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特許拒絶査定不服審判

2016-003969

ポリエステル系可塑剤の製造方法

審判番号
2016-003969
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2012-107969外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年03月15日
審決日
2017年05月15日
公報発行日
2017年08月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2012-107969「ポリエステル系可塑剤の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月21日出願公開、特開2013-234273〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成24年5月9日に出願された特許出願であって、以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 6月26日付け 拒絶理由通知 平成27年 8月24日   意見書、手続補正書 平成27年12月 7日付け 拒絶査定 平成28年 3月15日   審判請求書、手続補正書 平成28年 4月12日付け 前置報告書 平成28年 6月17日   上申書 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年3月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「セルロース系樹脂組成物用のポリエステル系可塑剤の製造方法であって、 多塩基酸及び多価アルコール、並びに必要に応じてストッパーを用いて脱水縮合反応を行った後、薄膜蒸留により分子量430以下の成分を0.7wt%以下に除去する工程を備えることを特徴とするポリエステル系可塑剤の製造方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、要するに、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2009-155455号公報 ・・・(略)・・・ 引用文献5:特開平3-66727号公報 引用文献6:特開平3-140323号公報」 というものを含むものである。 第4 当審の判断 1.引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 引用刊行物: 1.特開2009-155455号公報(原審で引用された「引用文献1」) 2.特開平3-66727号公報(原審で引用された「引用文献5」) 3.特開平3-140323号公報(原審で引用された「引用文献6」) (以下、それぞれ項番に従い、「引用文献1」ないし「引用文献3」という。) (1)引用文献1の記載等 ア 引用文献1の記載 引用文献1には、概ね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1h」という。)がある。なお、下線は、他の文献も含め、当審で付したものである。 1a 「【請求項1】 セルロースエステルと、数平均分子量が1000~10000であってジカルボン酸とジオールからなる高分子量可塑剤とを含有し、該高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。 ・・・(略)・・・ 【請求項4】 前記高分子量可塑剤が、その製造時に100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去されたものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。」(請求項1及び4) 1b 「【0007】 このように、従来は望ましくない製膜工程での可塑剤汚染やフィルム面状への悪影響を発生させることなく、所望の光学用フィルムの実用的な方法は困難であった。 本発明の目的は、前述のような従来技術の課題を考慮して、製造時に発煙や油汚染を生じさせずに、比較的容易な操作によって得られ、光学フィルムとして、レタデーションの発現性を調整でき、透湿度を低減化させ、優れた環境耐久性を示すセルロースエステルフィルムを提供することである。更に、そのようなセルロースエステルフィルムを用いた位相差フィルム、優れた偏光板や液晶表示装置を提供することにある。」(段落【0007】) 1c 「【0020】 [高分子量可塑剤] (本発明で用いる高分子量可塑剤の特徴) 本発明のセルロースエステルフィルムに用いられる高分子量可塑剤は、分子量が1000~10000であってジカルボン酸とジオールからなる高分子量可塑剤であり、かつ該高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下であることを特徴とする。 ここで、高分子量可塑剤の分子量とは、平均分子量であり分子量のことなる混合物からなるものである。溶液流延において、可塑剤は溶媒の揮発速度を速めかつ残留溶媒量を低減するために必須な素材である。また、溶融製膜法によるセルロースエステルフィルムにおいても、可塑剤は着色や膜強度劣化を防止するために有用な素材である。さらに、本発明のセルロースエステルフィルムに該高分子量可塑剤を添加することは、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示すものである。また本発明においては、後述する実施例で示すように、製造工程でのハンドリング特性の改良に、非常に有効である。 【0021】 ここで、本発明における高分子量可塑剤は、ジカルボン酸とジオールからなることを特徴とする。