特許拒絶査定不服審判
2019-000266
傾き及び/又は衝撃を感知する臓器運搬装置
- 審判番号
- 2019-000266
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-521696外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年01月10日
- 審決日
- 2019年09月18日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ライフライン サイエンティフィック インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 分類
- P18 .121-WY (A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-521696「傾き及び/又は衝撃を感知する臓器運搬装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月16日国際公開、WO2014/011561、平成27年 9月24日国内公表、特表2015-527998、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年7月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年7月10日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下の通りである。
平成27年 4月 8日 手続補正書の提出
平成29年 1月25日付け 拒絶理由通知
同年 6月27日 意見書、手続補正書の提出
同年11月28日付け 拒絶理由通知
平成30年 4月11日 意見書、手続補正書の提出
同年 9月 5日付け 拒絶査定
平成31年 1月10日 審判請求書、手続補正書の提出
同年 4月23日 上申書の提出
第2 原査定の概要
原査定(平成30年9月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1、4及び9に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本願の請求項2、3、5及び10に係る発明は、以下の引用文献1、2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また本願の請求項6~8に係る発明は、以下の引用文献1~4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
引用文献等一覧
1.特開平02-124801号公報
2.特開平02-111701号公報
3.特表2008-515914号公報
4.独国特許出願公開第102010015040号明細書
第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「前記コントローラは、前記角度が所定角度を超えなくなり、かつ、前記角度がそれまでに前記第2角度範囲を前記所定時間より超えなかった場合にのみ、前記灌流を再開するように構成されている」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、また前記補正は、当初明細書の段落【0032】等に記載されているから、新規事項を追加するものではないかについて検討する。
まず、上記補正は、臓器又は組織を灌流する装置において、当該装置を制御するように構成されたコントローラによる、所定角度における灌流再開条件を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本願の当初明細書の段落【0032】には、「コントローラ400は、装置10の姿勢が所定角度を超えなくなると、正常動作を再開することができる」と記載したうえで「コントローラ400は、第1角度範囲(例えば、0度超5度未満)が検出されると、ポンプ80を減速させ、第2角度範囲(例えば、5~10度)が検出されると、ポンプ80を停止することができる。また、コントローラ400は、第2角度範囲が所定時間超だけ維持されると、灌流を中止し、静的冷却保存をデフォルトで設定することができる。」と記載されており、“第2角度範囲が所定時間超だけ維持されると、灌流を中止”する場合のほか、“第2角度範囲が所定時間維持されなかった場合(傾斜角が第2角度を下回るようになった場合)にポンプを再駆動し灌流を再開させる”ことも含めて記載されていると認められるから、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。したがって上記補正は当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1~9に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。
