特許拒絶査定不服審判
2018-000322
可変型潤滑油ベーンポンプ
- 審判番号
- 2018-000322
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-518846外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年01月11日
- 審決日
- 2018年10月30日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WY (F04C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-518846「可変型潤滑油ベーンポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日国際公開、WO2014/198322、平成28年 8月12日国内公表、特表2016-524073、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)6月13日を国際出願日とする出願であって、平成28年12月7日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年4月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成29年9月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年1月11日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(平成29年9月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1~4に係る発明は、以下の引用文献1~3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.国際公開第2012/113437号
2.特開2011-179485号公報
3.特開昭57-131890号公報
第3 本願発明
本願請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明3」という。)は、平成30年1月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
内燃機関に加圧潤滑油を提供する可変型潤滑油ベーンポンプ(10)において、
ポンプハウジング(12)であって、
径方向に摺動可能な複数のベーン(32)を有し、該ベーン(32)がシフト可能な制御リング(28)内で回転し、該制御リング(28)がポンプキャビティ(18)を囲繞している、ポンプロータ(30)と、充填領域(22)から吐出領域(24)に回転する多数の回転ポンプ室(191~197)とを備え、前記加圧潤滑油が前記回転ポンプ室(192,193)から出口キャビティ(14)に吐出される、ポンプハウジング(12)と、
高ポンプ容量位置と低ポンプ容量位置との間でロータ軸線(33)に対してシフト可能な制御リング(28)と、
高ポンプ容量方向に前記制御リング(28)を押し出す圧力制御室(40)であって、該圧力制御室に前記出口キャビティ(14)からの潤滑油が充填される、圧力制御室(40)と、
潤滑油タンク(52)に前記圧力制御室(40)を接続するか又は非接続とする制御弁(50)と、
前記圧力制御室(40)の圧力に抗して低ポンプ容量方向に前記制御リング(28)を押し出すパイロット室(54)と、
前記出口キャビティ(14)を前記パイロット室(54)に接続するパイロット室通路(48)と、
前記出口キャビティ(14)を前記圧力制御室(40)に直接に接続する制御室通路(60)と
を備え、
前記制御室通路(60)の最小の流路断面積は、前記パイロット室通路(48)の最小の流路断面積の1/4よりも大きく且つ1/1よりも大きくはなく、
前記制御室通路(60)は、前記制御リング(28)に溝(62)として備えられ、
前記圧力制御室(40)の流体圧的な有効断面積は前記パイロット室(54)の流体圧的な有効断面積よりも大きく、
前記パイロット室通路(48)は前記ポンプハウジング(12)のハウジング壁(15)の一部に備えられている、可変型潤滑油ベーンポンプ(10)。
【請求項2】
前記高ポンプ容量方向に前記制御リング(28)を押し出す機械的な予荷重要素(42)が備えられている、請求項1に記載の可変型潤滑油ベーンポンプ(10)。
【請求項3】
前記予荷重要素(42)は、前記圧力制御室(40)内に配置されたばねである、請求項2に記載の可変型潤滑油ベーンポンプ(10)。」
第4 引用文献、引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。日本語訳は、当審で作成したものである(下線は当審で付与した(以下同様。))。
(ア)「The present invention refers to a variable displacement lubricant pump for providing pressurized lubricant for an internal combustion engine.」(1頁3~4行)
(本発明は、内燃機関に加圧された潤滑油を供給するための可変容量形潤滑油ポンプに関する。)
(イ)「The variable displacement lubricant pump is provided with a pump rotor with radially slidable vanes rotating in a shiftable control ring. The pump is provided with a first pressure control chamber for pushing the control ring into a high pumping volume direction. The first pressure control chamber is connected to the pump outlet port by the first pressure conduit. The pressure control valve for controlling the pressure in the first pressure control chamber comprises a control plunger, an input pressure plunger and a control spring. The control plunger opens and closes a control port in a cylinder wall of the control valve. The control port is connected with an outlet port of the control chamber.」(2頁1~10行)
