特許拒絶査定不服審判
2017-002194
アースナット
- 審判番号
- 2017-002194
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-256373
- 請求日
- 2017年02月15日
- 審決日
- 2017年10月30日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】イワタボルト株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人 信栄特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 達之
- 審判官 平田 信勝
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P18 .121-WY (F16B) / P18 .537-WY (F16B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-256373号「アースナット」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 5日出願公開、特開2014-101990号、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、平成24年11月22日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成28年 4月28日付け 拒絶理由通知
7月 6日 意見書の提出
11月17日付け 拒絶査定
平成29年 2月15日 審判請求書の提出
8月28日付け 拒絶理由通知
9月27日 意見書、手続補正書の提出
2.本願発明
本願の請求項1~9に係る発明(以下、「本願発明1~9」という。)は、平成29年9月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであり、本願発明1は次のとおりである。
「【請求項1】
ピッチPでねじ山が形成されているボルトに係合されるねじ孔を備えたアースナットであって、
前記アースナットの前記ねじ孔に設けられた全てのねじ山について、前記アースナットの前記ねじ山のピッチPnはボルトのねじ山のピッチPよりも大きく、かつ、前記アースナットの前記ねじ山の角度θが60度よりも大きく形成されており、
前記アースナットの前記ねじ孔の軸方向の一部には、軸方向に延びる切り欠きが設けられ、前記アースナットの前記切り欠きに臨むねじ山の端面が切れ刃を形成している、アースナット。」
なお、本願発明2~9は、本願発明1を減縮した発明である。
3.引用文献
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-8974号(実開平4-105618号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。以下同様である。
ア
「【請求項1】 表面に塗装膜が設けられたボルトに嵌合するナットであって、該ナットの内側に形成されたネジ山を横切る方向に削り屑排出用の排出溝部を設けてなることを特徴とするナット。」
イ
「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は表面に塗装が施されているボルトに嵌合するナットに関し、特に嵌合時に剥れる塗装削り屑を容易に排出するように工夫したものである。」
ウ
「【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成する本考案に係るナットは、表面に塗装膜が設けられたボルトに嵌合するナットであって、該ナットの内側に形成されたネジ山を横切る方向に削り屑排出用の排出溝部を設けてなることを特徴とする。
【0007】
【作用】
前記構成において、塗装膜が設けられたボルトに嵌合する際、ナットのネジ山で該塗装膜を削ると共に該塗装削り屑は排出溝部を通って外部へ排出され、ネジ山の目詰まりは防止され、例えばアースを必要とする部品を固着する場合には、ナットとボルトとの導通が確実となる。」
エ
「【0009】
図1は本実施例に係るナットの切欠斜視図、図2(A),(B)はその平面図及びその半断面図であり、図3~図5はその使用状態を示す概略図である。
【0010】
これらの図面に示すように、本実施例に係るナット10は内周面に形成されたネジ山11を横切る方向に塗装削り屑排出用の排出溝部12が2箇所設けられており、塗装膜が形成されたボルトの嵌合時に、削り取った塗装削り屑の排出を容易にしている。
【0011】
また、このナット10は図2(A)に示すようにその頂面10aには三ヶ所にかしめ部13が設けられており、特にかしめ部側の第1番目のネジ山11aを径方向内側へ塑性変形させて、締結時の締め付けを強くして、ボルトの塗装膜をさらに剥し易いように図っている。」
オ
「【0013】
図3(A)(当審注;「図3」の誤記と認められる。)に示すように、ナット嵌合初期はアースを必要とする部品21に形成された塗装膜22は弾力を持っているため、該塗装膜22は、ナット10とボルト23とのネジ山のスキ間に圧縮されている。
引き続いてナット10の締め付けを行うにつれて、塗装膜22は更に圧縮されてくる(図4(A)参照)。次いで、ナット10に形成した排出溝部12の位置にくると、ナット10のネジ山11が無くなるため、塗装膜22は圧縮から解放され、塗装膜22は広がる(図4(B),図6参照)。
さらにナット10の締め付けを行うと、ネジ山11に形成された排出溝部12のコーナ部が切れ刃部14となり、(図6参照)、塗装膜22が破れて、塗装削り屑24となる。この塗装削り屑24は排出溝部12より外部へ排出されることとなる(図5(A)参照)。