第4 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明は、平成31年1月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(請求項1~9に係る発明を、それぞれ「本願発明1」~「本願発明9」という。)。
「【請求項1】
臓器又は組織を灌流する装置であって、
前記臓器又は組織を灌流するように構成されている灌流回路と、
当該装置の正常動作姿勢に対する当該装置の角度を検出するように構成されている傾き検出センサと、
前記傾き検出センサから受信する信号に基づいて当該装置を制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、第1角度範囲が検出されると、灌流を減速させ、第1角度範囲より高い第2角度範囲が検出されると、前記臓器又は組織の灌流を停止し、第2角度範囲が所定時間を超えて維持されると、灌流を終了し、静的冷却保存を行い、
前記コントローラは、前記角度が所定角度を超えなくなり、かつ、前記角度がそれまでに前記第2角度範囲を前記所定時間より超えなかった場合にのみ、前記灌流を再開するように構成されている、装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
当該装置が受けた衝撃を検出するように構成されている衝撃検出センサをさらに備える、装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記コントローラは、所定閾値を超えるレベルの衝撃又は振動を検出すると、前記臓器又は組織の灌流を停止する、装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記コントローラは、前記第2角度範囲より高い第3角度範囲が検出されると直ちに、静的冷却保存を設定する、装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記コントローラは、前記衝撃検出センサにより検出された前記衝撃が所定閾値を超えると、当該衝撃を記録するように構成されている、装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
記録済みの衝撃の履歴はユーザによりアクセス可能である、装置。
【請求項7】
請求項5記載の装置において、
記録済みの衝撃の履歴は遠隔からアクセス可能である、装置。
【請求項8】
請求項1記載の装置において、
前記傾き検出センサは、加速度計を備える、装置。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、
前記傾き検出センサは、3軸加速度計を備える、装置。」
第5 引用文献 引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1a)「2.特許請求の範囲
1.少なくとも臓器を収納する臓器収納室と、臓器に潅流液を供給する送液ポンプと、潅流液より気泡を除去するためのバブルトラップとを具える潅流回路を有する臓器保存装置において、臓器保存装置の転倒を検知する転倒検知手段と、この転倒検知手段からの信号を受けて臓器への送液を制限する送液制御手段とを設けたことを特徴とする臓器保存装置」
(1b)「本発明の目的はこのような従来の臓器保存装置における問題点を解決し、万一臓器の運搬中に臓器保存装置を転倒させた場合でも、バブルトラップに溜っていた空気を臓器に注入することがなく、貴重な臓器を安全確実に輸送できるようにした臓器保存装置を提供することである。」(第1頁右欄下から3行目~第2頁左上欄第3行)
(1c)「次に、第1図及び第3図を参照して運搬中に万一臓器保存装置を転倒もしくは著しく傾けた時の動作を説明する。
このような場合には、バブルトラップ12も臓器保存装置の傾斜と同じだけ傾くことにより、その為、バブルトラップ12の上方にたまっている空気層14は、フィルタ15の方へ移動する。ここで送液ポンプ9が動いたままであれば、その圧力により空気はフィルタ15を通り抜け送出口12bに達し、さらに臓器6内へ注入されることになるが、傾斜角センサ26が傾きを検知し、その信号を受けた制御回路22はただちに送液ポンプ9を停止させるように働く。一般に異常なく運搬される場合には、臓器保存装置が30°以上傾くことはない為、本実施例では、傾斜角センサ26が30°以上の傾きを検知した場合に、送液ポンプ9を停止するようにする。それにより、転倒時においても空気は全てフィルタ15までは進むが、それより先へ進むことはない。転倒または異常傾斜が解除された時点で、送液ポンプ9を再駆動させる。」(第4頁左上欄第7行~同頁右上欄第6行)(下線は、当審にて追加した。以下同様。)