(可変容量形潤滑油ポンプは、半径方向に摺動可能な複数のベーンを有し、シフト可能な制御リング内で回転するポンプロータを備える。ポンプは、制御リングを高ポンプ容量方向に押し出す第1圧力制御室を備える。第1圧力制御室は、第1圧力導管によってポンプ出口ポートに接続される。第1圧力制御室内の圧力を制御する圧力制御弁は、制御ピストン、入力圧力ピストン、及び制御ばねを備える。制御ピストンは、圧力制御弁のシリンダ壁に設けた制御ポートを開閉する。制御ポートは、第1圧力制御室の出口ポートに接続されている。)
(ウ)「When the control plunger blocks and closes the control port, the pressure in the first pressure control chamber increases so that the control ring is pushed into high pumping volume direction. When the control plunger does not close the control port of the pressure control valve, the pressure in the first pressure control chamber decreases to more or less atmospheric pressure so that the control ring can move into a low pumping volume direction.」(2頁11~17行)
(制御ピストンが制御ポートを閉じると、第1圧力制御室内の圧力が上昇し、制御リングは高ポンプ容量方向に押し出される。制御ピストンが圧力制御弁の制御ポートを閉じていないと、第1圧力制御室内の圧力がおおよそ大気圧まで減少し、制御リングが低ポンプ容量方向に移動できる。)
(エ)「Figure 1 shows a schematic representation of a variable displacement lubricant pump 10 as a part of a pumping system 100 for supplying an internal combustion engine 70 with pressurized lubricant. The pump 10 is mechanically directly driven by the engine 70 and comprises a pump housing 11 having a cavity 16 in which a radially shiftable control ring 12 translates.」(4頁27行~5頁3行)
(図1は、可変容量形潤滑油ポンプ10の概略図であり、ポンプ10は内燃機関70に加圧潤滑油を提供するためのポンプシステム100の一部である。ポンプ10は、内燃機関70により機械的に直接駆動されるものであり、キャビティ16を有するポンプハウジング11を備え、半径方向にシフト可能な制御リング12が、キャビティ16内で変位する。)
(オ)「The control ring 12 encircles a pump rotor 13 which is provided with numerous radially slidable vanes 14, whereby the vanes 14 are rotating inside the shiftable control ring 12. The pump housing 11 is closed by two pump side walls 15 of which one is not shown in the drawing. The pump side walls 15, the vanes 14, the pump rotor 13 and the control ring 12 define five rotating pump chambers 17. One of the side walls 15 is provided with a pump chamber inlet opening 18 and with a pump chamber outlet opening 19.」(5頁4~11行)
(制御リング12が、半径方向に摺動可能な多数のベーン14を有するポンプロータ13を囲繞しており、ベーン14はシフト可能な制御リング12内で回転する。ポンプハウジング11は、2枚のポンプ側壁15によって閉鎖されており、ポンプ側壁の1枚は図に示されていない。ポンプ側壁15、ベーン14、ポンプロータ13及び制御リング12が、5つの回転ポンプ室17を形成する。ポンプ側壁の一方には、ポンプ室への入口開口18とポンプ室からの出口開口19が備えられている。)
(カ)「The control ring 12 is provided with a first control ring plunger 24 housed in part in a first pressure control chamber 25 and is provided with a second control ring plunger 22 housed in part in a second control chamber 23 opposite the first pressure control chamber 25. The plungers 22, 24 are prismatic in cross section. The control ring 12 and the plungers 22, 24 are one single integral part.」(5頁12~17行)
(制御リング12には、第1圧力制御室25に収容された第1制御リングプランジャ24と、第1圧力制御室25とは反対側の第2圧力制御室23に収容された第2制御リングプランジャ22とが備えられている。プランジャ22、24は、断面が多角形状である。制御リング12及びプランジャ22、24は、一体化した構成部分である。)
