意匠無効審判
2018-880003
トレーニング機器
- 審判番号
- 2018-880003
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 意願2017-001528外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年02月28日
- 審決日
- 2018年10月23日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- D1113.113-Y (J7-1)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第3条第1項第3号、意匠法第10条、意匠法第48条第1項、意匠法第52条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の意匠登録第1593189号「トレーニング機器」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件意匠登録第1593189号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、平成29年(2017年)1月30日に意匠登録出願(意願2017-1528)されたものであって、審査を経て同年11月24日に意匠権の設定の登録がなされ、同年12月18日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。
・本件審判請求 平成30年 2月28日
・審判事件答弁書提出 平成30年 5月11日
・審判事件弁駁書提出 平成30年 7月12日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成30年 9月 6日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成30年 9月19日
・口頭審理 平成30年10月 3日
第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、請求の趣旨を
「登録第1593189号意匠の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を、おおむね以下のとおり主張し(「審判事件弁駁書」及び「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)、その主張事実を立証するため、後記5に掲げた甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
1 意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠(甲第1号証。別紙第1参照。)は、甲の所有に係る意匠登録第1536247号(以下「引用意匠」という。甲第2号証。別紙第2参照。)の意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。
2 意匠登録を無効とすべき理由
(1)引用意匠の説明と位置づけ
引用意匠は、物品の名称を「トレーニング機器」とし、その形態は、第1536247号意匠公報(以下「甲第2号証」)に掲載されたとおりである。
引用意匠は、平成27年2月19日に出願され、審査の過程で、何らの先行意匠を提示されることもなく、同年9月18日に登録されている。
(2) 引用意匠と本件登録意匠の要旨
ア 引用意匠の要旨は、以下のとおりである。
(ア)基本的構成態様
a 6枚のパッド片からなるパッド部と、円形の電池部とを有し、
b 6枚のパッド片は、2列3段組みとして、電池部を中心に、左右対称に略横長矩形状に配置され、
c 電極部は、各パッド片の裏面に配置され、その一部が電池部に連接されているトレーニング機器。
(イ)具体的構成態様
a 電池部は、パッド部の中央に配置されている。
b 中段のパッド片は、電池部を挟んで略水平に配置され、上段のパッド片は、左右共にやや上方に傾斜して配置され、下段のパッド片は、左右共に略水平に配置され、左右ともにやや先細りとなり、下辺が外上方に傾斜している。
c 1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間は、先細りとなっており、その先端は尖っている。
d パッド部上辺の輪郭は、中央に向かってやや内方に直線的に傾斜し、下辺の輪郭は、中央部から外上方に向かって、直線的に傾斜しており、上辺及び下辺の中央部において、先細りの切り込みを有しており、その先端は鋭角である。
e 6枚の各パッド片の表面には、隅丸5角形の隆起部があり、隆起部の外周には3本の溝を有し、その外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されている。
f パッド部表面の周縁は、全周にわたってテーパー状に傾斜している。
g 電池部は、先端がパッド部から突出しており、表面上下に+と-が表示されている。
h 電池部とパッド片の間に4個の小穴が穿設されている。
i 電極部は隅丸長方形状をなし、中央3段を大、その外側の1段を中、その外の2段を小とする横列の小穴を有し、各横列の小穴はその上下の小穴と千鳥状をなすように配置されている。
j パッド部裏面中央には二重円形の電池部が配置され、その中央に蓋開閉用のコイン掛けが凹設された電池蓋を有し、その周縁に細溝が凹設されている。
k パッド部の地色は限定されていない。
イ 本件登録意匠の要旨は、以下のとおりである。
(ア)基本的構成態様
a 6枚のパッド片からなるパッド部と、円形の電池部とを有し、
b 6枚のパッド片は、2列3段組みとして、電池部を中心に、左右対称に略横長矩形状に配置され、
c 電極部は、各パッド片の裏面に配置され、その一部が電池部に連接されているトレーニング機器。
(イ)具体的構成態様
a 電池部は、パッド部の中央に配置されている。
b 中段のパッド片は、電池部を挟んで略水平に配置され、上段のパッド片は、左右共にやや上方に傾斜して配置され、下段のパッド片は、上段のパッド片と対称に配置されており、パッド部は上下にも対称である。
c 1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間は、先細りとなっており、その先端は円弧状をなしている。
d パッド部の上辺及び下辺の輪郭は中央に向かってやや内方に傾斜し、上辺から側辺にかけて湾曲し、上辺に相当する部分がやや上方に傾斜し、側辺に相当する部分がやや下方に傾斜しており、上辺及び下辺の中央部において先細りの切り込みを有しており、その先端は円弧状をなしている。
e 6枚の各パッド片の表面には、上段M型、下段W型、中段チャンピオンペルト状のごとき陰影が認められ、これに対応する隆起部の存在が窺われ、上段と下段の各パッド片には、その周縁に沿って線模様が施されている。
f パッド部表面の周縁は、上記隆起部と窺われる陰影の周縁から各パッド片周縁にわたってテーパー状に傾斜している。
g 電池部は、先端がパッド部から突出しており、表面上下に+と-が表示されている。
h 電池部とパッド片の間に小穴は穿設されていない。
i 電極部は、上段と下段は、反った葉脈を有する木の葉状をなし、中段は、規則正しい葉脈を有する略隅丸矩形状をなしている。
j パッド部裏面中央には二重円形の電池部が配置され、その中央に蓋開閉用のコイン掛けが凹設された電池蓋を有し、その周縁には細溝が凹設されていない。
k パッド部の地色は黒色である。
ウ 引用意匠と本件登録意匠との対比
(ア)「意匠に係る物品」
引用意匠の「意匠に係る物品」は、登録意匠公報(甲第2号証)該当欄のとおり「トレーニング機器」であるところ、本件登録意匠もトレーニング機器であり、物品は同一である。
(イ)引用意匠と本件登録意匠の対比
【引用意匠と本件登録意匠の共通点】
引用意匠と本件登録意匠は、以下の態様において共通している。
a 共通点1:すべての基本的構成態様
b 共通点2:具体的構成態様のうち、電池部が、パッド部の中央に配置されている点
c 共通点3:具体的構成態様のうち、電池部は、先端がパッド部から突出しており、表面上下に+と-が表示されている点
【引用意匠と本件登録意匠の差異点】
引用意匠と本件登録意匠は、以下の具体的構成態様において差異がある。
a 差異点1:パッド片の配置構成において、引用意匠は、上下には非対称であるのに対し、本件登録意匠は上下にも対称である点
b 差異点2:1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間について、引用意匠は、先細りの先端が尖っているのに対して、本件登録意匠は、先細りの先端が円弧状である点
c 差異点3:パッド片の配置構成において、引用意匠は、上段のパッド片は上辺から側辺にかけて湾曲しておらず、下段のパッド片は下辺から側辺にかけて湾曲していないのに対し、本件登録意匠は、上段のパッド片は上辺から側辺にかけて湾曲しており、下段のパッド片は下辺から側辺にかけて湾曲している点
d 差異点4:パッド部上辺及び下辺中央部に有する先細りの切り込みにおいて、引用意匠は、パッド部の上辺及び下辺の中央部において先細りの切り込みを有しており、その先端が鋭角であるのに対して、本件登録意匠は、中央部において円弧状である点
