特許拒絶査定不服審判
2019-013358
掃除ロボット
- 審判番号
- 2019-013358
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-221713外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年10月04日
- 審決日
- 2020年10月19日
- 公報発行日
- 2021年01月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シャープ株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 分類
- P18 .55 -Z (A47L) / P18 .121-Z (A47L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2018-221713「掃除ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月14日出願公開、特開2019- 22865〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成23年9月29日に出願された特願2011-214466号の一部を,平成24年12月4日に新たな特許出願とした特願2012-264838号の一部を,平成26年10月2日に新たな特許出願とした特願2014-203856号の一部を,平成27年6月16日に新たな特許出願とした特願2015-120964号の一部を,平成28年10月26日に新たな特許出願とした特願2016-209451号(以下「原出願」という。)の一部を,平成30年11月27日に新たな特許出願としたものであって,手続の経緯は概ね以下のとおりである。
平成31年 2月 6日付け 拒絶理由通知書
平成31年 2月22日 意見書,手続補正書
平成31年 4月23日付け 拒絶理由通知書
令和 元年 6月13日 意見書,手続補正書
令和 元年 8月20日付け 拒絶査定
令和 元年10月 4日 拒絶査定不服審判請求書
第2 本願の特許請求の範囲
1 本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲は,以下のとおりである。
「【請求項1】
床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記筐体における前記進行方向の前方側が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れていることを特徴とする自走式掃除ロボット。
【請求項2】
前記回転軸が前記筐体の中心線上に配されることを特徴とする請求項1に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項3】
前記吸込口に配される回転ブラシを備え,掃除を行う際に前記回転ブラシが接地することを特徴とする請求項1又は2に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項4】
前記後輪は,前記一対の駆動輪の回転軸方向において,前記吸込口の両端の間に配されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項5】
前記後輪は,前記駆動輪の回転軸方向において,前記筐体の略中央に配されることを特徴とする請求項4に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項6】
前記吸込口における,前記一対の駆動輪の回転軸方向に沿った方向の幅は,前記一対の駆動輪の各駆動輪の離間幅よりも小さいことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項7】
前記一対の駆動輪の前方に一対のサイドブラシが配置されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。」
2 平成31年2月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲は,以下のとおりである(下線は,補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
自走式掃除ロボットであって,
床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れていることを特徴とする自走式掃除ロボット。
【請求項2】
前記回転軸が前記筐体の中心線上に配されることを特徴とする請求項1に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項3】
前記吸込口に配される回転ブラシを備え,掃除を行う際に前記回転ブラシが接地することを特徴とする請求項1又は2に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項4】
前記後輪は,前記一対の駆動輪の回転軸方向において,前記吸込口の両端の間に配されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項5】
前記後輪は,前記駆動輪の回転軸方向において,前記筐体の略中央に配されることを特徴とする請求項4に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項6】
前記吸込口における,前記一対の駆動輪の回転軸方向に沿った方向の幅は,前記一対の駆動輪の各駆動輪の離間幅よりも小さいことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項7】
前記一対の駆動輪の前方に一対のサイドブラシが配置されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。」
3 令和元年6月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲は,以下のとおりである(下線は,補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
自走式掃除ロボットであって,
床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れていることを特徴とする自走式掃除ロボット。
【請求項2】
前記回転軸が前記筐体の中心線上に配されることを特徴とする請求項1に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項3】
前記吸込口に配される回転ブラシを備え,掃除を行う際に前記回転ブラシが接地することを特徴とする請求項1又は2に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項4】