この塗装削り屑24の排出により塗装膜22を削る場合でも定格トルクでの締め付けが可能となる。
【0014】
この結果、ボルト23に形成された塗装膜22が剥離されることとなり、電気の流れはアースを必要とする部品21からナット10及びボルト23へと流れるようになり、(図5(B)参照)、該部品21のアースの確保が可能となる。」
以上のア~オの事項及び【図1】~【図6】の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「表面に塗装膜22が設けられたボルト23に嵌合するナット10であって、
該ナット10の内側に形成されたネジ山11を横切る方向に削り屑排出用の排出溝部12を設け、
ネジ山11に形成された排出溝部12のコーナ部が切れ刃部14となる、ナット10。」
(2)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2003/098057号(以下、「引用文献2」という。)には、5頁12~34行の記載及びFig.1~3の記載からみて、次の事項が記載されていると認められる。
カ
Fig.1から、ナット2の基本的なねじ山のプロファイルとして、ナット2のねじ山の角度が60度であることを看取しうる。
キ
Fig.3から、ナット2のねじ山のピッチを、ねじ1のねじ山のピッチより小さくし、ナット2の両端で、それぞれナット2の内側となるフランクとねじ1の外側となるフランクとが当接することを看取しうる。
(3)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第4266590号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、1欄33~43行、2欄30~46行の記載及びFig.2の記載からみて、次の事項が記載されていると認められる。
ク
ナットのねじ山15の上下のフランク33、35の角度がそれぞれ30°であるので、ねじ山15の角度が60°であること。
ケ
ナットのねじ山15のピッチは、ボルトのねじ山13よりも小さくすること。
(4)引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第2870668号明細書(以下、「引用文献4」という。)には、1欄66行~2欄22行の記載及びFig.1~3の記載からみて、次の事項が記載されていると認められる。
コ
ナット10のねじ山のピッチを、ロッド11のねじ山のピッチより大きくすること。
4.対比・判断
(1)本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比する。
後者の「表面に塗装膜22が設けられたボルト23」は、ねじ山が所定のピッチで形成されているのは明らかといえるので、前者の「ピッチPでねじ山が形成されているボルト」に相当する。
後者の「ボルト23に嵌合するナット10」は、ボルトに係合するねじ山を備えていることは明らかであり、また、引用文献1の段落【0014】の記載(上記「3.(1)オ」を参照)によれば、ボルト23に形成された塗装膜22を剥離しアース経路を形成するものであるので、前者の「ボルトに係合されるねじ孔を備えたアースナット」に相当する。
前者の「軸方向に延びる切り欠き」は、本願の明細書の段落【0037】、【0039】の記載を参照すると、切り欠き25に臨むねじ山21の断面の切れ刃26により剥離されたボルト33の塗装膜の削り屑がたまるものであるので、後者の「削り屑排出用の排出溝部12」は、前者の「軸方向に延びる切り欠き」に相当し、後者の「ナット10の内側に形成されたネジ山11を横切る方向に削り屑排出用の排出溝部12を設け」ることは、前者の「アースナットのねじ孔の軸方向の一部には、軸方向に延びる切り欠きが設けられ」ることに相当する。
後者の「ネジ山11に形成された排出溝部12のコーナ部が切れ刃部14となる」ことは、前者の「アースナットの切り欠きに臨むねじ山の端面が切れ刃を形成している」ことに相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「ピッチPでねじ山が形成されているボルトに係合されるねじ孔を備えたアースナットであって、
前記アースナットの前記ねじ孔の軸方向の一部には、軸方向に延びる切り欠きが設けられ、前記アースナットの前記切り欠きに臨むねじ山の端面が切れ刃を形成している、アースナット。」
〔相違点〕
本願発明1は、「アースナットのねじ孔に設けられた全てのねじ山について、アースナットのねじ山のピッチPnはボルトのねじ山のピッチPよりも大きく、かつ、アースナットのねじ山の角度θが60度よりも大きく形成されており」と特定されているのに対して、引用発明は、ナット10のねじ山11について、ピッチ及び角度が不明である点。
上記相違点について以下検討する。
ア ピッチに関して
雄ねじと雌ねじのピッチを異ならせることは、引用文献2~4(それぞれ、上記「3.」の「(2)キ」、「(3)ケ」、「(4)コ」を参照)のそれぞれに記載されており周知の事項といえ、その構造から雄ねじと雌ねじとのゆるみ止めの効果があることも周知の事項といえる。
しかしながら、雄ねじと雌ねじのピッチを異ならせた構造が周知の事項であるとしても、そのような構造を雄ねじ(ボルト)の塗装膜の剥離に用いることまでも周知であるとはいえず、また、塗装膜の剥離に関して引用文献2~4のいずれにも記載も示唆もされていない。
そうすると、引用発明に、塗装膜剥離のために周知の事項を適用する動機付けはないといえる。
また、本願の明細書には次の記載がある。
「【0036】