本発明の高分子可塑剤は、その数平均分子量が1000~10000であるが、好ましくは数平均分子量1000~8000であり、更に好ましくは数平均分子量1300~5000であり、特に好ましくは数平均分子量1500~3500である。 また、本発明では該高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下であることを特徴とするが、好ましくは数平均分子量が500以下の成分の含有量が8質量%以下であり、更に数平均分子量が500以下の成分の含有量が5質量%以下であり、特に好ましくは数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%以下である。 【0022】 これらの該高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下にするために、その手段は特に限定されない。好ましくは、高分子量可塑剤がその製造時に100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去されたものであることが挙げられる。更に好ましくは、高分子量可塑剤がその製造時に150~300℃で1~5000Paの減圧下で、20~300分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去されたものであり、特に好ましくは高分子量可塑剤がその製造時に150~260℃で5~2500Paの減圧下で、30~300分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去されたものである。」(段落【0020】ないし段落【0022】) 1d 「【0028】 (高分子量可塑剤の種類) 本発明のセルロースエステルフィルムに用いることのできる高分子量可塑剤としては、特に限定されないが、ポリエステル系高分子量可塑剤、ポリエーテル系高分子量可塑剤、ポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリエステルポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリエステルポリエーテル系高分子量可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリアミド系高分子量可塑剤、ポリスルフォン系高分子量可塑剤、ポリスルフォンアミド系高分子量可塑剤、後述するその他の高分子量可塑剤から選択される少なくとも1種の数平均分子量が1000以上の可塑剤を好ましく挙げることができる。 【0029】 そのうち少なくとも1種は、ポリエステル系高分子量可塑剤、ポリエーテル系高分子量可塑剤、ポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリエステルポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリエステルポリエーテル系高分子量可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリアミド系高分子量可塑剤、ポリスルフォン系高分子量可塑剤、ポリスルフォンアミド系高分子量可塑剤であることが更に好ましく、特にはポリエステル系高分子量可塑剤、ポリエステルポリウレタン系高分子量可塑剤、ポリエステルポリエーテル系高分子量可塑剤であることが好ましい。これらの中でもポリエステル系高分子量可塑剤が特に好ましい。以下に、本発明で好ましく用いられる高分子量可塑剤について種類別に記述する。 【0030】 (ポリエステル系高分子量可塑剤) まず、本発明で用いられるポリエステル系高分子量可塑剤について説明する。好ましいポリエステル系高分子量可塑剤としては、特に限定されないが、ジカルボン酸とグリコールの反応によって得られるものであり、反応物の両末端は反応物のままでもよいが、更にモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系高分子量可塑剤に使用されるジカルボン酸は、炭素数4~12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8~12の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。 【0031】 本発明で好ましく用いられるポリエステル系高分子量可塑剤の炭素数4~12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等がある。また炭素数8~12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、1,4―ナフタレンジカルボン酸等がある。これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。次にポリエステル系高分子量可塑剤に利用されるグリコールについて記すと、炭素数が2~12の脂肪族または脂環式グリコール残基、炭素数6~12の芳香族グリコール残基を表わす。 ・・・(略)・・・ 【0037】 かかるポリエステル類の合成は常法により、上記二塩基性酸またはこれらのアルキルエステル類とグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系高分子量可塑剤については、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05-155809号、特開平05-155810号、特開平5-197073号、特開2006-259494号、特開平07-330670号、特開2006-342227号、特開2007-003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。」