特許拒絶査定不服審判
2015-018937
高速印刷用インクの表面張力
- 審判番号
- 2015-018937
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-556170
- 請求日
- 2015年10月21日
- 審決日
- 2017年09月26日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】サン ケミカル コーポレーション
- 【請求人代理人】園田・小林特許業務法人
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 川端 修
- 審判官 原 賢一
- 分類
- P18 .536-WZ (C09D) / P18 .537-WZ (C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-556170「高速印刷用インクの表面張力」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 9日国際公開、WO2011/109385、平成25年 6月10日国内公表、特表2013-521379〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)3月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年3月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年8月26日付けで拒絶理由が通知され、同年12月2日付けで、意見書及び手続補正書が提出され、平成27年6月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に、手続補正書が提出され、平成28年11月9日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年5月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
2.本願発明
本願の請求項1~3に記載された発明は、平成29年5月12日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「インクの表面張力を測定し、
インクの表面張力を30mN/m以上かつ35mN/m未満にコントロールすることを含む、
1200フィート/分よりも速い速度での高速印刷のためのフレキソ印刷用インクを処方する方法であって、
インクの最大全不揮発性物質の体積分率に対するインクの全不揮発性物質の体積分率の比率が0.60から0.75の比率である場合に、表面張力がコントロールされる、方法。」
3.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次の(1)~(3)を含むものである。
(1)(明確性要件)
請求項1に記載された「インクの最大全不揮発性物質」、「インクの全不揮発性物質」、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率」及び「インクの全不揮発性物質の体積分率」は、発明の詳細な説明を参酌しても、明確に特定することができず、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2)(サポート要件)
本願発明の課題は、「フレキソ印刷」において、「線速度を速くする、例えば1200ft/分(約0.366km/分)より速く」した際の「インクの印刷適性」の「悪化」や「印刷欠陥」を低減することであると解されるところ、本願発明は、本願発明の課題を解決しない発明を包含することから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)(実施可能要件)
インクの表面張力の測定結果に基づき、どのような工程によって、インクの最大全不揮発性物質の体積分率に対するインクの全不揮発性物質の体積分率の比率が0.60から0.75の比率である場合に、インクの表面張力をコントロールするのか、その具現すべき手法が発明の詳細な説明には記載されておらず、しかも出願時の技術常識に基づいても、そのような手法は明らかではないことから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.当審の判断
(1)(明確性要件について)
請求項1に記載された「インクの最大全不揮発性物質」、「インクの全不揮発性物質」、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率」及び「インクの全不揮発性物質の体積分率」に関して、明細書の発明の詳細な説明の【0039】には、「インクの最大全不揮発性物質の分率は、インクが完全に乾燥され又は硬化された場合の、全不揮発性物質の分率である。」と記載されているものの、この記載からは、「インクが完全に乾燥され又は硬化された場合」の「完全」とは、どの程度の「乾燥され又は硬化された場合」なのか判然とせず、しかも、「最大不揮発性物質」及び「全不揮発性物質」をどのように求めるかについて、発明の詳細な説明の他の記載には、明確な定義は見当たらない。
