特許拒絶査定不服審判
2017-010103
外科患者支持パッド及びそれを用いた外科患者支持方法
- 審判番号
- 2017-010103
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-552265外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年07月06日
- 審決日
- 2018年10月01日
- 公報発行日
- 2019年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-552265号「外科患者支持パッド及びそれを用いた外科患者支持方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月18日国際公開、WO2013/106426、平成27年 3月 5日国内公表、特表2015-506747号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)1月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年1月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 8月28日 :翻訳文提出
平成28年 7月15日 :手続補正書の提出
平成28年 8月30日付け:拒絶理由通知書
平成28年12月 1日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 3月 1日付け:拒絶査定
平成29年 7月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年 9月27日付け:拒絶理由通知書<最後>〔前置審査〕
平成30年 4月 3日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月25日 :上申書の提出
第2 平成30年 4月 3日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年 4月 3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである。
なお、下線部は補正箇所を示す。
(1)本件補正前の請求項1
〔請求項1〕
「患者の身体に適合するように変形することによって、傾斜させた外科処置台の上で前記患者を、前記患者の頭部が前記患者の身体よりも下方又は上方のいずれかに配置される向きを含む、傾斜させたトレンデレンブルク体位の状態のままに保持することを支援すると共に、外科処置の間に前記患者の身体の一部分が前記外科処置台に達するまで落ち込むのを防いで、圧力による前記患者に対する損傷を軽減する粘弾性形状記憶発泡体を備えている、外科患者支持パッド。」
(2)本件補正後の請求項1
〔請求項1〕
「患者の身体に適合するように変形することによって、傾斜させた外科処置台の上で前記患者を、前記患者の頭部が前記患者の身体よりも下方又は上方のいずれかに配置される向きを含む、傾斜させたトレンデレンブルグ体位の状態のままに保持することを支援すると共に、外科処置の間に前記患者の身体の一部分が前記外科処置台に達するまで落ち込むのを防いで、圧力による前記患者に対する損傷を軽減する粘弾性形状記憶発泡体を備え、
前記粘弾性形状記憶発泡体は、該粘弾性形状記憶発泡体と前記患者との間の摩擦及び前記粘弾性形状記憶発泡体の前記変形による保持能力の組み合わせにより、前記患者を前記トレンデレンブルグ体位に保持し得る特性を有するものである、外科患者支持パッド。」
2 補正の適否
2-1 補正の目的の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「粘弾性形状記憶発泡体」の内容について、上記のとおり限定(下線部参照)を付加するものを含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
2-2 独立特許要件について
2-2-1 本願補正発明
本願補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。
2-2-2 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1の記載事項
前置審査において通知した拒絶の理由に文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2007-130475号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付与したものである。以下同様。
(1a)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項11】
互いに対して調節可能である複数のセグメントを備えたベッドを有する手術台において、請求項1から10のいずれか一つに記載のパッド要素(10)が、上記セグメントの少なくとも一つに配置されたことを特徴とする手術台。」
