特許拒絶査定不服審判
2015-017016
線形イオントラップにおけるイオン冷却の方法
- 審判番号
- 2015-017016
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2010-544542
- 請求日
- 2015年09月16日
- 審決日
- 2017年02月27日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 審判長/審判官
- 審判長 森林 克郎
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 伊藤 昌哉
- 分類
- P18 .121-WZ (H01J) / P18 .536-WZ (H01J) / P18 .537-WZ (H01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2010-544542「線形イオントラップにおけるイオン冷却の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日国際公開、WO2009/094757、平成23年 4月 7日国内公表、特表2011-511400〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2009年(平成21年)1月26日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年1月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月3日(発送 同年同月5日)で拒絶理由が通知され、平成26年3月4日に意見書が提出され、同年10月28日(発送 同年同月30日)で拒絶理由が通知され、平成27年4月28日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年5月21日付けで拒絶査定(謄本送達日 同年同月25日、以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年9月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、平成28年6月27日付け(発送 同年同月28日)で当審より拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月28日に手続補正がなされるとともに意見書(以下「本件意見書」という。)が提出されたものである。
第2 本願請求項1ないし15
本願請求項1ないし15に係る記載は、平成27年9月16日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載されたとおりであって、次のとおりである(下線は、請求人が付与したとおりである。)。
「【請求項1】
イオン閉じ込め装置におけるイオンの運動エネルギーを減少させるための方法であって、
保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップと、
該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約1.07x10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップであって、該所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、該イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔を含む、ステップと、
該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップと
該保持時間の終了時に、該イオン閉じ込め装置から該イオンを放出するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記イオン閉じ込め装置は、4重極線形イオントラップを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力は、前記所定の持続時間の間、約2.0x10-2Paを超えて上昇する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力は、前記所定の持続時間中、約1.07x10-2Paと約3.33x10-2Paとの間の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の持続時間は、約50ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の持続時間は、約30ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の持続時間は、約10ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の持続時間は、約5,000Daと約30,000Daとの間の範囲の質量を有するイオンについて、約50ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の持続時間は、約500Daと約5,000Daとの間の範囲の質量を有するイオンについて、約25ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の持続時間は、第2の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第2の時間は、前記イオン閉じ込め装置における前記イオンの平均運動エネルギーが、前記イオン閉じ込め装置におけるイオンの環境値よりも約15%大きい値未満まで減少する時間間隔を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記冷却ガスには、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンのうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記イオン閉じ込め装置における圧力は、前記線形イオントラップからのイオンの放出中に、約2.67x10-3Paと7.33x10-3Paとの間の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記冷却ガスは、高速パルス弁から供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記冷却ガスは、複数の高速パルス弁から供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
質量スペクトルを生成するために、前記イオン閉じ込め装置から放出されたイオンを質量分析することを含む、請求項2に記載の方法。」
第3 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
理由1(委任省令要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3(明確性要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由1(委任省令要件)
(1)本願発明の課題は、本願明細書の【0003】の「特定の種類のイオントラップ、つまり線形イオントラップ(LIT)」において、「この冷却時間は、データ取得における遅延を表し、イオンが過剰運動エネルギーを損失し、かつ冷却する間に器具の使用は待機しなければならない。」、「これらの測定では、イオン冷却時間は、データ入手時間の不要に長い区間を表す。」と記載されていることから、イオントラップにおいて冷却時間を短くすることにあると認められる。