また、明細書の図面の簡単な説明には、「【図1】図1は、TNV(%)の関数としての、4種のインク(#1-4)の表面張力のプロットを示し、ここで、TNV(%)は、固形分よりもむしろインク工業でよく使用されているパラメータである全不揮発性物質の体積分率(パーセンテージ)を表す。」という記載はあるものの、「インク工業でよく使用されているパラメータである全不揮発性物質」がどのようなものであるかは、発明の詳細な説明からは明らかではない。
一方、本願発明のようなフレキソ印刷用のインクは、溶媒及び樹脂、並びに必要に応じて着色剤を含むことは技術常識である(本願明細書の発明の詳細な説明においても、本願発明の実施例として示された「フレキソ印刷用インク」の「インクの組成」は、溶媒及び樹脂を含むことが記載されている。【0039】の次の記載を参照。
「【実施例】
【0039】
異なったピンホール性能を有する4種のフレキソ印刷用インクを調査した。インクは、インク1、2、3及び4として、以下に特定する。インクの組成を表1に列挙する。
」)
そして、一般に、樹脂及び溶媒を含む材料について、不揮発性物質の量を定める場合には、樹脂や溶媒の種類によって、それらの沸点や揮発し易さが異なることから、同じ樹脂や溶媒であっても、測定条件によって、不揮発性物質の量が異なるものとなることは当業者にとって周知であり、不揮発性物質の量は、その測定条件を定めない限り、一義的に定めることができないことは、当業者にとって技術常識である(必要であれば、樹脂及び溶媒を含むフレキソ印刷用インクと同様に、樹脂及び溶媒を含む塗料の不揮発残さ(不揮発性物質)の試験方法に関する、本願の優先日前の2008年に発行された「日本工業規格K 5601-1-2:2008(塗料成分試験方法-第1部:通則-第2節:加熱残分)」の、次の記載(特に下線部)を参照されたい。
「1 適用範囲
この規格は,塗料,ワニス,塗料用バインダ(以下,バインダという。),ポリマーディスパージョン及び液状フェノール樹脂の加熱残分を,質量の変化から求める方法について規定する。
この方法は,フィラー,顔料及び添加剤(増粘剤,増膜剤など)を含むディスパージョンにも適用できる。非可塑性ポリマーディスパージョン及びゴムラテックスにもこの方法が適用できるが,不揮発残さ(渣)が,試験条件下で化学的に不安定なものは適用できない。不揮発残さ(渣)には,高分子物質及び少量の添加剤,例えば,乳化剤,保護コロイド,安定剤,増膜助剤としての溶剤,特に,濃縮ゴムラテックス用の保存剤などが含まれる。可塑性材料の場合,不揮発残さ(渣)には,一般的に可塑剤が含まれている。
注記 1 加熱残分は,絶対的な値ではなく,試験温度及び加熱時間によって決まる。また,この方法を適用する場合の加熱残分は,溶剤の残留,熱分解及び低分子量成分の蒸発のために,真の値でなく単に相対的なものとして得られる。したがって,この方法は,同一タイプの製品の,異なったバッチの試験を意図したものである。
注記 2 この方法は,決められた時間加熱処理する合成ゴムラテックスに適用できる。(JIS K 6387-2では,2gの試料に対し加熱処理後,継続加熱をしてもその後の減量が 0.5mg以下となる加熱条件を規定している。)。
注記 3 実験室では,赤外線又は電磁波による乾燥によって加熱残分を測定することがあるが一般的ではない。ポリマー成分によっては,このような乾燥方法では分解する傾向にあり,不正確な結果を与えるからである。」)
すなわち、樹脂及び溶媒を含むフレキソ印刷用インクの不揮発性物質の量は、試験温度や加熱時間等の測定条件や、熱風で加熱するか、赤外線又は電磁波で加熱するかといった測定方法によって、異なる値となることは当業者にとって技術常識であって、本願発明においては、発明の詳細な説明を参酌しても、その測定条件が明らかではない以上、請求項1に記載された「インクの最大全不揮発性物質」、「インクの全不揮発性物質」、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率」及び「インクの全不揮発性物質の体積分率」について、発明の詳細な説明を参酌しても、一義的に定めることはできず、請求項1の記載は、不明確であるといわざるを得ない。
(意見書の主張について)
これに対し、請求人は平成29年5月22日付け意見書において、次のように主張している。
「明細書段落[0036]-[0038]及び[0045]に記載したように、表面張力の測定は、様々な全不揮発性物質の体積分率(%TNV)で、未使用サンプルにおいて実施することができます。インクの最大全不揮発性物質の分率(max%TNV)は、インクが完全に乾燥され又は硬化された場合の%TNVです。次いで、インクのmax%TNVに対するインクの%TNVの比率が算出され得ます。表面張力の測定は当該技術分野で知られているが、印刷品質の予測指標としての重要性については知られていません。
