の項には、「なし」と記載されており、本件医薬品の製造時には緩衝剤が添加されていないことが窺える。
そうしてみると、本件医薬品は、オキサリプラチン及び注射用水から製造され、製造時に緩衝剤の添加は行われていないと認められるから、請求人が述べる本件医薬品中のシュウ酸の量は、上記(2)で説示した本件訂正発明における「緩衝剤の量」とは異なるものであって、本件医薬品が本件訂正発明の発明特定事項を備えるものとは認められない。
よって、上記イ(ア)の主張も採用できない。
6 むすび
以上のとおりであるから、本件出願は、特許法第67条の3第1項第1号
に該当し、特許権の存続期間の延長登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-015519