(1d)「〔効果〕
以上詳述したように本発明の臓器保存装置は、臓器保存装置の転倒検知手段を設けるとともにこの転倒検知手段からの信号を受けて臓器への送液を制限する送液制御手段とを設ける構成としたため、摘出した臓器を運搬中に、万一臓器保存装置が転倒もしくは異常に傾いた場合にも、臓器へ空気が注入されることなく、貴重な臓器を安全・確実に運搬することができる極めて安全性の高い臓器保存装置である。」(第5頁左下欄第7行~第16行)
したがって、上記引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「少なくとも臓器を収納する臓器収納室と、臓器に潅流液を供給する送液ポンプと、潅流液より気泡を除去するためのバブルトラップとを具える潅流回路を有する臓器保存装置において、臓器保存装置の転倒を検知する転倒検知手段と、この転倒検知手段からの信号を受けて臓器への送液を制限する送液制御手段とを設けたことを特徴とする臓器保存装置。」(以下、「引用発明1」という。)
2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
1、臓器を収納保持する収納室と、この収納室内に収容した磁性流体と、この磁性流体に磁力を与え磁場を形成する磁場供給手段とを具え、前記磁性流体及び前記磁場により収納室内に収納した臓器を保持することを特徴とする臓器保存装置。」
(2b)「本発明の目的はこのような従来の臓器保存装置における問題点を解決し、保存すべき臓器を一部分に負担をかけることなく保持でき、かつ運搬時にも臓器に損傷を与えることを防止した、保存効果の高い臓器保存装置を提供することである。」(第1頁右欄下から3行目~第2頁左上欄第2行)
(2c)「〔作用〕
上記構成に基づく本発明の臓器保存装置は、外部磁場供給手段より磁性流体に供給される磁場により非磁性体である臓器を重力に逆らって浮遊させ、収容室の略々中心位置に保持し、磁力作用により臓器の側方移動を抑制するとともに、臓器を磁性流体中に浮遊させ、若しくは袋に収容した磁性流体又は弾力性のある含水ゴムに含ませた磁性流体上に載置するので、臓器の一部に負担が加わらないようにして臓器全体に弾力的に保持力を伝えることができる。また、臓器の側方移動が磁性流体及び磁力により抑制されているので、運搬の際に臓器が移動して収納室内壁と接触することがない。」
3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯用シャシを含む携帯用多重使用モジュールと;
頓用使い捨てモジュールであって、
前記多重使用モジュールと電子機械的に相互作動するように前記多重使用モジュールに前記頓用モジュールを相互鎖錠する大きさ及び形状とされた使い捨てシャシと、
前記使い捨てシャシに取り付けられ、潅流中に心臓を含有すると共に、心臓の大動脈に接続する第一インターフェースと心臓の肺静脈に接続する第二インターフェースとを含む、臓器チャンバ・アセンブリと、
ポンプからポンピング力を受け取ると共に、前記ポンピング力を潅流液に並進させて、潅流液を臓器チャンバ・アセンブリにポンプ注入するポンプ・インターフェースと
を含む、臓器管理システム。」
(3b)「【0009】
発明の概要
本発明は、多様な実施態様で従来技術の欠陥に対応し、移動可能なex-vivo臓器管理に関する優れたシステム、方法及び装置を提供するものである。より具体的には、多様な局面では、本発明は、移動可能なex-vivo心臓管理に関するシステム、方法及び装置を提供する。ある一つの進歩としては、本発明の心臓管理システムは、正常な生理的条件で、又は正常な生理的条件に近い条件で、心臓を拍動状態に維持するものである。この目的のために、本システムは、酸素付加された、栄養に富む潅流液を、生理的温度、圧力及び流速で、又は、生理的温度、圧力又は流速に近い温度、圧力又は流速で、心臓に循環させる。ある実施態様では、本システムは、正常な生理的条件をより精確に模倣するために、血液生成物ベースの潅流液を利用する。代替的な実施態様では、本発明は合成の血液代替溶液を用いるが、他の実施態様では、前記溶液に、血液生成物を血液代替物と組み合わせて含有させてもよい。」
(3c)「【0108】
再度図11を参照すると、データ管理サブシステム151は、種々の他のサブシステムからデータ及びシステム情報を受け取って保存する。操作者の希望に応じて、このデータ及び他の情報を携帯用記憶装置にダウンロードしてデータベース内に構成してもよい。保存されたデータ及び情報には、操作者がアクセスすることができ、操作者インターフェース・サブシステム146を通じて表示させることができる。