(1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば手術台のベッド用の、患者ベッド用パッド要素に関する。手術台は、一般に互いに対して調節可能である複数のセグメントからなるベッドを有する。患者が支持されるパッド要素は、様々なセグメントに固定される。従来、パッド要素は寸法安定性のある一体型発泡体からなり、それにより適切な形状および構造を簡単に作り出せる。しかしながら、一体型発泡体には、比較的硬く、それゆえ患者がこの種のパッド要素に長時間支持されると圧痕がつくかもしれない、という欠点がある。」
(1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、容易に取り扱いと洗浄ができ、同時に患者が柔らかい支持を得られる、導入部で述べた種類のパッド要素を特定することにある。」
(1d)「【0005】
それゆえ、本発明によるパッド要素において、少なくとも部分的に柔らかい発泡体からなり、それゆえ患者が柔らかい支持を得られ、それにより圧点を避けることができるパッド部品が提供される。」
(1e)「【0007】
好ましい実施形態において、突起部分は、各サイドパーツの内側面から突出している凸状の、特に部分球形状のボスで形成されている。この実施形態において、パッド部品の各外側に沿ってボスを滑らせて(この場合パッド部品は突出ボスで多少圧縮される)、ボスを関連する凹部に係合させるまで、2つのサイドパーツ間に上からパッド部品を容易に押し込むことができる。パッド部品は元の形状を取り戻し、ボスによって適所に保持される。」
(1f)「【0008】
・・・パッド部品は好ましくはEPDMの下層と、柔らかい発泡体の上層とを含む。柔らかい発泡体の上層により患者は柔らかい支持を得られる。多少硬いEPDMからなる下層は、サイドパーツの突起部分の下に係合でき、その結果パッド部品は使用中よりしっかりと保たれる。」
(1g)「【0016】
パッド要素10は、さらに、ベースプレート12上にある細長いサイドパーツ14間に配置されているパッド部品16を含む。パッド部品16は、洗い流せる不透水性シース18で完全に覆われている。パッド部品16は、エチレン-プロピレンターポリマー発泡体(EPDM発泡体)の下層20と、柔らかい発泡体の上層22とからなるコアを含む。シース18は、少なくともその外面が導電性であってもよい。」
(1h)「【0021】
・・・下層20はEPDM発泡体からなり、それゆえ上層22の粘弾性の柔らかい発泡体より硬く、・・・
【0022】
それゆえ、図1~5からのパッド要素10には、柔らかいパッド部品16で形成され、患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる中間部分がある。・・・」
以上の記載事項によると、引用文献1には、「患者ベッド用パッド要素10」が開示されているところ、
患者ベッド用パッド要素10は、互いに対して調節可能である複数のセグメントを備えたベッドを有する手術台に配置されるものであること(摘示(1a)(1b)参照)、及び
患者ベッド用パッド要素10は、EPDM発泡体の下層20と粘弾性の柔らかい発泡体の上層22を含む柔らかいパッド部品16を含み、患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できるものであること(摘示(1d)、(1f)~(1h)参照)、が明らかである。
以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「互いに対して調節可能である複数のセグメントを備えたベッドを有する手術台に配置され、EPDM発泡体の下層20と粘弾性の柔らかい発泡体の上層22を含む柔らかいパッド部品16を含み、患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる、患者ベッド用パッド要素10。」
(2)引用文献2に記載された事項
前置審査において通知した拒絶の理由に文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2004-500192号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a) 「【0002】
手術室台は外科処置時に患者を支持するためにヘルスケア産業に周知である。近年、手術室台は、手術室台の頭部、胴部、脚部の動力関節運動、高さ調節、傾斜調整等種々の特徴および選択を付加することにより医師および看護婦により一層有用かつ便利なように形成されている。」
(2b)「【0004】