e 差異点5:パッド片表面の模様において、引用意匠は、隅丸5角形の隆起部を有し、その隆起部の外周には3本の溝を有し、その外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されているのに対し、本件登録意匠は、上段M型、下段W型、中段チャンピオンペルト状の隆起部があり、上段と下段の各パッド片には、その周縁に縁取り線が施されている点
f 差異点6:パッド部表面の周縁におけるテーパー状の傾斜部において、引用意匠は同幅であるのに対して、本件登録意匠は同幅でない点
g 差異点7:電池部とパッド片間の小穴において、引用意匠は、電池部とパッド片の間に4個の小穴が穿設されているのに対し、本件登録意匠は、小穴は穿設されていない点
h 差異点8:電極部において、引用意匠は、隅丸長方形状をなし、中央3段を大、その外側の1段を中、その外の2段を小とする横列の小穴を有し、各横列の小穴はその上下の小穴と千鳥状をなすように配置されているのに対し、本件登録意匠は、上段と下段は、反った葉脈を有する木の葉状をなし、中段は、規則正しい葉脈を有する略隅丸矩形状をなしている点
i 差異点9:パッド部裏面中央の構成において、引用意匠は、電池蓋の周縁に細溝が凹設されているのに対し、本件登録意匠は、電池蓋の周縁に細溝が凹設されていない点
j 差異点10:パッド部の地色が本件登録意匠では黒色である点
(3)類否の判断
意匠の類否の判断は、当該意匠に係る物品の取引者・需要者において、視覚を通じて最も注意を惹かれる部分をその意匠の中から抽出し、当該部分(要部)の共通点及び差異点を検討した上、その他の部分の共通点及び差異点についても検討し、これらを勘案した結果、全体として、美感を共通にするか否かを基本として行うべきである。
ア 引用意匠の要部
登録意匠について、当該意匠に係る物品の取引者・需要者が、視覚を通じて最も注意を惹かれる部分、すなわち、意匠の要部を把握するに際しては、当該意匠の出願時点における公知又は周知の意匠等を参酌するとともに、当該意匠において新規な美感をもたらすべき創作性の程度の評価等を踏まえて、これを検討すべきものである。
イ 共通点の評価
(ア)共通点1の基本的構成態様は、引用意匠の要部をなす部分であり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいというべきである。
(イ)共通点2の、電池部が、パッド部の中央に配置されている点は、4枚のパッド片を有する意匠では公知のものであるが、6枚のパッド片を有する意匠において中央に配置されている公知例はなく、類否判断に及ぼす影響は大きい。
(ウ)共通点3の、電池部は、先端がパッド部から突出しており、表面上下に+と-が表示されており、表面左右に+と-が表示されている点は、4枚のパッド片を有する意匠において先端がパッド部から突出している意匠は公知であるが、6枚のパッド片を有する意匠においては、公知例に開示がなく、中央部の目立つ部分であり、類否判断に及ぼす影響は大きい。
ウ 差異点の評価
これに対し、具体的構成態様における各差異点は、以下に述べるように、形態全体としてみた場合、格別、看者の注意を引くとはいえない。
(ア)差異点1(パッド片の配置)について
本件登録意匠パッド片の上下対称配置による下方における差異感は、2列3段左右対称配置の基本的構成の共通感に埋没して、類否判断に及ぼす影響は微小である。なお、上下対称意匠も本件登録意匠の関連意匠として登録されている。
(イ)差異点2(パッド片間の隙間)について
極めて細部にわたる差異で、類否判断に与える影響は微小である。
(ウ)差異点3(パッド部の輪郭)について
本件登録意匠パッド部の上段及び下段の2辺が湾曲している点において相応の差異はあるが、上段のパッド片が、左右共にやや上方に傾斜して配置されていることによる上辺中央部における内方への傾斜感を共通にし、かつ、下段のパッド片においても、湾曲部の側辺部が上方に傾斜して先細りとなっていることによる下辺の上方への傾斜感を共通にし、両者の差異感を減殺しており、類否に与える影響は大きくはない。
(エ)差異点4(パッド部上辺及び下辺中央部における切り込み)について
極めて細部にわたる差異であって、類否判断に与える影響は微小である。
(オ)差異点5(パッド片表面の模様)について
引用意匠は、隅丸5角形の隆起部を有し、その隆起部の外周には3本の溝を有し、その外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されているのに対し、本件登録意匠は、上段M型、下段W型、中段チャンピオンベルト状の隆起部と窺える陰影があり、上段と下段の各パッド片には、その周縁に縁取り線が施されている点において差異があるが、両意匠の隆起部の周縁に沿ったテーパー部の存在によって目立つものではなく、また引用意匠の線模様と本件登録意匠の縁取り線は、ともにパッド片周縁の縁取りであり、両意匠の類否判断を左右する要素にはならないというべきである。
(カ)差異点6(テーパー状の傾斜部)について
引用意匠は同幅であるのに対して、本件登録意匠は同幅ではない点で差異を有するが、隆起部から周縁部にかけてなだらかな裾野のごとき傾斜部を構成していることから視覚上目立つものではなく、類否の判断に与える影響は微小である。
(キ)差異点7(電池部とパッド片間の小穴)について
引用意匠には、電池部とパッド片の間に4個の小穴が穿設されているのに対し、本件登録意匠には小穴が穿設されていない点において差異があるが、穴は小さく、形状もありふれたもので、両意匠の類否判断を左右する要素にはならないというべきである。
(ク)差異点8(電極部における非導電部の模様)について
引用意匠は、隅丸長方形状をなし、中央3段を大、その外側の1段を中、その外の2段を小とする横列の小穴を有し、各横列の小穴はその上下の小穴と千鳥状をなすように配置されているのに対し、本件登録意匠は、上段と下段は、反った葉脈を有する木の葉状をなし、中段は、規則正しい葉脈を有する略隅丸矩形状をなしている点は、相応の差異感を奏するが、電極部が周縁を残してパッド片の略全面に形成されている共通感によって差異感が減殺されており、その差異による意匠の類否判断への影響は微弱である。
ちなみに、電極部について本件登録意匠と大きく異なる意匠も、本件登録意匠の関連意匠として登録されている。
(ケ)差異点9(電池部の構成)について
引用意匠は、電池部の二重円の外側の円には、細溝が凹設されており、本件登録意匠は、かかる細溝が凹設されていない点で差異を有するが、微細な差異であって、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微小である。
(コ)差異点10(パッド部の地色)について
本件登録意匠のパッド部の地色は黒色であるのに対して、引用意匠には色彩が施されていない点で差異を有するが、引用意匠は、地色に関する色彩の限定がなく、白黒を反転させた意匠を含むものであり、両意匠の類否判断には影響を及ぼさない。
エ 小括
以上に述べたように、引用意匠と本件登録意匠は、意匠の要部を共通にし、美感の同一性をもたらしているところ、上記差異点1ないし10のもたらす意匠的な効果は、この共通点による美感の同一性を凌駕し類否判断を左右するほどのものとは認められない。
よって、本件登録意匠は、引用意匠に類似する。
(4)むすび
したがって、本件登録意匠は、引用意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。
3 「審判事件弁駁書」における主張
(1)本件登録意匠を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠と引用意匠の類似性について
引用意匠について被請求人が主張する基本的構成態様は誤りである。すなわち、
(ア)被請求人が主張する本件登録意匠の基本的構成態様は以下のとおりである。
a 3枚のパッド片からなるパッド部と、円形の電池部とを有し、
b 3枚のパッド片は、上段パッド・中段パッド・下段パッドの3段組みに、左右対称及び上下対称に略横長短形状に配置され、
c 上段パッド及び下段パッドが、楓の種をモチーフにしており、
d 電池部は、円形のコントローラー(強弱調整ボタン)であり、パッド部の中央に配置され、
e 電池部は先端がパッド部から突出しており、表面に+と-及び電源ボタンが表示され、
f 電極部は各パッド片の裏面に配置され、その一部が電池部に連接されていて、
g 電池部とパッド片の間に4個の通気孔(小穴)が穿設されていないトレーニング機器。
(イ)上記被請求人の主張の誤りは、以下のとおりである。
a 本件登録意匠を構成するパッド片の数は、「3枚」ではなく外観上明らかに6枚である。
被請求人は、上記cにおいて、上段パッド及び下段パッドは、楓の種をモチーフにしていると主張しているが、楓の種は、鳥が羽根を広げたように左右対称に2個くっついた状態のものであるから、上段及び下段のパッドは、外観上、2枚のパッド片が左右対称に並べられた構成をなしており、これを「3枚のパッド片」とする被請求人の主張は、基本的構成態様の差異を作出するための詭弁としか言いようがない。
b 次に、意匠の基本的構成態様とは、「意匠の形態を大づかみにした場合の基本的構成態様に属する事項」、すなわち、「意匠の骨格的な構成態様」をいうものである。
しかるところ、「電池部の表面に+と-及び電源ボタンが表示されていること」(e)は、細部にわたる構成であり、基本的構成態様たり得ない。