前記後輪は,前記一対の駆動輪の回転軸方向において,前記吸込口の両端の間に配されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項5】
前記後輪は,前記駆動輪の回転軸方向において,前記筐体の略中央に配されることを特徴とする請求項4に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項6】
前記吸込口における,前記一対の駆動輪の回転軸方向に沿った方向の幅は,前記一対の駆動輪の各駆動輪の離間幅よりも小さいことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。
【請求項7】
前記一対の駆動輪の前方に一対のサイドブラシが配置されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の自走式掃除ロボット。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1 新規事項(17条の2第3項)について
(1) 平成31年4月23日付け拒絶理由通知書
平成31年2月22日付け手続補正書でした補正は,次の点で願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
すなわち,請求項1において,願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1と比較して,「最も低い部分」について補正されたが,当初明細書等には,前輪27が床面Fから離れることは記載されているものの,前輪以外の事項や,上位概念化した事項の「最も低い部分」については記載されておらず,また,当初明細書等の記載から自明ともいえず,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
(2) 拒絶査定
そして,令和元年6月13日付け手続補正書でした手続補正(以下「本件補正」という。)の請求項1において,願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1と比較して,「最も低い部分」について補正されたままであるが,当初明細書等には,前輪27が床面Fから離れることは記載されているものの,前輪以外の事項や,上位概念化した事項の「最も低い部分」については記載されておらず,また,当初明細書等の記載から自明ともいえず,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
よって,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,依然として,特許法17条の2第3項の規定により特許を受けることができない。
2 新規性(29条1項3号),進歩性(29条2項)について
(1) この出願の請求項1~7に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された後記(4)の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
(2) この出願の請求項1~7に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された後記(4)の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(3) すなわち,本願は新規事項を含んでいるため,分割要件を満たさない。さらに,「段差の乗り越えを容易にするための部材」についても,原出願(特願2016-209451号)に対して新規事項となっている。
引用文献1は,原出願の公開公報であって,本願請求項1~7の下位概念が記載されている(【特許請求の範囲】,【0001】~【0047】,図1~8)。
よって,請求項1~7に係る発明は,引用文献1に記載された発明であり,また,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者であれば容易になし得たものである。
(4) 引用文献1:特開2017-12907号公報
第4 原査定の拒絶の理由についての判断
1 17条の2第3項について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲は前記第2・3のとおりであるところ,本件補正は,願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1(前記第2・1)において,「平坦な床面を自走する際に,前記筐体における前記進行方向の前方側が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地(する)」と特定されていた点を,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地(する)」と特定したものである。
すなわち,「平坦な床面を自走する際」に「床面から離れて」いる部分に関し,本件補正前に,「前記筐体」における「前記進行方向の前方側」が「床面から離れて」いるとされていたものを,本件補正により,「前記自走式掃除ロボット」における「前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分」が「床面から離れて」いると特定したものである。
そして,本件補正は,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」と特定することで,さらに「前記吸込口の前方側」に「前記筐体の底面から突出するように」設けられた,「段差の乗り越えを容易にするための部材」の「下面」が「前記最も低い部分に相当」することを特定したものである。
(2) そこで,当初明細書等の記載内容を確認するに,当初明細書等には以下の記載がある(下線は当審にて付与した。)。
・「【請求項1】
床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記筐体における前記進行方向の前方側が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れていることを特徴とする自走式掃除ロボット。」
・「【0001】
本発明は,床面上を自走する掃除ロボットに関する。」
・「【0002】
従来の掃除ロボットは特許文献1に開示されている。この掃除ロボットは吸込口を底面に開口して電動送風機及び集塵部を内装する本体筐体が床面上を自走して掃除を行う。この時,テーブル等の下方を掃除するために本体筐体は高さの低い薄型に形成される。本体筐体には底面から突出する駆動輪及び前輪が設けられる。前輪は駆動輪に対して掃除時の進行方向の前方に配置され,前輪と駆動輪との間に吸込口が配置される。