手術室台は典型的には約600ポンド(約272.2kg)の最高患者重量を支持できる。本発明は、手術室台の患者支持面の標準幅よりも幅広い身体を有する肥満患者または他のいずれかの患者に対して外科処置の執行を必要とする場合に、手術室台の患者支持面に連結できる構成の肥満学面に関する。本発明の肥満学面は、肥満または幅広い患者を収容するために標準手術室台の幅よりも広い幅を有するマットレス面を提供する。例示として、肥満学面の幅は約28-30インチ(約71.2-76.2cm)である。マットレス面は、肥満患者とマットレス面間の界面圧力を減少するためにフォーム、エアパッド、またはエアブラダ、ゲルパッド、温度調節、または他の支持構造体を含む。
【0005】
本発明の肥満学面は、例示として、手術室台の関節運動部に連結できる構成の複数の放射線半透過性パネル部を含む。例えば、一実施形態において、肥満学面のパネル部は、脚支持体、座支持体、および背支持体のそれぞれ上で手術室台に連結できる構成の脚部、座部、および背部を含む。例示として、マットレスは肥満学面の脚部、座部および背部上に設置される。マットレスは例示として清掃用に支持パネル部から取り外し自在である。他の実施形態において、肥満学面は患者支持体の同様寸法フレーム部上に設けられた上背部、下背部および座部を含む。」
(2c)「【0015】
図面の詳細な説明
次に、図面を参照すると、本発明は従来手術室台12に連結できる形態のオーバレイまたは肥満学面(bariatric surface)10に関する。手術室台12はベース14およびベース14に連結された支脚16を含む。上患者支持フレーム18は支脚16に連結されている。上患者支持フレーム18は頭部19、背部20、座部22、および脚部24を含む。支脚16は、上患者支持フレーム18を二重矢印の方向において上下方向へ移動させて上患者支持フレーム18を地面に対して上昇下降させるために、格納式支脚16を調節するためのハイ/ロウ機構(図示せず)を含む。
【0016】
手術室台10の詳細は、例えば米国特許出願第09/187990号および米国特許第6073284号に開示されており、ここに参考に組み込まれる。その患者支持面18をトレンデレンブルグ位置と逆トレンデレンブルグ位置間で移動可能にするために、シリンダ、ギア、または他の機構等のドライバ(図示せず)が使用されて、上患者支持フレーム18の横ピボット軸を中心とする軸旋回動力運動を可能にする。更に、外科処置時に患者支持フレーム18を所望位置へ関節運動させるために、頭フレーム部19、背フレーム部20、座フレーム部22、および脚フレーム部24は横切る方向に離隔する軸を中心に旋回自在である。フレーム部20、22および24上の上パネル部23は手術室台12に患者支持面を提供する。」
(2d)引用文献2には以下の図1及び図3が示されている。
2-2-3 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア
(ア)引用発明の「患者ベッド用パッド要素10」は、「患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる」機能を有し、「上層22」が「粘弾性の柔らかい発泡体」により構成される「柔らかいパッド部品16」を含むものといえる。
(イ)引用文献1には、「柔らかい発泡体の上層により患者は柔らかい支持を得られる」(摘示(1f))と記載されているから、上記「柔らかいパッド部品16」の「上層22」を構成する「粘弾性の柔らかい発泡体」は、「患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる」機能を有する部分であることが技術的に明らかである。
(ウ)そして、「粘弾性の柔らかい発泡体」は、粘弾性を有し、柔らかい、発泡体であること、上記(イ)のとおり、「患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる」機能を有する部分であること、及び摘示(1e)の「パッド部品は突出ボスで多少圧縮される」「パッド部品は元の形状を取り戻し」などの記載を踏まえると、患者の身体に適合するように変形するものであり、また、「患者の身体に圧痕が形成され」ないのであるから、圧力による患者に対する損傷を軽減することができるものであるといえ、さらに、「患者を長時間支持できる」のであるから、患者を所定の体位の状態に保持することを支援するものということもできる。
(エ)また、「患者ベッド用パッド要素10」は、「手術台」すなわち外科処置台に配置されるものであるから、「粘弾性の柔らかい発泡体」は、手術、すなわち、外科処置の間に使用されるものであることは明らかであり、上記(ウ)をも踏まえると、外科処置の間に、患者の身体の一部分が外科処置台に達するまで落ち込むのを防ぐ機能を有するものともいえる。
(オ)ここで、本願補正発明の「粘弾性形状記憶発泡体」は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2の「前記形状記憶発泡体が粘弾性発泡体を備える」との記載、及び、本願明細書の発明の詳細な説明において、「粘弾性発泡体」という表現を主に用いて実施形態を説明していることなどからみると、「粘弾性発泡体」と同義であると解される。
