特許拒絶査定不服審判
2019-001719
消臭性能を有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体
- 審判番号
- 2019-001719
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-244494外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年02月06日
- 審決日
- 2019年09月18日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】日本エイアンドエル株式会社
- 【請求人】ダイワボウホールディングス株式会社
- 【請求人】ダイワボウノイ株式会社
- 【請求人】ウインテック株式会社
- 分類
- P18 .121-WY (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-244494「消臭性能を有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月17日出願公開、特開2014-132070、請求項の数(7)〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成25年11月27日(優先権主張:平成24年12月4日)の出願であって,平成29年10月31日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年1月12日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年4月25日付けで拒絶理由通知がされ,同年8月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年10月22日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成31年2月6日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~7に係る発明は,平成30年8月29日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本願発明1」等という。また,平成30年8月29日付けの手続補正書により補正された明細書を「本願明細書」という。)。
【請求項1】
下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物であって,熱可塑性樹脂(B)はゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない,熱可塑性樹脂組成物。
【化2】
式(II)中,MはCo,R1,R2,R3及びR4はスルホン酸基であり,n1,n2,n3及びn4は0~4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす数である。
【請求項2】
前記金属フタロシアニン化合物またはその塩の熱分解温度が280℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)中に,ポリアミドの末端基と反応性を有する官能基を有する単量体を用いた重合体を含むことを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形品。
【請求項5】
下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時したポリアミド(A)と熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練することで得られることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって,熱可塑性樹脂(B)はゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない,熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【化2】
式(II)中,MはCo,R1,R2,R3及びR4はスルホン酸基であり,n1,n2,n3及びn4は0~4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす数である。
【請求項6】
前記ポリアミド(A)は,繊維状の形態を有していることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアミド(A)は,ペレット状の形態を有していることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
第3 原査定の概要
1 理由1(進歩性)
本願発明1~7は,下記4の引用文献1に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
2 理由2(進歩性)
本願発明1~7は,下記4の引用文献2に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
3 理由3(進歩性)
本願発明1~7は,下記4の引用文献3に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 引用文献等
(1)特開2002-179909号公報(引用文献1)
(2)特開平2-18439号公報(引用文献2)
(3)特開2001-11266号公報(引用文献3)
(4)特開昭61-211352号公報(引用文献4)
(5)特開平5-184648号公報(引用文献5)
(6)特開平6-220061号公報(引用文献6)
第4 当審の判断
以下に述べるように,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
1 理由1(進歩性)
(1)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載(請求項1,5~8,【0001】~【0004】,【0008】,【0012】~【0016】,【0019】,【0021】~【0027】,実施例1~6,比較例1,2,表1,表2)によれば,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「下記の成分を含有するポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリアミド樹脂30~99重量部;
(B)分子量3000~4000のヒンダードアミン系耐候安定剤0.1~5重量部;および