(段落【0028】ないし段落【0031】、段落【0037】 1e 「【0055】 (具体的な高分子量可塑剤の例) 以下に、本発明の好ましい高分子量可塑剤の具体例を記すが、本発明で用いることができる高分子量可塑剤はこれらに限定されるものではない。また、これらの本発明で用いられる高分子量可塑剤は、製造時の際に240℃で100Paの減圧下で、30分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去して、各高分子量可塑剤の数平均分子量が500以下の成分の含有率は、すべて10質量%以下であることを確認した。 さらに、これらの高分子量可塑剤を空気中で140℃、60分間加熱した場合の質量減少率は、1以下であることを確認した。 【0056】 PP-1: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2500) PP-2: 1,3-プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500) PP-3: 1,3-プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500) PP-4: 1,3-プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500) 【0057】 PP-5: 2-メチル-1,3-プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1900) PP-6: エタンジオール/コハク酸/アジピン酸(2/1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1900) PP-7: 1,4-シクロヘキサンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1800) 【0058】 PP-8: 1,3-プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1600) PP-9: 1,3-プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のシクロヘキシルエステル化体(数平均分子量1500) PP-10: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2-エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量3000) PP-11: 1,3-プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500) 【0059】 PP-12: 2-メチル-1,3-プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1500) PP-13: 2-メチル-1,3-プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2-エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1500) 【0060】 PP-14: 2-メチル-1,3-プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500) PP-15: 1,4-ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1100) 【0061】 PP-16: エタンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2000) PP-17: 1,3-プロパンジオール/1,5-ナフタレンジカルボン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500) PP-18: 2-メチル-1,3-プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500) 【0062】 PP-19: 1,3-プロパンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のベンジルエステル化体(数平均分子量1500) PP-20: 1,3-プロパンジオール/1,5-ナフタレンジカルボン酸両末端のプロピルエステル化体(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500) PP-21: 2-メチル-1,3-プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1600)」(段落【0055】ないし段落【0062】) 1f 「【0163】 [実施例1] ポリマーフィルムの作製と評価 1)ポリマー溶液の調製 (1-1)ポリマーおよび添加剤 各フィルムの製造において、表1記載の可塑剤を使用した。またポリマーは110℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、20質量部を使用し、更に二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.08質量部)を添加、また各フィルムにおいて、表1記載の可塑剤を表1記載の量(対ポリマーに対する質量%)で添加した。」(段落【0163】) 1g 「【0188】 (ロール汚れの評価) A:金属支持体上に、汚れ物質は全く認められなかった。 B:金属支持体上に、汚れ物質が微かに認められた。 C:金属支持体上に、汚れ物質がかなり認められた。 D:金属支持体上に、汚れ物質が全面に認められた。」