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特許拒絶査定不服審判

2018-001241

発光素子

審判番号
2018-001241
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2013-511444外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年01月30日
審決日
2019年03月04日
公報発行日
2019年04月26日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (H05B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2013-511444「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日国際公開、WO2013/133219、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特願2013-511444号(以下「本件出願」という。)は、2013年(平成25年)3月4日(優先権主張 平成24年3月5日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成28年 3月 1日付け:手続補正書 平成29年 3月 9日付け:拒絶理由通知書 平成29年 5月 8日付け:意見書、手続補正書 平成29年10月25日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成29年 1月30日付け:審判請求書、手続補正書 平成30年10月31日付け:拒絶理由通知書 平成30年12月25日付け:意見書、手続補正書 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりである。 1.(進歩性)本件出願の請求項1-6に係る発明は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 <引用文献等一覧> 引用文献A:国際公開第2011/110262号 引用文献B:国際公開第2011/032686号 引用文献C:特開2008-266309号公報 第3 平成30年10月31日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由の概要 平成30年10月31日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由は、概略、次のとおりである。 1.(進歩性)本件出願の請求項1-6に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 <引用文献等一覧> 引用文献1:国際公開第2011/048822号 引用文献2:国際公開第2008/056746号 引用文献3:国際公開第2011/048821号 引用文献4:国際公開第2011/024451号 引用文献5:国際公開第2012/001986号 第4 本願発明 本件出願の請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成30年12月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるとおりの、以下の発明である。 「  【請求項1】 陽極と陰極の間に少なくとも正孔輸送層および発光層を備え、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、 前記正孔輸送層は下記一般式(1)で表される化合物を含み、かつ前記発光層は、電子受容性窒素を含む芳香族複素環基を有する化合物であって、下記一般式(2)~(4)のいずれかで表される化合物を含有し、前記正孔輸送層は前記発光層に直接接しており、前記一般式(1)で表される化合物が前記一般式(2)~(4)のいずれかで表される化合物に対して電子ブロック性を有し、前記一般式(1)で表される化合物の三重項準位が前記一般式(2)~(4)のいずれかで表される化合物の三重項準位よりも高く、前記発光層に三重項発光材料を含むことを特徴とする発光素子。 【化1】 (一般式(1)中、R1~R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基、-P(=O)R5R6からなる群より選ばれ、R1とR2が異なる基である。R5およびR6は、アリール基またはヘテロアリール基である。Lは単結合またはアリーレン基である。R1~R4およびLが置換されている場合の追加の置換基は、アルキル基またはアリール基である。 【化2】 【化3】 【化4】 一般式(2)~(4)中、R7~R11、およびR21~R27はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、またはシリル基である。また、R7~R11は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。ただし、R7~R11の少なくとも2つが、置換基を有しないフェニル基、アルキル基を置換基として有するフェニル基、ハロゲンを置換基として有するフェニル基、またはフェニル基を置換基として有するフェニル基である。環Aまたは環Bは隣接環と任意の位置で縮合する、置換基を有するまたは置換基を有しないベンゼン環を表す。Y1~Y3は、-N(R28)-、-C(R29R30)-、酸素原子、または硫黄原子である。R28~R30はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基である。R21~R30は、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。L11~L17は、単結合またはアリーレン基である。X1~X5は、炭素原子または窒素原子を表し、X1~X5が窒素原子の場合には、窒素原子上の置換基であるR7~R11は存在しない。但し、X1~X5中の窒素原子の数は、1または2である。) 【請求項2】 前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(5)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。 【化5】 (式(5)中、R1~R4は前記と同様である。) 【請求項3】 前記一般式(1)において、R1とR2が共に置換基を有するまたは置換基を有しないアリール基であることを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。 【請求項4】 前記一般式(1)において、R1が置換基を有しないフェニル基であり、R2がジフェニルフェニル基、トリフェニルフェニル基、テトラフェニルフェニル基またはペンタフェニルフェニル基であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の発光素子。 