(C)リン系化合物酸化防止剤,熱安定剤,帯電防止剤および難燃剤からなる群から選ばれた塗装接着向上剤0.1~5重量部。」(以下,「引用発明1-1」という。)
「下記の成分を含有するポリアミド樹脂組成物の製造方法であって,
スーパーミキサで1次混合した後,単軸スクリュー押出機,二軸スクリュー押出機,ロールミル,ニーダーミキサ,バンバリーミキサなどを用いて溶融混練した後,ペレット形成する,ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(A)ポリアミド樹脂30~99重量部;
(B)分子量3000~4000のヒンダードアミン系耐候安定剤0.1~5重量部;および
(C)リン系化合物酸化防止剤,熱安定剤,帯電防止剤および難燃剤からなる群から選ばれた塗装接着向上剤0.1~5重量部。」(以下,「引用発明1-2」という。)
(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1-1とを対比する。
引用発明1-1における「(A)ポリアミド樹脂」,「ポリアミド樹脂組成物」は,それぞれ,本願発明1における「ポリアミド(A)」,「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
以上によれば,本願発明1と引用発明1-1とは,
「ポリアミド(A)を含む熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本願発明1では,ポリアミド(A)が,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持した」(注:式は省略。以下同様。)ものであるのに対して,引用発明1-1では,ポリアミド樹脂がそのようなものではない点。
・相違点2
本願発明1では,さらに,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」,「熱可塑性樹脂(B)」を含むのに対して,引用発明1-1では,さらに,そのような熱可塑性樹脂を含むものではない点。
イ 相違点1の検討
(ア)a 本願発明1は,熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
本願明細書の記載(【0002】~【0010】,【0020】,【0024】,【0025】,【0026】,【0028】,【0032】,【0033】,【0035】~【0038】,【0055】~【0070】,実施例1~5,8,9,参考例1,2,比較例1~3,表1,表2)によれば,本願発明1は,耐衝撃性,寸法安定性に優れるだけでなく,消臭性能を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,本願発明1は,熱可塑性樹脂組成物において,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」と,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」,「熱可塑性樹脂(B)」を含有させるものであり,それにより,耐衝撃性,寸法安定性,消臭性能に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。特に,上記「ポリアミド(A)」により,消臭性能に優れたものとなり,また,上記「熱可塑性樹脂(B)」により,耐衝撃性,寸法安定性に優れたものとなると解される(【0068】,【0069】)。
b 一方,引用発明1-1は,ポリアミド樹脂組成物に関するものである。
引用文献1の記載(請求項1,5~8,【0001】~【0004】,【0008】,【0012】~【0016】,【0021】~【0027】,実施例1~6,比較例1,2,表1,表2)によれば,引用発明1-1は,長期間屋外に曝されたときにも優れた耐候安定性を保持し,塗装の際,事前にプライマー処理を行わなくても直接塗装が可能なポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,引用発明1-1は,ポリアミド樹脂組成物において,それぞれ所定量の「(A)ポリアミド樹脂」,「(B)分子量3000~4000のヒンダードアミン系耐候安定剤」,「(C)リン系化合物酸化防止剤,熱安定剤,帯電防止剤および難燃剤からなる群から選ばれた塗装接着向上剤」を含有させるものであり,それにより,長期間屋外に曝されたときにも優れた耐候安定性を保持し,塗装の際,事前にプライマー処理を行わなくても直接塗装が可能なポリアミド樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。
c 上記のとおり,本願発明1と引用発明1-1とは,その解決しようとする課題が異なるものである。引用文献1には,消臭性能を改善するとの課題について,何ら記載されておらず,また,そのために,熱可塑性樹脂組成物において,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」を含有させることについても,何ら記載されていない。また,ポリアミド樹脂組成物において,消臭性能を改善するとの課題が,当業者が常に念頭に置いている自明の課題であるとはいえないから,引用発明1-1に係るポリアミド樹脂組成物において,消臭性能を改善するとの課題が当然に内在するということもできない。
以上のとおり,引用発明1-1には,消臭性能を改善するとの課題が存在するとはいえないから,そもそも,引用発明1-1において,消臭性能を改善しようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)また,下記a~cのとおり,引用文献4~6には,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」が記載されているとはいえない。
a 引用文献4には,高分子中の原子にある孤立電子対に,構造式
なる金属フタロシアニンの中心金属Mが配位結合し,0.5~20重量%金属フタロシアニンが担持されている,消臭性機能を持った高分子物質について記載されている(特許請求の範囲)。
引用文献4には,上記金属Mについて,Fe,Coが特に好ましいことが記載され,上記高分子物質について,多数の例示の中の一つとして,ポリアミド(例えばナイロン)が記載され,上記構造式における-X(置換基)について,多数の例示の中の一つとして,スルホン酸基が記載されている(3頁左上欄13行~4頁左上欄12行)。
しかしながら,引用文献4には,実際に,上記金属MがCoであり,上記高分子物質がポリアミド(例えばナイロン)であり,上記構造式における-X(置換基)がスルホン酸基である消臭性機能を持った高分子物質が記載されているわけではなく,実施例において,鉄(III)-フタロシアニンオクタカルボン酸オクタナトリウム塩が記載されるのみである。また,引用文献4には,イオン染色により上記金属フタロシアニンを高分子物質に担持させることについては,記載されていない。