【0003】
本体筐体の前部の下面には吸込口が開口し,後部の周面には排気口が開口する。本体筐体内には電動送風機及び集塵部を有する吸塵部が駆動輪の後方に配置される。電動送風機は吸込口から吸い込まれる吸込気流を発生し,集塵部は吸込気流に含まれる塵埃を捕集する。また,本体筐体内には電動送風機や駆動輪等の各部に電力を供給するバッテリーが設けられる。
【0004】
上記構成の掃除ロボットにおいて,掃除運転が開始されると駆動輪及び電動送風機が駆動される。本体筐体は駆動輪及び前輪の回転によって所望の掃除領域の床面上を自走する。電動送風機の駆動によって吸込口から床面上の塵埃を含む気流が吸い込まれる。気流に含まれた塵埃は集塵部で集塵され,塵埃を除去された気流が電動送風機を通過して本体筐体外に排気される。これにより,掃除領域の掃除が行われ,集塵部に堆積した塵埃は集塵部を取り外して廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-202792号公報(第4頁-第7頁,第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記従来の掃除ロボットによると,吸込口に対して掃除時の進行方向の前方に配した前輪によって床面上のゴミが遮られ,集塵能力が低下する問題があった。また,毛髪や糸屑等の繊維状のゴミが前輪に絡みついて前輪が正常に回転せず,床面上の段差を前輪が乗り越えられなくなる。これにより,本体筐体が停止して走行異常となり,掃除領域全体を掃除できない問題もあった。
【0007】
本発明は,集塵能力を向上するとともに走行異常を防止できる掃除ロボットを提供することを目的とする。」
・「【0008】
本発明は,床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,平坦な床面を自走する際に,前記筐体における前記進行方向の前方側が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると,前輪と駆動輪との間に吸込口が配され,平坦な床面を自走する際に前輪が床面から離れて駆動輪及び後輪が接地する。これにより,床面上のゴミが前輪により遮られず,掃除ロボットの集塵能力を向上することができる。また,繊維状のゴミが前輪に絡みつかないため,本体筐体の走行異常を防止することができる。」
・「【0011】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は一実施形態の掃除ロボットを示す斜視図である。掃除ロボット1はバッテリー14により駆動輪29(いずれも図2参照)を駆動して自走する平面視円形の本体筐体2を有している。本体筐体2の上面には集塵部30(図2参照)を出し入れする際に開閉する蓋部3が設けられる。
【0012】
図2,図3は掃除ロボット1の側面断面図及び底面図を示している。本体筐体2には底面から突出して水平な回転軸29aで回転する一対の駆動輪29が配される。駆動輪29の回転軸29aは本体筐体2の中心線C上に配置される。駆動輪29の両輪が同一方向に回転すると本体筐体2が進退し,逆方向に回転すると本体筐体2が中心線Cの回りに回転する。
【0013】
掃除を行う際に進行方向の前方となる本体筐体2の前部には吸込口6が下面に設けられる。吸込口6は本体筐体2の底面に凹設した凹部8の開放面によって床面Fに面して形成される。凹部8内には水平な回転軸で回転する回転ブラシ9が配され,凹部8の両側方には垂直な回転軸で回転するサイドブラシ10が配される。
【0014】
凹部8の前方にはローラー形状の前輪27が設けられる。これにより,吸込口6は前輪27と駆動輪29との間に配される。本体筐体2の後端には自在車輪から成る後輪26が設けられる。後述するように,本体筐体2は中心に配した駆動輪29に対して前後方向に重量が配分され,前輪27が床面Fから離れて回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が床面Fに接地して掃除が行われる。このため,進路前方の塵埃やゴミを前輪27により遮ることなく吸込口6に導くことができる。前輪27は進路上に現れた段差に接地し,本体筐体2が段差を容易に乗り越えられるようになっている。」
・「【0031】
上記構成の掃除ロボット1において,掃除運転が指示されると,電動送風機22,イオン発生装置28,駆動輪29,回転ブラシ9及びサイドブラシ10が駆動される。これにより,本体筐体2は回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が平坦な床面Fに接地して所定の掃除領域を自走する。
【0032】
本体筐体2の前進によって床面F上の塵埃やゴミは前輪27の下方を通過し,吸込口6から吸い込まれる。この時,回転ブラシ9の回転によって床面F上の塵埃が掻き上げられて凹部8内に導かれる。また,サイドブラシ10の回転によって吸込口6の側方の塵埃が吸込口6に導かれる。」
・「【0039】
本実施形態によると,前輪27と駆動輪29との間に吸込口6が配され,平坦な床面Fを自走する際に前輪27が床面Fから離れて駆動輪29及び後輪26が接地する。これにより,床面F上のゴミが前輪27により遮られず,掃除ロボット1の集塵能力を向上することができる。また,繊維状のゴミが前輪27に絡みつかないため,本体筐体2の走行異常を防止することができる。」
・「【0041】
また,掃除を行う際に回転ブラシ9が接地するので,床面Fから前輪27が離れた本体筐体2を回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26により安定して接地することができる。
【0042】
また,駆動輪29と後輪26との間にバッテリー14及び制御基板15を配置したので,床面Fから前輪27が離れた本体筐体2をバッテリー14及び制御基板15の重量により駆動輪29及び後輪26で安定して接地することができる。
<付記>
本発明は,床面に対峙する吸込口を底面に開口する本体筐体と,水平な回転軸を有して前記本体筐体を自走させる一対の駆動輪と,前記駆動輪に対して掃除時の進行方向の前方に配される前輪と,前記駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪とを備え,前記前輪と前記駆動輪との間に前記吸込口が配されるとともに,平坦な床面を自走する際に前記前輪が床面から離れて前記駆動輪及び前記後輪が接地することを特徴としている。
【0043】
この構成によると,平坦な床面から前輪が離れて駆動輪及び後輪が接地し,一対の駆動輪の駆動によって本体筐体が掃除領域内を自走する。本体筐体の前進によって床面上の塵埃やゴミは前輪の下方を通過し,吸込口から吸い込まれる。塵埃等を含む気流は本体筐体内で塵埃等を除去された後,排気される。本体筐体の進路上に段差が現れると,前輪が段差に接地して駆動輪の回転によって本体筐体が段差を乗り越える。」