審判請求書でも述べたとおり、引用意匠は、この種の商品分野において、先行意匠のない、全く新たな意匠であり、それを実施した請求人商品は商業的にも大きな成功を収め、今日、日常でも頻繁にテレビCMなどでその形態を目にするほどである。
このように、先行意匠がなく、斬新性の高い引用意匠にあっては、その基本的構成様態は、広く大づかみに把握されるべきであり、事実、関連意匠も多く、かつ、広く認められていることに鑑みて、その基本的構成態様は、審判請求書に記載したとおり、広く認定されるべきものである。
そして、審判請求書記載のとおり、本件登録意匠は、引用意匠と基本的構成態様を共通にしており、基本的構成態様の新規性、斬新性の高さによる両意匠の美感の共通感は、両意匠の具体的構成態様における差異感をはるかに凌ぐものであって、本件登録意匠は引用意匠に類似するものである。
(ウ)引用意匠とその関連意匠群について
ここで引用意匠の関連意匠群について述べる。
引用意匠には、6件の関連意匠が登録されていることは、甲第6号証に示したところであるが、各関連意匠に説明用の番号を付したものを甲第6号証の2(別紙第3参照)としてここに提示し、引用意匠と6件の関連意匠からなる請求人の登録意匠網と本件登録意匠の位置づけについて以下のとおり主張する。
a 7件の登録意匠網に共通する構成
(a)複数個のパッド片が左右対称に配置されている。
(b)電池部(操作部)がパッド部の中央に配置されている。
b 関連意匠から見る引用意匠のバリエーション幅(括弧内の数字は、甲第6号証の2において関連意匠に付された数字)
(a)パッド片の枚数は、2枚の範囲内における増減をカバーする(1、2)。
(b)パッド片配置の段数は、2段の範囲内における増減をカバーする(1、2)。
(c)パッド片の左右端の形状は、円弧状をカバーする(4)。
(d)パッド片の配置は、上下対称をカバーする(5)。
(e)パッド片表面の模様は、模様のないもの(3)および先端円弧状(4)をカバーする。
(f)パッド片裏面の電極部形状は、周縁部を残した正方形(3)および円形(4)をカバーする。
(g)パッド部上下中央部の形状は、切れ込みのないもの(6)をカバーする。
(エ)7件の登録意匠網から見る引用意匠の類似範囲の射程と本件登録意匠の位置づけについて
a 本件登録意匠のパッド片は、2列3段、かつ、左右対称に配置されており、引用意匠と共通する。
b 本件登録意匠のパッド片は、上下にも対称に配置されているが、請求人登録意匠網の射程にカバーされる(5)。
c 本件登録意匠のパッド片表面の模様は、上段と下段のパッド片は周縁部を残した隆起部と周縁の線模様、中段のパッド片は周縁部を残した隆起部、とから構成され、上段および下段のパッド片の先端形状は円弧状を構成するが、いずれも請求人登録意匠網(3、4)の射程にカバーされる。
d 本件登録意匠のパッド片裏面の電極部形状は、周縁部を残した木の葉の葉脈状をなしているが、請求人登録意匠網(3、4)の射程にカバーされる。
e 本件登録意匠のパッド部上下中央部切れ込みの形状は、先端が円弧状をなしているが、(6)の切れ込みのないものも関連意匠として登録されており、請求人登録意匠網の射程にカバーされる。
以上を総合して考察すれば、本件登録意匠が引用意匠の類似範囲に属することは明らかである。
4 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)被請求人の審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書の主張について
被請求人の口頭審理陳述要領書における主張(概要は後記第3の2参照)は、答弁書における主張(概要は後記第3の1参照)と実質同一である。そして、これら主張に対する請求人の意見は、平成30年7月12日提出の審判事件弁駁書における主張(概要は前記3参照)に概ね尽くされている。
(2)両意匠の対比
引用意匠は、[1]6枚のパッド片、[2]2列3段・左右対称配置、[3]中央に電池部(操作部)、[4]略横長矩形状配置のパッド部、を要部とし、かかる要部は、先行意匠に比して高い独創性を有する。
本件登録意匠は、引用意匠と要部を共通にし、a)上・下段のパッド片の形状、b)上・下段のパッド片の上下対称性、c)表(おもて)面の線模様、d)中央部4個の小孔の有無の4点において差異を有する。本件登録意匠は、引用意匠と要部を共通にし、上記4点において差異点を有する。
(3)まとめ(総合評価)
引用意匠の要部は、先行意匠に照らして、独創性・斬新性が極めて高く、看者の目を強く引くものである。
本件登録意匠と引用意匠の共通点は、引用意匠の要部である。
本件登録意匠における差異点は、微細な改変に過ぎない。
よって、かかる差異点は、要部を共通にする両意匠の美感の共通性を凌駕するものではなく、両意匠は類似する。
5 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲号証(全て写しであると認められる。)を、審判請求書及び審判事件弁駁書の添付書類として提出した。
甲第1号証 本件登録意匠(登録第1593189号意匠公報)
甲第2号証 引用意匠(登録第1536247号意匠公報)
甲第3号証の1~4 先行意匠(引用意匠の審査において参考意匠
とされた公知意匠)
甲第4号証 報告書
甲第5号証 近時のEMSトレーニング機器の販売状況一覧表
甲第6号証 登録第1536247号意匠とその関連意匠登録
状況
甲第6号証の2 引用意匠とその関連意匠による登録意匠網
甲第7号証の1~4 仮処分命令申立書、主張書面、仮処分決定、
更正決定
甲第8号証 意匠権侵害差止等請求事件訴状(大阪地裁)
甲第9号証 株式会社インテージ「SIXPAD認知度
調査報告書」
甲第10号証 甲第9号証に関する報告書
甲第11号証 別件意匠権侵害事件における被告(被請求人)
の答弁書
第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は、審判事件答弁書を提出し、答弁の趣旨を
「本件審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し、その理由を、要旨以下のとおり主張した(「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)。
1 答弁の理由
本件登録意匠は、引用意匠とは類似するものではなく、意匠法第3条第1項第3号の規定には該当しないことから、無効理由は存在しない。以下、その理由を述べる。
(1)本件登録意匠と引用意匠の対比
ア 両意匠に係る物品
引用意匠の「意匠に係る物品」は、登録意匠公報(甲第2号証。別紙第2参照。)該当欄のとおり「トレーニング機器」であるところ、本件登録意匠も「トレーニング機器」であり、物品は同一である。
イ 両意匠の形態
【本件登録意匠と引用意匠の共通点】
本件登録意匠と引用意匠は、以下の構成態様において共通している。
(ア)共通点1:全体が、正面から見て左右対称である点
(イ)共通点2:電池部が、円形のコントローラー(強弱調整ボタン)である点
(ウ)共通点3:電池部が、パッド部の中央に配置されている点
(エ)共通点4:電池部は先端がパッド部から突出しており、表面上下に十と一が表示されている点
(オ)共通点5:電極部は各パッド片の裏面に配置され、その一部が電池部に連接されている点
【本件登録意匠と引用意匠の差異点】
本件登録意匠と引用意匠は、以下の構成態様において差異がある。
基本的構成態様として、
(ア)差異点1:本件登録意匠は、3枚のパッド片が上段パッド・中段パッド・下段パッドの3つのパッド部を構成しているのに対し、引用意匠は、6枚のパッド片がそれぞれ独立して6つのパッド部を構成している点
(イ)差異点2:パッド片の配置構成において、本件登録意匠は電池部を中心に上下対称及び左右対称であるのに対し、引用意匠は電池部を中心に放射線状に拡がっている点
(ウ)差異点3:本件登録意匠は、上段パッド及び下段パッドが楓の種をモチーフにしているのに対し、引用意匠は、各パッド片が鍛え上げられて引き締まった腹筋を構成する6つの筋肉をモチーフにしている点
(エ)差異点4:本件登録意匠は、通気孔(小穴)は穿設されていないのに対し、引用意匠は、電池部とパッド片の間に4個の通気孔(小穴)が穿設されている点
具体的構成態様として、
(オ)差異点5:上段パッドと中段パッド及び中段パッドと下段パッドの隙間について、本件登録意匠は、同幅の先端が円弧状であるのに対し、引用意匠は、先細りの先端が尖っている点
(カ)差異点6:パッド片の配置構成において、本件登録意匠は、上段パッド片は上辺から側辺にかけて湾曲しており、下段パッド片は下辺から側辺にかけて湾曲しているのに対し、引用意匠は、上段パッド片は上辺から側辺にかけて湾曲しておらず、下段パッド片は下辺から側辺にかけて湾曲していない点
(キ)差異点7:本件登録意匠は、パッド部上辺及び下辺の中央部において、くぼみを有しており、その先端が円弧状であるのに対して、引用意匠は、パッド部の上辺及び下辺の中央部において先細りの切り込みを有しており、その先端が鋭角である点
(ク)差異点8:パッド片表面の模様において、本件登録意匠は、上段略M型、下段略W型、中段チャンピオンベルト状の隆起部があり、上段と下段の各パッド片には、その周縁の一部に縁取り線が施されているのに対し、引用意匠は、隅丸5角形の隆起部があり、その隆起部の外周には3本の溝を有し、その外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されている点