(キ)「A pretensioned control chamber spring 28 inside the first pressure control chamber 25 exerts a pushing force to the first plunger 24. Both control chambers 25, 23 are defined by the pump housing 11. The pump housing 11 also comprises a pump inlet port 20 for sucking the lubricant from a lubricant tank 50 and a pump outlet port 21 for feeding lubricant with a discharge pressure to the engine 70. An engine supply conduit 80 extends from the pump outlet port 21 to the engine 70 to supply the engine 70 with pressurized lubricant.」(5頁18~25行)
(第1圧力制御室25内の予荷重制御室ばね28は、第1プランジャ24に押し出し力を加える。両制御室25、23は、ポンプハウジング11に形成されている。ポンプハウジング11は、潤滑油タンク50から潤滑油を吸引する入口ポート20と、吐出圧でエンジン70に潤滑油を供給する出口ポート21を有する。エンジンへの供給導管80は、出口ポート21からエンジン70へ延び、加圧潤滑油をエンジン70に供給する。)
(ク)「The lubricant discharge pressure at the pump outlet port 21 is transmitted to the second control chamber 23 via a pressure conduit 81. Additionally, the lubricant leaving the pump outlet port 21 is conducted to the first pressure control chamber 25 via a conduits 82,87 and through a pressure throttle valve 67 in which a calibrated pressure drop occurs as the lubricant flows through.」(5頁26行~6頁2行)
(出口ポート21の吐出圧は、圧力導管81を通じて第2圧力制御室23に伝達される。さらに、出口ポート21から出た潤滑油は、導管82、87及び圧力絞り弁67を通って第1圧力制御室25へ導かれる。圧力絞り弁67では、そこを流れる潤滑油に調整された圧力低下が生じる。)
(ケ)「The pump outlet port 21 is also connected to an input pressure port 61 of a pressure control valve 60 by a conduit 82,88. The pressure control valve 60 keeps the outlet pressure at the pump outlet port 21 at a constant nominal pressure value independently of the rotational speed of the engine 70 by regulating the radial position of the control ring 12. The radial position of the control ring 12 is controlled by controlling the pressure in the first control chamber 25.」(6頁3~9行)
(出口ポート21はまた、導管82、88によって圧力制御弁60の入り口ポート61に接続されている。圧力制御弁60は、制御リング12の半径方向位置を調整することにより、エンジン70の回転数から独立してポンプ出口ポート21の吐出圧を所定圧力に保つ。制御リング12の半径方向位置は、第1圧力制御室25内の圧力によって制御される。)
(コ)「The control valve 60 is provided with a single integral valve housing 90 which comprises two different functional parts, i.e. a pressure control arrangement 94 and the preload control arrangement 30. The valve housing 90 is provided with two different cylindrical parts of different diameters: the pressure control cylinder wall 65 with a low diameter housing the pressure control arrangement 94 and the preload cylinder 31 with a higher diameter housing the preload plunger 42.」(6頁13~19行)
(制御弁60は、2つの異なる機能部分、すなわち、圧力制御装置94と予圧制御装置30とを有する、一体化した弁ハウジング90を備える。弁ハウジング90は、直径の異なる2つのシリンダ部分を有する。圧力制御装置94を収容する直径の小さい圧力制御シリンダ壁65と、予圧制御ピストン42を収容する直径の大きい予圧シリンダ31である。)
(サ)「The pressure control arrangement 94 controls the discharge of the first control chamber 25 via conduit 83 by closing and opening a control port 66 in the cylinder wall 65. The control plunger 64 closes the control port 66 in a closing position and opens the control port 66 in the open position. In an open position of the control plunger 64 the lubricant of the control chamber 25 can be discharged via a conduit 83, the control port 66, a control valve discharge port 97 and a discharge conduit 84 to the lubricant tank 50.」(7頁1~8行)