引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」は、文言上又は機能的にみて「粘弾性発泡体」ということができるから、本願補正発明の「粘弾性形状記憶発泡体」に相当するといえる。
(カ)以上を踏まえると、引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」と、本願補正発明の「患者の身体に適合するように変形することによって、傾斜させた外科処置台の上で前記患者を、前記患者の頭部が前記患者の身体よりも下方又は上方のいずれかに配置される向きを含む、傾斜させたトレンデレンブルグ体位の状態のままに保持することを支援すると共に、外科処置の間に前記患者の身体の一部分が前記外科処置台に達するまで落ち込むのを防いで、圧力による前記患者に対する損傷を軽減する粘弾性形状記憶発泡体」とは、「患者の身体に適合するように変形することによって、外科処置台の上で前記患者を、所定の体位の状態に保持することを支援すると共に、外科処置の間に前記患者の身体の一部分が前記外科処置台に達するまで落ち込むのを防いで、圧力による前記患者に対する損傷を軽減する粘弾性形状記憶発泡体」の構成の限度で共通するといえる。
イ 引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」と「患者」との間に摩擦が生じることは、物理的に明らかである。また、上記ア(ウ)のとおり、「粘弾性の柔らかい発泡体」は患者の身体に適合するように変形するといえ、患者を所定の体位の状態に保持するものといえる。
そうすると、引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」は、摩擦と変形により患者を保持する特性を有するものともいうことができる。
ウ 引用発明の「患者ベッド用パッド要素10」は、「粘弾性の柔らかい発泡体」を備えているといえるから、本願補正発明の「外科患者支持パッド」に相当するといえる。
以上によれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりといえる。
<一致点>
「患者の身体に適合するように変形することによって、外科処置台の上で前記患者を、所定の体位の状態に保持することを支援すると共に、外科処置の間に前記患者の身体の一部分が前記外科処置台に達するまで落ち込むのを防いで、圧力による前記患者に対する損傷を軽減する粘弾性形状記憶発泡体を備え、
前記粘弾性形状記憶発泡体は、該粘弾性形状記憶発泡体と前記患者との間の摩擦及び前記粘弾性形状記憶発泡体の前記変形による保持能力の組み合わせにより、前記患者を前記所定の体位に保持し得る特性を有するものである、外科患者支持パッド。」
<相違点>
本願補正発明の「粘弾性形状記憶発泡体」は、「傾斜させた」外科処置台の上で、「前記患者の頭部が前記患者の身体よりも下方又は上方のいずれかに配置される向きを含む、傾斜させたトレンデレンブルグ体位の状態のまま」に、患者を保持することを支援するものであり、「前記トレンデレンブルグ体位」に保持し得る特性を有するものであるのに対し、引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」は、所定の体位に患者を保持することを支援するものであり、かかる所定の体位に保持しうる特性を有するものであるといえるが、「トレンデレンブルグ体位の状態のまま」に患者を保持することを支援するものであり、「前記トレンデレンブルグ体位」に保持し得る特性を有するものか特定されていない点。
(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 本願補正発明における「トレンデレンブルグ体位」の意義
本願明細書には、トレンデレンブルグ体位に関し、以下の記載がある。
「【背景技術】
・・・
【0003】
子宮頸部等の下半身の手術において、トレンデレンブルグ体位が用いられる。この体位は、患者の頭部を低くして、脚部を頭部よりも高く上げるようにする。多くの場合、低くする程度は約10度から約20度として、患者の背中が下半身よりも下でこの角度範囲で延出するように頭部を維持する。場合によっては、この角度は約45度まで大きくなることがある。この角度は、1度刻み又は数分の1度刻みで、約5度から約45度の間とすることができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0010】