b 引用文献5には,金属フタロシアニン,及びこの金属フタロシアニンを担持する,遷移金属を添着した活性炭繊維を備えた消臭材料について記載されている(特許請求の範囲)。
引用文献5には,上記金属フタロシアニンとして,コバルト(II)4,5,4’,5’,4”,5”,4”’, 5”’―オクタスルフォニルフタロシアニンが記載されているものの(実施例1),上記のとおり,活性炭繊維に担持されたものであり,イオン染色によりポリアミドに担持されたものではない。
c 引用文献6には,金属フタロシアニン化合物の精製方法について記載されている(特許請求の範囲)。
引用文献6には,金属フタロシアニン化合物は,一般式(1)
で表される金属フタロシアニン化合物であることが記載され,中心配位子について,多数の例示の中の一つとして,3価のコバルトイオンを含有するものが記載され,水溶性付与基Xについて,好ましくはスルホン酸基であることが記載されている(【0007】)。
しかしながら,引用文献6には,実際に,中心配位子が3価のコバルトイオンを含有し,水溶性付与基Xがスルホン酸基である金属フタロシアニン化合物が記載されているわけではなく,実施例において,鉄フタロシアニンテトラスルホン酸が記載されるのみである。また,引用文献6には,イオン染色により上記金属フタロシアニン化合物をポリアミドに担持させることについては,記載されていない。
d 上記a~cのとおり,引用文献4~6には,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」が記載されているとはいえない。
(ウ)以上のとおり,引用発明1-1には,消臭性能を改善するとの課題が存在するとはいえないから,そもそも,引用発明1-1において,消臭性能を改善しようとする動機付けがあるとはいえず,また,引用文献1及び4~6のいずれにも,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」が記載されているとはいえないから,引用発明1-1において,ポリアミド樹脂を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」とすることが動機付けられるとはいえない。
そして,本願発明1は,上記(ア)aで述べたとおり,耐衝撃性,寸法安定性,消臭性能に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,引用発明1-1において,ポリアミド樹脂を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本願発明5について
ア 対比
本願発明5と引用発明1-2とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,
「ポリアミド(A)を溶融混練することで得られる熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1’
本願発明5では,ポリアミド(A)が,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時した」ものであるのに対して,引用発明1-2では,ポリアミド樹脂がそのようなものではない点。
・相違点2’
本願発明5では,さらに,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」,「熱可塑性樹脂(B)」を溶融混練するのに対して,引用発明1-2では,さらに,そのような熱可塑性樹脂を溶融混練するものではない点。
イ 相違点1’の検討
相違点1’は,上記(2)イで検討した相違点1と同様のものであるところ,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,引用発明1-2において,ポリアミド樹脂を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時したポリアミド(A)」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,相違点2’について検討するまでもなく,本願発明5は,引用文献1に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本願発明2~4,6及び7について
本願発明2~4は,本願発明1を直接又は間接的に引用するものであり,本願発明6及び7は,本願発明5を直接引用するものであるが,上記(2)及び(3)で述べたとおり,本願発明1及び5が,引用文献1に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2~4,6及び7についても同様に,引用文献1に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり,本願発明1~7は,いずれも,引用文献1に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,本願について,理由1(進歩性)によって拒絶すべきものとすることはできない。
2 理由2(進歩性)
(1)引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載(特許請求の範囲,1頁右下欄9行~2頁右上欄4行,2頁右上欄19行~右下欄2行,3頁左上欄5行~4頁右下欄12行,5頁右上欄8行~右下欄12行,6頁左上欄18行~9頁左下欄3行,実施例1~13,比較例1~8,表1~4)によれば,引用文献2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体 5~80重量%
(B)スチレン系重合体 5~85重量%
(C)ポリアミド系重合体 10~90重量%
からなる混合物100重量部に,
(D)有機リン酸化合物および/または有機亜リン酸化合物 0.1~10重量部
を含有した組成物であって,
(イ)全組成物中でのカルボキシル基含有不飽和化合物の含有率が0.02~4重量%であり,
(ロ)全組成物中のゴム成分の含有率が5~40重量%であり,
(ハ)(A)および(B)成分中のマトリックス成分の極限粘度(30℃,メチルエチルケトン)が0.35dl/g以上,
である,熱可塑性樹脂組成物。」(以下,「引用発明2-1」という。)
「(A)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体 5~80重量%
(B)スチレン系重合体 5~85重量%
