意匠判定
2017-600047
鈴
- 審判番号
- 2017-600047
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 判定
- 出願番号
- 意願2005-000704外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年10月19日
- 審決日
- 2018年01月30日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 判定(属しない)
- 分類
- D12 .2 -ZB (E1-5)
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の登録第1267870号の判定請求事件について,次のとおり判定する。
結論
【結 論】
イ号意匠の図面及びその説明により示された「鈴」の意匠は,登録第1267870号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由
【理 由】
第1 本件判定請求人の請求の趣旨及び理由
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,平成29年10月19日に「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は,登録第1267870号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として,平成29年11月28日に手続補正書を提出して,要旨以下の通りの主張をし,証拠方法として,甲第1号証乃至甲第3号証,添付書類としてイ号意匠及び説明書,本件登録意匠の原簿謄本を提出した。
1.判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「鈴」(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
請求人によれば,判定被請求人(以下「被請求人」という。)は,イ号意匠製品の小売店への納品のほか,インターネットに掲載(甲第3号証)し,販売しているため,請求人は,特許庁による判定を求めた。
2.本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成17年(2005年)1月13日(意願2005-704)
登録 平成18年(2006年)2月24日(登録第1267870号)
3.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,内外を連通するスリット開口の無い,勾玉形を極端に短縮したような外殻体の内部に珠が封入された「鈴」である。
4.イ号意匠の説明
イ号意匠は,「イ号意匠及び説明書」に示すとおり,6方向(正面側,背面側,平面側,底面側,左側面側,右側面側)から撮影した写真のとおりのものである。
5.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(1)意匠に係わる物品について
本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品が「鈴」で一致している。
(2)形態について
本件登録意匠とイ号意匠の形態について下記の共通点及び差異点が認められる。
共通点
(ア)通常「鈴」は孔が空いているものが多いが,それが無い点,
(イ)正面部の上部が正円である点,
(ウ)勾玉を縦に圧縮したような,独特の全体形状である点,
(エ)正面視,尾の先端を左にみて尾の内側(左側)のカーブを垂直に切り下ろすように作られた形状である点。
差異点
(あ)本件登録意匠の実施品とイ号意匠の縦の長さにおいて,イ号意匠のほうが,本件登録意匠よりも約0.1mm長い点,
(い)イ号意匠は,本件登録意匠よりも尾の先端が少し太く形成され,また全体も丸みを帯びた太めになっている点,
6.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
本件登録意匠及びイ号意匠は,どちらも孔があいておらず,外形はそっくりである。
7.むすび
以上のとおり,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の通りの判定を求める。
8.証拠方法
(1)本件登録意匠に関するもの
甲第2号証:平成18年に株式会社文芸社から出版した書籍「空からくう」の表紙の写し及びその第118頁に所載の本件登録意匠の原型の写真の写し,登録第1267870号の意匠公報