(段落【0188】) 1h 「【0193】 【表1】 」(段落【0193】) イ 引用文献1の記載事項 記載1aの請求項1には、「数平均分子量が1000~10000であってジカルボン酸とジオールからなる高分子量可塑剤」は、「数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下」であることが記載される。そして、「該高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下」にするための好ましい手段として、記載1cの段落【0022】には、「高分子量可塑剤がその製造時に100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去」されることが示されている。そして、さらに記載1cの段落【0021】には、特に好ましい形態として「数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%以下」であることも併せて示されている。 してみると、引用文献1には、「数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%以下」である「数平均分子量が1000~10000であってジカルボン酸とジオールからなる高分子量可塑剤」の製造方法が開示されていると認められ、「数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%以下」とするために、「高分子量可塑剤がその製造時に100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去」するものと認められる。 また、記載1dの段落【0030】には、上記高分子量可塑剤に対して、「更にモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい」と記載されることから、引用文献1には、当該モノカルボン酸やモノアルコールを反応させてもよい上記高分子量可塑剤の製造方法が記載されていると認められる。 さらに、記載1dの段落【0028】には、「本発明のセルロースエステルフィルムに用いることのできる高分子量可塑剤」が記載され、具体的には段落【0029】において、「ポリエステル系高分子量可塑剤が特に好ましい」ことが記載されることから、引用文献1には、セルロースエステルフィルムに用いることのできるポリエステル系高分子量可塑剤の製造方法が開示されているものと認められる。 ウ 引用発明 したがって、引用文献1には、上記記載1aないし1hを整理すると、特に記載1a、記載1c及び記載1dから、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%以下であり、 数平均分子量が1000~10000であってジカルボン酸とジオールからなる、更にモノカルボン酸やモノアルコールを反応させてもよい、 セルロースエステルフィルムに用いられるポリエステル系高分子量可塑剤の製造方法であり、 該ポリエステル系高分子量可塑剤の製造時に100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去する、 ポリエステル系高分子量可塑剤の製造方法。」 (2)引用文献2の記載 引用文献2には、概ね、次の記載(以下、順に「記載2a」ないし「記載2d」という。)がある。 2a 「1 脂肪族二塩基酸を主成分とする多塩基酸成分、脂肪族グリコールを主成分とする多価アルコール成分及び脂肪族一価アルコール及び/又は脂肪族一塩基酸からなる末端停止成分から製造された数平均分子量600~5000のポリエステル系可塑剤から、分子蒸留により、分子量が脂肪族二塩基酸のジアルキルエステル及び/又は脂肪族一塩基酸の脂肪族グリコールジエステルの分子量以下の低分子量エステル成分を除去することを特徴とする、ポリエステル系可塑剤の改質方法。 2 薄膜蒸留により低分子量エステル成分を除去する、特許請求の範囲第1項のポリエステル系可塑剤の改質方法。」(特許請求の範囲の第1及び2項) 2b 「〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕 二塩基酸及びグリコール類を主成分として製造されるポリエステル系可塑剤は、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート等のモノメリック可塑剤と比較して、高分子量であるため、耐熱性に優れ、また、他の樹脂と接触する用途に用いても移行し難い等の特徴を有しており、車両用ダッシュボード、レザー、ガソリンチューブ、食品包装用フィルム、シート、容器、電線被覆材料、プラグ、粘着テープ、ホース、電器部品のカバーあるいは包装用フィルム等に用いられるポリ塩化ビニル、合成ゴム等の可塑剤として用いられている。 しかしながら、ポリエステル系可塑剤であっても、分子量の調節、残存水酸基またはカルボキシル基の低減等を目的として、一価アルコール及び/又は一塩基酸を末端停止成分として用いて製造されたポリエステル系可塑剤は、耐熱性、非移行性等に劣る場合があった。 この原因として、一価アルコール及び/又は一塩基酸を末端停止成分として用いた場合には、用いた二塩基酸と一価アルコールとのジエステル及び/又はグリコールと一塩基酸とのジエステルあるいは低重合度のオリゴエステル等の低分子量エステルが生成し、このような低分子量エステル成分が、ポリエステル系可塑剤が本来有する、耐熱性、非移行性等の特徴に悪影響を与えるものと推定されている。 このため、このような低分子量エステル成分を含有しないポリエステル系可塑剤を製造することが強く望まれていた。」