特許拒絶査定不服審判
2018-013022
繊維強化熱可塑性樹脂成形体
- 審判番号
- 2018-013022
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-112635外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年10月01日
- 審決日
- 2019年07月17日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】東洋紡株式会社
- 分類
- P18 .121-WY (B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-112635「繊維強化熱可塑性樹脂成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月17日出願公開、特開2015-226986、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月30日の出願であって、平成30年3月8日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月11日付けで意見書の提出がされ、同年6月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、また、本願の請求項2及び3に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献>
1.国際公開第2009/142291号公報
2.特開2000-167863号公報
第3 本願発明
本願の請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」といい、これらをまとめて「本願発明」ともいう。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基材部と、根元の厚さが2mm~30mm、高さが5mm~150mmの突起部を有する成形体であって、該成形体は、連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Aと、非連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Bから構成され、部材Bが突起部の先端部に充填されており、突起部内への部材Aの流れ込み深さが0.5mm以上である事を特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
前記部材Bが、長さ5mm~100mm、幅4mm~60mm、厚み0.05mm~0.4mmの薄膜片のテープ状物から構成され、含有される強化繊維と熱可塑性樹脂との質量比が85/15~30/70である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
【請求項3】
前記部材Aの連続強化繊維がクロス材であり、部材Aが該クロス材を2~10層含む積層体である請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形体。」
第4 引用文献1の記載、引用発明
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、以下の記載がある。(下線は、合議体が付した。以下、この審決中において同様である。)
「[請求項1]
繊維強化熱可塑性樹脂成形体であって、該成形体の片面が連続繊維強化熱可塑性複合材料を含む部材Aからなり、該成形体の反対面が非連続繊維強化熱可塑性複合材料を含む部材Bからなり、部材Aと部材Bが一体化した成形体を形成していることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
[請求項2]
繊維強化熱可塑性樹脂成形体における非連続繊維強化熱可塑性複合材料からなる部材Bには突起物が形成されていることを特徴とする請求項1記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
[請求項3]
繊維強化熱可塑性樹脂成形体における片面全体が連続繊維強化熱可塑性複合材料からなる部材Aから形成されていることを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
[請求項4]
連続繊維強化熱可塑性複合材料がテープ状プリプレグから得られる織物または多軸積層布であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
[請求項5]
非連続繊維強化熱可塑性複合材料が、平均繊維長10~60mmの強化繊維を含有してなることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形体。」
「[0003]