外科手術等の何らかの医療処置の実行中、水平方向、すなわち鉛直方向に対して垂直に向けた支持台又は手術台上に患者を載せることがある。しかしながら、医療処置によっては、支持台又は手術台、従って患者を、水平方向に対して傾斜させて向けることの方が好都合である場合がある。例えば腹部又は婦人科手術等の下半身に関する医療処置では、トレンデレンブルグ体位を用いることができる。この体位では、まず患者は支持台の上に水平方向に横たわる。次いで手術台又はその一部を傾斜させて、例えば図6に示すように、患者の頭部及び胴体上部が患者の骨盤領域及び/又は脚部よりも鉛直方向で下方の位置にあるようにする。一般に、支持台の傾斜は、患者の頭部及び胴体上部が水平方向から約5、10度、又は15度から約20、30度、又は急勾配のトレンデレンブルグ体位では45度以上の範囲内のいずれかに、1度刻みから数分の1刻みで低くなるようにする。正のトレンデレンブルグ体位の他に、負又は逆のトレンデレンブルグ体位があり、この場合は頭部及び胴体上部が患者の骨盤領域及び/又は脚部よりも鉛直方向で高い位置にある。本明細書において用いる場合、トレンデレンブルグ体位という言葉は双方の体位を指すと理解するものとする。」
以上の記載によると、本願補正発明における「トレンデレンブルグ体位」とは、「患者の頭部及び胴体上部が患者の骨盤領域及び/又は脚部よりも鉛直方向で下方の位置にある」体位もしくは「頭部及び胴体上部が患者の骨盤領域及び/又は脚部よりも鉛直方向で高い位置にある」体位を意味すると解され、手術台の傾斜角度でみると、例えば5度程度の水平に近い緩やかな傾斜角度を含む体位ということができる。
イ 検討
以上のとおり、トレンデレンブルグ体位の意義を踏まえた上で、上記相違点について検討する。
(ア)引用発明における「手術台」について
引用発明の手術台は、「互いに対して調節可能である複数のセグメントを備えたベッドを有する」ものである。
ここで、引用文献2には、「外科処置時に患者支持フレーム18を所望位置へ関節運動させるために、頭フレーム部19、背フレーム部20、座フレーム部22、および脚フレーム部24は横切る方向に離隔する軸を中心に旋回自在である」構成を備え、「患者支持面18をトレンデレンブルグ位置と逆トレンデレンブルグ位置間で移動可能」にする「手術室台12」が開示されているといえる(特に摘示(2c)の段落【0016】参照。以下「引用文献2に記載された技術的事項」ということがある。なお、このような技術的事項は周知の技術的事項ともいい得るものである。)。そして、かかる「頭フレーム部19」、「背フレーム部20」、「座フレーム部22」、及び「脚フレーム部24」は、「横切る方向に離隔する軸を中心に旋回自在」というのであり、かつ、「手術室台12」を構成するものといえるから、各フレーム部は、手術室台12を構成する一部分(セグメント)であり、互いに対して調整可能であるものということができる。
そうすると、引用発明の「手術台」と引用文献2に記載されたトレンデレンブルグ体位に対応可能な「手術室台12」とは、その基本構成において共通するということができ、引用文献2に記載された技術的事項を踏まえると、引用発明の「手術台」は、各セグメントを互いに調整することにより、例えば、患者の頭部、腰部、脚部等の位置に高低差を設けるような体位、すなわち、トレンデレンブルグ体位と同様な体位への設定も想定されているということができる。
(イ)課題の共通性について
本願補正発明の課題は、本願明細書の「【0005】手術台上の患者に対する損傷を最小限に抑えるため、手術台上に患者を保持するために様々な方法が用いられている。これらの方法では、首、肩、又は腕に不必要な圧力が加わることによって患者に損傷を与え、この不必要な圧力のために患者の身体の神経及び/又は潰瘍に対する損傷が悪化する恐れがある。【0006】患者に対する点の圧力及び小面積の圧力を軽減すると共に、患者の神経に対するこれらの種類の圧力を軽減するために、本出願は、かかる圧力を軽減するためのトレンデレンブルグ・パッド、キット、並びにこのトレンデレンブルグ・パッド及びキットの使用方法を記述する。」との記載によれば、「患者を保持する」際に、「手術台上の患者に対する損傷を最小限に抑えるため」、「患者に対する点の圧力及び小面積の圧力を軽減すると共に、患者の神経に対するこれらの種類の圧力を軽減する」ことにあるといえる。
これに対し、引用発明の課題は、引用文献1の「【0003】本発明の目的は、容易に取り扱いと洗浄ができ、同時に患者が柔らかい支持を得られる、導入部で述べた種類のパッド要素を特定することにある。」との記載(摘示(1c))、「【0005】それゆえ、本発明によるパッド要素において、少なくとも部分的に柔らかい発泡体からなり、それゆえ患者が柔らかい支持を得られ、それにより圧点を避けることができるパッド部品が提供される。」との記載(摘示(1d))及び「【0022】それゆえ、図1~5からのパッド要素10には、柔らかいパッド部品16で形成され、患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる」との記載(摘示(1h))によれば、「患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる」ようにするために、「患者が柔らかい支持を得られ、それにより圧点を避けること」にあるといえる。
以上によれば、引用文献1(引用発明)には、トレンデレンブルグ体位という特定の体位についての言及はないものの、本願補正発明の課題と引用発明の課題は、患者を保持(支持)する際に、患者に対する損傷(圧痕)を抑えるため、点の圧力及び小面積の圧力(圧点)を軽減することなど、多分に共通するということができる。
