特許拒絶査定不服審判
2017-004666
高周波手術装置
- 審判番号
- 2017-004666
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-516537外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年04月04日
- 審決日
- 2019年03月25日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-516537「高周波手術装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月27日国際公開、WO2013/189684、平成27年 8月13日国内公表、特表2015-523125〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012(平成24)年6月18日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 2月18日付け拒絶理由
同年 7月22日 意見書・補正書の提出
同年12月 1日付け拒絶査定
平成29年 4月 4日 審判請求書・手続補正書の提出
平成30年 3月29日付け拒絶理由通知
同年 7月 3日 意見書・手続補正書の提出
同年 8月16日付け拒絶理由通知
同年11月14日 意見書・手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出
第2 本件発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりである。
「高周波生成器(3)を有する高周波手術装置(1)であって、生物学的組織(5)を切開するか、又は凝固させる高周波出力信号(a)を生成し、前記高周波生成器(3)は、前記高周波生成器の前記出力信号(a)が所定の基本周波数(fGenerator)を有し、変調装置(9、11)が設けられるように設計され、前記変調装置(9、11)は、変調周波数(fModulation)を用いて前記出力信号(a)を変調するために使用され、前記変調周波数は前記基本周波数よりも小さい、前記高周波手術装置(1)において、
前記変調周波数(fModulation)が少なくとも100kHzであり、
前記出力信号(a)がパルス幅変調によって変調され、
前記高周波手術装置(1)の特定の適用に適する、前記変調された出力信号(a1,...,a3)の波高因子(CF)が生じるように、前記変調装置(9、11)が前記変調周波数(fModulation)を変更することなく変調信号のデューティサイクルを変更し、
前記変調周波数(fModulation)及び前記基本周波数(fGenerator)が一定であり、
前記基本周波数(fGenerator)が前記変調周波数(fModulation)の5倍よりも大きいことを特徴とする、高周波手術装置。」
第3 拒絶の理由
平成30年8月16日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりである。
請求項1ないし4に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)よりも前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、その優先日よりも前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
引用文献1:特開平11-19092号公報
引用文献2:米国特許公開第2007/0066971号明細書
引用文献3:米国特許第4473075号明細書
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した(以下同様)。
「【0025】まず図1において、本発明の1実施の形態に係る高周波利用生体組織処理装置は、少なくとも高帯域のラジオ周波数、例えば8MHz~60MHzの周波数、あるいはそれ以上の周波数の高周波電流を発生する高RF(Radio Frequency)電源部1を備える。この高RF電源部1から、マッチングユニット3およびマッチングケーブル11を介して上記帯域の高周波電流の供給を受ける電磁波放射電極5が、絶縁性の材料により形成されたプローブ4の把持部により保持されており、電磁波放射電極5の先端部は、プローブ4の把持部の先端部からさらに先方へと突出している。」
「【0048】生態組織に対する処理の効果を高めるために、高周波の出力波形を変形して出力することができる。例えば、バイポーラのプローブを使用する際に、電磁波放射電極5の先端部における焦げ付きを防止する目的で変調パルス波のデユーテイーサイクルを調整することができる。バイポーラのプローブを使用する場合に、広い範囲の止血と狭い範囲の止血とに応じて、変調パルス波のデユーテイサイクルを調整することができる。例えばメイン周波数が13.56MHzの連続サイン波である場合に、この連続サイン波を100kHz~300kHzの変調パルス波により変調することにより出力波形を変換することができ、また、さらにこの100kHz~300kHzの変調パルス波のデユーテイサイクルを調整して出力波形を変換することができる。
【0049】変調パルス波のデユーテイサイクルを調整するに当たっては、例えば以下の4つのモードに切り替えることができる。