・・・スワール状連続繊維や不連続繊維からなる不織布マットなどに熱可塑性樹脂を含浸した繊維強化熱可塑性樹脂シート材料をスタンピング成形した成形品は強化繊維の含有率を大きくすることが困難なため、強度や剛性等の機械的特性が比較的低い。特に、寸法の高いリブや肉厚の薄いリブ等を有する複雑な形状の成形品では、強化繊維の含有率が低い上に、強化繊維同志が絡んでいるため、樹脂と強化繊維が分離して流動する傾向があり、強度が更に低下し、成形品の機械的特性が場所によってばらつくという問題点がある。また、織物を強化繊維として用いた繊維強化熱可塑性樹脂シート材料から得られる成形品は強度や弾性率等は良好であるが、複雑な形状を有する成形品、特にリブやボス等の突起物を有する成形品は連続繊維では形状に追従できず、不十分な成形品しか得られないという問題点があった。
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0004]
連続繊維強化熱可塑性複合材料と非連続繊維強化熱可塑性複合材料を一体化した繊維強化熱可塑性樹脂成形体で、機械的特性に優れ、リブやボス等の突起物を有する複雑形状の成形品においても、成形性が優れ、品質の安定した、生産性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂成形体を提供することを課題とするものである。
課題を解決するための手段
[0005]
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、連続繊維強化熱可塑性複合材料がテープ状プリプレグから得られる織物または多軸積層布からなり、非連続繊維強化熱可塑性複合材料がテープ状プリプレグを所定の長さに切断した短冊状物からなるものを一体成形することにより、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。」
「[0020]
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形体から得られる成形品は、片面に3mm以上の高さを持つ突起物を有する複雑な成形品で、かつ該成形品には高い強度、弾性率やタフネス等が要求される成形品を製造するのに適するものである。そのため連続繊維強化熱可塑性複合材料と非連続繊維強化熱可塑性複合材料を組み合わせることによって、複雑な形状を有する製品形状と高い力学的な要求特性を満たす成形品の製造が可能となる。
本発明の製造法は特に限定されるものではないが、次のような工程で成形品の製造を行うことが出来る。テープ状プリプレグを所定に長さに切断した短冊状の薄片を、リブやボス等の突起物を形成する金型の下型にランダムな向きに配列させてチャージする。特にリブやボスの大きさや深さによって、テープ状プリプレグの切断した短冊状の長さや下型にチャージするプリプレグの量等を調節する必要がある。
次に、その上にテープ状プリプレグから得られた織物または多軸積層布を少なくとも1層積層した後、上型を閉じ、電磁誘導加熱によって熱可塑性樹脂の融点より高い温度まで加熱し、所定の圧力下で保持した後、冷却水により金型を冷却することにより成形品を取り出すことが出来る。」
「実施例
[0022]
・・・以下に実施例・・・において示した試料や物性値は、下記のような試料の作製法や試験法で行った。
・連続繊維強化熱可塑性複合材料はガラス繊維を強化材とし、熱可塑性樹脂にマレイン酸変性ポリプロピレンを使用し、体積含有率Vfが50%のテープ状プリプレグを用い、多軸積層布を作製した。
・非連続繊維強化熱可塑性複合材料はガラス繊維を強化材とし、熱可塑性樹脂にマレイン酸変性ポリプロピレンを使用し、体積含有率Vfが50%のテープ状プリプレグを用い、30mmの長さに切断した短冊状のプリプレグを使用した。
・成形品は図1に示した「リブ付き平板」の金型を使用し、上記の連続繊維強化熱可塑性複合材料および非連続繊維強化熱可塑性複合材料を金型のキャビティーに装入し、上型を閉じて、電磁誘導加熱で約250℃に加熱、加圧した後、金型を冷却して成形品を取り出した。
・成形品の曲げ強度は成形品の図1に示したa、b、c、dの各部位から試料を切り出し、ISO178に準じて測定した。
・ガラス繊維の体積含有率Vfは図1に示したa、b、c、dの各部位から試料を切り出し、電気炉で625℃に加熱し、樹脂成分を完全に除去した後、残ったガラス繊維の重量から計算して測定した。
[0023]
実施例1は連続繊維強化熱可塑性複合材料である平織物と非連続繊維強化熱可塑性複合材料である30mmの長さに切断したテープ状プリプレグからなる成形品である。また、比較例1は連続繊維強化熱可塑性複合材料である平織物のみを使用した成形品であり、比較例2は非連続繊維強化熱可塑性複合材料である30mmの長さに切断したテープ状プリプレグからなる成形品である。
・・・
[0025]
実施例1では成形品の平板部分は主にテープ状プリプレグで織った織物(平織)からなる成形品であり、そのため平板部分を示すa部位の強度が極めて高い。一方、リブ部分は主に30mmの長さに切断されたテープ状プリプレグからなる成形品であり、リブの先端にあたるd部位でもガラス繊維(審決注:引用文献1中の「カラス繊維」は誤記と解される。)の体積含有率Vfが40%以上あり、リブの先端まで強化繊維が充填されており、強度も高い値を示している。
比較例1では成形品の平板部分は主にテープ状プリプレグで織った織物(平織)のみからなる成形品である。織物の補強効果が高いため、平板部分を示すa部位の強度は高い。しかしながら、リブ部分に強化繊維が入り込めないため、b部位ではガラス繊維の体積含有率Vfが20%となり、更にc部位やd部位ではガラス繊維の体積含有率Vfが0%となり、樹脂のみの強度しか得られなかった。