【0109】
操作者インターフェース・サブシステム146に戻ると、図17A-17Jは、操作者インターフェース・サブシステム146の多様な表示スクリーン例を示す。図17A-17Jの表示スクリーンにより、操作者は、システム100から情報を受け取り、システム100に命令を提供することができる。図17Aは、本発明のある例示的な実施態様によるトップ・レベルの「ホームページ」表示スクリーン400を示す。操作者は、この表示スクリーン400から、データ獲得サブシステム147から利用可能なデータの全てにアクセスすることができ、また、制御器150にいずれの所望の命令も提供することができる。図17B-17Jを参照して更に詳述するように、図17Aの表示スクリーン400により、更に操作者は、情報を得たり、命令を提供したり、 操作者の選択可能なパラメータを設定したりするために、より詳細な表示スクリーンにアクセスすることもできる。」
4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献4には、次の事項が記載されている(訳文にて示す。)。
(4a)「特許請求の範囲
1.生物学的材料を輸送および/または貯蔵するための容器(10)であって、生物学的材料を収容するためのチャンバ(12)と、前記チャンバ(12)を気密に閉鎖するための閉鎖要素(14)と、前記生物学的材料が前記チャンバ(12)内に収容されたときに前記生物学的材料を一定温度に維持するように設計された潜熱蓄熱器(16)と、を備えることを特徴とする容器。 」
(4b)「[0042]
本発明による容器の好ましい展開によれば、収容装置は、生物学的材料を実質的に水平な位置に保持し、及び/又は生物学的材料に対する容器の振動を緩衝するサスペンションを有する。
[0043]
この措置の利点は、生物学的材料が平らでない場合または傾いた場合でも、生物学的材料が常に実質的に水平な位置に保持され、振動に対して保護されることである。このようにして、例えば液体で覆われた細胞培養物が乾燥しないか、および/または強い傾斜または振動によって損傷を受けるか、または接着培養物の場合には土壌から除去されることが保証される。更に、危険な値を超える容器の傾きで警報信号を発する加速度計を設けることができる。」
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「臓器に潅流液を供給する送液ポンプと、潅流液より気泡を除去するためのバブルトラップとを具える潅流回路」は、本願発明1の「臓器又は組織を灌流するように構成されている灌流回路」に相当する。
引用発明1の「臓器保存装置」は「潅流回路」を有しているから、本願発明1の「臓器又は組織を灌流する装置」に相当する。
引用発明1の「臓器保存装置の転倒を検知する転倒検知手段」は、本願発明1の「装置の正常動作姿勢に対する当該装置の角度を検出するように構成されている傾きセンサ」に相当する。
また、引用発明1の「この転倒検知手段からの信号を受けて、臓器への送液を制限する送液制御手段」は、臓器保存装置を制御しているといえるから、本願発明1の「傾きセンサから受信する信号に基づいて当該装置を制御するように構成されたコントローラ」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1とは、「臓器又は組織を灌流する装置であって、前記臓器又は組織を灌流するように構成されている灌流回路と、当該装置の正常動作姿勢に対する当該装置の角度を検出するように構成されている傾きセンサと、前記傾き検出センサから受信する信号に基づいて当該装置を制御するように構成されたコントローラとを備える装置」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
装置の制御について、本願発明1では、
「コントローラは、第1角度範囲が検出されると、灌流を減速させ、
第1角度範囲より高い第2角度範囲が検出されると、前記臓器又は組織の灌流を停止し、
第2角度範囲が所定時間を超えて維持されると、灌流を終了し、静的冷却保存を行い、
前記コントローラは、前記角度が所定角度を超えなくなり、かつ、前記角度がそれまでに前記第2角度範囲を前記所定時間より超えなかった場合にのみ、前記灌流を再開するように構成されている」のに対し、引用発明1では、「送液を制限する」とされている点
(2)判断