(ウ)相違点に係る本願補正発明の構成の容易想到性について
上記(ア)で述べたように、引用発明における「粘弾性の柔らかい発泡体」を備えたパッド要素が適用される「手術台」は、トレンデレンブルグ体位と同様な体位への設定も想定されているといえること、加えて、引用文献2には、トレンデレンブルグ体位に対応可能な「手術室台12」で使用されるマットレス面に関し(摘示(2b)の段落【0004】及び【0005】並びに摘示(2d)の図1及び図3参照)、「マットレス面は、肥満患者とマットレス面間の界面圧力を減少するためにフォーム、エアパッド、またはエアブラダ、ゲルパッド、温度調節、または他の支持構造体を含む。」(摘示(2b)の段落【0004】)と記載されており、トレンデレンブルグ体位に対応可能な「手術室台12」と患者との間に、患者への圧力を軽減させるためにフォーム、エアパッドまたはゲルパッドなどの一般的に硬くない部材を適用することの示唆があることを考慮すると、引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」をトレンデレンブルグ体位に対応可能な手術台に適用する動機付けは十分存在するといえる。
そして、患者が移動しないように保持することは、手術において当然に求められること、上記(1)ア(イ)(ウ)で述べたように、引用発明の「粘弾性の柔らかい発泡体」は、「患者の身体に圧痕が形成されることなく患者を長時間支持できる」機能を有し、患者の身体に適合するように変形するものであり、圧力による患者に対する損傷を軽減することができるものであり、患者を所定の体位の状態に保持するものであるといえること、上記アで述べたとおり、トレンデレンブルグ体位の意義は、手術台の傾斜角度でみると、例えば5度程度の水平に近い緩やかな傾斜角度の設定をも含む体位であることをも踏まえると、上記(イ)で述べたとおり、課題の点で本願補正発明と多分に共通するといえる引用発明において、「粘弾性の柔らかい発泡体」をトレンデレンブルグ体位に対応可能な手術台に適用し、その際に、上記変形や患者との間に当然生じ得る摩擦によって、患者を当該体位に保持し得るように構成すること、すなわち、上記相違点に係る本願補正発明の構成を有するものとすることは当業者が容易に想到し得るものといえる。
(エ)効果の予測性について
上記相違点に係る本願補正発明の構成は、「粘弾性形状記憶発泡体」が、「前記患者の頭部が前記患者の身体よりも下方又は上方のいずれかに配置される向きを含む、傾斜させたトレンデレンブルグ体位の状態のまま」に、患者を保持することを支援し、「前記トレンデレンブルグ体位」に保持し得る特性を有するというものであるところ、「前記トレンデレンブルグ体位」に保持し得る特性について、具体的にどの傾斜角度において、粘弾性形状記憶発泡体にどの程度の変形が生じ、患者との間でどの程度の摩擦が生じて、患者を保持する保持能力を発揮するかについて、本願補正発明は特段限定されていない。そして、上記アで述べたように、本願補正発明におけるトレンデレンブルグ体位の意義は、手術台の傾斜角度が5度程度の設定をも含む体位であることをも踏まえると、本願補正発明の効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から予測される効果に比較して顕著性があるとまではいえない。
2-2-4 本件補正についてのむすび
以上より、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成29年7月6日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)〔請求項1〕」に記載したとおりである。
2 前置審査における拒絶の理由の要旨
以下の引用文献1に記載された発明におけるパッド要素を用いた手術台において、同引用文献2に記載されているようにトレンデレンブルグ体位をとるように構成することに格段の困難を要するものではないし、顕著な作用効果を奏するものでもない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1 特開2007-130475号公報
引用文献2 特表2004-500192号公報
引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明(引用発明)並びに引用文献2に記載された事項は、上記「第2,2,2-2,2-2-2(1)(2)」に記載したとおりである。
3 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本願補正発明から、「粘弾性形状記憶発泡体」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2,2,2-2,2-2-3」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-010103