特許拒絶査定不服審判
2016-013105
原子力水素供給システムを構築する方法
- 審判番号
- 2016-013105
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-086270
- 請求日
- 2016年08月16日
- 審決日
- 2018年06月21日
- 公報発行日
- 2018年09月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】桐生 悠一
- 審判長/審判官
- 審判長 森 竜介
- 審判官 野村 伸雄
- 審判官 居島 一仁
- 分類
- P18 .55 -WZ (C25B) / P18 .561-WZ (C25B) / P18 .536-WZ (C25B) / P18 .537-WZ (C25B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015- 86270「原子力水素供給システムを構築する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日出願公開、特開2016-196699〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月3日の出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 2月18日付け:拒絶理由の通知
平成28年 3月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 7月25日付け:拒絶査定(同年8月2日送達)
平成28年 8月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年 9月12日付け:拒絶理由の通知
平成29年10月31日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 2月21日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由、以下「当審拒 絶理由」という。)の通知
平成30年 3月 9日 :意見書、手続補正書の提出
第2 平成30年3月9日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年3月9日にされた手続補正(以下「本件補正1」という。)を却下する。
[理由]
本件補正1について
1 本件補正1後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。
「【請求項1】
島嶼部において、一般人が居住しない離島を原子力発電所の立地となし、前述離島の地形・地質に応じて山の内部あるいは地面の下に地下空間構造物を構築してその内部に原子力発電所を建設・稼働し、廃炉に当たっては原子炉と高レベル廃棄物を前述地下空間構造物内に残したまま、その入口を厳重閉鎖することを以て中間処分となし、或いは原子炉と高レベル廃棄物を狭い空間に物理的にまとめて安定な物質で周囲を充填・固化して不動態化し、前述地下空間構造物への立ち入りが不可能な状態にして最終処分となし、稼働時には前述原子力発電所の電力を地上に引き出して地上の水素製造プラントに供給して水素ガスを製造・貯蔵し、前述水素ガスを低温の液化水素あるいは常温で液体のメチルシクロヘキサンとして専用輸送船により水素をエネルギー資源として消費地に送り届ける前述原子力発電所をハブとする原子力水素供給システムを構築する方法。」
2 新規事項の追加について
本件補正1の補正により、請求項1において「島嶼部において、一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島Aを原子力発電所の立地となし」と記載されたものが、「島嶼部において、一般人が居住しない離島を原子力発電所の立地となし」とされた。
原子力発電所の立地に関し、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初の明細書等」という。)の特許請求の範囲に、「島嶼部において、一定範囲内の周辺の他の離島にも一般人が殆ど居住していない離島を原子力発電所の立地となし」、
明細書の段落【0012】に、「このため、無住の離島が他国に実効支配されないように、離島防衛が新しい課題として浮上している。このような無住かそれに近い離島が広大な日本国の版図の中に多数存在することは、従来は国家的なお荷物であったが、これを原子力発電所の立地として考えれば、本土でその新規建設が不可能となった現状の解決に役立つ。これが第一の課題を解決する手段である。」、
明細書の段落【0013】に、「立地としては人家から隔絶した離島というだけでは充分でない。」、
明細書の段落【0014】に、「発電所が需要地から比較的近ければ海底電力ケーブルが利用できるが、本件の場合はわざと需要地から遠い離島に立地する。海底電力ケーブルが経済的に利用できる射程外にある。」、
明細書の段落【0022】に、「離島地下式原子力発電所では、多くの人が安全と認める距離の範囲内に関係者以外の住民がいない場所に立地するので、第一の問題は存在しない。」と記載されている。
そうすると、島嶼部において、単に「一般人が居住しない離島」を原子力発電所の立地となすことに関して、出願当初の明細書等には明示的な記載はない。
そして、島嶼部において、一定範囲内の周辺の他の離島にも一般人が殆ど居住していない離島、離島防衛、立地としては人家から隔絶した離島、海底電力ケーブルが経済的に利用できない需要地から遠い離島、多くの人が安全と認める距離の範囲内に関係者以外の住民がいない場所に立地との離島について、出願当初の明細書等に記載されているものの、それら以外の、島嶼部において、一般人が居住しない離島にまで原子力発電所の立地とすることについて、当業者にとって自明な事項とも認められず、本件補正1は、出願当初の明細書等に記載した事項との関係において原子力発電所の立地条件を拡張するという新たな技術的事項を導入するものである。
以上のとおり、本件補正1は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
平成30年3月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年10月31日にされた手続補正(以下「本件補正2」)により補正された請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
