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特許拒絶査定不服審判

2018-001841

永久磁石電動機

審判番号
2018-001841
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2013-012600外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年02月08日
審決日
2018年11月29日
公報発行日
2019年01月25日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WYF(H02K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2013- 12600「永久磁石電動機」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月14日出願公開、特開2014-147151、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、平成25年1月25日に出願されたものであって、平成28年9月7日付けで拒絶理由が通知され、同年11月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年6月15日に意見書が提出されたが、同年11月15日付けで拒絶査定がされ、それに対して平成30年2月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成29年11月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1ないし15に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2007-53351号公報 2.国際公開第2010/052862号 3.特開2000-315607号公報 4.特開昭57-145902号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成30年2月8日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1にないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)。 「 【請求項1】 固定子と、回転子を備え、前記回転子は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されており、前記主磁極部には、d軸に交差する方向に沿って延びている磁石挿入孔が形成されているとともに、前記磁石挿入孔には、永久磁石が挿入されている永久磁石電動機であって、 前記永久磁石は、前記磁石挿入孔が延びている方向と交差する方向に沿って平行に直線状に延びているとともに、両端が開口している複数の連通孔を有しており、 前記複数の連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、前記永久磁石の外周面から1.5mm以上離れた位置に形成されており、 前記永久磁石は、ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体により形成され、ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方が前記永久磁石の外周面および前記複数の連通孔の内周面から拡散されていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項2】 請求項1に記載の永久磁石電動機であって、 前記永久磁石の外周面は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、複数の部分外周面により形成されており、 前記複数の連通孔には、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記複数の部分外周面のうちの少なくとも一つの部分外周面から前記永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が含まれていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項3】 請求項2に記載の永久磁石電動機であって、 前記複数の連通孔には、連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から前記永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が複数含まれていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項4】 請求項3に記載の永久磁石電動機であって、 連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から前記永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている前記複数の連通孔のうちの少なくとも一つは、当該少なくとも一つの連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面に隣接する他の部分外周面から前記永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項5】 