(ケ)差異点9:パッド部表面の周縁におけるテーパー状の傾斜部において、本件登録意匠は同幅でないのに対し、引用意匠は同幅である点
(コ)差異点10:電極部において、本件登録意匠は、上段と下段は、反った葉脈を有する木の葉状をなし、中段は、規則正しい葉脈を有する略隅九矩形状をなしているのに対し、引用意匠は、隅丸長方形状をなし、中央3段を大、その外側の1段を中、その外の2段を小とする横列に略六角形状の小穴を有し、各横列の小穴は、その上下の小穴と千鳥状をなすように配置されている点
(サ)差異点11:パッド部裏面中央の構成において、本件登録意匠は、電池蓋の周縁に細溝が凹設されていないのに対し、引用意匠は、電池蓋の周縁に放射線状に細溝が凹設されている点
(シ)差異点12:パッド部の地色が本件登録意匠では黒色である点
(2)両意匠の類否判断
以上の一致点、共通点及び差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価及び総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。
ア 両意匠に係る物品の評価
両意匠に係る物品は一致するところ、トレーニング機器、すなわち電極を通じて微弱電流を流して筋肉を刺激する機器(以下「この種の機器」という。)は、両意匠のほかにもありふれて見られるから、両意匠に係る物品が一致することによる、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
イ 両意匠の形態についての共通点の評価
共通点1乃至5は、(ア)全体が正面から見て左右対称であり、(イ)電池部が円形のコントローラーで構成され、(ウ)電池部がパッド部の中央に配置され、(エ)電池部の先端がパッド部から突出しており、表面に+と-が表示されており、(オ)電極部は各パッド片の裏面に配置され、その一部が電池部に連接されている点である。
なお、請求人は、引用意匠を出願した後に、8枚のパッド片からなるトレーニング機器(関連意匠1。別紙第3の1。)と4枚のパッド片からなるトレーニング機器(関連意匠2。別紙第3の2。)について、引用意匠を本意匠とする関連意匠として出願している。
上記の関連意匠の構成態様からすると、請求人は出願時において、各パッド片の形態やパッド片間の切り込み部、隅丸5角形の隆起部、縁取りの線模様、電池部周りに穿設された通気孔(小穴)等を引用意匠の要部として捉えて、これらが共通する8枚のパッド片からなるトレーニング機器と4枚のパッド片からなるトレーニング機器を引用意匠の関連意匠として出願している。
すなわち、請求人は、6枚のパッド片からなる構成は、引用意匠の要部として捉えてはおらず、類否判断の判断基準から除外している意思表示をしていることが明確である。
そして、上記引用意匠の要部は、一つとして本件登録意匠の構成要素に含まれていない。
ウ 両意匠の形態についての差異点の評価
(ア)基本的構成態様の差異点
a 差異点1(パッド片の数)について
差異点1について検討すると、本件登録意匠は、上段パッドには略M字の隆起部及びその周縁の一部に縁取り模様があり、中段パッドにはチャンピオンベルト状の隆起部があり、下段パッドには略W字の隆起部及びその周縁の一部に縁取り模様があることから、本件登録意匠は、上段パッド・中段パッド・下段パッドの3つのパッド片によって構成されている印象を与える。
これに対し、引用意匠は、パッド片のそれぞれに隅丸5角形の隆起部を有し、その隆起部の外周には3本の溝を有し、その外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されていることから、独立して6つのパッド片を構成している印象を与える。
このことから、本件登録意匠は、専ら腹部の脂肪を減らすことを目的とした、ダイエット向けの製品である印象を与えるのに対し、引用意匠は、腹筋を構成する6つの筋肉を鍛えることを目的とした、専らアスリートが腹筋を鍛える(トレーニング)製品である印象を与える。
したがって、差異点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
なお、請求人は、特開2016-202690の明細書【0051】において、「(中略)さらに、かかる形状であると認識されることにより、腹部3が引き締まって腹筋が割れたイメージを使用者に想起させることができる。これにより、筋肉電気刺激装置1を使用することにより、腹筋が割れて引き締まった腹部3とするためのイメージトレーニングの効果が得られる。(イメージトレーニングによる運動効果の向上は一般によく知られている。)」と記載している(乙第4号証。別紙第4参照。)。
このことから、請求人は、引用意匠を、鍛え上げられた6つに割れた腹筋をイメージさせるトレーニング機器として捉えていることは明らかである。
b 差異点2(パッドの配置)について
差異点2は、本件登録意匠は、上段パッド・中段パッド・下段パッドが、電池部を中心に上下対称及び左右対称であるのに対し、引用意匠は、電池部を中心に放射線状に拡がった印象を与える。
このことから、本件登録意匠パッド片の上下対称配置による下方における差異感は、左右対称配置の基本的構成の共通感に埋没することはない。
したがって、差異点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
なお、請求人は、上下対称の引用意匠の関連意匠についても言及しているが、当該関連意匠と本件登録意匠を対比しても、両者の視覚的印象は全く異なる。
c 差異点3(パッドのモチーフ)について
差異点3は、本件登録意匠の上段パッド及び下段パッドは、楓の種をモチーフにしているため、上辺及び下辺が湾曲した一つながりのパッド片となっている。
これに対し、引用意匠は、6枚のパッド部及び請求人が意図する引用意匠のイメージトレーニングの効果を考え合わせると、腹筋を構成する6つの筋肉をモチーフとしているものと推察できる。
そして、上記モチーフの差異は、本件登録意匠は、穏やかで、優しく柔らかな印象を与えるのに対し、引用意匠は、変化に富み、躍動的で活気のある印象を与えるといえ、両意匠が正反対の印象を与える。
したがって、差異点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
d 差異点4(通気孔(小穴)の有無)について
差異点4は、本件登録意匠は、通気孔(小穴)が設けられていないのに対して、引用意匠は、コントローラーの斜め上下左右に略隅丸3角形状の通気孔(小穴)が設けられているというものである。そして、この種の機器は、体に密着するように取り付けるものであることを考慮すると、この通気孔(小穴)を有する引用意匠は、需要者に、空気がたまりやすい本体中央を密着して取り付けできるように、また発汗による通気性を確保するためといった、細やかな配慮がなされているという印象を与える。
これに対して、本件登録意匠は、そのような印象を与えないから、通気孔(小穴)自体が小さいものであるとしても、差異点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
この差異点1乃至4は、両者の基本的構成態様による差異であるところ、両意匠に係る物品が、主に腹部のトレーニングに使用されることを合わせて考えると、差異点1乃至4に係る引用意匠のパッドの形態から、需要者は、トレーニングによって鍛えられて、引き締まった腹筋を想起し、力強い印象を受けるだけでなく、意匠に係る物品を使用することによって達成しようとする目標に沿う印象を需要者に与える。
これに対して、本件登録意匠のパッドの形態から、そのような力強い印象を受けることはないから、差異点1乃至4による視覚的印象は、両意匠において全く異なる。
(イ)具体的構成態様の差異点
e 差異点5(パッド片間の隙間)について
差異点5は、本件登録意匠のパッド片間の隙間は、ほぼ同幅で先端部が円弧状であることから、穏やかで静かな印象を与える。
これに対して、引用意匠のパッド片間の隙間は、略「V」字状であることから、鋭く勢いのある印象を与えるものである。このことから、差異点5は極めて細部にわたる差異ではない。
したがって、差異点5が意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
f 差異点6(パッド部の輪郭)について
差異点6について検討すると、本件登録意匠の本体は、上段のパッド及び下段のパッドが楓の種をモチーフとした湾曲したプロペラ形状をなし、中段のパッドが、略横長隅丸矩形状であり、全体的に、曲線的な輪郭を有し、緩やかで柔らかい印象を与える。
これに対して、引用意匠は、中段パッドが略横長隅丸矩形状で、左右端が若干上に傾くように配置され、上段パッドが略横長隅丸5角形状で、左右端が中段パッドよりも上に傾くように配置され、下段パッドが略横長隅丸5角形状で、左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置されており、全体的に直線的で鋭角な輪郭を有し、鋭く硬い印象を与えるといえることから、両意匠が正反対の印象を与える。
したがって、差異点6が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいというべきである。