島嶼部において、一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島Aを原子力発電所の立地となし、前述離島Aの地形・地質に応じて山の内部あるいは地面の下に地下空間構造物を構築してその内部に原子力発電所を建設・設置することにより、本質的に万一の過酷事故にも外部への放射性物質の漏洩が極めて少ない地下原子力発電所となし、廃炉に当たっては原子炉と高レベル廃棄物を前述地下空間構造物内に残したまま、その入口を厳重閉鎖することを以て中間処分となし、或いは原子炉と高レベル廃棄物を狭い空間に物理的にまとめて安定な物質で周囲を充填・固化するなどの手段で不動態化し、前述地下空間構造物への立ち入りが不可能な状態にして最終処分となし、稼働時には前述原子力発電所の電力を地上に引き出して地上の水素製造プラントに供給して水素ガスを製造・貯蔵し、前述水素ガスを低温の液化水素あるいは常温で液体のメチルシクロヘキサン等として専用輸送船により水素をエネルギー資源として消費地に送り届ける前述原子力発電所をハブとする原子力水素供給システムを構築する方法。」
第4 当審拒絶理由の概要
[理由1]平成29年10月31日付け手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
[理由2]本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由3]本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由4]本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
●理由1について
(1)平成29年10月31日付け手続補正書の補正により、請求項1において「一定範囲内の周辺の他の離島にも一般人が殆ど居住していない離島」と記載されたものが、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」とされた。
ここで、「離島A」は、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない」との限定はあるものの、一般人が居住するか否かの限定はないことになった。つまり、「離島A」は、補正により、「一般人が殆ど居住していない離島」から「一般人が多数居住する離島」を含むことになった。しかしながら、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、原子力発電所の立地として、一般人が多数居住する離島は記載されていない。
したがって、請求項1においてされた補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)平成29年10月31日付け手続補正書の補正により、立地として人家から隔絶した離島が明細書の段落【0013】において「隔離距離は5kmにもなる可能性があり得る」との限定がされた。
これに対し、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、原子力発電所の立地として人家から隔絶した離島として、「隔離距離は5kmにもなる可能性があり得る」とは記載されていないし、当業者にとって自明な事項であるとは認められない。
したがって、明細書の段落【0013】においてされた補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
●理由2ないし4について
(1)請求項1には「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」と記載されているが、当該記載の「一定範囲内」はどこまでの範囲なのか不明であり、また、「一般人が居住する離島」の一般人はどのような人を意味しているのか不明であり(例えば、原子力発電所の従業員の家族は一般人にあたるのか不明)、発明の構成が不明確となっている。
(2)上記(1)で指摘したように、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」は明確でないので、発明の詳細な説明を参酌する。
ア 「一般人が居住する離島」については、発明の詳細な説明において記載はなく、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」が、どこまでの範囲内なのかを含め上記(1)の点について、発明の詳細な説明において段落【0013】には「日本国にはその隔離距離に法による定めがないが、福島第一原発の事故当時に米国がカテゴリー7の事故と想定して自国民に待避を指令した原発から80kmが参考になる。」、「地下原発は万一の苛酷事故においても地表及び海中に放射性物質を放出する危険がないことを国民に納得して貰える時期がくれば、前述隔離距離は5kmにもなる可能性があり得る。隔離距離の決定は科学ではなく、社会心理学に属する分野であるため、極めて流動的である。」との記載はあるものの、把握が出来ない。
イ したがって、発明の詳細な説明の記載からみても、請求項1に記載される「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」が、どこまでの範囲なのかを含め上記(1)の点について、不明確である。
ウ 発明の詳細な説明の記載では、「一般人が居住する離島」、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」がどのような島なのか不明確であるから、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
エ 上記ウのとおり、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明が、実質的に記載されていない。
(3)請求項1には「本質的に万一の過酷事故にも外部への放射性物質の漏洩が極めて少ない地下原子力発電所」、「原子炉と高レベル廃棄物を狭い空間に物理的にまとめて安定な物質で周囲を充填・固化するなどの手段」、「メチルシクロヘキサン等として」と記載されているが、「本質的に」、「極めて少ない」、「など」、「等」はどこまでのものを含むのか不明確な記載であり、発明の構成が不明確となっている。