ア.引用文献1には、摘記(1c)に、臓器保存装置が転倒または異常傾斜したときと、それらの状態が解除したときの動作について「本実施例では、傾斜角センサ26が30°以上の傾きを検知した場合に、送液ポンプ9を停止するようにする」及び「転倒または異常傾斜が解除された時点で、送液ポンプ9を再駆動させる。」と記載されるにとどまり、傾斜角検出センサが検出する角度範囲によって、“灌流(潅流)を減速させる”、“灌流(潅流)を停止する”、“灌流(潅流)を終了し、静的冷却保存を行う”というように、灌流(潅流)の方法を変えることは記載も示唆もされていない。加えて、灌流(潅流)を再開する場合についても、「前記角度が所定角度を超えなくなり、かつ、前記角度がそれまでに前記第2角度範囲を前記所定時間より超えなかった場合にのみ、前記灌流を再開する」という動作について何らの記載も示唆もない。
そうすると引用文献1は、臓器保存装置の傾きについて、30°を境とし灌流(潅流)の停止と再開とを制御することのみが記載されているのであって、装置の制御を「コントローラは、第1角度範囲が検出されると、灌流を減速させ、第1角度範囲より高い第2角度範囲が検出されると、前記臓器又は組織の灌流を停止し、第2角度範囲が所定時間を超えて維持されると、灌流を終了し、静的冷却保存を行い、前記コントローラは、前記角度が所定角度を超えなくなり、かつ、前記角度がそれまでに前記第2角度範囲を前記所定時間より超えなかった場合にのみ、前記灌流を再開する」というように、臓器保存装置の傾きを段階的に検出し、傾きに応じて灌流(潅流)を減速、停止、特定の条件を満たす場合に再開させることは当業者といえども容易に想到できるものではない。
イ.また本願発明1について、引用発明1と引用文献2~4に記載された事項との組合せにより、当業者が容易に発明をできたといえる可能性について検討するに、引用文献2~4には臓器を弾力的に保持し、臓器の収納室内壁との接触を防ぐこと(上記摘記(2a)~(2c))、臓器保存装置において、種々のデータ等をデータ管理サブシステムに保存することや、保存データ等に操作者がアクセスできるようにすること(上記摘記(3a)~(3c))、臓器保存容器に振動を緩衝するサスペンションや設定値を超えて傾いた場合に警告を発する加速度計を設けること(上記摘記(4a)、(4b))が記載されているのみで、傾斜角検出センサが検出する角度によって灌流の仕方を変えたり、特定の条件を満たした場合にのみ灌流(潅流)を再開するといった制御を行うことについて一切記載されていない。
そうすると、引用発明1と引用文献2~4に記載された事項との組合せによっても、前記アと同様に当業者といえども容易に想到できるものではない。
(3)効果について
本願発明1は、上記のような制御を行うことにより、灌流の中止時間が長引くことによる臓器又は組織の損傷を防止するとともに、有害物質が灌流浴や臓器に取り込まれることによる悪影響を避けて、臓器又は組織を安全に保存できるという効果を奏するものであって、この効果は、いずれの引用文献の記載からも当業者が予測できる範囲のものではない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1~4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2.本願発明2~9について
本願発明2、4、8及び9は、本願発明1を引用して、本願発明2は、装置が受けた衝撃を検出するように構成されている衝撃検出センサをさらに備えることを、本願発明4は、コントローラは、前記第2角度範囲より高い第3角度範囲が検出されると直ちに、静的冷却保存を設定する、という制御を行うことを、本願発明8は、傾き検出センサは加速度計を備えることを、請求項9は、傾き検出センサは3軸加速度計を備えることをそれぞれ限定したものである。
また本願発明3及び5は、本願発明2を引用して、本願発明3は、コントローラは、所定閾値を超えるレベルの衝撃又は振動を検出すると、前記臓器又は組織の灌流を停止する、という制御を行うこと、本願発明5は、コントローラは、前記衝撃検出センサにより検出された前記衝撃が所定閾値を超えると、当該衝撃を記録するように構成されていることをそれぞれ限定したものである。
さらに本願発明6及び7は、本願発明5を引用して、本願発明6は、記録済みの衝撃の履歴はユーザによりアクセス可能であることを、本願発明7は、記録済みの衝撃の履歴は遠隔からアクセス可能であることをそれぞれ限定したものである。
このように、本願発明2~9は、本願発明1を直接的あるいは間接的に引用した上で、さらに技術的に限定した発明であるから、本願発明1の「装置」の発明特定事項を備えるものであり、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1~4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 むすび
以上の通り、本願発明1~9は、引用文献1~4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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