g 差異点7(パッド部上辺及び下辺中央部における切込み)について
差異点7は、本体の上片及び下辺中央の切込みが、本件登録意匠は浅いくぼみで、その先端部が円弧状であることから、穏やかで静かな印象を与えるのに対して、引用意匠は略「V」字状であることから、鋭く勢いのある印象を与える。このことから、差異点7は極めて細部にわたる差異ではない。
したがって、差異点7が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
h 差異点8(パッド片表面の模様)について
差異点8は、パッド片表面の模様が、本件登録意匠には、上段パッドに略M字状、中段パッドにチャンピオンベルト状、下段パッドに略W字状のテーパー状の傾斜部が設けられ、外周を縁取る線模様が上パッド及び下パッドの一部のみに設けられている。
これに対して、引用意匠は、外周を縁取る線模様がパッドごとに分断して合計6つ設けられ、その内側に、各パッドの外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が、相似形に3本施されているというものである。そのため、本件登録意匠は、全てのパッドが一体である印象を与えるのに対し、引用意匠は、線模様や線溝により、各パッドが独立して浮き上がったような印象を強く与える。このことから、差異点8は両意匠の類否判断をする上で極めて重要な要素であり、両者の差異を決定づけるものである。
したがって、差異点8が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
i 差異点9(テーパー状の傾斜部)について
本件登録意匠は、上段パッドに略M字状、中段パッドにチャンピオンベルト状、下段パッドに略W宇状のテーパー状に隆起していることから、周縁にかけてなだらかな傾斜部が設けられている。
これに対し、引用意匠は、表面が平坦でテーパー状の傾斜部が設けられていない。この差異点9は、意匠に係る物品が、使用時に手に持って全体を触って装着されるものであることから、需要者が関心を持って観察する部位であり、両意匠の視覚観察に及ぼす影響は大きい。
j 差異点10(電極部における非導電部の模様)について
差異点10は、本件登録意匠は、非導電部の模様が薄茶色を基調としており、木の葉(落ち葉)をイメージさせることから、上段・中段・下段のパッドがそれぞれ、3枚の楓の種から構成されている印象を与える。
これに対し、引用意匠は、非導電部の模様が、フライパン返しをイメージさせることから自然物にはない人工物の印象を与える。
また、両意匠に係る物品は、裏面を体に密着するように取付けて使用されるものであることから、需要者は裏面にも高い関心を持って観察するものである。
したがって差異点10が需要者に与える視覚的印象は、両意匠において全く異なる。
k 差異点11(電池部の構成)について
パッド部裏面中央の構成において、本件登録意匠は、電池蓋の周縁に放射線状の細溝が凹設されていないのに対し、引用意匠は、電池蓋の周縁に細溝が凹設されている。かかる放射線状の細溝は、4つの通気孔と協同して身体と本件物品との間に発生する空気や発汗の通気・換気のためのものと推察され、本件登録意匠に係る物品がトレーニング機器であり、需要者はその機能面にも着目することを考え合わせるとその差異は決して小さいものではない。
この差異点11は、需要者が関心を持って観察する部位であり、両意匠の視覚観察に及ぼす影響は大きい。
l 差異点12(パッド部の地色)について
差異点12は、パッド部の地色が本件登録意匠では黒色であるのに対し、引用意匠では限定されていないことであるが、パッド部の地色は、需要者が関心を持って観察する部位であることから、両意匠の視覚観察に及ぼす影響は大きい。
(3)小括
したがって、両意匠は、意匠に係る物品は一致するが、それによる両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であり、共通点1乃至5が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、いずれも小さいか又は微弱なものであることから、共通点は、両意匠の類否判断を決定付けるものではない。
これに対して、差異点1乃至12が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも大きく、当該差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点を凌駕しており、意匠全体として見た場合、差異点の印象は、共通点の印象を凌駕し、両意匠は、意匠全体として視覚的印象を異にする。
したがって、本件登録意匠は、引用意匠に類似するものではない。
(4)むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、引用意匠に類似せず、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないものであるから、請求人の主張及び証拠によっては、本件意匠登録を無効にすべきではない。
2 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)基本的構成態様について
ア パッドの枚数
本件登録意匠のパッド片の枚数は6枚構成でなく、3枚構成である。請求人が弁駁書で掲載している楓の種の写真も、請求人が主張しているように、左右対称に2個くっついた状態であることから、一枚の羽根(2個1組)の表現の方が適切である。
この点、請求人は、本件登録意匠の基本的構成態様を「3枚のパッド片」とすることを詭弁であるとしているが、この主張は詭弁でなく、事実の主張である。
イ 電池部表面の+と-及び電源ボタンの表示
電池部表面の+と-及び電源ボタンの表示は、本件登録意匠の正面中央に位置するものである。そのため、本件登録意匠の購入の際に、必ず需要者の目に入ることから、当該表示は、意匠の骨格的な構成態様、すなわち、基本的構成態様であるといえる。
なお、仮に、引用意匠は先行意匠がなく、広く関連意匠が認められているとしても、あくまで、その引用意匠の範囲は、基本的構成態様と同一又は類似の範囲にとどめるべきであって、それ以上に広く大づかみに把握されるべきものではない。
すなわち、本件登録意匠の基本的構成態様は「3枚のパッド片」であるのに対し、引用意匠の基本的構成態様は「6枚のパッド片」から構成されるものであり、その他、「各パッド片の輪郭」、「線模様」、「隆起部」、「通気孔」等の基本的構成態様も全く異なる。また、引用意匠が商業的に成功を収めていたとしても、かかる事実は、引用意匠の類似範囲を広く解釈する根拠にはならない。
したがって、本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様の差異感は、両意匠の共通感を遥かに凌駕するものであることから、両者は類似しない意匠である。
(2)引用意匠の類似範囲について
引用意匠の類似範囲について、請求人は登録意匠網と表現しているが、そもそも登録意匠網なるものは存在しないものである。すなわち、引用意匠と関連意匠は1対1で比較して類似すると判断されたにすぎず、関連意匠の構成態様を抽出して、引用意匠の類似範囲を過度に広く認定することは許されない(意匠法10条3項)。
また、仮に請求人が主張する本件登録意匠と関連意匠を比較したとしても、
ア 本件登録意匠は「3枚のパッド片」からなり、列が無いことから、2列3段の構成態様ではなく、引用意匠とは共通しない。
イ 上下対称の関連意匠は、本件登録意匠のパッド片とは輪郭が全く異なる(5)。
ウ 本件登録意匠の上段のパッド片は、略M字状の隆起部とその周縁に線模様、下段のパッド片は、略W字状の隆起部とその周縁に線模様、中段のパッド片にはチャンピオンベルト状の隆起部が認められるが、引用意匠及び関連意匠には全くない線模様、形状である(3、4)。また、関連意匠の上段・下段のパッド片の先端部分の円弧状からは、楓の種を想起できない(4)。
エ 関連意匠裏面の電極部からは、木の葉の葉脈状の模様は想起できない(3、4)。
オ 関連意匠は切れ込みがないので、本件とは形状が異なる(6)。
以上を総合して考察すれば、本件登録意匠と引用意匠は基本的構成態様が異なる上に、本件登録意匠のパッド片の輪郭、隆起部、線模様、切れ込みについても、関連意匠の構成態様と類似しないことから、本件登録意匠が、引用意匠の類似範囲に属しないことは明らかである。
3 被請求人が提出した証拠
被請求人は、以下の乙号証(全て写しであると認められる。)を、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。
乙第1号証 通知書(意願2017-001528)
乙第2号証 「トレーニング機器」の一覧表
乙第3号証 「EM20 sixpack」の掲載情報
乙第4号証 特開2016-202690の公開公報(抜粋)
乙第5号証 審決書(無効2017-880003)
乙第6号証 判決書(平成29年(行ケ)10198)
乙第7号証 「本件意匠の下段パッド部」と「楓の種の写真」
乙第8号証 被告準備書面(5)
乙第9号証 「通知書」の例を示す書誌
乙第10号証 伺い回答書
乙第11号証 米国特許公報(US6445955)(抜粋)
乙第12号証 意匠公報(意匠登録第1550074号)
乙第13号証 意匠公報(意匠登録第1550144号)
乙第14号証 保全異議申立書(抜粋)
乙第15号証 申立ての一部取下書