比較例2では非連続繊維強化熱可塑性複合材料である30mmの長さに切断されたテープ状プリプレグからなる成形品である。流動性が優れるため、リブ部分にも強化繊維が充填されている。しかしながら、最も強度を必要とするa部位の平板部分では強度が低く、織物によって補強された成形品に対して著しく見劣りがする。」
「図面の簡単な説明
[0027]
[図1]リブ付き平板 図1a ; 平面図(裏面)、
図1b ; 側面図(b) 図1c ; 側面図(c)
符号の説明
[0028]
L1 リブの高さ (50mm)
L2 リブの幅 (50mm)
L3 平板の厚み (3mm)
L4 リブの厚み 根元(3mm)、先端(1mm) 付け根のR(3mm)
平板部分の寸法 ; 110×70×3mm
曲げ強度、ガラス繊維含有率の測定部位は次の部位である。
a ;平板部分
b ;中心が5mm部分のところを測定
c ;中心が20mm部分のところを測定
d ;中心が40mm部分のところを測定」
「
」
2.引用発明
引用文献1には、上記1.の記載、特に、実施例1の記載によれば、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス繊維強化材とマレイン酸変性ポリプロピレン熱可塑性樹脂を使用した体積含有率Vfが50%のテープ状プリプレグを用いて作成した、連続繊維強化熱可塑性複合材料である平織物と、
ガラス繊維強化材とマレイン酸変性ポリプロピレン熱可塑性樹脂を使用した体積含有率Vfが50%のテープ状プリプレグを、30mmの長さに切断して作成した、非連続繊維強化熱可塑性複合材料である短冊状プリプレグとを一体化した、
リブ付き平板繊維強化熱可塑性樹脂成形体である成形品であって、
成形品の平板部分は主に上記平織物からなり、
成形品のリブ部分は主に上記短冊状プリプレグからなり、
平板部分の寸法は、110mm×70mm×3mmであり、
リブの高さが50mm、幅が50mmm、平板の厚みが3mm、リブの根元の厚みが3mm、リブの先端の厚みが1mm、付け根のRが3mmである成形品。」
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「リブ付き平板繊維強化熱可塑性樹脂成形体である成形品」は、本願発明1の「突起部を有する成形体」である「繊維強化熱可塑性樹脂成形体」に相当するし、引用発明(成形品)の「平板部分」、「リブ部分」は、それぞれ、本願発明1の「基材部」、「突起部」に相当する。
イ 引用発明の平板部分を主に構成する「ガラス繊維強化材とマレイン酸変性ポリプロピレン熱可塑性樹脂を使用した体積含有率Vfが50%のテープ状プリプレグを用いて作成した、連続繊維強化熱可塑性複合材料である平織物」は、本願発明1の基材部を構成する「連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材A」に相当する。
ウ 引用発明のリブ部分を主に構成する「ガラス繊維強化材とマレイン酸変性ポリプロピレン熱可塑性樹脂を使用した体積含有率Vfが50%のテープ状プリプレグを、30mmの長さに切断して作成した、非連続繊維強化熱可塑性複合材料である短冊状プリプレグ」は、本願発明1の突起部を構成する「非連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材B」に相当する。また、引用発明では、リブ部分の先端まで短冊状プリプレグが充填されるから、本願発明1の「部材Bが突起部の先端部に充填されており」との構成を満足するといえる。
エ 引用発明の「リブの根元の厚み」は、本願発明1の「(突起部の)根元の厚さ」に相当し、その厚み「3mm」は、本願発明1の厚さ「2mm~30mm」との特定を満足する。また、引用発明の「リブの高さ」は、本願発明1の「(突起部の)高さ」に相当し、その高さ「50mm」は、本願発明1の高さ「5mm~150mm」を満足する。
そうすると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「基材部と、根元の厚さが2mm~30mm、高さが5mm~150mmの突起部を有する成形体であって、該成形体は、連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Aと、非連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Bから構成され、部材Bが突起部の先端部に充填されている、繊維強化熱可塑性樹脂成形体。」
<相違点>
繊維強化熱可塑性樹脂成形体について、本願発明1では、「突起部内への部材Aの流れ込み深さが0.5mm以上」と特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はない点。
(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
まず、本願発明1において、突起部を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形体における突起部内への部材Aの流れ込み深さを0.5mm以上と特定する点(本願発明の相違点に係る構成)の技術的意義について検討する。
本願明細書には、本願発明1の突起部を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形体において、上記の特定を備えたものとする点の技術的意義に関し、以下の記載がある。