例えば、ASTM規格D2369のプロトコルを使用することで%TNVを計算できます。このことは当業者であれば知っていることです。すなわち、ASTM規格D2369の測定法は、試料3mLを熱風オーブン110℃、1時間の条件で、全不揮発性物質の体積分率を求めるものであり、種々の乾燥状態で実施されます。max%TNVは、インクが完全に乾いたように見える(すなわち、固体のようにふるまうが、まだ若干の揮発性物質がある)時に行われる測定です。インクの乾燥は、実施例中のロータリエバポレータの使用によりシミュレートされ/促進されます(明細書段落[0041],[0045])。従って、時間0,r,x,y,及びzで乾燥した試料で測定を行うと、各反応時間における全不揮発性物質の体積分率は、以下の通りです。
(i)新たに製造されたインクは、乾燥時間0で以下の通り試験されます。
新たに製造されたインクの重量は、S0と測定されます。
試料の乾燥は、ASTM規格D2369で行われます。
乾燥した試料は、S0dryと測定されます。
全不揮発性物質の体積分率(%TNV0)は、%TNV0=S0dry/S0×100で求められます。
・・・(略)・・・」
この主張によれば、請求人は、全不揮発性物質の体積分率は、試料3mLを熱風オーブン110℃、1時間乾燥した残渣の重量(S0dry等)に基づいて、算出されるものであると主張していると認められる。
しかしながら、本願発明のフレキソ印刷用インクの不揮発性物質の測定が、常に、ASTM規格D2369のプロトコルに基づいて行われることは、発明の詳細な説明には記載も示唆もされておらず、また、単に、当該プロトコルを使用することで計算可能であることを以て、そのことが当業者にとって自明であるとまではいえない。
したがって、請求人の主張を参酌しても、請求項1に記載された「インクの最大全不揮発性物質」、「インクの全不揮発性物質」、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率」及び「インクの全不揮発性物質の体積分率」について、一義的に定めることはできず、請求項1の記載は、不明確であるといわざるを得ない。
また、仮に、本願発明の「インクの最大全不揮発性物質の分率」の測定が、試料3mLを熱風オーブン110℃、1時間乾燥した残渣の重量(S0dry等)に基づいて、算出されるものとだとしても、「max%TNVは、インクが完全に乾いたように見える(すなわち、固体のようにふるまうが、まだ若干の揮発性物質がある)時に行われる測定です。」という主張について、インクが「完全に乾いたように見える(すなわち、固体のようにふるまうが、まだ若干の揮発性物質がある)時」が、どのような基準で定められるのかは、発明の詳細な説明及び請求人の主張を参酌しても明らかではなく、インクの「全不揮発性物質の体積分率(%TNV)」について、一義的に定めることができるとは認めることができない。
したがって、請求人の主張を参酌しても、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率」及び「インクの全不揮発性物質の体積分率」は、不明確であるといわざるを得ない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。
(まとめ)
請求項1に記載された「インクの最大全不揮発性物質」、「インクの全不揮発性物質」、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率」及び「インクの全不揮発性物質の体積分率」は、発明の詳細な説明及び請求人の主張を参酌しても、明確に特定することができず、これらが特定されない本願発明は不明確であって、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2)(サポート要件について)
次に、仮に、請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとして、本願発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすかどうかを、いわゆる大合議判決(平成17年(行ケ)10042号、知財高裁平成17年11月11日判決)の観点、すなわち、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」に照らして検討する。
本願明細書には、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
「【0002】
本発明は高速印刷用インクの表面張力に関する。より詳細には、本発明は高速印刷の品質を高めるために表面張力をコントロールすることに関する。」
「【0008】