請求項3または4に記載の永久磁石電動機であって、 連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から前記永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている前記複数の連通孔は、各連通孔の内周面と前記少なくとも一つの部分外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項6】 請求項3~5のいずれか一項に記載の永久磁石電動機であって、 連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から前記永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている前記複数の連通孔は、前記少なくとも一つの部分外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項7】 請求項1~6のいずれか一項に記載の永久磁石電動機であって、 前記複数の連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、同じ形状の内周面を有しているとともに、同じ断面積を有していることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項8】 請求項1~7のいずれか一項に記載の永久磁石電動機であって、 前記複数の連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項9】 請求項1~7のいずれか一項に記載の永久磁石電動機であって、 前記複数の連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置であって、前記第1の方向および前記第2の方向に沿って一つ置きの位置に形成されていることを特徴とする永久磁石電動機。 【請求項10】 請求項1~9のいずれか一項に記載の永久磁石電動機であって、 前記複数の連通孔は、前記永久磁石の外周面から内側に1.5mmの距離の位置に引いた線により囲まれる領域が、前記複数の連通孔の内周面から前記永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域によって覆われる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石電動機。」 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1(特開2007-53351号公報)について 原査定の理由に引用された上記引用文献1には、「希土類永久磁石、その製造方法、並びに永久磁石回転機」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 (1)引用文献1の記載事項 ア.「【請求項1】 R1-Fe-B系組成(R1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に対し、当該磁石体の少なくとも1つの表面に複数のスリットを設け、R2の酸化物、R3のフッ化物、R4の酸フッ化物から選ばれる1種又は2種以上(R2、R3、R4はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)を含有する粉末を当該磁石体の表面に存在させた状態で、当該磁石体及び粉末を当該磁石の焼結温度以下の温度で真空又は不活性ガス中において熱処理を施すことを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。」 イ.「【請求項7】 R2の酸化物、R3のフッ化物、R4の酸フッ化物から選ばれる1種又は2種以上(R2、R3、R4はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)のR2、R3、R4に10原子%以上のDy及び/又はTbが含まれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の希土類永久磁石の製造方法。」 ウ.「【0005】 しかし、上記方法では2種の合金微粉末を混合した状態で1,000~1,100℃という高温で焼結するために、DyあるいはTbがNd2Fe14B結晶粒の界面のみでなく内部まで拡散しやすい。実際に得られる磁石の組織観察からは結晶粒界表層部で界面から深さ1~2μm程度まで拡散しており、拡散した領域を体積分率に換算すると60%以上となる。また、結晶粒内への拡散距離が長くなるほど界面近傍におけるDyあるいはTbの濃度は低下してしまう。結晶粒内への過度な拡散を極力抑えるには焼結温度を低下させることが有効であるが、これは同時に焼結による緻密化を阻害するため現実的な手法となり得ない。ホットプレスなどで応力を印加しながら低温で焼結する方法では、緻密化は可能であるが、生産性が極端に低くなるという問題がある。」 エ.