(C)ポリアミド系重合体 10~90重量%
からなる混合物100重量部に,
(D)有機リン酸化合物および/または有機亜リン酸化合物 0.1~10重量部
を含有した組成物であって,
(イ)全組成物中でのカルボキシル基含有不飽和化合物の含有率が0.02~4重量%であり,
(ロ)全組成物中のゴム成分の含有率が5~40重量%であり,
(ハ)(A)および(B)成分中のマトリックス成分の極限粘度(30℃,メチルエチルケトン)が0.35dl/g以上,
である,熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって,
ミキサーで上記(A)~(D)成分を混合した後,押出機にて200~320℃で溶融混練して造粒する,熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(以下,「引用発明2-2」という。)
(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明2-1とを対比する。
引用発明2-1における「(C)ポリアミド系重合体」は,本願発明1における「ポリアミド(A)」に相当する。
引用発明2-1における「(A)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体」,「(B)スチレン系重合体」は,本願発明1における「熱可塑性樹脂(B)」に相当する。
以上によれば,本願発明1と引用発明2-1とは,
「ポリアミド(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
本願発明1では,ポリアミド(A)が,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持した」ものであるのに対して,引用発明2-1では,(C)ポリアミド系重合体がそのようなものではない点。
・相違点4
本願発明1では,熱可塑性樹脂(B)が,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」ものであるのに対して,引用発明2-1では,「(A)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体」,「(B)スチレン系重合体」を含むものの,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」かどうか不明である点。
イ 相違点3の検討
(ア)a 本願発明1は,上記1(2)イ(ア)で述べたとおり,耐衝撃性,寸法安定性に優れるだけでなく,消臭性能を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,本願発明1は,熱可塑性樹脂組成物において,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」と,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」,「熱可塑性樹脂(B)」を含有させるものであり,それにより,耐衝撃性,寸法安定性,消臭性能に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。
b 一方,引用発明2-1は,熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
引用文献2の記載(特許請求の範囲,1頁右下欄9行~2頁右上欄4行,2頁右上欄19行~右下欄2行,3頁左上欄5行~4頁右下欄12行,5頁右上欄8行~右下欄12行,6頁左上欄18行~9頁左下欄3行,実施例1~13,比較例1~8,表1~4)によれば,引用発明2-1は,耐衝撃性,成形加工性,耐薬品性,ウェルド強度及び成形外観に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,引用発明2-1は,熱可塑性樹脂組成物において,それぞれ所定量の「(A)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体」,「(B)スチレン系重合体」,「(C)ポリアミド系重合体」,「(D)有機リン酸化合物および/または有機亜リン酸化合物」を含有させるものであり,それにより,耐衝撃性,成形加工性,耐薬品性,ウェルド強度及び成形外観に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。
c 上記のとおり,本願発明1と引用発明2-1とは,その解決しようとする課題が異なるものである。引用文献2には,消臭性能を改善するとの課題について,何ら記載されておらず,また,そのために,熱可塑性樹脂組成物において,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」を含有させることについても,何ら記載されていない。また,ポリアミド系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物において,消臭性能を改善するとの課題が,当業者が常に念頭に置いている自明の課題であるとはいえないから,引用発明2-1に係るポリアミド系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物において,消臭性能を改善するとの課題が当然に内在するということもできない。
以上のとおり,引用発明2-1には,消臭性能を改善するとの課題が存在するとはいえないから,そもそも,引用発明2-1において,消臭性能を改善しようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)引用文献4~6については,上記1(2)イ(イ)で述べたとおりであり,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」が記載されているとはいえない。
(ウ)以上のとおりであるから,引用発明2-1において,(C)ポリアミド系重合体を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」とすることが動機付けられるとはいえない。
そして,本願発明1は,上記(ア)aで述べたとおり,耐衝撃性,寸法安定性,消臭性能に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,引用発明2-1において,(C)ポリアミド系重合体を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,相違点4について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献2に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本願発明5について