添付書類:本件登録意匠の原簿謄本
(2)イ号意匠に関するもの
甲第1号証:イ号意匠に関する説明
甲第3号証:パンフレット(写し)
添付書類:イ号意匠及び説明書
第2 被請求人の答弁
被請求人は,平成30年1月10日付けで答弁書を提出し,以下の要旨を主張した。
1.答弁の趣旨
イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。
2.答弁の理由
(1)判定請求に対する被請求人の反論の要旨
請求人は本件登録意匠とイ号意匠との比較を誤っており,本件登録意匠とイ号意匠は同一および類似ではなく,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
(2)本件登録意匠
(2-1)意匠に係る物品
本件登録意匠は,意匠に係る物品が「鈴」となっている。
(2-2)形態
次に,本件登録意匠の形態の要旨は次のようになっている。
(ア)本件登録意匠にスリットはない。
(イ)正面図は,正円の頭部(上部)に三角形に近い尾部(下部)がつながっている。頭部に比して尾部はかなり小さくなっていて,尾部の先端は尖っており,さらに,尾部の左側部はほぼ垂直方向を向いている。
(ウ)左側面図は,中心よりも頭部の頂点に近い位置が最大の膨らみになっており,尾部の先端に向けて細くなっている。尾部の先端が尖っていて,膨らみも小さいため,下方に向けて突き刺さりそうなイメージがある。
(エ)平面図は,かなり偏平した円になっている。
(オ)底面図は,かなり偏平した円になっていて,尾部の先端は小さくなっている。
(カ)斜視図は,頭部に対して尾部が小さく見えており,尾部はその先端が真っすぐ下を向くようになっている。
(キ)全体的には,膨らまさずに平らな感じがあり,全体の中で尾部は小さく尖っているため,シャープな印象になっている。
(3)イ号意匠
判定請求書でイ号意匠の名称等が記載されていないが,甲第3号証に示す意匠をイ号意匠とされており,その甲第3号証に「勾玉水琴鈴」と記載され,被請求人の連絡先が記載されていることから,イ号意匠は「株式会社イグチ製の勾玉水琴鈴」と判断する。
(3-1)判定請求書の写真
判定請求書の(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠範囲に属する理由の説明,イ号意匠及び説明書,および甲第3号証に,イ号意匠の写真がある。
しかし,いずれの写真も不鮮明で小さいため,イ号意匠を正確に判断する資料になっていないと考える。
また,撮影方向は意匠公報の正面図等の方向と一致していない。その証拠として,イエローのイ号意匠は,取り付けリング全体が写っていなかったり斜めを向いていたりするため,意匠公報の図面と異なる方向から撮影されているのがわかる。さらに,甲第3号証は被請求人のパンフレットであるが,このパンフレットも正確に意匠公報の図面と同方向から撮影されたものではない。台の上に勾玉水琴鈴が置かれているが,いずれも尾部が少し下がっている。このため,判定請求書等に示されるイ号意匠を意匠公報の図面と正確に対比できない。
さらに,イ号意匠のコピー品が多数出回っており,そのコピー品の中には形状が微妙に違うものもある。判定請求書の(6)およびイ号意匠及び説明の写真のイエローは,甲第3号証の写真のイエローと異なる色合いとなっている。
上記のように写真が不鮮明で小さくなっており,請求人によって撮影されたイ号意匠(判定請求書の(6)とイ号意匠及び説明書の写真)が,「株式会社イグチ製の勾玉水琴鈴」であるか否かを判断できない。甲第1号証の写真も同様である。また,甲第3号証は被請求人のパンフレットの写真であるが,各写真が小さく,意匠を正確に判断するためには不向きである。甲第3号証は2方向の写真しかなく,意匠公報の図面の向きと正確に一致していない。
そのため,「株式会社イグチ製の勾玉水琴鈴」の図面をイ号意匠図面として添付し,その図面に基づいて説明する。
(3-2)意匠に係る物品
イ号意匠に係る物品は,「鈴」である。
(3-3)形態
次に,イ号意匠に係る意匠の形態の要旨は次のようになっている。
(あ)イ号意匠にスリットはない。
(い)正面図は,偏平させた円(後述するように縦横比27:31)の頭部に左方向を向いた舌に近い形状の尾部がつながっている。尾部は本件登録意匠より大きくなっており,尾部の先端は太く丸まっている。さらに,尾部の左側部はカーブして斜方向を向いており,そのカーブはイ号意匠のくびれになっている。
(う)左側面図は,中心より上付近が最大の膨らみになっていて,尾部の先端に向けて徐々に狭まっている。尾部の先端が太く丸まっており,全体的に卵のように大きく膨らんでいる。