多くの印刷機は、その操業の費用効率性を改善するために高速で印刷されるインク及びコーティングを必要としている。フレキソ印刷の線速度は、一般的に2000ft/分(約0.609km/分)までの範囲であり、その速度は速くすることが期待されている。線速度を速くする、例えば1200ft/分(約0.366km/分)より速く、特に1800ft/分(約0.549km/分)より速くすると、インクの印刷適性が悪化し始め、印刷欠陥が観察される場合がある。この欠陥はランダムに分布し、不規則な形状をした印刷ミス領域として記載される場合がある。これらの欠陥は、印刷版及び/又は基材の表面を湿らせるインクの能力のなさから、又は上の段落で検討された高速印刷機の構成に付随する別個の機械的要因に起因すると考えられる。」
「【0012】
典型的なフレキソ印刷/グラビア印刷用インクは、樹脂、溶媒、着色料、及び添加剤を含んでいる。樹脂には、ロジンエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ニトロセルロース等が含まれる。フレキソ印刷/グラビア印刷用インクに使用される溶媒は、例えば、アルコール、エステル、グリコールエーテル、炭化水素、及び他の溶媒である。
【0013】
良好な印刷適性にとって重要な要因の一つは、印刷用インクの表面張力であることが知られており、良好なインクの展伸性及び基材の湿潤には、低表面張力が必要であることが一般的に容認されている。例えば、溶媒ベースのフレキソ印刷用インクは、使用される溶媒(例えば、アルコール、エステル、エーテル等)により、本来的に低表面張力を有する。」
「【0016】
フィラメントの形成及び破壊の結果として、ニップを出るぬれたインク皮膜の表面は不凸凹(波状及び/又は虫状パターン)になり、レベリング過程中に滑らかになる傾向にある。レベリングは、インクの表面張力の影響下で、連続するインク皮膜の表面の凸凹を除去する過程である。それは、滑らかで平坦であり、均質なインク皮膜を得る際の重要な工程である。レベリングに抵抗する要因は、粘度、弾性及び表面張力勾配(上昇流の原因となる)である。レベリングの過程は、多くのパラメーター:インク皮膜の厚み、表面の凸凹の程度及び頻度、インクの表面張力、粘度等に依存する。しかしながら、インクの表面張力及び粘度が重要な役割を担っている:
ここで、lSはレベリング速度であり;ηはインクの粘度であり、γ1はインクの表面張力である。
【0017】
レベリング速度は、インクの表面張力の増加、及びインクの粘度の低減と共に増大する。乾燥中、蒸発による溶媒の損失-粘度の増加(レベリングに対する抵抗の増加)及び表面張力の変化により、インクの特性は変化するであろう。乾燥中における変化及びコーティング欠陥における影響のあらゆる事項が、印刷中の非常に短い時間スケールで生じており、複雑なシステムに対して特定のモデルは成功裏に実現されていない。留意される2つの特定の基礎研究は、Weidnerら, Journal of Colloid and Interface Science, 179 pp. 66-75 (1996) 及び Yiantsios and Higgins, Physics of Fluids, 18 pp. 082103-1 ~ 082103-11(2006)の研究である。これらの研究は双方とも、乾燥中の潜在的な結果及びシミュレーションしたコーティングにおける組成変化と表面張力との関係を記述するために、皮膜における現象をモデル化することを試みている。しかしながら、表面張力の変化についての組成的影響の知識が、皮膜性能の好ましい状態を生じせしめるために、如何にして使用できるかについては、何の記載もなされていない。」
「【0020】
インクの表面張力の管理は、画像移動中の印刷過程でのウェッティング、並びに最終の印刷された皮膜が存在する基材に対して適切な表面張力を達成することに、主として焦点を当てている。ウェッティングは、通常、印刷性能を確保するために高表面張力を維持するという要求と一致しない可能性がある低表面張力の維持に焦点を当てている。
【0021】
本発明の発明者は、乾燥中に表面張力が如何に変化するかを考慮した処方設計が、特に高速での、良好な印刷性能を得ることができることを発見した。高速印刷において、良好な印刷性能を有することは、レベリングのためのインク皮膜表面に与えられた時間(アニロックスロール-印刷版シリンダニップから印刷ニップへの移動時間)が非常に短く、約0.015秒(2000fpmの印刷速度及び6インチのニップ間距離を仮定)であるため、難題である。しかしながら、本発明の発明者は、良好な印刷性能は、適切なインク処方により達成することができることを見いだした。良好なレベリング性を示すインクは低粘度及び最大に高い表面張力を有するべきであり、(インクが液状である限り)インクの乾燥中に表面張力勾配を生じない(又は最小度合いだけ生じる)ようにすべきである。上記パラメータの全ての値が最適化され、フレキソ印刷法によって許容可能な範囲にあるとされるべきである。」
「【発明を実施するための形態】
【0027】
その例が添付図面において例証される本発明の実施態様を、以下に詳細に参照する。
【0028】