【請求項5】 前記一般式(2)~(4)において、X1およびX5、またはX3およびX5、またはX1およびX3が窒素原子であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の発光素子。 【請求項6】 前記陽極と前記陰極の間に少なくとも電子輸送層を備え、該電子輸送層は、電子受容性窒素、ならびに炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、およびリンの中から選ばれる元素で構成されるヘテロアリール環構造を有する化合物を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の発光素子。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1の記載事項 平成30年10月31日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由に引用文献1として引用され、本件優先日前に電気回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/048822号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。 (1)「技術分野 [0001] 本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と略称する)に関するものであリ、詳しくはカルバゾール環構造を有する化合物を用いた有機EL素子に関するものである。 ・・・(中略)・・・ 発明が解決しようとする課題 [0022] 本発明の目的は、正孔の注入・輸送性能に優れ、三重項励起子を閉じ込める高い能力を有し、電子阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高く、発光効率が高い優れた特性を有する有機化合物を用いて、高効率、高耐久性の有機EL素子、特に燐光発光有機EL素子を提供することにある。 ・・・(中略)・・・ 課題を解決するための手段 [0024] そこで本発明者らは上記の目的を達成するために、カルバゾール環構造が高いT1を有していること、電子阻止性に優れていること、正孔輸送性能に優れていること、耐熱性と薄膜安定性に優れていることに着目して、カルバゾール環構造が連結した化合物を設計、選択し、該化合物を化学合成し、種々の有機EL素子を試作し、素子の特性評価を鋭意行なった結果、本発明を完成するに至った。 [0025] すなわち、本発明によれば、以下の有機EL素子が提供される。 [0026] 1)一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する有機EL素子において、下記一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物が、該正孔輸送層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機EL素子。 [0027][化6] (1) [0028](式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は、互いに同一でも異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、r1、r4、r5は0または1~4の整数を表し、r2、r3、r6は0または1~3の整数を表し、nは0または1の整数を表し、Ar1、Ar2、Ar3は互いに同一でも異なっていても良く、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。) ・・・(中略)・・・ 発明の効果 [0065] 本発明の有機EL素子に用いられる、カルバゾール環構造を有する化合物は、有機EL素子、特に燐光発光有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層の構成材料として有用であり、三重項励起子を閉じ込める能力に優れ、薄膜状態が安定で、耐熱性に優れている。本発明の有機EL素子は発光効率および電力効率が高く、このことにより素子の実用駆動電圧を低くさせることができる。さらに発光開始電圧を低くさせ、耐久性を向上させることができる。」 (2)「[0068] 一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。 ・・・(中略)・・・ [0071][化19] (化合物7) [0072][化20] (化合物8) [0073][化21] (化合物9) ・・・(中略)・・・ [0124] 本発明の有機EL素子の構造としては、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極からなるもの、また、電子輸送層と陰極の間にさらに電子注入層を有するものがあげられる。これらの多層構造においては有機層を何層か省略することが可能である。 ・・・(中略)・・・ [0127] 本発明の有機EL素子の正孔輸送層として、本発明の一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物のほか、TPDやα-NPD、N,N,N’,N’-テトラビフェニリルベンジジンなどのベンジジン誘導体、TAPC、種々のトリフェニルアミン3量体および4量体などを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ [0130] 本発明の有機EL素子の発光層として、Alq3をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体の他、各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などを用いることができる。また、発光層をホスト材料とドーパント材料とで構成しても良く、ホスト材料として、本発明の一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物のほか、前記発光材料に加え、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ [0131] また、発光材料として燐光性の発光材料を使用することも可能である。燐光性の発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。」 (3)「[請求項1] 一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する有機EL素子において、下記一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物が、該正孔輸送層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機EL素子。 [化1] (1) (式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は、互いに同一でも異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、r1、r4、r5は0または1~4の整数を表し、r2、r3、r6は0または1~3の整数を表し、nは0または1の整数を表し、Ar1、Ar2、Ar3は互いに同一でも異なっていても良く、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)」 2 引用発明 上記1より、引用文献1には、請求項1に係る発明として、次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお、引用文献1の記載要領に倣って、R1の「1」などが下付であるか否かについては考慮せず、記載している。 「 一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する有機EL素子において、下記一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物が、該正孔輸送層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機EL素子。 [化1] (1) (式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は、互いに同一でも異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、r1、r4、r5は0または1~4の整数を表し、r2、r3、r6は0または1~3の整数を表し、nは0または1の整数を表し、Ar1、Ar2、Ar3は互いに同一でも異なっていても良く、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)」 3 引用文献2の記載事項 平成30年10月31日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由に引用文献2として引用され、本件優先日前に電気回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2008/056746号(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。 「技術分野 [0001] 本発明は新規な有機電界発光素子用化合物及び有機電界発光素子(以下、有機EL素子という)に関するものであり、詳しくは、燐光発光ドーパントと特定の構造を有するホスト化合物を併用することにより、高輝度率を示す有機EL素子に関するものである。 ・・・(中略)・・・ 発明が解決しようとする課題 [0011] 有機EL素子をフラットパネル・ディスプレイ等の表示素子に応用するためには、素子の発光効率を改善すると同時に駆動時の安定性を十分に確保する必要がある。本発明は、上記現状に鑑み、高効率かつ高い駆動安定性を有した実用上有用な有機EL素子及びそれに適する化合物を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0012] 本発明者らは、鋭意検討した結果、特定構造の化合物を有機EL素子に使用することで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。 [0013] すなわち、本発明は、特定のインドロカルバゾール骨格の化合物を使用することにより、高効率かつ高い駆動安定性を有した実用上有用な有機EL素子を提供するものである。 [0014] 本発明の有機電界発光素子用化合物は、下記一般式(1)で表される。 ここで、環Aは隣接環と任意の位置で縮合する式(1a)で表される複素環を表し、Xは、N又はCHを示し、Xのうち少なくとも一つは、窒素原子である。Ar1~Ar3は、独立に縮環構造でない置換若しくは未置換の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示し、Ar2、Ar3はXを含む環と縮合環を形成してもよい。Rは水素又は1価の置換基を示す。 [0015] 一般式(1)で表される有機電界発光素子用化合物には、下記一般式(2)又は(3)で表される化合物がある。 一般式(2)及び(3)中、X及びAr1~Ar3は一般式(1)のそれらと同意である。 [0016] また本発明は、上記の有機電界発光素子用化合物を含む有機層を有する有機電界発光素子である。有利には、基板上に積層された陽極と陰極の間に、発光層を有する有機電界発光素子であって、該発光層が、燐光発光性ドーパントと上記一般式(1)、(2)又は(3)で表される有機電界発光素子用化合物をホスト材料として含有することを特徴とする有機電界発光素子である。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 電極、正孔輸送層、発光層 引用発明の「正孔輸送層」及び「発光層」は、技術的にみて、それぞれ本願発明1の「正孔輸送層」及び「発光層」に相当する。 また、引用発明の「一対の電極」のうち、「正孔輸送層」側のもの及び「発光層」側のものは、技術的にみて、それぞれ本願発明1の「陽極」及び「陰極」に相当する。 さらに、引用発明の「有機EL素子」は、「一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する」ものである。 そうしてみると、引用発明の「有機EL素子」は、本願発明1の「陽極と陰極の間に少なくとも正孔輸送層および発光層を備え」るという要件を満たすものである。 イ 発光素子 引用発明の「有機EL素子」は、その構成からみて、本願発明1の「電気エネルギーにより発光する」とされた、「発光素子」に相当する。 ウ 三重項発光材料 引用発明の「燐光性の発光材料」は、技術的にみて、本願発明1の「三重項発光材料」に相当する。 そして、引用発明の「発光層」は、「燐光性の発光材料を含有する」ものである。 そうしてみると、引用発明の「発光層」は、本願発明1の「三重項発光材料を含む」という要件を満たす。 (2)一致点及び相違点 ア 本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。 (一致点) 「 陽極と陰極の間に少なくとも正孔輸送層および発光層を備え、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記発光層に三重項発光材料を含む、 発光素子。」 イ 本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明1の「発光素子」においては、「正孔輸送層は下記一般式(1)で表される化合物を含み」、「発光層は、電子受容性窒素を含む芳香族複素環基を有する化合物であって、下記一般式(2)~(4)のいずれかで表される化合物を含有し」、「前記正孔輸送層は前記発光層に直接接しており」、「前記一般式(1)で表される化合物が前記一般式(2)~(4)のいずれかで表される化合物に対して電子ブロック性を有し」、「前記一般式(1)で表される化合物の三重項準位が前記一般式(2)~(4)のいずれかで表される化合物の三重項準位よりも高」いのに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。 