(え)平面図は,真円に近い形状になっている。
(お)底面図は,平面図と同様に真円に近い外形であり,尾部の先端が大きく見えている。
(か)斜視図は,尾部が大きく見えており,尾部の先端が手前に向かってカーブしている。イ号意匠が勾玉形状であることがわかる。
(き)全体的には,丸くなるように膨らんでおり,尾部も先端を丸まらせて大きくしている。
(4)意匠登録第1267870号とイ号意匠の比較
(4-1)意匠に係る物品について
本件登録意匠の意匠に係る物品とイ号意匠の意匠に係る物品はいずれも「鈴」であり,物品が同一であることについて争うことはない。
(4-2)形態について
添付した「意匠公報図面とイ号意匠図面の比較」を用いて形態を比較する。
両意匠の高さを40にそろえて横に並べている。
(A)正面図
本件登録意匠は,上から約30の位置に頭部と尾部の接続部分があるが,イ号意匠は,上から27の位置に頭部と尾部の接続部分がある。頭部と尾部の接続部分が異なる。
頭部と尾部の高さの比は,本件登録意匠が3:1になっているのに対し,イ号意匠は約2:1(27:13)になっている。本件登録意匠の尾部は意匠全体に対して小さく見えるのに対し,イ号意匠の尾部は意匠全体に対して大きくなっている。
イ号意匠と本件登録意匠が並べられているのを見れば,イ号意匠が本件登録意匠よりもはるかに大きいことがわかる。
本件登録意匠の頭部は正円になっている。一方,イ号意匠の頭部は縦横比27:31の偏平させた円になっている。
本件登録意匠の尾部の左側は垂直に近い形状で下がり,先端が尖っているため,三角形に近い形状になっている。そのため,本件登録意匠の尾部のくびれはなだらかで,ほとんど感じないようになっている。イ号意匠の尾部の左側は左下方向を向いてカーブしており,先端は太く丸まっている。そのため,イ号意匠の尾部は舌を曲げたような形状になっている。イ号意匠は尾部を左方向にカーブさせていることで,大きくくびれているように見える。
(B)左側面図
本件登録意匠は,上から約13の位置が最も広くなっていて,下方に行くほど狭くなって尖っていき,尾部が下方に突き刺さりそうなイメージである。イ号意匠は,上から約16の位置が最も広くなっていて,下方に向けて徐々に狭くなっていき,尾部の先端は丸まっていて,卵のようなイメージである。
本件登録意匠とイ号意匠は異なるイメージになっている。
本件登録意匠とイ号意匠は最も膨らんでいる部分の高さが異なっており,その膨らみ方もイ号意匠の方が約1.5倍大きくなっている。頭部と尾部の接続部分もイ号意匠の方が約2.4倍大きくなっている。全体的に膨らみ方と尾部の先端の丸みが異なり,イ号意匠は本件登録意匠よりも大きく膨らんでおり,大きく見える。
(C)平面図
本件登録意匠はイ号意匠よりも偏平しており,厚みが薄くなっている。一方,イ号意匠はほぼ正円になるように膨らんでいて,本件登録意匠よりも大きく見える。
(D)底面図
平面図と同様に本件登録意匠はかなり平たいイメージであり,イ号意匠は丸く膨らんだイメージになっている。本件登録意匠は尾部の先端が小さいのに対し,イ号意匠の尾部は先端が大きくなっている。
(E)斜視図
本件登録意匠は尾部が小さく,さらに真下に下がっているために,尾部がかなり小さく感じるようになっている。イ号意匠は尾部が大きく,手前に向けてカーブしているため,尾部が認識しやすくなっている。尾部の大きさや形状の違いおよび全体的なふくらみの違いによって,本件登録意匠より本件登録意匠の方が大きく見える。
また,斜め比率に示しますように,斜め45°から見た場合の頭部と尾部の比は,本件登録意匠は約3.6:1(25:7)になっており,尾部が小さくなっている。一方,イ号意匠は2:1であり,尾部が大きく見える。
(F)全体
全体的に,本件登録意匠は平たく平面的な構成になっており,その中で尾部が小さく,その先端が尖っている。イ号意匠は全体的に丸みを帯びており,そのため尾部の先端も太く丸まっていて,大きくなっている。本件登録意匠は下方に向けて尖った鋭いイメージになっているが,イ号意匠は丸いイメージであり,まったく異なったイメージを生じさせている。
(G)スリット
インドネシアの伝統楽器のガムランボールはスリットのない鈴であり,スリットの無いことは鈴として新規な形態にならない。そのため,スリットの無いことは意匠の類否判断に影響を与えない。
(H)まとめ
以上のように,本件意匠とイ号意匠の形態はどの方向から見ても大きく異なっており,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
3.結論
以上のとおり,甲第3号証に示されたイ号意匠の「鈴」は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