第4 口頭審理
当審は、本件審判について、平成30年(2018年)10月3日に口頭審理を行い、審判長は、同日付けで審理を終結した。(平成30年10月5日付け「第1回口頭審理調書」)
第5 当審の判断
1 本件登録意匠(別紙第1参照)
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「トレーニング機器」であり、願書の【意匠に係る物品の説明】には「本物品は、背面電極部から流れる電流により腹部等の筋肉を刺激し、当該部位の筋肉を引き締めるためのトレーニング機器である。強弱調整ボタンの+側又は-側を押圧することにより電流の流量を調整する。」と記載されている。
(2)本件登録意匠の形態
本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、その意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面代用写真に現されたとおりであり、当審では、本件登録意匠の形態について以下の点を認定する。
ア 基本的態様について
(形態1)全体は、正面から見て、薄いシート状であって、略上下左右対称であり、略倒隅丸台形状の中央パッドの上下に、略倒扁平「V」字状の隙間を介して、上端又は下端が略弓状に膨出した上パッド及び下パッドが配置された、合計6つのパッドからなる本体と、本体の正面中央に設けられた、略円形の強弱調整ボタンで構成されている点。
(形態2)本体の上辺及び下辺中央に、略「U」字状の切り欠き部が形成され、その切り欠き部に連なる本体上辺及び下辺の角部付近が上方又は下方に僅かに膨出している点。
(形態3)本体正面は、上パッド及び下パッドにおいて、上端又は下端に沿って明調子の筋状模様が配されて、内側の稜線寄りに明調子の略倒扁平三角形状模様が配されており、また、上パッド及び下パッドには、左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略「M」字状又は略「W」字状の帯状部が形成され、中央パッドには左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略倒紡錘形状部が強弱調整ボタンを囲むように形成されている点。
イ 具体的態様について
(形態4)強弱調整ボタンは、正面側が閉塞する略円錐台形状で、本体に一体に設けられており、同ボタンの下には基部が設けられていない点。
(形態5)本体背面中央に、強弱調整ボタンよりも大きい円形の線模様が設けられ、各パッドに、周囲に余白を残して、各パッドの外周形状とほぼ相似形の電極が配置され、左側又は右側の各電極が一本の線で繋がって、その線が中央の円形模様と接続され、円形模様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点。
(形態6)電極内に葉の外形と葉脈を模した太線模様が配されて、中央を貫く太い葉脈が、上パッド及び下パッドでは略弓状に表されて、中パッドでは水平状に表されている点。
(形態7)本体には、正面及び背面を貫通する通気孔が設けられておらず、背面の円形線模様の上下にごく小円の穴部が形成されている点
(形態8)強弱調整ボタンの正面上下に、「+」及び「-」の表示が明調子で設けられ、強弱調整ボタンの間に、明調子の電源ボタンが設けられている点。
(形態9)本体周縁は、正面側のゆるやかな傾斜面が端部まで連続しているので、垂直面として形成されていない。
(形態10)本体正面の大部分と本体背面の縁部、及び「+」などの表示を除く強弱調整ボタンは暗調子に表されており、本体背面の太線模様はやや暗調子に表されて、その太線模様と縁部を除く本体背面は明調子に表されている。
2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された意匠登録第1536247号「トレーニング機器」の意匠(以下「甲2意匠」という。)に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。
3 無効理由の判断
本件登録意匠が、甲2意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲2意匠(別紙第2参照)
甲2意匠は、意匠登録第1536247号「トレーニング機器」の意匠であって、甲2意匠が掲載された意匠公報(甲第2号証。別紙第2参照。)は、本件登録意匠の出願前である平成27年(2015年)10月26日に発行されている。甲2意匠の意匠に係る物品は、甲第2号証の記載によれば「トレーニング機器」であり、同公報の【意匠に係る物品の説明】には「本物品は、背面電極部から流れる微弱電流により腹筋等を刺激し、腹部の筋肉等を引き締めるためのトレーニング機器である。」と記載されている。
(2)甲2意匠の形態
甲2意匠の形態は、同公報に記載されたとおりであり、同公報の【意匠の説明】には「各部の名称を示す参考正面図及び参考背面図中、平行斜線を施した部分は印刷が施されている。」と記載されている。
当審では、甲2意匠の形態について以下の点を認定する。
ア 基本的態様について
(形態1’)全体は、正面から見て、薄いシート状であって、略左右対称であり、略横長隅丸4角形状の中央パッドが、左右端が若干上に傾くように配置され、中央パッドの上に、略横長隅丸5角形状の上パッドが、左右端が中央パッドよりも上に傾くように配置され、中央パッドの下に、略横長隅丸5角形状の下パッドが、左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置された、合計6つのパッドからなる本体と、本体の正面中央に設けられた、略円形の強弱調整ボタンで構成されている点。
(形態2’)本体の上片及び下辺中央に、略「V」字状の切り欠き部が形成されている点。
(形態3’)本体正面は、各パッドの外周を縁取る線模様が、パッドごとに分断して合計6つ設けられ、その内側に、各パッドの外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が、相似形に3本施されている点。
イ 具体的態様について
(形態4’)強弱調整ボタンは、本体から突出して設けられた略円筒状の強弱調整ボタン基部の上に同心に配置され、正面側が閉塞する略円筒状で、本体に一体に設けられている点。
(形態5’)本体背面中央に、ボタン基部よりも大きい円形の線模様が設けられ、各パッドに、周囲に余白を残して、略横長隅丸4角形状で、略同形同大の電極が配置され、各電極が中央の円形模様と接続され、円形模様の内側に、周囲に放射状の線模様が施され、中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点。
(形態6’)電極内に略6角形状の区画が略千鳥状に配されて、中央の区画は大きく、上下の区画は中央から離れるほど小さくなっている点。
(形態7’)本体のボタン基部の斜め上下左右に、正面及び背面を貫通する略隅丸3角形状の通気孔が設けられている点。
(形態8’)強弱調整ボタンの正面上下に、「+」及び「-」の表示が設けられている点。
(形態9’)本体周縁は、正面側のゆるやかな傾斜面から滑らかにつながる、ごく低い垂直面である点。
(2)本件登録意匠と甲2意匠の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は「トレーニング機器」であり、甲2意匠の意匠に係る物品も「トレーニング機器」であって、共に背面電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し、腹部の筋肉等を引き締めるためのものであるから、本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は同一であり、形態については、以下の共通点と相違点が認められる。
ア 共通点
(ア)基本的態様
(A)全体は、正面から見て、薄いシート状であって、略左右対称であり、左右の上パッド、中央パッド及び下パッドが合計6つ配置された本体と、本体の正面中央に設けられた略円形の強弱調整ボタンで構成されている点。
(B)本体の上辺及び下辺中央に切り欠き部が形成されている点。
(イ)具体的態様
(C)強弱調整ボタンは、正面側が閉塞しており、本体に一体に設けられている点。
(D)本体背面中央に、強弱調整ボタンよりも大きい円形の線模様が設けられ、各パッドに、周囲に余白を残して電極が配置され、各電極が中央の円形模様と接続されて、円形模様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点。
(E)強弱調整ボタンの正面上下に、「+」及び「-」の表示が設けられている点。
イ 相違点
(ア)基本的態様
(a)本体が、本件登録意匠は、略倒隅丸台形状の中央パッドの上下に、上端又は下端が略弓状に膨出した上パッド及び下パッドが配置されているのに対して、甲2意匠は、中央パッドが略横長隅丸4角形状で、左右端が若干上に傾くように配置され、上パッドが略横長隅丸5角形状で、左右端が中央パッドよりも上に傾くように配置され、下パッドが略横長隅丸5角形状で、左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置されている点。