第5 当審の判断
1 [理由1]について
(1)本件補正2の補正により、請求項1において「島嶼部において、一定範囲内の周辺の他の離島にも一般人が殆ど居住していない離島」と記載されたものが、「島嶼部において、一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」とされた。
原子力発電所の立地に関し、出願当初の明細書等の特許請求の範囲に、「島嶼部において、一定範囲内の周辺の他の離島にも一般人が殆ど居住していない離島」、
明細書の段落【0012】に、「このため、無住の離島が他国に実効支配されないように、離島防衛が新しい課題として浮上している。このような無住かそれに近い離島が広大な日本国の版図の中に多数存在することは、従来は国家的なお荷物であったが、これを原子力発電所の立地として考えれば、本土でその新規建設が不可能となった現状の解決に役立つ。これが第一の課題を解決する手段である。」、
明細書の段落【0013】に、「立地としては人家から隔絶した離島というだけでは充分でない。」、
明細書の段落【0014】に、「発電所が需要地から比較的近ければ海底電力ケーブルが利用できるが、本件の場合はわざと需要地から遠い離島に立地する。海底電力ケーブルが経済的に利用できる射程外にある。」、
明細書の段落【0022】に、「離島地下式原子力発電所では、多くの人が安全と認める距離の範囲内に関係者以外の住民がいない場所に立地するので、第一の問題は存在しない。」と記載されている。
ここで、「離島A」は、「島嶼部において、一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない」との限定はあるものの、「離島A」に、一般人が居住するか否かの限定はないことになった。つまり、原子力発電所の立地となす「離島A」は、補正前の、島嶼部において、「一般人が殆ど居住していない離島」から「一般人が多数居住する離島」を含む「離島」になった。
しかしながら、出願当初の明細書等には、原子力発電所の立地として、一般人が多数居住する離島は記載はなく、当業者にとって自明な事項とも認められず、本件補正2は、出願当初の明細書等に記載した事項との関係において原子力発電所の立地条件を拡張するという新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、請求項1においてされた補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)本件補正2の補正により、立地として人家から隔絶した離島が、明細書の段落【0013】において「隔離距離は5kmにもなる可能性があり得る」との限定がされた。
これに対し、出願当初の明細書等には、原子力発電所の立地として人家から隔絶した離島として、「隔離距離は5kmにもなる可能性があり得る」とは記載されておらず、当業者にとって自明な事項であるとは認められず、本件補正2は、出願当初の明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、明細書の段落【0013】においてされた補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2 [理由2]ないし[理由4]について
(1)請求項1には「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」と記載されているが、当該記載の「一定範囲内」はどこまでの範囲なのか不明であり、また、「一般人が居住する離島」の一般人はどのような人を意味しているのか不明であり(例えば、原子力発電所の従業員の家族は一般人にあたるのか不明)、発明の構成が不明確となっている。
(2)上記(1)で指摘したように、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」は明確でないので、発明の詳細な説明を参酌する。
ア 「一般人が居住する離島」については、発明の詳細な説明において記載はなく、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」が、どこまでの範囲内なのかを含め上記(1)の点について、発明の詳細な説明において段落【0013】には「日本国にはその隔離距離に法による定めがないが、福島第一原発の事故当時に米国がカテゴリー7の事故と想定して自国民に待避を指令した原発から80kmが参考になる。」、「地下原発は万一の苛酷事故においても地表及び海中に放射性物質を放出する危険がないことを国民に納得して貰える時期がくれば、前述隔離距離は5kmにもなる可能性があり得る。隔離距離の決定は科学ではなく、社会心理学に属する分野であるため、極めて流動的である。」との記載はあるものの、把握が出来ない。
イ したがって、発明の詳細な説明の記載からみても、請求項1に記載される「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」が、どこまでの範囲なのかを含め上記(1)の点について、不明確である。
ウ 発明の詳細な説明の記載では、「一般人が居住する離島」、「一定範囲内に本土及び一般人が居住する離島を含まない離島A」がどのような島なのか不明確であるから、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
エ 上記ウのとおり、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明が、実質的に記載されていない。
(3)請求項1には「本質的に万一の過酷事故にも外部への放射性物質の漏洩が極めて少ない地下原子力発電所」、「原子炉と高レベル廃棄物を狭い空間に物理的にまとめて安定な物質で周囲を充填・固化するなどの手段」、「メチルシクロヘキサン等として」と記載されているが、「本質的に」、「極めて少ない」、「など」、「等」はどこまでのものを含むのか不明確な記載であり、発明の構成が不明確となっている。
第6 むすび
以上のとおり、本件補正2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そして、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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