気化と切開モード : デユーテイサイクル100%
切開と止血(混合1)モード: デユーテイサイクル85~95%
切開と止血(混合2)モード: デユーテイサイクル75~85%
止血(凝固)モード : デユーテイサイクル30~45%」
【0048】の「生態組織に対する処理の効果を高めるために、高周波の出力波形を変形して出力する」及び「連続サイン波を100kHz~300kHzの変調パルス波により変調することにより出力波形を変換することができ、また、さらにこの100kHz~300kHzの変調パルス波のデユーテイサイクルを調整して出力波形を変換することができる」という記載事項及び【0049】の「変調パルス波のデユーテイサイクルを調整するに当たっては、例えば以下の4つのモードに切り替える」という記載事項から、引用文献1に記載の生体組織処理装置は、高周波の出力波形を変形して出力するための変調装置を備え、高周波の出力波形の変形が連続サイン波を変調パルス波により変調する工程及び変調パルス波のデユーテイサイクルを調整する工程とからなることは明らかである。また、これらの変調や調整が信号処理によって行われていることは、技術常識を踏まえれば、明らかである。
【0048】の「メイン周波数が13.56MHzの連続サイン波である場合に」及び「連続サイン波を100kHz~300kHzの変調パルス波により変調する」という記載事項から、引用文献1には、メイン周波数は一定とする場合が記載されているといえ、メイン周波数(13.56MHz)は、変調パルス波(100kHz~300kHz)の5倍よりも大きい値となっていることは明らかである。
【0048】の「生態組織」という記載事項は、生体組織の誤記であることは明らかである。
以上より、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「高RF電源部を有する高周波利用生体組織処理装置であって、生体組織を切開するか、又は凝固させる高周波の連続サイン波の信号を生成し、前記高RF電源部は、前記高RF電源部の前記連続サイン波の信号がメイン周波数を有し、変調装置が設けられるよう設計され、前記変調装置は、変調パルス波の周波数を用いて前記連続サイン波の信号を変調するために使用され、前記変調パルス波の周波数は前記連続サイン波の信号の周波数よりも小さい、前記高周波利用生体組織処理装置において、
前記変調パルス波の周波数が少なくとも100kHzであり、
前記連続サイン波の信号がパルス幅変調により変調され、
前記高周波利用生体組織処理装置の特定のモードに適する、変調後の信号が生じるように、前記変調装置が前記変調パルス波の信号のデューティサイクルを調整し、
前記メイン周波数が一定であり、
前記メイン周波数が前記変調パルス波の周波数の5倍よりも大きい高周波利用生体組織処理装置。」
2 引用文献2
引用文献2には、次のとおり記載されている。なお、日本語訳は当審で付した(以下同様)。
「【0020】It is known that the particular waveform of electrosurgical energy can be modulated to enhance a desired surgical effect, e.g., cutting, coagulating, sealing, blending, ablating, etc. For example, in a "cutting" mode, an uninterrupted sinusoidal waveform in the frequency range of 100 kHz to 4 MHz with a crest factor in the range of 1.4 to 2.0 is used. In a "blend" mode, a sinusoidal waveform with a duty cycle in the range of 25% to 75% and a crest factor in the range of 2.0 to 5.0 is used. In a "coagulate" mode, a sinusoidal waveform with a duty cycle of approximately 10% or less and a crest factor in the range of 5.0 to 12.0 is used.」
(電気手術用エネルギーの特定の波形は、切開、凝固、封止、混合、焼灼などの所望の外科的効果を促すために変調され得ることが知られている。例えば、「切開」モードにおいては、周波数帯が100キロヘルツから4メガヘルツで、クレストファクター(波高因子(CF))が1.4から2.0である、途切れのないサイン波形が使用される。「混合」モードにおいては、デューティサイクルが25%から75%で、クレストファクター(波高因子(CF))が2.0から5.0のサイン波形が使用される。「凝固」モードにおいては、デューティサイクルがおおよそ10%かそれよりも少なく、クレストファクター(波高因子(CF))が5.0から12.0のサイン波形が使用される。)
3 引用文献3
引用文献3の13欄63行ないし最終行には、次のとおり記載されている。