「【0010】 本発明者らは、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表されるR1-Fe-B系焼結磁石に対し、R2の酸化物、R3のフッ化物、R4の酸フッ化物から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末(なお、R1~R4はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)を磁石表面に存在させた状態で加熱することで、粉末に含まれていたR2、R3又はR4が磁石体に吸収され、残留磁束密度の減少を著しく抑制しながら保磁力を増大し得ることを見出した。この場合、特にR3のフッ化物又はR4の酸フッ化物を用いた場合、R3又はR4がフッ素と共に磁石体に高効率に吸収され、残留磁束密度が高く、保磁力の大きな焼結磁石が得られること、更に、磁石体に複数のスリットを入れることで、実質的に磁石表面積を大きくしてR2、R3又はR4の吸収率を高めることができ、しかもスリットは、磁石体を永久磁石回転機に組み込んだ際の渦電流低減にも有効であることを知見したものである。」 オ.「【0016】 母合金は、R1、Fe、Bを含有する。R1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上で、具体的にはY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられ、好ましくはNd、Pr、Dyを主体とする。これらY及びScを含む希土類元素は合金全体の10~15原子%、特に12~15原子%であることが好ましく、更に好ましくはR1中にNdとPrあるいはそのいずれか1種を10原子%以上、特に50原子%以上含有することが好適である。Bは3~15原子%、特に4~8原子%含有することが好ましい。その他、Al、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上を0~11原子%、特に0.1~5原子%含有してもよい。残部はFe及びC、N、O等の不可避的な不純物であるが、Feは50原子%以上、特に65原子%以上含有することが好ましい。また、Feの一部、例えばFeの0~40原子%、特に0~15原子%をCoで置換しても差支えない。」 カ.「【0021】 本発明において、磁石表面に存在させたR2の酸化物、R3のフッ化物、R4の酸フッ化物から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末から磁石体へのR2、R3又はR4の吸収を高めるために、得られた焼結ブロックを所定形状に研削する際に、表面に複数のスリットを入れて比表面積を大きくする。 【0022】 この場合、スリットの形成態様は特に限定されるものではなく、焼結磁石体の形成等に応じて種々選定することができる。例えば、焼結磁石体が直方体形状の場合は、図1(A)~(C)に示すように、図において焼結磁石体1のスリット形成面1aの幅方向両側縁部に対しスリット2の長さ方向両端部を離間させて、又は離間させることなく側縁部から切り込み形成した態様を採用し得るが、勿論これに制限されるものではない。 なお、焼結磁石体のスリット形成面に図1(A)~(D)の如くスリットを形成した場合(但し、図1(A)~(C)はそれぞれ異なる態様でスリットが形成されたスリット形成面を示す平面図であり、図1(D)は縦断面図である)、スリット2最深部とスリット形成面1aに対し、反対側の面1bとの間の距離D1及びスリット2の長さ方向端部とこれに対向する面1c又は1dとの間の距離D2はいずれも5mm以下、より好ましくは3mm以下、特に好ましくは1mm以下であることがよく、また図においてスリット2と平行な面1e,1fとこれに隣接するスリット2aとの間隔D3及び互いに隣接するスリット2間の間隔D4は、いずれも10mm以下、より好ましくは6mm以下、特に好ましくは2mm以下であることがよい。この場合、上記距離D1は通常0.4mm以上であることが好ましく、距離D2は0mmであってもよい。また、間隔D3,D4はそれぞれ0.4mm以上であることが好ましい。 【0023】 このようにスリットを形成することにより、図1(E)に示したように、磁石の表面及びスリット部分から磁石内部に至る最大距離Lを5mm以下にすることができ、これによって磁石全体をR2の酸化物、R3のフッ化物又はR4の酸フッ化物で均一にかつ効率よく熱処理、浸透させることができる。なお、Lはより好ましくは3mm以下、特に好ましくは1mm以下である。 【0024】 このように、スリットと磁石面との距離関係を設定することにより、スリットによる表面積も増えて、磁石全体において吸収処理が起きやすい領域になったものである。ここで、スリットが形成されない場合、図1(F)の焼結磁石体表面の各外縁部から5mm以上の中央領域3が吸収処理が起こり難い領域であるが、上記のようにスリットを形成することにより、表面からの吸収処理が起こる領域が増大したものである。」 キ.「【0058】 [実施例1-1,2-1及び比較例1-1,2-1] 実施例1,2の磁石M1、M2及び比較例1,2の磁石P1、P2を永久磁石モータに組み込んだ時のモータ特性について説明する。永久磁石モータは図2に示す埋め込み磁石構造型モータである。ロータは、0.5mmの電磁鋼板を積層したものに永久磁石が埋め込まれた4極構造で、ロータヨーク11の寸法は外径312mm、高さ180mmとなっている。