この集積されたピッチは、ねじ孔22とねじ部32との係合部分の軸方向両側に作用し、軸方向両側にボルト33のねじ山31とアースナット11のねじ山21とが高い圧力で接触する高圧接触部Tが生じる。これにより、アースナット11のねじ孔22にボルト33のねじ部32をねじ込むと、高圧接触部Tによって大きな締結力およびプリベリングトルクを発生させることができる。
【0037】
また、アースナット11は、ねじ孔22の軸方向の両側に、切り欠き25が設けられ、この切り欠き25に臨むねじ山21の断面が切れ刃26とされている。ボルト33のねじ部32をねじ込むときに、前述のように、アースナット11のねじ孔22とボルト33のねじ部32との係合部分の軸方向の両側に高圧接触部Tが生じる。すると、切れ刃26がボルト33のねじ部32のねじ山31に食い込む。この状態で、アースナット11のねじ孔22にボルト33のねじ部32を更にねじ込むと、ボルト33の塗装膜が切れ刃26によって剥離される。このように、ボルト33の塗装膜が剥離されることで、アースナット11とボルト33とが確実に導通する。
・・・
【0040】
さらに本実施形態に係るアースナット11においては、切り欠き25が軸方向の両側に設けられている。これにより、ボルト33の挿入側においては、切れ刃26はボルト33の反進み側フランク面の塗装膜を剥離し、ボルト33の反挿入側においては、切れ刃26はボルト33の進み側フランク面の塗装膜を剥離することができる。これにより、更にフランク面の両側の塗装膜を剥離することができ、より確実にアースナット11とボルト33との導通を確保できる。」
上記記載によれば、引用発明は、アースナット11の軸方向両側に高圧接触部Tが生じるにより、アースナット11のボルト33への挿入側の切れ刃26と、反挿入側の切れ刃26とで、ボルト33の異なるフランク面の塗装膜を剥離することができるとの作用効果を奏するものと認められる。
引用文献1には、ナット10の頂面10aにかしめ部13を設け、特にかしめ部側の第1番目のネジ山11aを径方向内側へ塑性変形させて、締結時の締め付けを強くして、ボルトの塗装膜を剥し易いようにすることも記載されている(上記「3.(1)エ」の段落【0011】参照)。
しかしながら、引用文献1の上記記載は、引用発明において、ナット10の両端部で塗装膜を剥離することを示唆しているとはいえず、また、ナット10の両端部での塗装膜剥離のために上記周知の雄ねじと雌ねじのピッチを異ならせるとの事項を適用することが、当業者にとって容易に想到し得ることとは認められない。
イ 角度について
引用文献2、3には、ナットのねじ山の角度を60°とすることは記載されている(上記「3.」の「(2)カ」、「(3)ク」を参照)ものの、ナットのねじ山の角度を、塗装膜剥離を行うナットにおいて、60°より大きくすることは記載されていない。
そうすると、引用発明のナット10のねじ山11の角度を、60°より大きくすることは、引用文献2、3からは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
ウ その他の引用文献について
原査定においては他に、実願昭46-55940号(実開昭48-12458号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献5」という。)、特開平6-99099号公報(以下、「引用文献6」という。)、特開2009-253018号公報(以下、「引用文献7」という。)を引用しているが、いずれの文献も相違点に係る本願発明1の構成を示唆するものではない。
以上のとおりであるので、引用発明を、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、引用文献2~7に記載された事項から当業者が容易に想到し得るとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2~7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本願発明2~9
本願発明2~9は、本願発明1を減縮した発明であり、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるものであるので、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2~7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
5.原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1~9に係る発明について上記引用文献1~7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年9月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明1)は、上記「4.(1)」で挙げた「相違点」を有するものとなり、上記「4.(1)(2)」で判断したとおり、本願発明1~9は、引用発明及び引用文献2~7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。
6.当審拒絶理由について
当審において平成29年8月28日付けで通知した拒絶の理由は、請求項1~3の「ねじ山」に関する記載が明確でなく、請求項3の「0≦β」との記載が請求項1の記載と対応しないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものであるが、平成29年9月27日の手続補正により特許請求の範囲が補正された結果、この拒絶理由は解消した。
7.むすび
以上のとおり、本願発明1~9は、引用発明及び引用文献2~7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-002194