4.証拠方法
(1)イ号意匠図面
(2)意匠公報図面とイ号意匠図面の比較
第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1267870号)は,願書及び願書に添付された図面の記載によれば,意匠に係る物品を「鈴」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)を,願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第1参照)
(1)本件登録意匠の形態
本件登録意匠は,平面視は横長楕円形で,側面視は略逆しずく形状で,正面視は円形の下端部を下方に膨出させその膨出部を左方にやや湾曲させたものであって,所謂「勾玉」形状としたものであり,具体的な形態は,以下の通りである。
ア 全体の比率について,平面視における縦・横の長さ及び正面視における高さの比率を,約1:1.4:1.9とし,
イ 側面視の略逆しずく形状の態様は,上端部から全体の高さの約4分の1を半円状とし,左右両辺はやや内側に湾曲しながら垂下して下端部を小さく弧状としたものであって,全体に縦長で細身であり,
ウ 膨出部は,正面視,やや内側に湾曲する左辺と弧状をなす右辺が鋭角状に接し,先細りに屈曲した端部を形成したものである。
2.イ号意匠
本件判定請求の対象であるイ号意匠は,判定請求書と同時に提出された甲第1号証及び添付書類「イ号意匠及び説明書」に記載のイ号意匠の写真の写しにより示されたものであって,意匠に係る物品は「鈴」であると認められ,その形態を,イ号意匠の写真の写しにより表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第2参照)
なお,本件判定請求は,請求人が提出した判定請求書の添付書類のうち,
「イ号意匠及びその説明書に示す意匠」について,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求めたものであるから,当審では,「イ号意匠及びその説明書に示す意匠」に記載の意匠を判定の対象とする。
(1)イ号意匠の形態(以下,対比のため,本件登録意匠の図面における正面,平面等の向きを,イ号意匠にもあてはめることとする。)
イ号意匠は,平面視は略横長楕円形で,側面視は略逆しずく形状で,正面視は略円形の下端部を下方に膨出させその膨出部を左方にやや湾曲させたものであって,所謂「勾玉」形状としたものとし,平面部中央につり下げ用の円環部を1つ設けたものであり,具体的な形態は,以下の通りである。
ア 全体の比率について,平面視における縦・横の長さ及び正面視における高さの比率を,約1:1.25:2とし,
イ 側面視の略逆しずく形状の態様は,上端部から全体の高さの約半分近くまで略半円状とし,左右両辺は内側に斜めに湾曲しながら垂下し下端部を大きな弧状としたものであって,全体に丸みが強調されたものであり,
ウ 膨出部は,正面視,やや内側に湾曲する左辺と弧状をなす右辺が緩やかに連続し,略半円状の端部を形成したものである。
3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠及びイ号意匠(以下「両意匠」という。)は,いずれも中空の外身の中に小さな玉を入れ全体を振り動かすことで音を出す「鈴」であって,身につけたり鞄等に取り付けて使用する飾り具であるから,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。
(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点がある。
ア 共通点
両意匠は,平面視は略横長楕円形で,側面視は略逆しずく形状で,正面視は略円形の下端部を下方に膨出させその膨出部を左方にやや湾曲させたものであって,所謂「勾玉」形状としたものである点において共通する。
イ 差異点
一方,両意匠には,以下の差異点がある。
(ア)平面視における縦・横の長さの比率について,本件登録意匠は,約1:1.4であるのに対し,イ号意匠は,約1:1.25である点,
(イ)側面視の略逆しずく形状の態様について,本件登録意匠は,上端部から全体の高さの約4分の1を半円状とし,左右両辺はやや内側に湾曲しながら垂下して下端部を小さく弧状としたものであるのに対し,イ号意匠は,上端部から全体の高さの約3分の1を略半円状とし,左右両辺は内側にやや斜めに湾曲しながら垂下し下端部を大きな弧状としたものである点,