(第1ページ右欄第18行ないし第2ページ右上欄第7行) 2c 「本発明は、このポリエステル系可塑剤に含まれる低分子量エステル成分を、10-1~10-4mmHgの高真空下で行う分子蒸留により除去することを特徴とするものであり、この分子蒸留の方法としては従来周知の方法を用いることができるが、特に、薄膜蒸留による方法が効果的に低分子量エステル成分を除去できるので好ましい。」(第4ページ左上欄第5ないし第11行) 2d 「また、表-2の結果から、ジエステル以下の分子量の低分子量エステル成分のみを除去した本発明のポリエステル系可塑剤は、耐熱性が良好であり、可塑剤の揮発がほとんど認められず、また、接触した他の樹脂への移行も著しく改善されたことが明らかである。」(第5ページ右下欄第1ないし第6行) (3)引用文献3の記載 引用文献3には、概ね、次の記載(以下、順に「記載3a」ないし「記載3e」という。)がある。 3a 「(1)少なくとも、 a)1種のC2~C7ジオール、 b)1種のC4~C45ジカルボン酸、及び c)連鎖停止剤として作用する、1種の選択的単官能C4~C20化合物、 をほぼ当量で含有し、5未満の酸価及び35未満のヒドロキシル価を有するポリエステル混合物であって、800までの分子量を有する化合物を3重量%未満しか含まないことを特徴とするポリエステル混合物。」(特許請求の範囲の第1及び2項) 3b 「このようなポリエステル混合物は、ポリ塩化ビニルのようなプラスチックにおいてポリマー可塑剤として広く使用されている。 このようなエステル混合物は、比較的高い分子量を有しているが、依然としてプラスチック中で移行(マイグレーション)し、これらはまた蒸発可能であり、プラスチックから滲出する可能性がある。この蒸発は特に望ましくない。何故なら、蒸発していくポリエステルはその他の物質も一緒に運びだし、これが別の場所に付着する。これは特に車の内部で起こり得る。車の内部においては、主に日なたで車内の温度が非常に高くなった場合にこれらの成分の蒸発が起こり、一方フロントガラス及び窓は比較的低温のままなので、油状の青色のワックスの層がこれらの内側の表面に付着し、なお一層悪いことにこの付着したものは除去するのが難しい。」(第2ページ右上欄第16行ないし左下欄第12行) 3c 「本発明によって調製されるポリエステルは、上述のように規定した組成を有しているが、高い揮発性に由来する欠点を有しておらず、ほとんど移行を示さず、そして800までの分子量を有する化合物を3重量%未満、好ましくは1.5重量%未満しか含まない点でこれまで知られている組成物とは異なる。」(第3ページ右上欄第4ないし10行) 3d 「最も揮発性の高いエステル成分は分子蒸留によって除去するのが好ましく、これは例えば0.005mmHgのような高真空下、225℃のような温度で、薄膜法によって行われる。」(第3ページ右下欄第5ないし8行) 3e 「実施例1 以下の組成を有する混合物を調製した。ここで、量は全て重量部で示されている。 58部のアジピン酸 7部の二量体脂肪酸(98%の純度を有する飽和C36脂肪酸) 38部のプロピレングリコール、及び 13部の2-エチルヘキサノール 混合物をその酸価が6未満になるまで225℃で3時間加熱した。このエステル化は、反応水が留出して、反応体は蒸留物と一緒に出ていかないようにして行った。その後、0.03%のテトラブチルチタネートを添加し、225℃のサンプル温度を維持し、圧力を5mmHgまで下げた。ここでは当然、再エステル化工程と過剰なアルコールの一部の蒸留が同時に起こっている。これらの条件を得られるポリエステルの粘度が25℃で約4.5pa・s(パスカル秒)にまで上がるまで維持した。得られたポリエステル混合物は、0.2の酸価と19のヒドロキシル価を有していることが判明した。 ここで得られたポリエステル混合物は、依然としてある程度の比較的低分子量のエステル成分を含有しているが、これをその後225℃、0.005mmHgの真空下で分子蒸留した。蒸留物の量は、蒸留を施された全ポリエステル混合物の5.6重量%であり、主に約800までの分子量を有する短鎖ポリエステルから成っていた。」(第4ページ右上欄第3行ないし左下欄第9行) 2.本願発明に対する対比・検討 (1)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「セルロースエステルフィルムに用いられる」は、当該セルロースエステルがセルロース系樹脂の一種であり、当該フィルム中にポリエステル系高分子量可塑剤を含む組成物であることから、本願発明における「セルロース系樹脂組成物用」に相当する。 引用発明における「数平均分子量が1000~10000であってジカルボン酸とジオールからなり、更にモノカルボン酸やモノアルコールを反応させてもよい、ポリエステル系高分子量可塑剤の製造方法」は、ジカルボン酸、ジオールがそれぞれ多塩基酸、多価アルコールに相当し、モノカルボン酸やモノアルコールがその機能からみてストッパーに相当することから、まとめると、本願発明における「多塩基酸及び多価アルコール、並びに必要に応じてストッパーを用い」た「ポリエステル系可塑剤の製造方法」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「セルロース系樹脂組成物用のポリエステル系可塑剤の製造方法であって、 多塩基酸及び多価アルコール、並びに必要に応じてストッパーを用いた、ポリエステル系可塑剤の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本願発明においては、「脱水縮合反応」を経由するのに対して、引用発明においては、明らかではない点。 <相違点2> 本願発明においては、「薄膜蒸留により分子量430以下の成分を0.7wt%以下に除去する」のに対して、引用発明においては、「数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%以下であ」る「ポリエステル系高分子量可塑剤の製造時に100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理して低揮発成分を除去する」点。 (2)検討 ア 相違点1について 引用文献1では、ジカルボン酸とジオール、任意にモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて縮合物を得ることが記載されており(記載1eの段落【0056】ないし段落【0062】)、その反応経路として脱水縮合反応は当業者に周知であることから、引用発明においても、脱水縮合反応が行われているものと解される。 よって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 また仮に実質的な相違点であったとしても、縮合物を得る際に当業者に周知の脱水縮合反応を用いることは、適宜なし得たことである。 イ 相違点2について 引用発明は、低揮発成分を除去し、数平均分子量が500以下の成分の含有量を2質量%以下とすることで、製造時に発煙や油汚染を生じさせないようにするものである(記載1cの段落【0021】、記載1h)。してみると、上記低揮発成分をさらに除去し、上記数平均分子量が500以下の成分の含有量をより少なくすることで、上記課題の改善がより図られることは明らかであることから、その達成手段として、引用発明において数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%とする為に採用される「100~300℃で1~13300Paの減圧下で、10~600分間減圧加熱処理」の条件を、ポリエステル系高分子量可塑剤が分解しない程度に、より高温、高減圧、長時間の条件に調節することにより、さらに低揮発成分を除去し、数平均分子量が500以下の成分の含有量をより減少させることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 そして、より高温、高減圧、長時間の条件に調節した上記減圧加熱処理において、薄膜蒸留を採用することの容易想到性について以下において検討する。 まず、一般的な可塑剤の製造時に、高真空で蒸留を行い、加熱面を有する分子蒸留機が当業者に周知であり、その分子蒸留機として遠心系分子蒸留機(遠心力を利用して加熱面上で蒸発物質の膜を広げる方式)や流下フィルム形分子蒸留機(蒸発原料を加熱面に沿って流下させ薄膜状となす形式)が知られている(例えば、化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典8」、縮刷版、共立出版株式会社、1993年6月1日発行、第188ないし189ページの「ぶんしじょうりゅうき 分子蒸留機」項を参照。)。これら分子蒸留機は、それぞれ膜を広げたり、薄膜を利用する点において、薄膜蒸留が採用されているといえ、これらに鑑みると、可塑剤の製造時に薄膜蒸留が利用可能との技術常識があることが分かる。 また、ポリエステル系可塑剤の製造時においても、引用文献2は、「ポリエステル系可塑剤が本来有する、耐熱性、非移行性等の特徴に悪影響を与えるものと推定」(記載2b)される低分子量エステル成分を除去する方法として、「分子蒸留」(記載2c)が記載され、その条件としては「200~300℃で0.1~0.0001mmHgの減圧下」(記載2c)が提示され、分子蒸留でも特に「薄膜蒸留による方法が効果的に低分子量エステル成分を除去」(記載2c)できることが示されており、その結果、「可塑剤の揮発がほとんど認められず、また、接触した他の樹脂への移行も著しく改善」(記載2d)したことが記載されている。そして、上記ポリエステル系可塑剤の適用先としては、「ポリ塩化ビニル、合成ゴム等」(記載2b)とあり、当該2つの樹脂に限定されるものではないことから、プラスチック全般に利用できるものと解される。 同じく引用文献3も、「エステル混合物は、比較的高い分子量を有しているが、依然としてプラスチック中で移行(マイグレーション)し、これらはまた蒸発可能であり、プラスチックから滲出する可能性」を指摘し、さらに「この蒸発は特に望ましくない」点に触れている(記載3b)。その理由として、「蒸発していくポリエステルはその他の物質も一緒に運びだし、これが別の場所に付着する」(記載3b)点を挙げており、蒸発に起因して場所の汚染を引き起こすことが分かる。そして、引用文献3で調製されるポリエステルは、「高い揮発性に由来する欠点を有しておらず、ほとんど移行を示さず、そして800までの分子量を有する化合物を3重量%未満、好ましくは1.5重量%未満しか含まない」(記載3c)ものであり、当該分子量を有する化合物の除去方法として、「最も揮発性の高いエステル成分は分子蒸留によって除去するのが好ましく、これは例えば0.005mmHgのような高真空下、225℃のような温度で、薄膜法によって行われる」(記載3d)点を指摘し、分子蒸留における薄膜法、つまり薄膜蒸留法の利用を示唆している。そして、上記ポリエステル混合物は、「ポリ塩化ビニルのようなプラスチックにおいてポリマー可塑剤として広く使用されている」(記載3b)ことが記載されることから、プラスチック全般に利用できるものと解される。 つまり、上記引用文献2及び3に記載の事項から、ポリエステル系可塑剤中の低分子量エステル成分や800までの分子量を有する化合物に起因した揮発、蒸発、移行を改善し、それらによる汚染防止のため、「200~300℃」及び「225℃」のような高温、「0.1~0.0001mmHg」及び「0.005mmHg」といった高減圧を採用する薄膜蒸留が、当業者に周知の技術であるものと理解できる。そして、これら高温、高減圧の範囲は、引用発明の100~300℃で1(約0.0075mmHg)~13300Pa(約100mmHg)の減圧下の条件に包含又は近似するものである。 