・・・ステータは、0.5mmの電磁鋼板を積層した6スロット構造で、各ティースには集中巻きでコイルが60ターン巻かれており、コイル13はU相,V相,W相の3相Y結線となっている。・・・」 ク.上記キ.及び図2の記載と技術常識から、引用文献1には、ステータと、ロータを備え、前記ロータは、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されており、前記主磁極部には、d軸に交差する方向に沿って延びている磁石挿入孔が形成されているとともに、前記磁石挿入孔には、永久磁石が挿入されている永久磁石モータが記載されることが理解できる。 ケ.上記カ.並びに図1(D)及び図2の記載から、永久磁石は、磁石挿入孔が延びている方向と交差する方向に沿って平行に直線状に延びているとともに、一端が開口し、他端が閉じている複数のスリット2を有していることが理解できる。 コ.上記ア.ないしカ.の記載から、前記永久磁石は、Ndを含む希土類焼結磁石体により形成され、DyおよびTbの少なくとも一方が前記永久磁石の外周面および前記複数のスリットの内周面から拡散されていることが理解できる。 (2)引用発明 上記(1)及び図面からみて、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「ステータと、ロータを備え、前記ロータは、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されており、前記主磁極部には、d軸に交差する方向に沿って延びている磁石挿入孔が形成されているとともに、前記磁石挿入孔には、永久磁石が挿入されている永久磁石モータであって、 前記永久磁石は、前記磁石挿入孔が延びている方向と交差する方向に沿って平行に直線状に延びているとともに、一端が開口し、他端が閉じている複数のスリット2を有しており、 前記複数のスリット2は、前記複数のスリット2が形成されたスリット形成面を示す平面において、スリット2の長さ方向端部とこれに対向する面1c又は1dとの間の距離D2はいずれも5mm以下、より好ましくは3mm以下、特に好ましくは1mm以下であって0mmであってもよく、また、スリット2と平行な面1e,1fとこれに隣接するスリット2との間隔D3は、いずれも10mm以下、より好ましくは6mm以下、特に好ましくは2mm以下であって、0.4mm以上が好ましく、 前記永久磁石は、Ndを含む希土類焼結磁石体により形成され、DyおよびTbの少なくとも一方が前記永久磁石の外周面および前記複数のスリット2の内周面から拡散されている永久磁石モータ。」 2.引用文献2(国際公開第2010/052862号)について 原査定の理由に引用された上記引用文献2には、「希土類焼結磁石製造方法及び希土類焼結磁石製造用粉末充填容器」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「[0001] 本発明は、Nd-Fe-B系焼結磁石やSm-Co系焼結磁石などの希土類焼結磁石を製造する方法に関する。」 イ.「[0025] 図2を用いて、本実施形態の希土類焼結磁石製造方法を説明する。まず、収容部11に希土類磁石合金粉末19を充填する(a)。その際、希土類磁石合金粉末19をそのまま用いてもよいし、希土類磁石合金粉末19にバインダを混合してもよい。充填密度は希土類磁石合金の真密度の40~50%とすることが望ましい。次に、モールド10に蓋13を取り付け、挿入口131から収容部11内の希土類磁石合金粉末19に空隙形成部材14を挿入する(b)。続いて、モールド10を磁界発生コイル17の中に入れ、空隙形成部材14に平行(蓋13に垂直)にパルス磁界を印加することにより、希土類磁石合金粉末19を配向する(c)。その際の磁界の強さは3~10T、好ましくは4~8Tとする。なお、磁界印加時には、希土類磁石合金粉末19の飛び出しを防止するために、蓋13はモールド10にしっかりと押さえつけて固定しておく。磁界中配向後、空隙形成部材14を希土類磁石合金粉末19及び挿入口131から抜き取る(d)。これにより、希土類磁石合金粉末19の成形体にスリット状の空隙18が形成される。粉末粒子同士が磁界中配向により磁気的に引きつけられているため、空隙18に粉末がこぼれることはほとんどない。その後、収容部11に充填したままの状態で希土類磁石合金粉末19を加熱する(e)。これにより、スリット状空隙を有する希土類焼結磁石が得られる。なお、焼結の際、希土類磁石合金粉末19内に不可避的に含まれる水分等が気化するが、生じた気体は挿入口131からモールド外に排出される。」 ウ.「[0032] 次に、DyやTbを粒界拡散法により焼結体内部に拡散させることを主目的とする場合について、好適な空隙形成部材の幅、間隔、挿入深さを説明する。空隙形成部材の幅が小さ過ぎると、焼結体に形成されるスリットにDyやTbを含む物質を注入することが困難になる。そのため、スリットの幅は0.1mm以上であることが好ましい。また、スリットの間隔が大きすぎるとスリットから拡散していくDyやTbが届かない部分ができてしまい、粒界拡散効果が焼結磁石全体に行き渡らず、磁気特性の不均一な磁石になってしまう。そのため、スリットの間隔、即ち空隙形成部材の間隔は6mm以下、さらには5mm以下が好ましい。挿入深さは、粒界拡散の効果を焼結磁石全体に行き渡らせるために、挿入深さ方向の磁石の厚みとの差が6mm以下、さらには5mm以下であることが好ましく、焼結体の機械的強度を考慮すると、その差が1mm以上、好ましくは2mm以上であることが好ましい。