(圧力制御装置94は、シリンダ壁65の制御ポート66を開閉し、導管83を通じて第1制御室25の排出を制御する。制御ピストン64は、閉鎖位置で制御ポート66を閉じ、開放位置で制御ポート66を開く。制御ピストン64の開放位置において、制御室25の潤滑油が、導管83、制御ポート66、制御弁の排出ポート97、及び排出導管84を通じて潤滑油タンク50に排出できる。)
(シ)図1には、出口ポート21が設けられている部分は、ポンプハウジング11内に形成されたキャビティであることが図示されている(符号15の引出線が指している箇所を参照)。このキャビティに出口ポート21が設けられていることなどから、加圧潤滑油が5つの回転ポンプ室17からこのキャビティに吐出され、さらに出口ポート21を通ってポンプ外へと出て行くことは明らかである。したがって、このキャビティは、出口キャビティと呼ぶことができる。
(ス)前記(コ)、(サ)の記載事項から、圧力制御弁60は、その圧力制御装置94部分で、潤滑油タンク50に第1圧力制御室25を接続するか又は非接続とするかを制御していることが理解できる。
(セ)前記(ウ)、(カ)、(ク)、(コ)、(サ)の記載事項から、第2圧力制御室23は、第1圧力制御室25の圧力に抗して低ポンプ容量方向に制御リング12を押し出す機能を果たしていることが理解できる。
(ソ)前記(ク)、(シ)、図1の記載事項から、出口キャビティと第2圧力制御室23は、出口ポート21に接続された圧力導管81によって接続されていることが理解できる。同様に、出口キャビティと第1圧力制御室25は、出口ポート21に接続された導管82、87を通り、圧力絞り弁67を介して出口ポート21に接続されていることが理解できる。
引用文献1の前記記載事項から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「内燃機関70に加圧潤滑油を提供する可変容量形潤滑油ポンプ10において、
ポンプハウジング11であって、
半径方向に摺動可能な多数のベーン14を有し、該ベーン14はシフト可能な制御リング12内で回転し、該制御リング12がポンプロータ13を囲繞しており、
ポンプ室への入口開口18とポンプ室からの出口開口19と、5つの回転ポンプ室17とを備え、
加圧潤滑油が前記5つの回転ポンプ室17から出口キャビティに吐出される、
ポンプハウジング11と、
高ポンプ容量方向と低ポンプ容量方向とに半径方向にシフト可能な制御リング12と、
高ポンプ容量方向に制御リング12を押し出す第1圧力制御室25であって、該第1圧力制御室25に前記出口キャビティからの潤滑油が導かれる、第1圧力制御室25と、
潤滑油タンク50に前記第1圧力制御室25を接続するか又は非接続とする圧力制御弁60と、
前記第1圧力制御室25の圧力に抗して低ポンプ容量方向に制御リング12を押し出す第2圧力制御室23と、
前記出口キャビティを前記第2圧力制御室23に接続する圧力導管81と、
前記出口キャビティを前記第1圧力制御室25に、圧力絞り弁67を介して接続する導管82、87と
を備え、
前記出口キャビティを前記第1圧力制御室25に接続する導管82、87は、前記出口キャビティの出口ポート21と前記第1圧力制御室25とを接続する導管として備えられ、
前記出口キャビティを前記第2圧力制御室23に接続する圧力導管81は、前記出口キャビティの出口ポート21と前記第2圧力制御室23とを接続する導管として備えられている、
可変容量形潤滑油ポンプ10。」
(2)引用文献2の記載事項
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(タ)「【0001】本発明は、油圧機器の油圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプに関する。」
(チ)「【0012】可変容量型ベーンポンプ(以下「ベーンポンプ」という)100は、車両に搭載される油圧機器、例えばパワーステアリング装置や無段変速機の油圧供給源として用いられる。」
(ツ)「【0015】ポンプボディ10には、カムリング4を収容する収容凹部10Aが形成される。収容凹部10Aの底面10Bには、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接する円盤状のサイドプレート6が配置される。収容凹部10Aの開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー5によって閉塞される。ポンプカバー5は、ボルト7を介してポンプボディ10に締結される。」
(テ)「【0023】カムリング4の外周面とアダプタリング11の内周面との間には、支持ピン12とシール部材13によって、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが画成される。カムリング4は、第一流体圧室31内の作動油の圧力と第二流体圧室32内の作動油の圧力との圧力差に基づき、シール部材13に摺接しつつ支持ピン12を支点に回動する。なお、カムリング4は、支持ピン12ではなく、支持プレートを支点として移動可能に構成してもよい。」
(ト)「【0024】第一流体圧室31と第二流体圧室32の作動油の圧力は、ポンプボディ10の収容穴10Cに収容される制御バルブ21によって制御される。」
(ナ)「【0025】制御バルブ21は、吐出通路に介装された流量検出オリフィス(図示省略)の前後差圧によって収容穴10Cを摺動するスプール22を備えており、スプール22の位置に応じて第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動油の圧力を調整する。」
(ニ)「【0026】第一流体圧室31は、第一通路33及び制御バルブ21を介して、高圧室9又はドレン通路35に連通する。ドレン通路35は、収容穴10Cと吸込通路5Bに連通する通路である。」
(ヌ)「【0027】第二流体圧室32は、第二通路34及び制御バルブ21を介して、ドレン通路35と連通し、又はドレン通路35との連通が遮断される。第二流体圧室32には、サイドプレート6に形成された溝部61を介して、ポンプ室8から吐出された高圧の作動油が供給される。」
(ネ)「【0028】図2及び図3に示すように、溝部61は、サイドプレート6のロータ2及びカムリング4に当接する当接面に形成される。溝部61は、サイドプレート6の径方向に亘って形成された溝であり、作動油流れ方向上流から下流に向かって溝幅が狭くなるように形成される傾斜部62と、傾斜部62から一定溝幅で直線的に形成される直線部63とを備える。サイドプレート6がロータ2及びカムリング4に当接した状態で、溝部61の傾斜部62の上流部が吐出ポート6Aに開口し、直線部63の下流部が第二流体圧室32に開口する。」