(ウ)膨出部の態様について,本件登録意匠は,正面視,やや内側に湾曲する左辺と弧状をなす右辺が鋭角状に接し,先細りに屈曲した端部を形成したものであるのに対し,イ号意匠は,正面視,やや内側に湾曲する左辺と弧状をなす右辺が緩やかに連続し,略半円状の端部を形成したものである点,
(エ)円環部の有無について,本件登録意匠は,平面部において何も形成していないのに対し,イ号意匠は,平面部中央につり下げ用の円環部を設けている点。
4.両意匠の類否判断
イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠が類似するか否かについて,検討する。
(1)両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は,共に「鈴」であって,一致している。
(2)両意匠の形態
ア 共通点の評価
両意匠の共通点,すなわち,平面視は略横長楕円形で,側面視は略逆しずく形状で,正面視は略円形の下端部を下方に膨出させその膨出部を左方にやや湾曲させたものであって,所謂「勾玉」形状としたものである点は,両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであるから,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではなく,類否判断を決定づけるものでもない。
イ 差異点の評価
まず,上記3.(2)イに記載の(ア)平面視における縦・横の長さの比率について,すなわち,本件登録意匠は,約1:1.4であるのに対し,イ号意匠は,約1:1.25である点であるが,本件登録意匠は,イ号意匠と比較して,平面視における縦の長さ(厚み)に対する横の長さの比率が大きいことから,全体にやや扁平でスリムな印象を醸し出しているものであるが,イ号意匠は,本件登録意匠より厚みがあり,全体にずんぐりとした印象を与えるものであるから,需要者に異なる視覚的印象を与え,この差異点(ア)が両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。
次に,同,(イ)の側面視の略逆しずく形状の態様について,すなわち,本件登録意匠は,上端部から全体の高さの約4分の1を半円状とし,左右両辺はやや内側に湾曲しながら垂下して下端部を小さく弧状としたものであるのに対し,イ号意匠は,上端部から全体の高さの約3分の1を略半円状とし,左右両辺は内側にやや斜めに湾曲しながら垂下し下端部を大きな弧状としたものである点において相違するものであるが,本件登録意匠は,全体に縦長で細身であるのに対し,イ号意匠は,全体に丸みが強調されたものであるから,需要者に異なる視覚的印象を与え,この差異点(イ)が両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。
また,同,(ウ)の膨出部の態様について,すなわち,本件登録意匠は,正面視,やや内側に湾曲する左辺と弧状をなす右辺が鋭角状に接し,先細りに屈曲した端部を形成したものであるのに対し,イ号意匠は,正面視,やや内側に湾曲する左辺と弧状をなす右辺が緩やかに連続し,略半円状の端部を形成したものである点において相違するものであるが,本件登録意匠は,イ号意匠と比較して,本体部から下に細長く膨出し,正面視,左方への湾曲の度合いもさほど大きいものではなく,下端部の屈曲は略ヘアピン状に急角度で折れ曲がったものであって,全体に鋭角的でシャープな印象をもたらしているのに対し,イ号意匠は,太く短く膨出し,下端部の屈曲も大きいものであって,丸みのあるやわらかい印象をもたらしているものであるから,需要者に異なる視覚的印象を与え,この差異点(ウ)が両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きいものである。
一方,同,(エ)の円環部の有無については,本件登録意匠の「使用状態を表す参考斜視図」に表されるとおり,本件登録意匠も使用時には平面部に円環部を設けるものであることから,この差異点(エ)が両意匠の類否判断に与える影響は小さいものである。
5.小括
したがって,これらの共通点と差異点を総合して判断すれば,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品は一致するが,形態については,共通点が類否判断に与える影響よりも,差異点が類否判断に及ぼす影響の方が総じて大きく,意匠全体として見ると,両意匠は類似するとはいえない。
第4 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
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