「【0003】
単純なシート形状である部材の場合は、強化繊維を直線的に配した織物、一方向(UD)材で成形出来、高い機械的強度が確保できるが、用途に応じた、限定空間内に配される複雑形状の繊維強化熱可塑性樹脂成形体を成形する場合には、織物、UD材単体では流動性が悪く、複雑形状に追従出来ない問題がある。この問題を解決するため、強化繊維長が短く、流動性の良いインジェクション材料等で、リブ、ボス等の突起部を埋め、複雑形状部にも材料を充填することで一体化を図る検討が試みられている。しかしながら、流動性の低い織物、UD材層と、流動性の高い短繊維強化樹脂層との界面接着性は低く、変形により剥離破壊を起こし易く、十分な機械的強度を有する繊維強化樹脂成形体は得られていなかった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記した課題を解決するもので、機械的特性と成形性に優れた、連続繊維強化熱可塑性複合材料と非連続繊維強化熱可塑性複合材料からなる繊維強化熱可塑性樹脂成形体を提供するものである。
・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的特性と、リブ、ボス等の複雑形状部への成形流動性に優れた、連続繊維強化熱可塑性複合材料と非連続繊維強化熱可塑性複合材料からなる繊維強化熱可塑性樹脂成形体を提供することが出来る。また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、連続繊維強化熱可塑性複合材料と非連続繊維強化熱可塑性複合材料の界面での剥離破壊が起こり難い特徴も有する。」
「【0014】
また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、基材部(突起部の根元を結んだ接線)から0.5mm以上の深さまで、連続強化繊維を含む部材Aが突起部内に入り込んだ構成を成す。部材Aが突起部内に入り込んだ深さを、本明細書では流れ込み深さと称する。その測定法は、下記の実施例の項に記載するが、部材Aの流れ込み深さは、実質は部材Aの連続繊維の流れ込み深さを指す。また、図1に本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形体の断面(突起部の根元の厚さが分かる部分)の概略図を示す。
ここが本発明のポイントとなる部分であるが、通常、流動し難い連続繊維を含む部材Aを突起部の窪みに嵌め込む事で、界面の擦過による強化繊維内への樹脂含浸の促進と連続強化繊維のクリンプ形状に伴う一体感が生まれ、剥離破壊を起こしにくくなり、優れた機械的特性を発現する事が可能になる。
手段としては、特に限定されるものでは無いが、突起部に面した連続強化繊維を含む部材Aが成形時に流動し得る布帛サイズ、布帛構造、成形圧力を適宜選定する事で突起物内に充填させる事が可能となる。」
また、明細書の【0022】~【0025】の実施例1,2及び比較例1には、流れ込み深さが1.5mmあるいは1.2mmである実施例の成形体では、流れ込み深さが0.2mmの比較例1の成形体品とは異なり、部材Aと部材Bとの界面破壊もなく、曲げ強度及び曲げ弾性率の点で優れていたことが記載されている。
以上の本願明細書の記載によれば、本願発明において、突起部内への部材Aの流れ込み深さを0.5mm以上とする点の技術的意義は、リブ等の突起部を有する複雑形状の繊維強化熱可塑性樹脂成形体を成形する場合、従来技術では、流動性の低い織物等の層(連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材A)と、流動性の高い短繊維強化樹脂層(非連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材B)との界面接着性が低く、変形により剥離破壊を起こし易く、十分な機械的強度を有する繊維強化樹脂成形体は得られないという問題があったことから、これを解決することであり、そのために、本願発明では、流れ込み深さを0.5mm以上とし、流動し難い連続繊維を含む部材Aを非連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Bで形成される突起部の窪みに嵌め込む事で、剥離破壊を起こしにくくして、優れた機械的特性を発現できるようにしたものである。
次に、引用発明の技術的意義について検討する。
引用文献1には、織物を強化繊維として用いた繊維強化熱可塑性樹脂シート材料から得られる従来の成形品では、(強度や弾性率等は良好であるが、)リブ等の突起物を有する複雑な形状を有する場合に連続繊維が形状に追従できず、不十分な成形品しか得られないという問題点があった旨が記載され([0003])、その問題を、連続繊維強化熱可塑性複合材料がテープ状プリプレグから得られる織物からなり、非連続繊維強化熱可塑性複合材料がテープ状プリプレグを所定の長さに切断した短冊状物からなるものを一体成形することで解決した旨が記載されている([0005])。そして、引用文献1には、引用発明(実施例1)の成形品は、成形品の平板部分は平織物からなるために強度が極めて高く、リブ部分は主に30mmの長さに切断されたテープ状プリプレグからなる成形品であるために、リブの先端まで強化繊維が充填され強度も高いこと、一方、テープ状プリプレグ平織物のみからなる比較例の成形品では、平板部分の強度は高いが、リブ部分に強化繊維が入り込めないため、リブ先端部に繊維が充填されず、樹脂のみの低い強度しか得られないし、非連続繊維強化熱可塑性複合材料である30mmの長さに切断されたテープ状プリプレグのみからなる比較例2の成形品では、流動性が優れるためにリブ部分にも強化繊維が充填されるが、平板部分では強度が低いことが具体的に示されている([0025])。