(ノ)「【0029】したがって、ポンプ室8から吐出ポート6Aに吐出された作動油の一部は、溝部61の傾斜部62に流れ込み、直線部63を通って第二流体圧室32に流入する。このようにポンプ室8から吐出された高圧の作動油は、溝部61を介して、第二流体圧室32に常時導かれることになる。なお、溝部61は、高圧の作動油を第二流体圧室32に導くように直線部63のみで構成するようにしてもよい。」
(ハ)「【0032】吐出通路に設けられた流量検出オリフィス(図示省略)の前後差圧が小さい場合(ロータ2の回転速度が低い場合)には、制御バルブ21のスプール22を介して、第一流体圧室31はドレン通路35に連通し、第二流体圧室32はドレン通路35との連通が遮断される。第二流体圧室32にはサイドプレート6の溝部61を介して高圧の作動油が導かれ、第一流体圧室31の作動油はドレン通路35へと排出されるので、カムリング4は第二流体圧室32内の作動油の圧力によってロータ2に対する偏心量が大きくなる方向に移動する。これにより、ベーンポンプ100の吐出容量が大きくなる。」
(ヒ)「【0037】また、溝部61は、溝幅が狭くなるように形成された傾斜部62と、傾斜部62から一定溝幅で直線的に形成された直線部63とを備えるので、固定オリフィスとして機能する。第二流体圧室32内の作動油の圧力が変動しやすいとカムリング4の動作が不安定となるが、ベーンポンプ100では傾斜部62によって第二流体圧室32に流入する作動油の流量が調整されるので、油圧機器の負荷が細かく変動する場合等においても第二流体圧室32の作動油の圧力変動を抑制することができる。これにより、カムリング4の動作が安定し、ポンプ吐出容量特性も安定する。」
(フ)「【0039】本実施形態のベーンポンプ100では、サイドプレート6に溝部61を形成したが、カムリング4に同様の溝部を形成するようにしてもよい。この溝部は、カムリング4のサイドプレート6に当接する当接面に設けられ、ポンプ室8から吐出された作動油を第二流体圧室32に導くように形成される。カムリング4の溝部は、カムリング4が移動しても、吐出領域側のポンプ室8と第二流体圧室32とが連通する位置に形成される。」
(ヘ)図1には、第一流体圧室31と制御バルブ21を接続する第一通路33が、ポンプボディ10の壁の一部に備えられていることが示されている。 (テ)(ハ)の下線部の記載にからみて、第二流体圧室32へ高圧の作動油を流入させることによりカムリング4を吐出容量が大きくなる方向に移動させること及び第一流体圧室31を高圧室9に連通させることによりカムリング4を吐出容量が小さくなる方向に移動させることが理解できる。
したがって、上記引用文献2には、次に示す技術的事項2-1、2-2が記載されていると認められる。
<技術的事項2-1>
「第二流体圧室32へ高圧の作動油を流入させることによりカムリング4を吐出容量が大きくなる方向に移動させる可変容量型ベーンポンプにおいて、第二流体圧室32へ吐出ポート6Aからの高圧の作動油を流入させる固定オリフィスとして機能する溝部61を備え、溝部61をカムリング4のサイドプレート6に当接する当接面に設けること。」
<技術的事項2-2>
「第一流体圧室31を高圧室9に連通させることによりカムリング4を吐出容量が小さくなる方向に移動させる可変容量型ベーンポンプにおいて、第一流体圧室31を高圧室9又はドレン通路35に連通する制御バルブ21を備え、第一流体圧室31と制御バルブ21を接続する第一通路33が、ポンプボディ10の壁の一部に備えられていること。」
(3)引用文献3の記載事項
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ホ)「本発明は、可変吐出量ポンプを用いた圧力制御の応答性を改善するようにした油圧制御装置に関する。
従来、この種の油圧制御装置としては、例えば第1図に示すものが用いられている。
第1図において、1は可変吐出量ベーンポンプであり、その吐出側の主管路となる負荷ライン2から絞り3を介してリモートコントロール用リリーフ弁4に負荷ライン2の油圧を供給し、負荷ライン2の圧力が設定圧に達すると、リモートコントロール用リリーフ弁4が作動してタンク5に油を流し、絞り3に差圧ΔPを発生させる。
この絞り3に生ずる差圧ΔPは、圧力制御弁として設けたプレツシヤコンペンセータ弁6の前後差圧として加えられ、差圧ΔPがスプリング7で設定している所定値以下のときには、図示の切換位置にあり、一方、差圧ΔPが所定値を上回ると、差圧ΔPがスプリング7に打ち勝つて、右側の位置に切換わる。
このような絞り3の差圧ΔPに基づいたプレツシヤコンペンセータ弁6の切換えによる圧力制御は、図示の切換位置で、絞り8を介してポートaに導いている制御油圧を、ポートcから可変吐出量ベーンポンプ1の制御アクチユエータ1aに供給することで、ベーン偏心量を最大にして最大吐出量とし、負荷ライン2の圧力が上昇してプレツシヤコンペンセータ弁6が右側の位置に切換わると、ポートb,cが連通して制御アクチユエータ1aをタンク5に連通し、このため、復旧用アクチユエータ1bの作動でベーン偏心量がゼロ位置に戻されて吐出量をゼロ付近に絞り込むようにして負荷ライン2の圧力上昇を抑え、上記の切換え動作を繰り返すことにより、負荷ライン2の設定圧力に制御している。」(1頁右下欄7行~2頁右上欄4行)
(マ)「ところで、プレツシヤコンペンセータ弁6のポートaに接続しているパイロツト管路9に絞り8を設けている理由は、プレツシヤコンペンセータ弁6が右側の位置に切換つたときに、ポートaもタンク5に連通して油が流れ、この油の流れにより制御アクチユエータ1aからの油の流れを妨げて戻りを悪くするようになるので、絞り8によつてパイロツト管路9の流れを抑えて、制御アクチユエータ1aが速やかに戻えるようにしている。
ところが、パイロツト管路9の絞り8は、図の切換え位置で制御アクチユエータ1aに制御油圧を供給しようとするときにも油の流れを悪くしており、そのため吐出量を増加させて圧力を上昇させようとするときの応答性を悪くしている。
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、可変吐出量ポンプの制御アクチユエータに油圧供給を行なうときの油の流れを良くし、且つ、制御アクチユエータをタンクに連通するように切換えたときにのみ、制御油圧を供給しているラインの油の流れを制限する絞りを圧力制御弁に内蔵させることにより、圧力制御の応答性を高めるようにした油圧制御装置を提供することを目的とする。」(2頁右上欄5行~同頁左下欄8行)