「The amplitude and frequency of the high frequency cutting signal remain the same in both the start up period and the steady state period; the only difference resides in the duty cycle which is 100% during the start up period and 60% during the steady state period.」
(初期段階と安定段階において、高周波数の切開信号の電流及び周波数は同じである。唯一の違いは、デューティサイクルが、初期段階においては100%であるのに対して、安定段階においては60%となっていることである。)
第5 対比
本件発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
引用発明の「高RF電源部」は、その作用及び機能を踏まえると、本件発明の「高周波生成器(3)」に相当し、以下同様に、「高周波利用生体組織処理装置」は「高周波手術装置(1)」に、「生体組織」は「生物学的組織(5)」に、「高周波の連続サイン波の信号」は「高周波出力信号(a)」に、「メイン周波数」は「所定の基本周波数(fGenerator)」に、「変調装置」は「変調装置(9、11)」に、「変調パルス波の周波数」は「変調周波数(fModulation)」に、「特定のモード」は「特定の適用」に、「変調パルス波の信号」は「変調信号」に、「調整し」は「変更し」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「変調後の信号が生じるように」と本件発明の「変調された出力信号(a1,...,a3)の波高因子(CF)が生じるように」とは、「変調された出力信号が生じる」点において共通している。
してみれば、本件発明と引用発明とは、以下の一致点および相違点を有する。
(一致点)
「高周波生成器(3)を有する高周波手術装置(1)であって、生物学的組織(5)を切開するか、又は凝固させる高周波出力信号(a)を生成し、前記高周波生成器(3)は、前記高周波生成器の前記出力信号(a)が所定の基本周波数(fGenerator)を有し、変調装置(9、11)が設けられるように設計され、前記変調装置(9、11)は、変調周波数(fModulation)を用いて前記出力信号(a)を変調するために使用され、前記変調周波数は前記基本周波数よりも小さい、前記高周波手術装置(1)において、
前記変調周波数(fModulation)が少なくとも100kHzであり、
前記出力信号(a)がパルス幅変調によって変調され、
前記高周波手術装置(1)の特定の適用に適する、前記変調された出力信号が生じるように、前記変調装置(9、11)が変調信号のデューティサイクルを変更し、
前記基本周波数(fGenerator)が一定であり、
前記基本周波数(fGenerator)が前記変調周波数(fModulation)の5倍よりも大きい、高周波手術装置。」
(相違点1)
変調された出力信号が生じるに当たって、本件発明においては、「特定の適用に適す」る「波高因子(CF)」が生じるようにしているのに対して、引用発明においては、そのような構成を有するか不明である点。
(相違点2)
本件発明においては、「前記変調装置(9、11)」が「変調信号のデューティサイクルを変更する」に当たって、「前記変調周波数(fModulation)を変更することなく」行うとともに、「前記変調周波数(fModulation)が一定で」あるのに対して、引用発明においては、そのような構成を有するか不明である点。
第6 判断
1 相違点1について
一般的に、基本波形をパルス波により変調してデューティサイクルを調整した場合、その波高因子(ピーク値/実効値)はデューティ比が小さいほど大きくなることは技術常識であるといえる。
また、上記第4の2のとおり、高周波エネルギーを利用した外科的手術器具の技術分野において、切開や凝固などの各モードに適した高周波の波形を提供するに当たって、変調高周波のデューティ・サイクルの範囲とともにクレストファクター(波高因子(CF))も調整することは、本願の優先日よりも前に公知の技術的事項である。
してみれば、引用発明の高周波手術装置において、切開や凝固などの各使用に適する、変調された出力信号を生じるに当たって、デューティ・サイクルの範囲とともに波高因子(CF)をも調整するよう構成することで、当業者が相違点1に係る本件発明の構成を想到することに、何ら困難性はない。
2 相違点2について
上記第4の3のとおり、高周波エネルギーを利用した外科的手術器具の技術分野において、高周波の周波数を変更せずに、デューティ・サイクルだけを調整する制御手段は、本願の優先日よりも前に公知の技術的事項であったといえる。
してみれば、引用発明の高周波手術装置において、前記変調周波数(fModulation)を変更することなく一定とし、変調信号のデューティ・サイクルを変更するよう構成することで、当業者が相違点2に係る本件発明の構成を想到することに、何ら困難性はない。
また、当該相違点1および2により生じる作用効果も、引用文献1ないし3からてみて格別なものであるともいえない。
したがって、本件発明は、引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明は、その優先日よりも前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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