【化1】 (一般式(1)中、R1~R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基、-P(=O)R5R6からなる群より選ばれ、R1とR2が異なる基である。R5およびR6は、アリール基またはヘテロアリール基である。Lは単結合またはアリーレン基である。R1~R4およびLが置換されている場合の追加の置換基は、アルキル基またはアリール基である。 【化2】 【化3】 【化4】 一般式(2)~(4)中、R7~R11、およびR21~R27はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、またはシリル基である。また、R7~R11は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。ただし、R7~R11の少なくとも2つが、置換基を有しないフェニル基、アルキル基を置換基として有するフェニル基、ハロゲンを置換基として有するフェニル基、またはフェニル基を置換基として有するフェニル基である。環Aまたは環Bは隣接環と任意の位置で縮合する、置換基を有するまたは置換基を有しないベンゼン環を表す。Y1~Y3は、-N(R28)-、-C(R29R30)-、酸素原子、または硫黄原子である。R28~R30はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基である。 R21~R30は、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。L11~L17は、単結合またはアリーレン基である。X1~X5は、炭素原子または窒素原子を表し、X1~X5が窒素原子の場合には、窒素原子上の置換基であるR7~R11は存在しない。但し、X1~X5中の窒素原子の数は、1または2である。) (3)特許法第29条第2項(進歩性)の判断について 相違点1について検討する。 本願発明1の「発光素子」は、本件明細書の【0006】における「従来の技術では素子の駆動電圧を十分に下げることは困難であった。また、素子の駆動電圧を下げることができたとしても、素子の発光効率、耐久寿命が不十分であった。このように、高い発光効率、さらに耐久寿命も両立させる技術は未だ見出されていない。」という課題を解決するものである。また、本願発明1の「発光素子」は、本件明細書の【0013】に記載されているとおりの「高い発光効率を有し、さらに十分な耐久寿命も兼ね備えた有機電界発光素子を提供する」という効果(以下「本願効果」という。)を奏するものであるといえる。加えて、本件明細書の【0015】及び【0016】には、それぞれ「本発明に用いられる、電子受容性窒素を含む芳香族複素環基を有する化合物は、高い電子注入輸送能を有するため、発光層として用いることで高発光効率かつ低駆動電圧の有機薄膜発光素子を与えることができる。しかしながらこの発光層は、非常に高い電子注入輸送能を有するため、組み合わせて用いられる正孔輸送層の種類によっては、発光層内の再結合領域が正孔輸送層側に局在化し、三重項エネルギーと電子が正孔輸送層に漏れるため、素子の発光効率低下と耐久性劣化の要因となることがある。」及び「これに対し本発明者らは、一般式(1)で表される化合物を正孔輸送層として用いることで、高い発光効率と耐久性の大幅な改善が可能となることを見出した。つまり、一般式(1)で表される化合物は、高い電子ブロック性、高い三重項エネルギーを有しており、発光層内の再結合領域が正孔輸送層側に局在化しても、三重項エネルギーと電子を発光層内に閉じ込めることができるため、高効率化と長寿命化が可能となった。」と記載されているところでもある。 他方、引用発明は、相違点1に係る構成を具備するものではない。そして、引用文献1には、引用発明を相違点1に係る構成を具備するものとすること及びそれによって本願効果を奏するものとすることは、記載も示唆もされていない。 また、引用文献2-5には、引用発明を相違点1に係る構成を具備するものとすること及びそれによって本願効果を奏するものとすることは、記載も示唆もされていない。 さらに、このような要件を具備する構成とすること及びそれによって本願効果を奏するものとすることが技術常識又は周知技術であるもいえない。 したがって、本願発明1は、当業者といえども、引用発明、並びに、引用文献1及び2の記載事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2-本願発明6について 本願発明2-本願発明6は、相違点1に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明と引用文献1及び2の記載事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 平成30年10月31日付け拒絶理由通知書における理由2(特許法第36条第6項第1号)について 平成30年10月31日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由2は、平成30年12月25日にした手続補正によって解消した。 第8 原査定について 1 理由1(特許法第29条第2項) (1)本願発明1について 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された国際公開第2011/110262号(以下「引用文献A」という。)には、相違点1に係る本願発明1の構成とすること及び本願効果を奏するものとすることは記載も示唆もされていない。また、原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された国際公開第2011/032686号及び引用文献3として引用された特開2008-266309号公報も、引用文献Aと同様である。 さらに、相違点1に係る本願発明1の構成とすること及びそれによって本願効果を奏するものとすることが技術常識又は周知技術であるもいえない。 そうしてみると、本願発明1は、当業者であっても、引用文献Aに基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)本願発明2-本願発明6について 本願発明2-本願発明6は、相違点1に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明Aに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 理由2(特許法第36条第6項第2号)について 原査定の拒絶の理由2は、平成29年1月30日にした手続補正によって解消した。 以上より、原査定の理由を維持することはできない。 第9 むすび 以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由もない。 よって、結論のとおり審決する。

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2018-001241

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