(ミ)「第2図は本発明の基本的な実施例をした油圧回路図であり、可変吐出量ベーンポンプ10、圧力制御用の差圧を発する絞り11、リモートコントロールリリーフ弁12、及び本発明に用いる圧力制御弁としてのプレツシヤコンペンセータ弁13で構成され、可変吐出量ベーンポンプ10は、その制御アクチユエータ10aへの油圧供給で最大吐出量が得られ、また、制御アクチユエータ10aをタンク14に連通すると、復旧アクチユエータ10bの作動で吐出量ゼロ(最低吐出量)に押し戻される。
プレツシヤコンペンセータ弁13は、その両側に絞り11の前後圧をパイロツト圧として導くと共に、負荷ライン15から導いているパイロット圧をパイロット管路16により分岐して直接ポートaに接続している。また、このプレツシヤコンペンセータ弁13の右側の切換え位置には、パイロット管路16からの油の流れを妨げるための絞り17が内蔵されている。」(2頁左下欄10行~同頁右下欄10行)
(ム)「次に作を説明すると、可変吐出量ベーンポンプ10を最大吐出量とする図示の切換え位置では、パイロツト管路16からの制御油圧は、その流れを妨げられることなく、プレツシヤコンペンセータ弁13を介して直接制御アクチユエータ10aに供給され、ベーン偏心量を最大位置に駆動している。
次に、負荷ライン15の圧力上昇により、リモートコントロール用リリーフ弁12が作動してタンク14に油を流すと、絞り11に差圧ΔPが発生し、この差圧ΔPがスプリング18に打ち勝つと、プレツシヤコンペンセータ弁13は右側の位置に切換る。このため、制御アクチユエータ10aがタンク14に連通し、同時にパイロット管路16からの油は、絞り17によつて流れを妨げられるので、制御アクチユエータ10aからタンク14ヘの油の排出は速やかに行なわれ、復旧用アクチユエータ10aによる駆動で、ベーン偏心量はゼロ位置に向い、吐出量を絞ることによつて負荷ラインの圧力を抑える。
このように、本発明の装置によれば、プレツシヤコンペンセータ弁13の切換えによる吐出量制御は、制御油圧の供給に切換えたときにも、油の流れは絞り等により妨げられないので、高い圧力制御の応答性が得られる。」(2頁右下欄11行~3頁左上欄17行)
(メ)(マ)の下線部の記載からみて、制御アクチュエータ10aへ油圧供給を行うパイロット管路16等に絞りを設けないと、パイロット管路16等からの流れにより、制御アクチュエータ10aの戻りが悪くなるため、ポンプ吐出量を絞るときの応答性が悪くなることが理解できる
したがって、上記引用文献3には、次に示す技術的事項3-1、3-2が記載されていると認められる。
<技術的事項3-1>
「制御アクチユエータ10aへの油圧供給でベーン偏心量を最大にして最大吐出量とし、制御アクチユエータ10aからの油の排出によりベーン偏心量がゼロ位置に戻されて吐出量をゼロ付近に絞り込む可変吐出量ベーンポンプにおいて、制御アクチユエータ10aへ油圧供給を行うパイロツト管路16に絞りを設けないようにすると、制御アクチユエータ10aへの油の流れが妨げられないので、ポンプ吐出量を増加させるときの応答性が良くなること。」
<技術的事項3-2>
「制御アクチユエータ10aへの油圧供給でベーン偏心量を最大にして最大吐出量とし、制御アクチユエータ10aからの油の排出によりベーン偏心量がゼロ位置に戻されて吐出量をゼロ付近に絞り込む可変吐出量ベーンポンプにおいて、制御アクチユエータ10aへ油圧供給を行うパイロツト管路16等に絞りを設けないと、パイロツト管路16等からの油の流れにより、制御アクチユエータ10aから排出する油の流れが妨げられ、制御アクチユエータ10a戻りが悪くなるため、ポンプ吐出量を絞るときの応答性が悪くなること。」
第5 対比・判断
(1)対比
本願発明1と、引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明における「可変容量形潤滑油ポンプ10」、「半径方向に摺動可能な多数のベーン14」は、それぞれ本願発明1における「可変型潤滑油ベーンポンプ」、「径方向に摺動可能な複数のベーン」に相当する。
(イ)引用発明において「半径方向に摺動可能な多数のベーン14を有し、該ベーン14はシフト可能な制御リング12内で回転し、該制御リング12がポンプロータ13を囲繞」していることは、本願発明1における「径方向に摺動可能な複数のベーンを有し、該ベーンがシフト可能な制御リング内で回転し、該制御リングがポンプキャビティを囲繞している、ポンプロータ」に相当する。
(ウ)引用発明において「ポンプ室への入口開口18」が存在している領域及び「ポンプ室からの出口開口19」が存在している領域は、それぞれ本願発明1における「充填領域」及び「吐出領域」に相当し、引用発明における「5つの回転ポンプ室17」は、本願発明1における「多数の回転ポンプ室」に相当する。そして、ベーン式のポンプでは、回転ポンプ室が、充填領域から吐出領域に回転することが明らかである。したがって、引用発明における「ポンプ室への入口開口18とポンプ室からの出口開口19と、5つの回転ポンプ室17とを備え」ることは、本願発明1における「充填領域から吐出領域に回転する多数の回転ポンプ室とを備え」ることに相当する。
(エ)引用発明における「加圧潤滑油が前記5つの回転ポンプ室17から出口キャビティに吐出される」ことは、本願発明1における「前記加圧潤滑油が前記回転ポンプ室から出口キャビティに吐出される」ことに相当する。
(オ)引用発明における「高ポンプ容量方向と低ポンプ容量方向とに半径方向にシフト可能」なことは、本願発明1における「高ポンプ容量位置と低ポンプ容量位置との間でロータ軸線に対してシフト可能」なことに相当する。
(カ)引用発明における「高ポンプ容量方向に制御リング12を押し出す第1圧力制御室25」及び「第1圧力制御室25に前記出口キャビティからの潤滑油が導かれる」ことは、それぞれ本願発明1における「高ポンプ容量方向に前記制御リングを押し出す圧力制御室」及び「圧力制御室に前記出口キャビティからの潤滑油が充填される」ことに相当する。
(キ)引用発明における「潤滑油タンク50に前記第1圧力制御室25を接続するか又は非接続とする圧力制御弁60」との事項は、本願発明1における「潤滑油タンクに前記圧力制御室を接続するか又は非接続とする制御弁」に相当する。
(ク)引用発明における「第2圧力制御室23」は、本願発明1における「パイロット室(54)」に相当し、引用発明における「前記第1圧力制御室25の圧力に抗して低ポンプ容量方向に制御リング12を押し出す第2圧力制御室23」は、本願発明1における「前記圧力制御室の圧力に抗して低ポンプ容量方向に前記制御リングを押し出すパイロット室」に相当する。
(ケ)引用発明における「圧力導管81」は、本願発明1における「パイロット室通路」に相当し、引用発明における「前記出口キャビティを前記第2圧力制御室23に接続する圧力導管81」は、本願発明1における「前記出口キャビティを前記パイロット室に接続するパイロット室通路」に相当する。