・「【0046】
また本発明は,上記構成の掃除ロボットにおいて,前記駆動輪と前記後輪との間に,各部に電力を供給するバッテリー及び各部を制御する制御基板を配置したことを特徴としている。この構成によると,前輪が床面から離れる本体筐体がバッテリー及び制御基板の重量により安定して接地される。」
・「
」
(3) 以上の記載からすると,当初明細書等には次の事項が記載されていることがわかる。
・本願の請求項1~7に係る発明は,床面上を自走する掃除ロボットに関するものである(【0001】)。
・従来の掃除ロボットは,吸込口を底面に開口して電動送風機及び集塵部を内装する本体筐体が床面上を自走して掃除を行うものであるところ,テーブル等の下方を掃除するために本体筐体は高さの低い薄型に形成され,本体筐体には底面から突出する駆動輪及び前輪が設けられ,前輪は駆動輪に対して掃除時の進行方向の前方に配置され,前輪と駆動輪との間に吸込口が配置される。
しかしながら,従来の掃除ロボットによると,吸込口に対して掃除時の進行方向の前方に配した前輪によって床面上のゴミが遮られ,集塵能力が低下する問題があり,また,毛髪や糸屑等の繊維状のゴミが前輪に絡みついて前輪が正常に回転せず,床面上の段差を前輪が乗り越えられなくなり,本体筐体が停止して走行異常となって,掃除領域全体を掃除できない問題もあった(【0002】~【0006】)。
・本願の請求項1~7に係る発明は,集塵能力を向上するとともに走行異常を防止できる掃除ロボットを提供することを目的とするものである(【0007】)。
・床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記筐体における前記進行方向の前方側が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れていることを特徴とする自走式掃除ロボット(【請求項1】,【0008】)
により,床面上のゴミが前輪により遮られず,掃除ロボットの集塵能力を向上することができ,また,繊維状のゴミが前輪に絡みつかないため,本体筐体の走行異常を防止することができるといった効果を奏する(【0009】)。
・本願の請求項1~7に係る発明の実施形態,具体的には,
本体筐体2に底面から突出して水平な回転軸29aで回転する一対の駆動輪29が配され,
掃除を行う際に進行方向の前方となる本体筐体2の前部には吸込口6が下面に設けられ,
吸込口6は本体筐体2の底面に凹設した凹部8の開放面によって床面Fに面して形成され,
凹部8内には水平な回転軸で回転する回転ブラシ9が配され,凹部8の両側方には垂直な回転軸で回転するサイドブラシ10が配され,
凹部8の前方にはローラー形状の前輪27が設けられ,これにより,吸込口6は前輪27と駆動輪29との間に配され,
本体筐体2の後端には自在車輪から成る後輪26が設けられ,
本体筐体2は中心に配した駆動輪29に対して前後方向に重量が配分され,前輪27が床面Fから離れて回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が床面Fに接地して掃除が行われる,
掃除ロボット1(【0011】~【0014】,図1~3)
により,進路前方の塵埃やゴミを前輪27により遮ることなく吸込口6に導くことができ,前輪27は進路上に現れた段差に接地し,本体筐体2が段差を容易に乗り越えられるようになっているといった作用を奏する(【0014】)。
・上記構成の掃除ロボット1において,掃除運転が指示されると,電動送風機22,イオン発生装置28,駆動輪29,回転ブラシ9及びサイドブラシ10が駆動され,本体筐体2は回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が平坦な床面Fに接地して所定の掃除領域を自走し,本体筐体2の前進によって床面F上の塵埃やゴミは前輪27の下方を通過し,吸込口6から吸い込まれ,この時,回転ブラシ9の回転によって床面F上の塵埃が掻き上げられて凹部8内に導かれ,また,サイドブラシ10の回転によって吸込口6の側方の塵埃が吸込口6に導かれる(【0031】,【0032】)。
・上記実施形態によると,前輪27と駆動輪29との間に吸込口6が配され,平坦な床面Fを自走する際に前輪27が床面Fから離れて駆動輪29及び後輪26が接地することにより,床面F上のゴミが前輪27により遮られず,掃除ロボット1の集塵能力を向上することができ,また,繊維状のゴミが前輪27に絡みつかないため,本体筐体2の走行異常を防止することができる(【0039】)。
また,掃除を行う際に回転ブラシ9が接地するので,床面Fから前輪27が離れた本体筐体2を回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26により安定して接地することができる(【0041】)。
・床面に対峙する吸込口を底面に開口する本体筐体と,水平な回転軸を有して前記本体筐体を自走させる一対の駆動輪と,前記駆動輪に対して掃除時の進行方向の前方に配される前輪と,前記駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪とを備え,前記前輪と前記駆動輪との間に前記吸込口が配されるとともに,平坦な床面を自走する際に前記前輪が床面から離れて前記駆動輪及び前記後輪が接地すること(【0042】)により,平坦な床面から前輪が離れて駆動輪及び後輪が接地し,一対の駆動輪の駆動によって本体筐体が掃除領域内を自走するので,本体筐体の前進によって床面上の塵埃やゴミは前輪の下方を通過し,吸込口から吸い込まれ,塵埃等を含む気流は本体筐体内で塵埃等を除去された後,排気され,本体筐体の進路上に段差が現れると,前輪が段差に接地して駆動輪の回転によって本体筐体が段差を乗り越える(【0043】)。
・上記構成の掃除ロボットにおいて,前記駆動輪と前記後輪との間に,各部に電力を供給するバッテリー及び各部を制御する制御基板を配置したことにより,前輪が床面から離れる本体筐体がバッテリー及び制御基板の重量により安定して接地される(【0046】)。
(4)ア このような当初明細書等の記載からすると,当初明細書等には,平坦な床面を自走する際に,
(ア) 筐体における進行方向の前方側が床面から離れること(【請求項1】,【0008】)
(イ) 吸込口の前方側に筐体の底面から突出するように設けられている,段差の乗り越えを容易にするための部材が床面から離れていること(【請求項1】,【0008】)
(ウ) 自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の前輪が床面から離れること(【0014】,【0039】,【0041】~【0043】)
(エ) 前輪が進路上に現れた段差に接地し,本体筐体が段差を容易に乗り越えられるようになること(【0014】,【0043】)