(b)本体の上辺及び下辺中央の切り欠き部及びその周辺の態様について、本件登録意匠の切り欠き部は略「U」字状であって、切り欠き部に連なる本体上辺及び下辺の角部付近が上方又は下方に僅かに膨出しているのに対して、甲2意匠の切り欠き部は略「V」字状である点。
(c)本体正面が、本件登録意匠は、上パッド及び下パッドにおいて、上端又は下端に沿って明調子の筋状模様が配されて、内側の稜線寄りに明調子の略倒扁平三角形状模様が配されており、また、上パッド及び下パッドには、左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略「M」字状又は略「W」字状の帯状部が形成され、中央パッドには左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略倒紡錘形状部が強弱調整ボタンを囲むように形成されているのに対して、甲2意匠は、外周を縁取る線模様がパッドごとに分断して合計6つ設けられ、その内側に、各パッドの外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が、相似形に3本施されている点。
(イ)具体的態様
(d)強弱調整ボタンが、本件登録意匠は、略円錐台形状で、同ボタンの下には基部が設けられていないのに対して、甲2意匠は、略円筒状で、本体から突出して設けられた略円筒状の強弱調整ボタン基部の上に同心に配置されている点。
(e)本体背面中央の円形模様の内側が、本件登録意匠は無模様であるのに対して、甲2意匠は周囲に放射状の線模様が施されている点。
(f)電極の形状が、本件登録意匠は、各パッドの外周形状とほぼ相似形で、左側又は右側の各電極が一本の線で繋がっており、電極内に葉の外形と葉脈を模した太線模様が配されて、葉脈を構成する主脈が、上パッド及び下パッドでは略弓状に表されて、中パッドでは水平状に表されているのに対して、甲2意匠は、略同形同大の略横長隅丸4角形状で、電極内に略6角形状の区画が略千鳥状に配されて、中央の区画は大きく、上下の区画は中央から離れるほど小さくなっている点。
(g)本件登録意匠は、本体の正面及び背面を貫通する通気孔が設けられていないのに対して、甲2意匠は、強弱調整ボタンの斜め上下左右に、正面及び背面を貫通する略隅丸3角形状の通気孔が設けられている点。
(h)甲2意匠は、「+」及び「-」の表示が明調子に表され、強弱調整ボタンの間に明調子の電源ボタンが設けられているが、本件登録意匠は、「+」及び「-」の表示が明調子ではなく、電源ボタンが設けられていない点。
(i)本体周縁が、本件登録意匠は、正面側のゆるやかな傾斜面が端部まで連続しているので垂直面として形成されていないのに対して、甲2意匠は、正面側のゆるやかな傾斜面から滑らかにつながる、ごく低い垂直面である点。
(j)甲2意匠は、本体正面の大部分と本体背面の縁部、及び「+」などの表示を除く強弱調整ボタンが暗調子に、本体背面の太線模様がやや暗調子に、その太線模様と縁部を除く本体背面が明調子にそれぞれ表されているのに対して、本件登録意匠は、明調子又は暗調子に表されていない点。
(3)本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記認定したとおり、本件登録意匠と甲2意匠(以下「両意匠」ともいう。)の意匠に係る物品は同一である。
イ 本件登録意匠と甲2意匠の類否判断について
両意匠の意匠に係る物品は、いずれも「トレーニング機器」であって、電流により腹筋等を刺激し、腹部の筋肉等を引き締めるためのものである点で共通するから、その需要者についても、いずれもそのようなニーズを有する一般消費者であると認められる。そして、両意匠の意匠に係る物品は、これを使用者の腹部に載せ、当該物品の背面に設けられている電極を腹部に接触させて使用するものであるから、着脱時には、直接肌に触れることになる背面も、ある程度の注意をもって見る機会があるものの、需要者は主に当該物品の表面を正面ないし斜め上方向から見る機会が多いというべきである。これらを踏まえて、両意匠が需要者の視覚を通じて起こさせる美感が類似するか否かを検討する。
ウ 両意匠の形態についての共通点の評価
両意匠は、全体は、正面から見て、薄いシート状であって、略左右対称であり、左右の上パッド、中央パッド及び下パッドが合計6つ配置された本体と、本体の正面中央に設けられた略円形の強弱調整ボタンで構成されている点(共通点(A))、本体の上辺及び下辺中央に切り欠き部が形成されている点(共通点(B))、強弱調整ボタンの正面側が閉塞して、本体に一体に設けられている点(共通点(C))、本体背面中央に、強弱調整ボタンよりも大きい円形の線模様が設けられ、各パッドに、周囲に余白を残して電極が配置され、各電極が中央の円形模様と接続されて、円形模様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点(共通点(D))、並びに
強弱調整ボタンの正面上下に、「+」及び「-」の表示が設けられている点(共通点(E))において、共通する形態を有している。
これらの共通点のうち、全体が、正面から見て、薄いシート状であって、略左右対称であり、パッドが複数配置された本体と、本体の正面中央に設けられた略円形の強弱調整ボタンで構成され、本体の上辺及び下辺中央に切り欠き部が形成されて、強弱調整ボタンの正面側が閉塞して、本体に一体に設けられているとともに、強弱調整ボタンの正面に、「+」及び「-」の表示が設けられている意匠は、本件登録意匠の出願前に「トレーニング機器」の物品分野において既に見受けられる(例えば、平成28年(2016年)12月12日に発行された意匠公報に記載された意匠登録第1565074号(別紙第5)、及び平成25年(2013年)8月6日にWebページに掲載されていた特許庁意匠課公知資料番号第HJ25031013号(別紙第6参照)。)から、「トレーニング機器」の需要者が上記共通点(A)ないし(C)及び(E)の形態に殊更着目するということはできず、これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
また、本体背面中央に、強弱調整ボタンよりも大きい円形の線模様が設けられ、各パッドに、周囲に余白を残して電極が配置され、各電極が中央の円形模様と接続されて、円形模様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている共通点(D)についても、前記イのとおり、需要者が「トレーニング機器」の背面に着目する程度は高くないと認められること、及び、本体背面に、強弱調整ボタンよりも大きい円形の線模様が設けられ、各パッドに、周囲に余白を残して電極が配置され、各電極が中央の円形模様と接続されて、円形模様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている意匠が、本件登録意匠の出願前に「トレーニング機器」の物品分野において既に見受けられる(例えば、意匠登録第1541180号。別紙第7参照。)ことから、需要者が共通点(D)の形態に殊更着目するということはできず、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
そうすると、共通点(A)ないし(E)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、いずれも小さいといわざるを得ない。
エ 両意匠の形態についての相違点の評価
相違点(a)について検討すると、本件登録意匠は、略倒隅丸台形状の中央パッドの上下に、上端又は下端が略弓状に膨出した上パッド及び下パッドが配置され、6つのパッドが全体として上下対称であるから、左上パッドと右上パッドが弓状にうねり、それと上下対称状に左下パッドと右下パッドが弓状にうねった形状として表されているから、主として上方向及び下方向に二つのうねりが形成された態様を成している。これに対して、甲2意匠は、中央パッドが略横長隅丸4角形状で、左右端が若干上に傾くように配置され、上パッドが略横長隅丸5角形状で、左右端が中央パッドよりも上に傾くように配置され、下パッドが略横長隅丸5角形状で、左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置されており、上パッドの上辺と下パッドの下辺が5角形状を構成する直線状であって、上下非対称の直線として表されているから、両意匠のパッドの態様を観察する需要者は異なる視覚的印象を抱くこととなり、相違点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいというべきである。
また、相違点(b)は、本体の上辺及び下辺中央の切り欠き部が、本件登録意匠は略「U」字状であって、切り欠き部に連なる本体上辺及び下辺の角部付近が上方又は下方に僅かに膨出して、いわば怒り肩状に表れているのに対して、甲2意匠は略「V」字状であって、角部付近の膨出は無いのでいわば撫で肩状に表れているから、需要者に異なる視覚的印象を与えることとなり、相違点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も大きいといえる。