また、渦電流防止目的の場合と同様に、空隙形成部材の厚み、挿入深さ、本数及び間隔は、所定の磁気特性が得られる体積率を上回るように定める。 [0033] ここまでは板状の空隙形成部材を用いる例を示したが、粒界拡散を主目的とする場合には棒状の空隙形成部材を用いることもできる。例えば、図6に示すように、棒状の空隙形成部材34を板状の空隙形成部材取付具35の表面に縦及び横に多数、マトリックス状に並べることができる。このようにマトリックス状に並べた多数の空隙形成部材34を用いることによって多数の細孔(空隙)を持つ焼結体を作製することができ、粒界拡散法によりNd-Fe-B系焼結磁石を作製する際には、これら細孔からDy及び/又はTbを焼結体内に効率よく拡散させることができる。 [0034] 焼結体に形成される細孔の太さは、DyやTbを含む物質を確実に注入することができるように、0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。空隙形成部材34同士の間隔は、DyやTbを焼結磁石全体に行き渡らせるために、6mm以下、さらには5mm以下とすることが好ましい。挿入深さについては上述した板状の空隙形成部材の場合と同様である。 [0035] 拡散処理は、Dy及び/又はTbを含有する粉末を空隙18に充填した後、加熱することにより行う(図7)。加熱温度は700~1000℃とすればよい。空隙に注入するDy/Tb含有物質には、DyやTbのフッ化物、酸化物、酸フッ化物若しくは水素化物、又は、DyやTbと他の金属の合金やその合金の水素化物がある。ここで、DyやTbと他の金属の合金として、Fe、Co、NiなどのFe族遷移金属やB、Al、CuなどとDyやTbの合金が挙げられる。これらの物質の粉末を有機溶媒などと混合したスラリーを上記空隙に注入して加熱することにより、粒界拡散処理が有効に行われる。これらのスラリーは上記空隙のみに注入してもよいが、スリットや細孔に注入すると共に焼結体表面に塗布してもよい。これにより、上記空隙と焼結体表面の双方から粒界拡散を起こさせることができる。スラリーを上記空隙に注入(あるいはそれに加えて表面に塗布)した焼結体を700~1000℃で1~20時間、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより、粒界拡散処理を行うことができる。このようにして粒界拡散処理をすることにより、5mm以上の厚いNdFeB焼結磁石に対しても、残留磁束密度をあまり低下させずに、少量のDyやTbで効果的に保磁力を高めることができる。」 3.引用文献3(特開2000-315607号公報)について 原査定の理由に引用された上記引用文献3には、「永久磁石およびその永久磁石の固定構造」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0016】そこで、本発明による永久磁石を用いることによりこの問題を解消することが出来る。すなわち、図1において永久磁石2はNd―Fe―Bの希土類焼結磁石であって、その大きさは56mm×22mm×9mm(l×B×t)である。そしてほぼ中央部に左右均等に孔径(d)が6mmの貫通孔5が穿孔加工により形成されている。従って、この貫通孔5をボルト挿通孔となしこれに緩衝部材(本例では用いていない。)等を介在させてボルト4を挿通し、ステータ3側に形成しためねじ(図示せず)に螺着して直接固定するようにしたものである。尚、このとき、ボルト4と永久磁石2との間にばね材やゴム材、合成樹脂材等の緩衝部材や既知の振動吸収部材を介在させて磁石側にかかる応力を分散させ、また振動等を吸収するようにすることが望ましい。さらにはボルト先端の螺合部分にはねじの緩み止めとして接着剤を塗布しておくことが望ましい。尚、着磁は焼結磁石体の状態で行っても良いが、作業性や装置ものであることを考慮すると組立後に着磁処理する方が良い場合もある。」 3.引用文献4(特開昭57-145902号公報)について 原査定の理由に引用された上記引用文献4には、「多孔磁石板製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「本発明は,特に電磁型音響変換器に用いられる焼結多孔磁石板の製造法及びその実施に使用されるパンチ型に関する。」(1ページ右下欄1ないし3行) イ.「図示例について具体的に説明すると,第3図(1)(2)に示すように多数の突起4aを有する上ポンチ4と,その突起4aに対向する多数の凹み5bを第4図(1)(2)のように有する下ポンチ5との間のダイス3内に,第5図のように磁性粉を入れ上ポンチ4の突起4aの端部が下ポンチ5の対向凹み5bに入り込み,その凹み5bにそうふくらみ底1dを下ポンチ5の面5aより下方へ突出させるように圧縮成形し,その成形品を焼結した後上記ふくらみ底部1dを研磨除去して貫通多孔2を有する磁石板を製造する方法である。」(2ページ右上欄8ないし18行) 第5 対比・判断 1.本願発明1について 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明における「ステータ」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「固定子」に相当し、以下同様に、「ロータ」は「回転子」に、「永久磁石モータ」は「永久磁石電動機」に、「Nd」は「ネオジウム(Nd)」に、「希土類焼結磁石体」は「希土類磁石体」に、「Dy」は「ジスプロシウム(Dy)」に、「Tb」は「テルビウム(Tb)」にそれぞれ相当する。 