が記載されていると認められる。
イ しかしながら,上記(ア)~(エ)以外に,進行方向の吸込口より前方側にある何らかの部分が床面から離れることや,前輪の下面が進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分であることについて特段記載されていない上,「前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分」なる事項についても記載も示唆もない。
ウ また,当初明細書等の記載によれば,本願の請求項1~7に係る発明は,従来技術に係る,吸込口に対して掃除時の進行方向の前方に配した前輪によって床面上のゴミが遮られ,集塵能力が低下する問題,毛髪や糸屑等の繊維状のゴミが前輪に絡みついて前輪が正常に回転せず,床面上の段差を前輪が乗り越えられなくなり,本体筐体が停止して走行異常となって,掃除領域全体を掃除できない問題,すなわち,進行方向の吸込口より前方に配された前輪に関する問題を踏まえてなされた発明であることがわかる。
そして,上記のとおり,当初明細書等には,具体的には前輪27が床面Fから離れていることが記載されているのみであることからすれば,本願の請求項1~7に係る発明が,前輪の存在を捨象し,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分なる事項に着目した発明でないことは,その記載から明らかである。
エ このように,当初明細書等において,「前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分」なる事項は技術的な事項として観念されているとは認められないから,当初明細書等において,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」とした構成について,記載や示唆があるとは認められない。
オ この点に関し,請求人は,補正の根拠として,当初明細書等の【0014】,【0039】,図2の記載を挙げている(平成31年2月22付け意見書1.,令和元年6月13日付け意見書1.1)。
しかしながら,当初明細書等における当該記載をみても,前輪の下面が最も低い部分であることは明らかでない(筐体2のモータユニット20に対応する部分との対比で,何れが低いかは判然としない(図2)。なお,サイドブラシ10の先端は,平坦な床面を自走する際に,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分となると解されるところ(図2,3),前輪27の下面が最も低い部分であるならば,サイドブラシ10の先端はそれよりも床面Fから離れていなければならないことになるから,当初明細書等の記載から,前輪27の下面が,平坦な床面を自走する際に,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分なる事項が導かれないことが窺われる。)。
カ たとえ,前輪の下面が最も低い部分となっているとしても,当初明細書等において,「前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分」なる事項は技術的な事項として観念されているとは認められないから,当初明細書等における当該記載から,当然に,前輪の存在を捨象し,上位概念化し,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」とした構成が導かれるものではなく,当該構成が,当初明細書等の記載から自明の事項とも認められない。
キ そうすると,請求項1において「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」と特定することは,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
(5) 以上のとおり,本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2 29条2項について
(1) 分割要件について
ア 本件補正後の特許請求の範囲の記載は前記第2・3のとおりであるところ,その請求項1において,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」ことが特定されている。
イ そこで,原出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「原出願当初明細書等」という。引用文献1参照。)の記載内容を確認するに,原出願当初明細書等には次の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。
・「【0001】
本発明は,床面上を自走する掃除ロボットに関する。」
・「【0002】
従来の掃除ロボットは特許文献1に開示されている。この掃除ロボットは吸込口を底面に開口して電動送風機及び集塵部を内装する本体筐体が床面上を自走して掃除を行う。この時,テーブル等の下方を掃除するために本体筐体は高さの低い薄型に形成される。本体筐体には底面から突出する駆動輪及び前輪が設けられる。前輪は駆動輪に対して掃除時の進行方向の前方に配置され,前輪と駆動輪との間に吸込口が配置される。
【0003】
本体筐体の前部の下面には吸込口が開口し,後部の周面には排気口が開口する。本体筐体内には電動送風機及び集塵部を有する吸塵部が駆動輪の後方に配置される。電動送風機は吸込口から吸い込まれる吸込気流を発生し,集塵部は吸込気流に含まれる塵埃を捕集する。また,本体筐体内には電動送風機や駆動輪等の各部に電力を供給するバッテリーが設けられる。
【0004】
上記構成の掃除ロボットにおいて,掃除運転が開始されると駆動輪及び電動送風機が駆動される。本体筐体は駆動輪及び前輪の回転によって所望の掃除領域の床面上を自走する。電動送風機の駆動によって吸込口から床面上の塵埃を含む気流が吸い込まれる。気流に含まれた塵埃は集塵部で集塵され,塵埃を除去された気流が電動送風機を通過して本体筐体外に排気される。これにより,掃除領域の掃除が行われ,集塵部に堆積した塵埃は集塵部を取り外して廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-202792号公報(第4頁-第7頁,第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記従来の掃除ロボットによると,吸込口に対して掃除時の進行方向の前方に配した前輪によって床面上のゴミが遮られ,集塵能力が低下する問題があった。また,毛髪や糸屑等の繊維状のゴミが前輪に絡みついて前輪が正常に回転せず,床面上の段差を前輪が乗り越えられなくなる。これにより,本体筐体が停止して走行異常となり,掃除領域全体を掃除できない問題もあった。
【0007】