そして、相違点(c)は、本体正面が、本件登録意匠は、上パッド及び下パッドにおいて、上端又は下端に沿って明調子の筋状模様が配されて、内側の稜線寄りに明調子の略倒扁平三角形状模様が配されており、また、上パッド及び下パッドには、左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略「M」字状又は略「W」字状の帯状部が形成され、中央パッドには左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略倒紡錘形状部が強弱調整ボタンを囲むように形成されているのに対して、甲2意匠は、外周を縁取る線模様がパッドごとに分断して合計6つ設けられ、その内側に、各パッドの外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が、相似形に3本施されているというものであり、甲2意匠は、線模様や線溝により、6つのパッドがそれぞれ独立して浮き上がったような印象を強く与えるのに対して、本件登録意匠は、略「M」字状又は略「W」字状の帯状部の存在によって、上パッドと下パッドが左右に連なった印象を強く与えており、需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にしているといえるから、相違点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
さらに、両意匠の意匠に係る物品が、主に腹筋のトレーニングに使用されることを合わせて考えると、相違点(a)ないし(c)に係る甲2意匠のパッドの形態から、需要者は、トレーニングによって鍛えられて、浮き上がったような腹筋を想起し、力強い印象を受けるといえる(腹筋が割れたイメージは、請求人の特開2016-202690でも述べられている。別紙第4参照。)のに対して、本件登録意匠のパッドの形態から、そのような印象を受けることはないから、相違点(a)ないし(c)による視覚的印象は、両意匠において全く異なるものといわざるを得ない。
加えて、相違点(i)は、本体周縁が、本件登録意匠は、正面側のゆるやかな傾斜面が端部まで連続しているので垂直面として形成されていないのに対して、甲2意匠は、正面側のゆるやかな傾斜面から滑らかにつながる、ごく低い垂直面であるというものであるが、垂直面の有無の相違は需要者に異なる視覚的印象を与えるものであって、前記イのとおり需要者が両意匠の正面斜め上方向から見る機会が多いことを踏まえると、相違点(i)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も大きいということができる。
他方、相違点(d)は、強弱調整ボタンが、本件登録意匠は、略円錐台形状で、同ボタンの下には基部が設けられていないのに対して、甲2意匠は、略円筒状で、本体から突出して設けられた略円筒状の強弱調整ボタン基部の上に同心に配置されているというものであるが、強弱調整ボタンの形態が略円錐台形状か略円筒状かは目につきにくい部分における細かな相違にすぎず、同ボタンの下の基部の有無や、電源ボタンの有無(相違点(h))についても同様であるので、需要者がこれらの相違に特に注目するということはできず、相違点(d)及び相違点(h)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また、相違点(g)は、本件登録意匠は、本体の正面及び背面を貫通する通気孔が設けられていないのに対して、甲2意匠は、強弱調整ボタンの斜め上下左右に、正面及び背面を貫通する略隅丸3角形状の通気孔が設けられているというものであるが、甲2意匠の通気孔自体はそれ程目立つものではなく、通気孔の部分が全体に占める割合もごく小さいことから、通気孔の有無の相違が需要者に与える印象の違いは小さいというべきであり、相違点(g)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そして、相違点(e)及び相違点(f)は、いずれも背面の態様に関する相違であって、両意匠を全体としてみたときに、ごく限定された部分又は目につきにくい部分における細かな相違にすぎず、両意匠の需要者が抱く美感を左右するほどのものとはいえないから、相違点(e)及び相違点(f)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
最後に、相違点(j)は、甲2意匠は、本体正面の大部分と本体背面の縁部、及び「+」などの表示を除く強弱調整ボタンが暗調子に、本体背面の太線模様がやや暗調子に、その太線模様と縁部を除く本体背面が明調子にそれぞれ表されているのに対して、本件登録意匠は、明調子又は暗調子に表されていないというものであるが、甲2意匠において、需要者が特に観察する本体正面は、その大部分が一様に暗調子で表されており、明暗模様などが広い範囲で施されていないから、本体正面が暗調子に表されていない本件登録意匠と比べて、需要者に与える美感を大きく異にするとはいえず、相違点(j)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も小さい。
そうすると、相違点(a)ないし(c)及び(i)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも大きく、その余の相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいとしても、相違点を総合すると両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。
オ 請求人の主張について
請求人は、甲2意匠の要旨として、その基本的構成態様について「6枚のパッド片は、2列3段組みとして、電池部を中心に、左右対称に略横長矩形状に配置され」ていると認定し、本件登録意匠の要旨として、その基本的構成態様について「6枚のパッド片は、2列3段組みとして、電池部を中心に、左右対称に略横長矩形状に配置され」ていると認定した上で(前記第2の2(2))、「引用意匠(当審注:甲2意匠を指す。)は、・・・[4]略横長矩形状配置のパッド部、を要部とし、かかる要部は、先行意匠に比して高い独創性を有する。本件登録意匠は、引用意匠と要部を共通にし、・・・差異点は、要部を共通にする両意匠の美感の共通性を凌駕するものではなく、両意匠は類似する。」と主張する(前記第2の4)。
しかしながら、前記第5の1(2)アのとおり、本件登録意匠の上パッドと下パッドは、上端又は下端が略弓状に膨出しているので略横長矩形状とは看取され難く、左上パッドと右上パッドが弓状にうねり、それと上下対称状に左下パッドと右下パッドが弓状にうねった本件登録意匠の形状は、甲2意匠とは異なる美感を需要者の視覚を通じて起こさせるといえるから、仮に横長矩形状配置のパッド部が甲2意匠の要部であるとしても、本件登録意匠が甲2意匠とその要部を共通にして、美感も共通するとの請求人の主張を採用することはできない。
また、請求人は、「本件登録意匠パッド片の上下対称配置による下方における差異感は、2列3段左右対称配置の基本的構成の共通感に埋没して、類否判断に及ぼす影響は微小である。なお、上下対称意匠も本件登録意匠の関連意匠として登録されている。」(前記第2の2(3)ウ(ア))と主張し、また、甲2意匠とその6件の関連意匠からなる請求人の登録意匠網(甲第6号証の2。別紙第3参照。)と本件登録意匠の位置づけについて、「本件登録意匠のパッド片は、上下にも対称に配置されているが、請求人登録意匠網の射程にカバーされる(5)。」(前記第2の3(1)ア(エ))と主張する。
しかしながら、甲2意匠が甲第6号証の2の[5]で示された関連意匠に類似するという事実は、本件登録意匠と甲2意匠の類否判断に直接関係するものではなく、それぞれの共通点と相違点は異なっているから、甲2意匠と関連意匠における上下対称の有無の相違点の評価を、本件登録意匠と甲2意匠の類似・非類似の判断に結びつけることはできない。そして、本件登録意匠に見られる上パッドと下パッドの上下対称性は、上述した上方向及び下方向の二つのうねりの規則性を生み出し、かつ、単に外形の上下対称性にとどまらず、前記第5の1(2)アで認定した上パッドの略「M」字状突出部と、下パッドの略「M」字状突出部の上下対称性、すなわちパッド内の構成要素の上下対称性にも関わるから、そのような二つのうねりや突出部の無い甲2意匠と比べて、需要者に確たる美感を与えているということができる。したがって、登録意匠網を前提とした請求人の上記主張を採用することはできない。
カ 小括
以上のとおり、本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が同一であるが、形態においては、共通点が類否判断に及ぼす影響はいずれも小さく、これに対して、形態の相違点を総合すると類否判断に及ぼす影響は大きく、共通点が需要者に与える美感を覆して本件登録意匠と甲2意匠を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、甲2意匠に類似するということはできない。
すなわち、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された甲2意匠(意匠登録第1536247号「トレーニング機器」の意匠)に類似しないので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであって、請求人の主張する無効理由には理由がないので、本件登録意匠の登録は、意匠法第48条第1項の規定によって無効とすることはできない。
審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-880003