ア 対比
本願発明5と引用発明2-2とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,
「ポリアミド(A)と熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練することで得られる熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3’
本願発明5では,ポリアミド(A)が,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時した」ものであるのに対して,引用発明2-2では,(C)ポリアミド系重合体がそのようなものではない点。
・相違点4’
本願発明5では,熱可塑性樹脂(B)が,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」ものであるのに対して,引用発明2-2では,「(A)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体」,「(B)スチレン系重合体」を含むものの,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」かどうか不明である点。
イ 相違点3’の検討
相違点3’は,上記(2)イで検討した相違点3と同様のものであるところ,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,引用発明2-2において,(C)ポリアミド系重合体を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時したポリアミド(A)」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,相違点4’について検討するまでもなく,本願発明5は,引用文献2に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本願発明2~4,6及び7について
本願発明2~4は,本願発明1を直接又は間接的に引用するものであり,本願発明6及び7は,本願発明5を直接引用するものであるが,上記(2)及び(3)で述べたとおり,本願発明1及び5が,引用文献2に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2~4,6及び7についても同様に,引用文献2に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり,本願発明1~7は,いずれも,引用文献2に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,本願について,理由2(進歩性)によって拒絶すべきものとすることはできない。
3 理由3(進歩性)
(1)引用文献3に記載された発明
引用文献3の記載(請求項1~4,【0001】~【0006】,【0008】,【0011】~【0013】,【0018】,【0020】,【0024】,【0027】,【0038】~【0043】,実施例1~3,比較例1~5,表1)によれば,引用文献3には,以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)スチレン系樹脂,(B)ポリアミド系樹脂,(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂及び(D)赤燐系難燃剤を含む難燃性樹脂組成物。」(以下,「引用発明3-1」という。)
「(A)スチレン系樹脂,(B)ポリアミド系樹脂,(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂及び(D)赤燐系難燃剤を含む難燃性樹脂組成物の製造方法であって,
上記(A),(B),(C)の各成分を配合し,押出機にて溶融混錬し,ペレット状の樹脂組成物を得る,難燃性樹脂組成物の製造方法。」(以下,「引用発明3-2」という。)
(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明3-1とを対比する。
引用発明3-1における「(B)ポリアミド系樹脂」は,本願発明1における「ポリアミド(A)」に相当する。
引用発明3-1における「(A)スチレン系樹脂」,「(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂」は,本願発明1における「熱可塑性樹脂(B)」に相当する。そして,引用発明3-1における「(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂」は,本願発明1における「ゴム強化スチレン系樹脂」に相当する。
引用発明3-1における「難燃性樹脂組成物」は,上記のとおり,熱可塑性樹脂を含むものであるから,本願発明1における「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
以上によれば,本願発明1と引用発明3-1とは,
「ポリアミド(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって,熱可塑性樹脂(B)はゴム強化スチレン系樹脂を含む,熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5
本願発明1では,ポリアミド(A)が,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持した」ものであるのに対して,引用発明3-1では,(B)ポリアミド系樹脂がそのようなものではない点。
・相違点6
本願発明1では,熱可塑性樹脂(B)が,「ポリアミド樹脂を含まない」ものであるのに対して,引用発明3-1では,「(A)スチレン系樹脂」,「(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂」を含むものの,「ポリアミド樹脂を含まない」かどうか不明である点。
イ 相違点5の検討
(ア)a 本願発明1は,上記1(2)イ(ア)で述べたとおり,耐衝撃性,寸法安定性に優れるだけでなく,消臭性能を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,本願発明1は,熱可塑性樹脂組成物において,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」と,「ゴム強化スチレン系樹脂を含み,かつ,ポリアミド樹脂を含まない」,「熱可塑性樹脂(B)」を含有させるものであり,それにより,耐衝撃性,寸法安定性,消臭性能に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。