本発明は,集塵能力を向上するとともに走行異常を防止できる掃除ロボットを提供することを目的とする。」
・「【発明の効果】
【0013】
本発明によると,前輪と駆動輪との間に吸込口が配され,平坦な床面を自走する際に前輪が床面から離れて駆動輪及び後輪が接地する。これにより,床面上のゴミが前輪により遮られず,掃除ロボットの集塵能力を向上することができる。また,繊維状のゴミが前輪に絡みつかないため,本体筐体の走行異常を防止することができる。」
・「【0015】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は一実施形態の掃除ロボットを示す斜視図である。掃除ロボット1はバッテリー14により駆動輪29(いずれも図2参照)を駆動して自走する平面視円形の本体筐体2を有している。本体筐体2の上面には集塵部30(図2参照)を出し入れする際に開閉する蓋部3が設けられる。
【0016】
図2,図3は掃除ロボット1の側面断面図及び底面図を示している。本体筐体2には底面から突出して水平な回転軸29aで回転する一対の駆動輪29が配される。駆動輪29の回転軸29aは本体筐体2の中心線C上に配置される。駆動輪29の両輪が同一方向に回転すると本体筐体2が進退し,逆方向に回転すると本体筐体2が中心線Cの回りに回転する。
【0017】
掃除を行う際に進行方向の前方となる本体筐体2の前部には吸込口6が下面に設けられる。吸込口6は本体筐体2の底面に凹設した凹部8の開放面によって床面Fに面して形成される。凹部8内には水平な回転軸で回転する回転ブラシ9が配され,凹部8の両側方には垂直な回転軸で回転するサイドブラシ10が配される。
【0018】
凹部8の前方にはローラー形状の前輪27が設けられる。これにより,吸込口6は前輪27と駆動輪29との間に配される。本体筐体2の後端には自在車輪から成る後輪26が設けられる。後述するように,本体筐体2は中心に配した駆動輪29に対して前後方向に重量が配分され,前輪27が床面Fから離れて回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が床面Fに接地して掃除が行われる。このため,進路前方の塵埃やゴミを前輪27により遮ることなく吸込口6に導くことができる。前輪27は進路上に現れた段差に接地し,本体筐体2が段差を容易に乗り越えられるようになっている。」
・「【0035】
上記構成の掃除ロボット1において,掃除運転が指示されると,電動送風機22,イオン発生装置28,駆動輪29,回転ブラシ9及びサイドブラシ10が駆動される。これにより,本体筐体2は回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が平坦な床面Fに接地して所定の掃除領域を自走する。
【0036】
本体筐体2の前進によって床面F上の塵埃やゴミは前輪27の下方を通過し,吸込口6から吸い込まれる。この時,回転ブラシ9の回転によって床面F上の塵埃が掻き上げられて凹部8内に導かれる。また,サイドブラシ10の回転によって吸込口6の側方の塵埃が吸込口6に導かれる。」
・「【0043】
本実施形態によると,前輪27と駆動輪29との間に吸込口6が配され,平坦な床面Fを自走する際に前輪27が床面Fから離れて駆動輪29及び後輪26が接地する。これにより,床面F上のゴミが前輪27により遮られず,掃除ロボット1の集塵能力を向上することができる。また,繊維状のゴミが前輪27に絡みつかないため,本体筐体2の走行異常を防止することができる。」
・「【0045】
また,掃除を行う際に回転ブラシ9が接地するので,床面Fから前輪27が離れた本体筐体2を回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26により安定して接地することができる。
【0046】
また,駆動輪29と後輪26との間にバッテリー14及び制御基板15を配置したので,床面Fから前輪27が離れた本体筐体2をバッテリー14及び制御基板15の重量により駆動輪29及び後輪26で安定して接地することができる。」
・「
」
ウ 以上の記載からすると,原出願当初明細書等には次の事項が記載されていることがわかる。
・原出願に係る発明は,床面上を自走する掃除ロボットに関するものである(【0001】)。
・従来の掃除ロボットは,吸込口を底面に開口して電動送風機及び集塵部を内装する本体筐体が床面上を自走して掃除を行うものであるところ,テーブル等の下方を掃除するために本体筐体は高さの低い薄型に形成され,本体筐体には底面から突出する駆動輪及び前輪が設けられ,前輪は駆動輪に対して掃除時の進行方向の前方に配置され,前輪と駆動輪との間に吸込口が配置される。
しかしながら,従来の掃除ロボットによると,吸込口に対して掃除時の進行方向の前方に配した前輪によって床面上のゴミが遮られ,集塵能力が低下する問題があり,また,毛髪や糸屑等の繊維状のゴミが前輪に絡みついて前輪が正常に回転せず,床面上の段差を前輪が乗り越えられなくなり,本体筐体が停止して走行異常となって,掃除領域全体を掃除できない問題もあった(【0002】~【0006】)。
・原出願に係る発明は,集塵能力を向上するとともに走行異常を防止できる掃除ロボットを提供することを目的とするものである(【0007】)。
・原出願に係る発明により,床面上のゴミが前輪により遮られず,掃除ロボットの集塵能力を向上することができ,また,繊維状のゴミが前輪に絡みつかないため,本体筐体の走行異常を防止することができるといった効果を奏する(【0013】)。
・原出願に係る発明の実施形態,具体的には,
本体筐体2に底面から突出して水平な回転軸29aで回転する一対の駆動輪29が配され,
掃除を行う際に進行方向の前方となる本体筐体2の前部には吸込口6が下面に設けられ,
吸込口6は本体筐体2の底面に凹設した凹部8の開放面によって床面Fに面して形成され,
凹部8内には水平な回転軸で回転する回転ブラシ9が配され,凹部8の両側方には垂直な回転軸で回転するサイドブラシ10が配され,
凹部8の前方にはローラー形状の前輪27が設けられ,これにより,吸込口6は前輪27と駆動輪29との間に配され,
本体筐体2の後端には自在車輪から成る後輪26が設けられ,
本体筐体2は中心に配した駆動輪29に対して前後方向に重量が配分され,前輪27が床面Fから離れて回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が床面Fに接地して掃除が行われる,
掃除ロボット1(【0015】~【0018】,図1~3)
により,進路前方の塵埃やゴミを前輪27により遮ることなく吸込口6に導くことができ,前輪27は進路上に現れた段差に接地し,本体筐体2が段差を容易に乗り越えられるようになっているといった作用を奏する(【0018】)。