(コ)引用発明における「導管82、87」は、本願発明1における「制御室通路」に相当し、引用発明における「前記出口キャビティを前記第1圧力制御室25に、圧力絞り弁67を介して接続する導管82、87」と、本願発明1における「前記出口キャビティを前記圧力制御室に直接に接続する制御室通路」とは、「前記出口キャビティを前記圧力制御室に接続する制御室通路」である点で共通する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
<一致点>
「内燃機関に加圧潤滑油を提供する可変型潤滑油ベーンポンプにおいて、
ポンプハウジングであって、
径方向に摺動可能な複数のベーンを有し、該ベーンがシフト可能な制御リング内で回転し、該制御リングがポンプキャビティを囲繞している、ポンプロータと、
充填領域から吐出領域に回転する多数の回転ポンプ室とを備え、
前記加圧潤滑油が前記回転ポンプ室から出口キャビティに吐出される、
ポンプハウジングと、
高ポンプ容量位置と低ポンプ容量位置との間でロータ軸線に対してシフト可能な制御リングと、
高ポンプ容量方向に前記制御リングを押し出す圧力制御室であって、該圧力制御室に前記出口キャビティからの潤滑油が充填される、圧力制御室と、
潤滑油タンクに前記圧力制御室を接続するか又は非接続とする制御弁と、
前記圧力制御室の圧力に抗して低ポンプ容量方向に前記制御リングを押し出すパイロット室と、
前記出口キャビティを前記パイロット室に接続するパイロット室通路と、
前記出口キャビティを前記圧力制御室に接続する制御室通路と
を備えた、
可変型潤滑油ベーンポンプ。」
<相違点1>
制御室通路とパイロット室通路に関して、本願発明1では、制御室通路が出口キャビティを圧力制御室に直接に接続する通路であり、制御室通路の最小の流路断面積は、パイロット室通路の最小の流路断面積の1/4よりも大きく且つ1/1よりも大きくはなく、制御室通路が制御リングに溝として備えられ、かつ、パイロット室通路がポンプハウジングのハウジング壁の一部に備えられているのに対して、引用発明では、制御室通路が圧力絞り弁を介して接続する通路であり、制御室通路及びパイロット室通路の両方が、出口キャビティの出口ポートと接続する導管として備えられており、かつ、制御室通路及びパイロット室通路の最小の流路断面積の関係を特定していない点。
<相違点2>
本願発明1では、前記圧力制御室の流体圧的な有効断面積は前記パイロット室の流体圧的な有効断面積よりも大きいのに対して、引用発明では、前記圧力制御室と前記パイロット室の流体的な有効断面積の大きさの関係が特定されていない点。
(2)相違点1についての検討
ア.本願発明1の「直接に接続する」との特定事項について
本願明細書の段落[0004]、[0005]、[0009]、[0010]には、本願発明の背景技術、解決しようとする課題及び解決するための手段について、次のように記載されている。
「【0004】パイロット室は出口キャビティにパイロット室通路によって接続され、該パイロット室通路は大きな断面積を備え、それ故、その流動抵抗は低い。制御室は出口キャビティに比較的長い制御室通路によって接続され、該制御室通路はその途中に圧力絞り弁を備えている。……
【0005】内燃機関の冷態始動の後、出口キャビティとパイロット室との間の流動抵抗は比較低いので、ポンプのパイロット室には冷たく且つ粘性のある潤滑油が比較的迅速に充填される。この結果、内燃機関の冷態始動の後、制御リングは低ポンプ容量方向に押し出される。パイロット室と対比して、長い制御室通路及び該制御室通路の途中に備えられた圧力絞り弁に起因し、出口キャビティと制御室との間の流動抵抗が比較的高いので、制御室が潤滑油で充填され、出口キャビティの流体圧で加圧されるまでには暫く時間がかかる。この結果、内燃機関の冷態始動後、加圧潤滑油がポンプによって発生され、そして、内燃機関がその冷態始動後、充分に潤滑されるまでには5,10秒、又は、60秒よりも長くかかる。
【0009】本発明によれば、制御室通路は出口キャビティを圧力制御室に直接に接続し、制御室通路の流体的長さは非常に短い。制御室通路は比較的大きな断面積を有し、ここでの断面積はパイロット室通路の最小の断面積の1/4よりも大きく且つ1/1よりも大きくはなく、パイロット室通路は出口キャビティからパイロット室に潤滑油を提供する。それ故、内燃機関の冷態始動後、制御室が潤滑油で充填され、出口キャビティの流体圧でもって短時間に加圧されることを保証する。この結果、内燃機関の冷態始動後、制御リングは制御室によって高いポンプ室容量の方向又は最大のポンプ容量位置に短時間で押し出される。このことは、内燃機関の冷態始動後、ポンプから吐出される潤滑油の高い吐出圧が僅か秒数で達成されることを保証し、内燃機関の冷態始動後、潤滑油の温度が非常に低くても、内燃機関の潤滑が少なくとも僅か数秒のみで開始される。
【0010】……制御室通路にはその途中に絞り弁が備えられていない。」
また、平成29年4月26日付けの意見書には、次の記載がある。
「補正後の請求項1(当審注:意見書と同日付けで補正された請求項1。現在の請求項1とは一部異なる。)から明らかなように、本願発明における圧力制御の概念は、幾つかの構成、即ち、圧力制御室の有効断面積がパイロット室の有効断面積よりも大きく、且つ、溝からなる制御室通路がポンプハウジング内で出口キャビティを圧力制御室に直接に接続しており、これにより、制御室通路の最小流路断面積がパイロット室通路の最小通路断面積未満であるが、パイロット室通路の最小流路断面積の1/10よりも大であることに特徴付けられる。 このような圧力制御の概念は高い制御品質を保証するばかりでなく、内燃機関の冷態始動後、圧力制御室は吐出キャビティの流体圧を有した潤滑油でもって瞬時に満たされる。それ故、内燃機関の冷態始動後、制御リングは圧力制御室の圧力でもって高ポンプ容量方向に押され、この結果、内燃機関の冷態始動後、直ちに内燃機関を高圧の潤滑油で確実に潤滑することができる。 また、溝からなる制御室通路はその形成が容易であるとともに、その長さもまた短くできる利点を有する。」(意見書1頁47行~2頁9行参照)
「しかしながら、引用文献1の管路80,82,87は何れもポンプハウジング12の外側に配置されていることから、本願発明(補正後の請求項1)のような出口キャビティ(14)や制御室通路(60,60’)に相当するものではない。しかも、引用文献1の吐出ポート21及び管路87が本願発明の出口キャビティ及び制御室通路にそれぞれ対応するものと仮定しても、管路87は吐出ポート21と第1圧力制御室25との間を直接的ではなく、前記圧力絞り弁67を介して間接的に接続する。」(意見書2頁16~21行参照)
さらに、審判請求書には、次の記載がある。