b 一方,引用発明3-1は,熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
引用文献3の記載(請求項1~4,【0001】~【0006】,【0008】,【0011】~【0013】,【0018】,【0020】,【0024】,【0027】,【0038】~【0043】,実施例1~3,比較例1~5,表1)によれば,引用発明3-1は,難燃剤としてハロゲン系化合物を使用することなく、優れた難燃性や耐衝撃性を付与できる樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,引用発明3-1は,難燃性樹脂組成物において,「(A)スチレン系樹脂」,「(B)ポリアミド系樹脂」,「(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂」,「(D)赤燐系難燃剤」を含有させるものであり,それにより,難燃剤としてハロゲン系化合物を使用することなく、優れた難燃性や耐衝撃性を付与できる樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。
c 上記のとおり,本願発明1と引用発明3-1とは,その解決しようとする課題が異なるものである。引用文献3には,消臭性能を改善するとの課題について,何ら記載されておらず,また,そのために,熱可塑性樹脂組成物において,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」を含有させることについても,何ら記載されていない。また,難燃性樹脂組成物において,消臭性能を改善するとの課題が,当業者が常に念頭に置いている自明の課題であるとはいえないから,引用発明3-1に係る難燃性樹脂組成物において,消臭性能を改善するとの課題が当然に内在するということもできない。
以上のとおり,引用発明3-1には,消臭性能を改善するとの課題が存在するとはいえないから,そもそも,引用発明3-1において,消臭性能を改善しようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)引用文献4~6については,上記1(2)イ(イ)で述べたとおりであり,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」が記載されているとはいえない。
(ウ)以上のとおりであるから,引用発明3-1において,(B)ポリアミド系樹脂を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」とすることが動機付けられるとはいえない。
そして,本願発明1は,上記(ア)aで述べたとおり,耐衝撃性,寸法安定性,消臭性能に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,引用発明3-1において,(B)ポリアミド系樹脂を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担持したポリアミド(A)」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,相違点6について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献3に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本願発明5について
ア 対比
本願発明5と引用発明3-2とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,
「ポリアミド(A)と熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練することで得られる熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって,熱可塑性樹脂(B)はゴム強化スチレン系樹脂を含む,熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5’
本願発明5では,ポリアミド(A)が,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時した」ものであるのに対して,引用発明3-2では,(B)ポリアミド系樹脂がそのようなものではない点。
・相違点6’
本願発明5では,熱可塑性樹脂(B)が,「ポリアミド樹脂を含まない」ものであるのに対して,引用発明3-2では,「(A)スチレン系樹脂」,「(C)カルボキシル基含有ゴム強化スチレン系樹脂」を含むものの,「ポリアミド樹脂を含まない」かどうか不明である点。
イ 相違点5’の検討
相違点5’は,上記(2)イで検討した相違点5と同様のものであるところ,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,引用発明3-2において,(B)ポリアミド系樹脂を,「下記化学式(II)で示される金属フタロシアニン化合物またはその塩の水溶液にポリアミドを入れることで得られた金属フタロシアニン化合物またはその塩をイオン染色により担時したポリアミド(A)」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,相違点6’について検討するまでもなく,本願発明5は,引用文献3に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本願発明2~4,6及び7について
本願発明2~4は,本願発明1を直接又は間接的に引用するものであり,本願発明6及び7は,本願発明5を直接引用するものであるが,上記(2)及び(3)で述べたとおり,本願発明1及び5が,引用文献3に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2~4,6及び7についても同様に,引用文献3に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり,本願発明1~7は,いずれも,引用文献3に記載された発明及び引用文献4~6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,本願について,理由3(進歩性)によって拒絶すべきものとすることはできない。
第5 むすび
以上のとおり,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-001719