また、引用発明における「一端が開口し、他端が閉じている複数のスリット2」と、本願発明1における「両端が開口している複数の連通孔」は、「複数の空隙部」という限りにおいて一致する。 したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「固定子と、回転子を備え、前記回転子は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されており、前記主磁極部には、d軸に交差する方向に沿って延びている磁石挿入孔が形成されているとともに、前記磁石挿入孔には、永久磁石が挿入されている永久磁石電動機であって、 前記永久磁石は、前記磁石挿入孔が延びている方向と交差する方向に沿って平行に直線状に延びているとともに、複数の空隙部を有しており、 前記永久磁石は、ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体により形成され、ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方が前記永久磁石の外周面および前記複数の連通孔の内周面から拡散されている永久磁石電動機。」 [相違点1] 「複数の空隙部」に関して、 本願発明1においては、「両端が開口している複数の連通孔」であるのに対し、 引用発明においては、一端が開口し、他端が閉じている複数のスリット2である点。 [相違点2] 本願発明1においては、複数の連通孔は、「前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、永久磁石の外周面から1.5mm以上離れた位置に形成されている」のに対し、 引用発明においては、複数のスリット2は、前記複数のスリット2が形成されたスリット形成面を示す平面において、スリット2の長さ方向端部とこれに対向する面1c又は1dとの間の距離D2はいずれも5mm以下、より好ましくは3mm以下、特に好ましくは1mm以下であって、0mmであってもよく、また、スリット2と平行な面1e,1fとこれに隣接するスリット2との間隔D3は、いずれも10mm以下、より好ましくは6mm以下、特に好ましくは2mm以下であって、0.4mm以上が好ましいものとされている点。 まず、事案に鑑み、上記相違点1について検討する。 引用文献2には、希土類焼結磁石において、DyやTbを粒界拡散法により焼結体内部に拡散させる際に、効率的に拡散させるためにスリットや細孔などの空隙を形成する空隙形成部材の幅、間隔、挿入深さなどを好適化することが記載されているが、スリット及び細孔の両端が開口していることは、引用文献2には記載がなく、段落[0032]に「挿入深さは、粒界拡散の効果を焼結磁石全体に行き渡らせるために、挿入深さ方向の磁石の厚みとの差が6mm以下、さらには5mm以下であることが好ましく、焼結体の機械的強度を考慮すると、その差が1mm以上、好ましくは2mm以上であることが好ましい。」との記載があることから、他端が閉じていることが前提とされていると解すのが相当である。 また、引用文献3には、Nd―Fe―Bの希土類焼結磁石にボルト挿入孔である貫通孔5を穿孔加工により形成することが記載されており、さらに、引用文献4には、電磁型音響変換器に用いられる貫通多孔2を有する焼結多孔磁石板を製造することが記載されているが、いずれも、希土類焼結磁石に効率的にDyやTbを拡散させるために貫通孔を設けるものではなく、引用発明に引用文献3や引用文献4に記載された事項を適用して、引用発明のスリット2を貫通孔とする動機が見あたらない。 したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本願発明2ないし10について 本願発明2ないし10は、本願発明1の相違点1に係る発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1は、「前記永久磁石は、前記磁石挿入孔が延びている方向と交差する方向に沿って平行に直線状に延びているとともに、両端が開口している複数の連通孔を有しており、 前記複数の連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、前記永久磁石の外周面から1.5mm以上離れた位置に形成されており、 前記永久磁石は、ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体により形成され、ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方が前記永久磁石の外周面および前記複数の連通孔の内周面から拡散されていること」(下線は、審判請求時の補正において補正された部分を示す。)という事項を有するものとなったから、前記「第5」で検討したとおり、原査定の理由において引用された引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。

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2018-001841

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