本発明の発明者は、インクの表面張力を、高速印刷条件下で使用されるインクの指針となる処方パラメータとして使用することができることを発見した。インクは、フレキソ印刷用インク、輪転グラビア印刷用インク、ヒートセットオフセット用インク、又は出版グラビア用インクとすることができ、溶媒ベースとすることができる。良好な展伸性及びウェッティング性(ぬれ性)を達成するために、インクの表面張力を低くすべきことは、印刷産業で一般的に受け入れられている見解である。しかしながら、高速印刷における表面張力の重要性は、十分には確立されていない。
【0029】
ピンホールは、高速印刷に対して、よって高速印刷から得られる印刷物の品質に対して共通する印刷適性問題の一つである。ピンホールは、印刷版上でインクが如何に同レベルになり、続いて高速印刷で基材に移動されるかに関連しているため、インク皮膜のレベリングのメカニズムが、印刷品質を向上させ、ピンホールを低減させるために重要になってくる。
【0030】
本発明の発明者は、ピンホールに関連する一要因がインクの表面張力であることを発見した。それは、印刷インクの表面張力が、印刷版上でのインク皮膜のレベリングを制御するからである(表面張力が高くなればなる程、インクのレベリングが速くなる)。ピンホールのない印刷のためには、プレート上のインク皮膜は、印刷ニップに到達する前にレベリング(滑らかで平坦に)されなければならない。2011年3月1日に出願され、「高速印刷用インクの粘弾性」と題されたPCT出願(出願人整理番号331148.00852.WO01)中において、本発明の発明者の中に、インクの粘弾性が、インクの指針となる処方パラメータとして、特に高速印刷条件下で使用されるものとして、使用することができることを見い出した者がいた。PCT出願「高速印刷用インクの粘弾性」は、よって、全ての目的に対して、出典明示によりここに援用する。
【0031】
表面張力及びそれらの変更の原因となる、種々のメカニズムが存在する。当業者であれば、インクの表面張力を変更させる種々の方法を知っているであろう。例えば、インクの表面張力は、インク中の樹脂、溶媒、及び添加剤を選択することにより変更することができる。」
「【0035】
本発明の発明者は、インクの表面張力が、表面張力が高くなればなる程(しかし、インクの適切な展伸性及びウェッティング性は確保されている)、ピンホールが低減する形で、ピンホールに影響を有していることを見いだした。インクの表面張力は、例えばウィルヘルミープレート法等、文献に記載されている方法の一つを使用して、直接測定することができる。」
「【0043】
ピンホール(%)(面積による)が小さくなればなる程、印刷品質は良好になる。ピンホール(%)(面積による)が1%未満であると、一般的に最善の性能であると考えられる。4種のインクのなかでも、インク4は、1800ft/分で、最善の印刷品質をもたらし、インク1は最も悪い印刷品質をもたらした。また、最も高い表面張力は最善のピンホール性能(ピンホールが最も少ない)に相当することも分かる。表面張力のレベルが低減すると、ピンホール性能も低下する。」
上記記載によれば、本願の発明の詳細な説明には、フレキソ印刷の線速度が1200ft/分より速くなると、印刷適正が悪化し始め、印刷欠陥が観察される場合があることから(【0008】)、印刷品質に関する印刷適正問題の一つとして印刷物のピンホールに着目し、ピンホールを低減させるという課題を解決するためには、インクのレベリングのメカニズムが重要であり(【0016】、【0029】)、ピンホールを低減させるためには、表面張力を高くし、レベリングを速くすることを発見し(【0013】、【0021】、【0030】、【0035】)、本願発明の構成を採用したインク処方によって、ピンホールが減少した、良好な印刷性能が達成することができることを見いだしたこと(【0043】)が記載されている認められる。
しかしながら、フレキソ印刷における、ピンホールのパーセンテージといった印刷品質やインクのレベリング速度は、本願発明の発明特定事項に加えて、インクの組成や、フレキソ印刷に用いられるアニロックスロールの材質やアニロックスロールのセルの形状、フレキソ版の素材等によっても左右されるというべきである。
しかも、本願明細書の発明の詳細な説明の上記【0016】には、「レベリングに抵抗する要因は、粘度、弾性及び表面張力勾配(上昇流の原因となる)である。上記レベリングの過程は、多くのパラメーター:インク皮膜の厚み、表面の凸凹の程度及び頻度、インクの表面張力、粘度等に依存する。しかしながら、インクの表面張力及び粘度が重要な役割を担っている。」と記載され、同【0016】の(1)式には、レベリングの速度は、粘度に反比例することが記載されていることから、本願明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は、ピンホールといった印刷欠陥を低減させるためには、インクの表面張力だけではなく、インク皮膜の厚み、表面の凸凹の程度及び頻度、粘度等についても考慮する必要があると理解するというべきである。