・上記構成の掃除ロボット1において,掃除運転が指示されると,電動送風機22,イオン発生装置28,駆動輪29,回転ブラシ9及びサイドブラシ10が駆動され,本体筐体2は回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26が平坦な床面Fに接地して所定の掃除領域を自走し,本体筐体2の前進によって床面F上の塵埃やゴミは前輪27の下方を通過し,吸込口6から吸い込まれ,この時,回転ブラシ9の回転によって床面F上の塵埃が掻き上げられて凹部8内に導かれ,また,サイドブラシ10の回転によって吸込口6の側方の塵埃が吸込口6に導かれる(【0035】,【0036】)。
・上記実施形態によると,前輪27と駆動輪29との間に吸込口6が配され,平坦な床面Fを自走する際に前輪27が床面Fから離れて駆動輪29及び後輪26が接地することにより,床面F上のゴミが前輪27により遮られず,掃除ロボット1の集塵能力を向上することができ,また,繊維状のゴミが前輪27に絡みつかないため,本体筐体2の走行異常を防止することができる(【0043】)。
また,掃除を行う際に回転ブラシ9が接地するので,床面Fから前輪27が離れた本体筐体2を回転ブラシ9,駆動輪29及び後輪26により安定して接地することができる(【0045】)。
エ(ア) このような原出願当初明細書等の記載からすると,原出願当初明細書等には,平坦な床面を自走する際に,
a 自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の前輪が床面から離れること(【0018】,【0043】,【0045】,【0046】)
b 前輪が進路上に現れた段差に接地し,本体筐体が段差を容易に乗り越えられるようになること(【0018】)
が記載されていると認められる。
(イ) しかしながら,上記a,b以外に,進行方向の吸込口より前方側にある何らかの部分が床面から離れること,段差の容易に乗り越えを容易にする何らかの部材があること,前輪が進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分であることについて特段記載されていない上,「前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分」なる事項,「段差の乗り越えを容易にするための部材」なる事項,「段差の乗り越えを容易にするための部材」の「下面」が当該「最も低い部分に相当」するといった事項についても記載も示唆もない。
(ウ) また,原出願当初明細書等の記載によれば,原出願に係る発明は,従来技術に係る,吸込口に対して掃除時の進行方向の前方に配した前輪によって床面上のゴミが遮られ,集塵能力が低下する問題,毛髪や糸屑等の繊維状のゴミが前輪に絡みついて前輪が正常に回転せず,床面上の段差を前輪が乗り越えられなくなり,本体筐体が停止して走行異常となって,掃除領域全体を掃除できない問題,すなわち,進行方向の吸込口より前方に配された前輪に関する問題を踏まえてなされた発明であることがわかる。
そして,上記のとおり,原出願当初明細書等には,具体的には前輪27が床面Fから離れていること,前輪27が進路上に現れた段差に接地し,本体筐体2が段差を容易に乗り越えられるようになることが記載されているのみであることからすれば,原出願において,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分なる事項に着目しておらず,段差の容易に乗り越えを容易にする前輪以外の何らかの部材が想定されていないことは,その記載から明らかである。
(エ) このように,原出願当初明細書等において,「前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分」なる事項は技術的な事項として観念されているとは認められず,「段差の乗り越えを容易にするための部材」なる事項,「段差の乗り越えを容易にするための部材」の「下面」が当該「最も低い部分に相当」するといった事項が記載されているとは認められないから,原出願当初明細書等において,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」とした構成について,記載や示唆があるとは認められない。
(オ) 原出願当初明細書等の【0018】,【0043】,図2等をみても,前輪の下面が最も低い部分であることは明らかでない(筐体2のモータユニット20に対応する部分との対比で,何れが低いかは判然としない(図2)。なお,サイドブラシ10の先端は,平坦な床面を自走する際に,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分となると解されるところ(図2,3),前輪27の下面が最も低い部分であるならば,サイドブラシ10の先端はそれよりも床面Fから離れていなければならないことになるから,当初明細書等の記載から,前輪27の下面が,平坦な床面を自走する際に,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分なる事項が導かれないことが窺われる。)。
(カ) 当該構成に関し,請求人は,本願において,前輪特有の課題や効果が記載されているのは,本願の従来技術文献の構成を前提とした課題や効果を記載しているに過ぎない,本願の掃除ロボットは,一対の駆動輪と後輪との3つで接地して安定走行するため,そもそも前輪を設ける必要がない,前輪27はあくまで,進路上に現れた段差に接地して本体筐体が段差を容易に乗り越えられるように作用するものであればよく(本願の当初明細書の【0014】),一対の駆動輪と後輪とによる安定走行に負荷を与え難い,接地面に対して低摩擦な滑りの良い構成であればよく,その一例としてローラ状の前輪を用いたに過ぎない,などと主張している(審判請求書3.)。
しかしながら,すでに述べたとおり,原出願当初明細書等における記載からして,原出願に係る発明は,従来技術に係る,進行方向の吸込口より前方に配された前輪に関する問題を踏まえてなされた発明で,原出願において,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分なる事項に着目しておらず,段差の容易に乗り越えを容易にする前輪以外の何らかの部材が想定されていないことは,その記載から明らかである。原出願当初明細書等のその他の記載をみても,前輪を設ける必要がないことや,接地面に対して低摩擦な滑りの良い構成であれば良いことは記載されていない。
よって,請求人の主張は採用することができない。
(キ) 原出願当初明細書等の記載から,当然に,前輪の存在を捨象し,上位概念化し,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」とした構成が導かれるものではなく,当該構成が,原出願当初明細書等の記載から自明の事項とも認められない。