「当初明細書の段落[0007]-[0012]に記載されているように、本願発明は内燃機関の始動直後に非常に速やかで且つ適切な制御挙動に焦点を当てている。(ポンプ出口圧を決定する制御リングの適切な位置を規定する)パイロット室及び圧力制御室への流体的な接続がなされるなら、圧力制御室及びパイロット室の両方は内燃機関の冷態始動直後(ポンプロータの回転開始直後)にポンプ出口圧で正に確実に満たされなければならない。これは、パイロット室(54)及び圧力制御室(40)に出口キャビティ(14)からの加圧潤滑油が直接に供給されることのみによって保証される。 請求項1は、パイロット室(54)及び圧力制御室(40)に出口キャビティ14)の加圧潤滑油が直接に供給されることを明確に記載している。 圧力制御室(40)の加圧の遅延を回避するため、制御室通路(60)は比較的短く、出口キャビティ(14)と圧力制御室(40)との間の直接的な通路によって形成されている。制御室通路は決して小さいものであってならず、この結果、請求項1では、制御室通路(60)の最小の流路断面積が(反作用の)パイロット室通路(48)のものの1/4よりも大きいと規定されている。 一方、引用文献2の溝部61はたとえ直線部63のみで構成されても、該直線部63は傾斜部62の最小溝幅と同一の溝幅を有することから、固定オリフィス(遅延要素)として機能し、本願発明の直接的な制御室通路に相当しない。 また、引用文献3の絞り8が廃止され得るとしても、引用文献3のパイロット管路16(図2)は本願発明の制御室通路に相当するものでもない。 それ故、引用文献2の溝部61や引用文献3のパイロット管路16は本願発明の目的に対処できず、よって、引用文献1の潤滑油ポンプに対して、内燃機関の冷態始動直後、非常に速やかで且つ適切な出口圧制御を提供するものではない。 この結果、引用文献1~3の何れも、出口キャビティ(14)と圧力制御室(40)との間、また、出口キャビティ(14)と圧力制御室(40)との間での直接的な短い流体的接続を開示するものではない。」(審判請求書4頁16行~5頁12行参照)
本願明細書、意見書、審判請求書のこれら記載事項からみて、本願発明1の発明特定事項である「前記出口キャビティを前記圧力制御室に直接に接続する制御室通路」における「直接に接続する」とは、本願発明1の別の発明特定事項である「前記制御室通路は、前記制御リングに溝として備えられ」ることを考慮すると、両者があいまって,(i)ポンプ外に延びる導管等を用いずにポンプ内で直接流体接続すること、及び(ii)その途中に「絞り弁」や「オリフィス」等の「通路以外の機能を奏する流体要素を有さない」こと、という技術的事項を含む意味であると認められる。
イ.相違点1の容易想到性について
引用発明は、出口キャビティと圧力制御室(第1圧力制御室25)とを接続する通路が、ポンプ外に延びる導管82、87であり、かつ、その途中に圧力絞り弁67を有している。
引用文献2には、出口キャビティと圧力制御室(第二流体圧室32)とを接続する通路が、ポンプ内で直接流体接続する溝部61であることが記載されているが、溝部61は「固定オリフィス」であるから、「絞り弁」として機能するものである(前記「技術的事項2-1」参照)。
したがって、引用発明に引用文献2に記載の技術的事項を適用しても、相違点1に係る本願発明の構成、特に、「出口キャビティを圧力制御室に直接に接続する制御室通路」及び「制御室通路は制御リングに溝として備えられ」との構成を得ることはできない。
引用文献3には、「圧力制御室(制御アクチユエータ10a)へ油圧供給を行うパイロツト管路16に絞りを設けないようにすると、ポンプの吐出量を増加させるときの応答性が良くなること」(前記「技術的事項3-1」参照)、及び「圧力制御室(制御アクチユエータ10a)へ油圧供給を行うパイロツト管路16に絞りを設けないと、ポンプの吐出量を絞るときの応答性が悪くなること」(前記「技術的事項3-2」参照)が記載されている。引用文献3は、これら相反する要求を満足させるため、パイロツト管路16自体には絞りを設けないが、「パイロット管路16からの油の流れを妨げるための絞り17が内蔵されている」特殊なプレツシヤコンペンセータ弁13をパイロット管路16と制御アクチユエータ10aとの間に介在させている(引用文献3の記載事項の摘記である前記(ム)を参照)。
したがって、引用発明に引用文献3に記載の技術的事項を適用しても、相違点1に係る本願発明の構成、特に、「出口キャビティを圧力制御室に直接に接続する制御室通路」及び「制御室通路は制御リングに溝として備えられ」との構成を得ることはできない。
引用発明に、引用文献2に記載の技術的事項と、引用文献3に記載の技術的事項の双方を適用したとしても、相違点1に係る本願発明の構成、特に、「出口キャビティを圧力制御室に直接に接続する制御室通路」及び「制御室通路は制御リングに溝として備えられ」との構成を得ることはできない。
ウ.本願発明の作用効果について
本願発明1は、「内燃機関の冷態始動後、加圧潤滑油がポンプによって発生され、そして、内燃機関がその冷態始動後、充分に潤滑されるまでには5,10秒、又は、60秒よりも長くかかる。」(本願明細書段落[0005]参照)という、背景技術(従来技術)が有している課題を解決するための発明であり、相違点1に係る発明特定事項、特に、「出口キャビティを圧力制御室に直接に接続する制御室通路」及び「制御室通路は制御リングに溝として備えられ」ることは前記課題を解決するための不可欠な構成であり、その結果、本願発明1は「内燃機関の冷態始動後、潤滑油の温度が非常に低くても、内燃機関の潤滑が少なくとも僅か数秒のみで開始される。」(本願明細書段落[0009]参照)という作用効果を奏するものと認められる。
一方、引用文献1~3のいずれにも、前記課題及び作用効果は記載されておらず、示唆もされていない。したがって、当業者が、本願発明1の前記課題又は作用効果を予測することは、困難である。
エ.小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、引用発明に引用文献2、3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2.本願発明2、3
本願発明2、3は、いずれも請求項1を引用して発明特定事項を特定しており、本願発明1の発明特定事項の全てを備える発明である。
したがって、本願発明2、3は、いずれも、本願発明1について述べた相違点1,2と同じ点で、引用発明と相違する。よって、本願発明2、3は、いずれも、本願発明1について述べたのと同様の理由により、引用発明、引用文献2、3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-000322