そして、本願発明は、インクの粘度を発明特定事項とするものではなく、発明の詳細な説明の上記【0039】に記載された「インク4」を用いたフレキソ印刷において、ピンホールのパーセンテージが少なく、印刷品質が良好であることが確認されたとしても、「インク4」は、溶媒は、「n-プロビルアルコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジアセトンアルコール、ジプロピレングリコール及びモノアルキルエーテル」であり、樹脂は、「ロジンエステル及びポリアミド」であって、このような溶媒と樹脂とを含む特定のインクにおいては、インクの表面張力とインクの粘度とが関連することがいえたとしても、一般に、インクの粘度は、インクの樹脂の種類や溶媒の種類、それらの割合及びインクの温度等に依存するものであって、インクの表面張力のみに依存するものではないことは明らかである。
そうすると、インクの粘度又はインクの樹脂の種類や溶媒の種類、それらの割合及びインクの温度等を発明特定事項としない本願発明は、発明の詳細な説明及び技術常識に照らして、レベリングの速度を増大させ、ピンホールといった印刷欠陥を低減しないようにするものとはいえず、本願発明は、本願発明の課題を解決しない発明を包含するといわざるを得ない。
したがって、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
(まとめ)
本願発明は、本願発明の課題を解決しない発明を包含することから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)(実施可能要件について)
次に、仮に、請求項1の記載が特許法第36条第6項第2号及び同第1号に規定する要件を満たしているとして、本願発明のインクの表面張力のコントロールについて、本願発明を当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているかどうかについて検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明の上記【0031】には、「当業者であれば、インクの表面張力を変更させる種々の方法を知っているであろう。例えば、インクの表面張力は、インク中の樹脂、溶媒、及び添加剤を選択することにより変更することができる。」と記載されているものの、発明の詳細な説明の他の記載には、インクの表面張力を変更させる具体的に手法の記載は見当たらない。
しかしながら、「インクの表面張力は、インク中の樹脂、溶媒、及び添加剤を選択することにより変更することができる」ものだとしても、本願発明は、インクの表面張力の測定結果に基づき、インクの最大全不揮発性物質の体積分率に対するインクの全不揮発性物質の体積分率の比率が0.60から0.75の比率である場合について、インクの表面張力を30mN/m以上かつ35mN/m未満にコントロールするものであって、単に、インクの表面張力を変更するものではない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、「インクの最大全不揮発性物質の体積分率に対するインクの全不揮発性物質の体積分率の比率が0.60から0.75の比率である場合」において、インクの表面張力のコントロールを、インク中の樹脂、溶媒、及び添加剤として、どのようなものを選択することによって行うかといった、インクの表面張力をコントロールする具体的な指針は、何ら示されていない。
また、上記(2)で述べたように、溶媒が、「n-プロビルアルコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジアセトンアルコール、ジプロピレングリコール及びモノアルキルエーテル」であり、樹脂が、「ロジンエステル及びポリアミド」である「インク4」は、インクの表面張力がそのようにコントロールされたものだとしても、「インク4」においては、インクの表面張力のコントロールに関して、このような溶媒及び樹脂を選択した理由については、発明の詳細な説明には、何ら記載されていない。
そして、出願時の技術常識に基づいても、インクの表面張力の測定結果に基づき、インクの最大全不揮発性物質の体積分率に対するインクの全不揮発性物質の体積分率の比率が0.60から0.75の比率である場合に、インクの表面張力を30mN/m以上かつ35mN/m未満にコントロールする具体的な手法は明らかではなく、そのような手法は当業者にとって明らかなものではないことから、当業者が本願発明を実施するには、過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。
(まとめ)
本願明細書は、本願発明のインクの表面張力のコントロールについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
5.むすび
以上のとおり、本願は、請求項1に係る発明について、特許法第36条第6項第2号、同項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
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2015-018937