(ク) そうすると,請求項1において「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し」,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材の下面が前記最も低い部分に相当し,前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」と特定することは,原出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
オ 以上のとおりであるから,本願の明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項は,原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえないので,本願は分割要件を満たしていない。
よって,本願は出願の分割による出願日の遡及を認めることができないから,新規性,進歩性等の判断は,現実の出願日である平成30年11月27日を基準日として行う。
(2) 本願発明
本願の請求項1~7に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2・3に記載のとおりのものである。
(3) 引用文献,引用発明等
引用文献1(原出願に係る公開特許公報)には,前記(1)イの事項が記載されている。
そして,引用文献1に記載された事項からすると,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「自走式掃除ロボットであって,
床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,前輪が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記前輪は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている自走式掃除ロボット。」
(2) 対比及び判断
ア 対比
(ア) 本願発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明の「自走式掃除ロボット」,「床面に対峙する吸込口」,「底面」,「筐体」,「水平な回転軸」,「一対の駆動輪」,「後輪」は,それぞれ,本願発明の「自走式掃除ロボット」,「床面に対峙する吸込口」,「底面」,「筐体」,「水平な回転軸」,「一対の駆動輪」,「後輪」に相当する。
(イ) 引用発明の「吸込口」は,本願発明と同様に,「前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され(る)」ものである。
(ウ) 引用発明は,「平坦な床面を自走する際に,前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地(する)」ものであるから,本願発明と「平坦な床面を自走する際」に,「前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地(する)」点で共通する。
(エ) 引用発明の「前輪」は,進路上に現れた段差に接地し,本体筐体が段差を容易に乗り越えられるようになるものであるから(引用文献1【0018】),その機能に照らして,本願発明の「段差の乗り越えを容易にするための部材」に相当する。
そして,引用発明は「前記吸込口の前方側には,前輪が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記前輪は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」ものであるから,本願発明と,「前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており」,「前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている」点で共通する。
(オ) そうすると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「自走式掃除ロボットであって,
床面に対峙する吸込口を底面に開口する筐体と,
水平な回転軸を有して前記筐体を自走させる一対の駆動輪と,
前記一対の駆動輪に対して掃除時の進行方向の後方に配される後輪と,を備え,
前記吸込口は,前記一対の駆動輪に対して前記進行方向の前方に配され,
平坦な床面を自走する際に,前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,
前記吸込口の前方側には,段差の乗り越えを容易にするための部材が,前記筐体の底面から突出するように設けられており,
前記部材は,平坦な床面を自走する際には,床面から離れている自走式掃除ロボット。」
(相違点)
本願発明は,「平坦な床面を自走する際に,前記自走式掃除ロボットにおける前記進行方向の前記吸込口より前方側の最も低い部分が床面から離れて前記一対の駆動輪及び前記後輪が接地」するものであって,「段差の乗り越えを容易にするための部材」の「下面が前記最も低い部分に相当」するのに対し,引用発明は,平坦な床面を自走する際に,一対の駆動輪及び前記後輪が接地し,前輪は,床面から離れているものであるが,前輪の下面が,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分であるかは明らかでない点。
イ 判断
引用発明の「前輪」は,進路上に現れた段差に接地し,本体筐体が段差を容易に乗り越えられるようになるものであるから(引用文献1【0018】),引用発明において,前輪を床面からどの程度離すかは,想定される段差の高さに応じて適宜決定すべき事項である。
そして,自走式掃除ロボットにおいて一般的に前輪は接地しており,前輪の下面が進行方向前方側の最も低い位置にあること(例えば,本願明細書開示の従来技術(特開2000-202792号公報)参照。)を踏まえれば,引用発明において,前輪の下面が,自走式掃除ロボットにおける進行方向の吸込口より前方側の最も低い部分となるように,前輪を床面から離すこと,すなわち,相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
本願発明の奏する効果をみても,引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。
ウ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
第5 むすび
以上のとおり,本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶すべきものである。
また,本願発明は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2019-013358