以上の引用文献1の開示によれば、引用発明の技術的意義は、成形品のリブ部分に、流動性に優れる非連続繊維強化熱可塑性複合材料である短冊状プリプレグを使用し、連続繊維強化熱可塑性複合材料(平織物)を使用して一体成形することで、成形品の平板部分の強度が極めて高く、リブ部分の強度も強化繊維が充填されて高い成形品とすることであるといえる。
そして、引用文献1には、他の箇所の記載を含め、引用発明について、本願発明のように、連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Aと、非連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる部材Bとの界面の剥離破壊を起こしにくいものとする思想は全く開示されていない。
その上、引用文献1には、引用発明の成形品の製造法に関し、
「短冊状の薄片を、リブやボス等の突起物を形成する金型の下型にランダムな向きに配列させてチャージする。特にリブやボスの大きさや深さによって、テープ状プリプレグの切断した短冊状の長さや下型にチャージするプリプレグの量等を調節する必要がある。
次に、その上にテープ状プリプレグから得られた織物または多軸積層布を少なくとも1層積層した後、上型を閉じ、電磁誘導加熱によって熱可塑性樹脂の融点より高い温度まで加熱し、所定の圧力下で保持した後、冷却水により金型を冷却することにより成形品を取り出すことが出来る。」([0020])
との記載がある。
そして、当該記載によれば、短冊状の薄片は、リブの大きさや深さに応じて(突起部の末端まできちんと繊維が充填されるように)調節されて、下型にチャージされるのであるから、通常、下型の突起部全体に当該繊維が充填できるように、突起部にちょうどあう量でチャージされるか、あるいは、突起部に空隙が生じないよう、若干多めの量の短冊状のプリプレグがチャージされるのが通常と考えられるところ、そのような場合、突起部内には、テープ状プリプレグ平織物は、存在しないこととなる蓋然性が高い。
また、仮に、成形時に下型にチャージされる短冊状プリプレグの量が、突起部と同量で、突起部への短冊状プレプリグの流入の影響で、その上に置かれていた平織物が突起部の方向に引っ張られて突起部内の位置まで変形して入り込む場合であっても、その場合の流れ込み深さが、0.5mm以上になることが本願出願時の技術常識であったとまでは認められない。
そうすると、当業者は、引用文献1の記載及び技術常識からは、上記相違点に係る構成を導き出せないのであるから、引用発明の成形品を、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えたものとすることは当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
よって、本願発明1は、引用発明(引用文献1に記載の発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、引用文献2は、短繊維強化熱可塑性樹脂のウェルド補強のために、連続繊維強化熱可塑性樹脂複合材料(FRTP)からなる強化部材をインサート成形する補強方法(請求項1)に関する技術であり、実施例として、インサート用の積層板であって、幅10mm,厚さ0.15mm、繊維重量含有率69%のテープ状成形中間材から構成されるFRTP平織物からなるものが記載されている(【0021】)が、本願発明の解決課題である、連続強化繊維熱可塑性樹脂複合材料と非連続強化繊維熱可塑性樹脂複合材料の界面での剥離破壊を抑制する点の記載はないし、そもそも引用文献2は突起部を有する成形体についてのものではなく、流れ込み深さについても何ら記載されていない。そうすると、当該文献を参酌しても、引用発明において、成形品を上記相違点に係る本願発明1の構成を備えたものとすることは当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
2.本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるところ、これらの発明はいずれも、本願発明1の上記相違点に係る構成を備えているから、本願発明2及び3と引用発明とは、少なくとも、上記1.(1)で記載した相違点で相違している。
そして、上記相違点についての判断は上記1.(2)で記載したとおりである。
そうすると、本願発明2及び3について、引用発明(引用文献1に記載の発明)及び引用文献2に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできないし、また、本願発明2及び3は、いずれも、当業者が、引用文献1に記載の発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-013022