してみると、引用発明における数平均分子量が500以下の成分の含有量をより減少させるための達成手段である、より高温、高減圧、長時間の条件に調節した上記減圧加熱処理において、同様に汚染防止を課題として低分子量エステル成分や800までの分子量を有する化合物を減少させるための手段が開示される引用文献2及び3に記載の周知技術及び上記技術常識を参酌し、引用発明の減圧加熱処理における処理条件の中でも特に高温、高減圧の条件を使った減圧加熱処理である薄膜蒸留を採用して、それを長時間用いて低揮発成分をより一層除去し、数平均分子量500以下の成分の含有量をより減少させることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 そして、数平均分子量が500以下の成分の含有量が2質量%より減少した状態を特定しようとして、2質量%よりも少ない数値を任意に選択するに際して0.7wt%以下を採用して、含有量をより狭めた範囲を設定することは、当業者であれば適宜なし得た事項に過ぎない。また減少させる低分子量成分の数平均分子量についても、500以下に包含される範囲の中から430以下の数平均分子量の範囲に限定することは、低分子量エステル成分を対象としている点では差異はなく、この点も当業者であれば所望に応じて適宜なし得たことでしかない。 最後に、本願発明の効果について検討しても、引用文献1から数平均分子量が500以下の成分が、製造時の発煙や油汚染を引き起こしロール汚れの原因となることが分かり(記載1hの表1)、その含有量を少なくすることでロール汚れを低減化できることは明らかであるから、本願発明の効果は当業者の予測の範囲内であり格別顕著なものではない。 3.請求人の主張 請求人は、平成28年3月15日提出の審判請求書及び平成28年6月17日提出の上申書において、概略、以下の点を主張する。 ア 本願発明に係る低分子量成分の「0.7wt%以下」という極めて低い値およびこれにより得られる効果は、これら引用文献1~4からは全く想到し得ない値であり、本願発明においてこの数値を実現可能にしたのは「薄膜蒸留」であるところ、引用文献1~4には「薄膜蒸留」については開示も示唆もない点。 イ ポリエステル系可塑剤の適用樹脂は、引用文献5ではポリ塩化ビニル、合成ゴム等であり、引用文献6ではポリ塩化ビニルであり、セルロース系樹脂への適用については、これら引用文献中には開示も示唆もなく、これら引用文献5,6はいずれも、可塑剤の揮発性を低くすることを目的とするものであり、本願発明に係るセルロース系樹脂組成物におけるロール汚れ防止とは、課題を異にしている点。 ウ たとえ引用文献1~4において、低分子量成分を少なくすることが開示されているとしても、さらに、分子量430以下の成分を0.7wt%以下にまで低減することで2.0wt%の場合に比べより一層ロール汚れの防止効果が得られるということは、引用文献1~4からは到底予期し得ない点。 エ 引用文献1~4では低分子量成分の量を少なくとも2質量%とすることで既に最良の結果を得ているので、当業者であれば、耐熱性等の観点から 低分子量成分を除去するための薄膜蒸留法をあえて採用しようとまでは思わない点。 そこで、以下に検討する。 上記アについて、上記2.(2)イで述べたとおり、引用文献1から、数平均分子量が500以下の成分が、ロール汚れの原因であることが理解でき、その含有量をより低減化すれば当然ロール汚れもより改善することは予測の範囲内であることから、「0.7wt%」としたことによる効果は格別顕著なものとはいえない。また、引用文献1では薄膜蒸留は明示的には記載されていないが、上記「化学大辞典8」の記載からみた、一般的に可塑剤の製造時において薄膜蒸留が利用可能との技術常識や、引用文献2及び3にある周知技術に照らして、当業者であれば引用発明において開示される減圧加熱処理において、特に高温、高減圧、長時間の処理として薄膜蒸留を採用することは容易に想到し得たことである。 上記イについて、上記2.(2)イで述べたとおり、引用文献2及び3はプラスチック全般に用いられるポリエステル系可塑剤であることから、セルロース系樹脂にも利用可能なものといえる。また、低分子量エステル成分や800までの分子量を有する化合物に起因した揮発、蒸発、移行を改善し、その汚染防止を課題としているものであるから、引用発明における可塑剤中の成分による発煙や油汚染を原因としたロール汚れ防止に係る課題と一致し、また本願発明における加工時のロール汚れ防止とも同様に一致するといえる。 上記ウ及びエについて、上記アについて述べたとおり、引用発明において数平均分子量が500以下の成分が少量となればなるほど、ロール汚れの改善がより達成できることは明らかであるから、本願発明において分子量430以下の成分を0.7wt%以下にしたことで2.0wt%の場合に比べより一層ロール汚れの防止効果が得られることは当業者に予測の範囲内であり、たとえ評価結果の差が2.0wt%では「△:ロール汚れあり~〇:ほとんどロール汚れなし」、0.7wt%では「◎」となるとしても格別顕著といえるまでのことではない。また、より汚れの少ないものを求めることも周知の課題であることを踏まえると、当業者はその含有量を0.7wt以下にしようとする動機づけを十分に有するものといえる。 4.まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び当業者に周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 結語 上記第4のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び当業者に周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願は拒絶すべきものである。

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2016-003969

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