しかしながら、本願明細書の【0004】には、「冷却ガスは、パルスガス弁を使用して、短い持続時間の間供給される。」、【0005】には、「保持時間中、冷却ガスをイオン閉じ込め装置内に供給するステップ」と記載されていて、課題解決手段として、冷却ガスを供給する時間を短くすることと読み取れ、課題についての記載と課題解決手段についての記載とが対応していない。
さらに、本願発明1の記載では、「圧力」を「上昇させる」時間が、「イオン保持時間未満の所定の持続時間」に制限されるように読み取れる。
また、明細書及び図面全体においても、冷却ガスの圧力及び冷却ガスを供給する時間と、イオン閉じ込め装置(線形イオントラップ(LIT))の圧力及び冷却時間、さらには「圧力」を「上昇させる」時間との関係が不明である。
(2)本願発明1の「約1.07×10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力」について、本願明細書の【0004】、【0005】には「イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を」「約8×10-5トール(約1.07×10-2Pa)を超えて上昇させる」と記載されているのみであるところ、冷却ガス圧力ではなくて、イオン閉じ込め装置(線形イオントラップ(LIT)120)の圧力であるとしても、明細書及び図面には、1.07×10-2Paとの数値の下限についての臨界的意義は記載されていない。
(3)本願発明3~10、12の数値範囲について、本願明細書及び図面には、技術的意義が記載されていない。
(4)本願明細書の【0035】の「約30ミリ秒(ガス注入に20ミリ秒、その後、注入後遅延に10ミリ秒)」、【0038】の「注入後遅延」とは、ガス注入との関係が記載されておらず、どういう意味であるのか不明である。
よって、【0035】の「約30ミリ秒」も不明である。また、【0035】の「約60ミリ秒」は「注入後遅延」は記載されていないが、「約30ミリ秒」と同様に、不明である。
(5)本願明細書の【0035】について、「所定の持続時間」、「冷却ガス供給の持続時間」とは何であるの不明である。また、両者の関係も不明である。
(6)本願明細書の【0036】には、「所定の持続時間は、トラップにおけるイオンの平均運動エネルギーが、トラップ中に到達するそのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔の約85%から115%の間の範囲にあることが可能である。」と記載されている。ここで、上記「時間間隔」の終点は「トラップ中に到達するそのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する」であると考えられるが、始点が何であるのか不明である。
すると、「所定の持続時間」とは何であるのか不明である。また、「イオン冷却時間」とは何であるのか不明である。また、「所定の持続時間」と「イオン冷却時間」との関係も不明である。
(7)本願明細書の【0041】の「非定常状態圧力は、図6Aにおける曲線610として例証的にグラフ化される。」との記載事項について、図6Aにおける曲線610全体が「非定常状態圧力」と読み取れ、「非定常状態圧力」が何であるのか不明である。
(8)本願明細書の【0041】の「種々の実施形態では、中性分子のガスは、ガス注入持続時間に対し、時間t=0において、LIT内に注入可能である。次いで、圧力は、初期基準圧力P0636からピーク値まで上昇し、次いで、ガスがチャンバから排出されるとP0に戻って減衰する。」との記載事項から、t=0からピーク値まで注入し、ガスをピーク値からP0まで排出すると読み取れるが、注入と排出を同時に行う可能性もあり、ガスの注入と排出が明確でない。
(9)本願明細書の【0042】に「圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間は、イオンがその過剰運動エネルギーの事前所望量を損失するのに必要な時間に実質的に一致するように選択される。」と記載されていて、圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間にのみ、イオンがその過剰運動エネルギーの事前所望量を損失すると読み取れ、圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間と、イオンの過剰運動エネルギーの損失との関係、さらには、上記持続時間以外のイオンの過剰運動エネルギーの損失との関係が不明である。
(10)本願明細書の【0043】に「この回復時間は、例えば、器具における感圧検出器が作動した後の注入後遅延、イオンがトラップから放出されたこと等を表す。」と記載されていて、冷却ガスの排出とイオンのトラップからの放出との関係が不明である。
(11)本願明細書の【0044】~【0047】、図6Bについて、式(3)、式(4)と図6Bの関係が不明である。例えば、式(4)においてtを十分大きくすると、圧力はPoffとなる。
しかしながら、圧力Poffは、弁の閉鎖時におけるチャンバの圧力(【0046】)である。ここで、「パルス弁230が10ミリ秒、20ミリ秒、および50ミリ秒開放する」(【0047】)ことから、パルス弁230が閉鎖されるのはtが高々数十ミリ秒であるから、弁の閉鎖時におけるチャンバの圧力(【0046】)の記載と、「パルス弁230が10ミリ秒、20ミリ秒、および50ミリ秒開放する」(【0047】)ことの記載との整合性がとれてない。
(12)本願明細書の【0048】~【0050】、図6C~図6Dについて、図6C~図6Dをどのようにして導出したのか不明である。
(13)本願明細書の【0051】、図7について、「MASE処理の抽出効率」が何であるのか不明であり、図7の意味も不明である。
(14)まとめ
上記(1)~(13)より、本願明細書及び図面の記載では、本願発明がどのような作用効果を奏するのかを確認することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。
理由2(サポート要件)について
(1)本願発明1の「約1.07×10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力」について、本願明細書の【0004】、【0005】には「イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を」「約8×10-5トール(約1.07×10-2Pa)を超えて上昇させる」と記載されているのであって、本願明細書及び図面には、「事前に設定された冷却ガス圧力」を「約1.07×10-2Pa」とする記載はない。
(2)本願発明1において、「該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約1.07×10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップであって、該所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、該イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔を含む、ステップ」は、「該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間」であるのに対して、「該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」は、「該保持時間の少なくとも一部分の間」である。
すると、本願発明1は、「保持時間」中に上記2つのステップがあると読み取れる。
しかしながら、本願明細書及び図面には、「保持時間」中に上記2つのステップがあることは、記載されていない。
(3)本願発明1を間接的又は直接的に引用する請求項に係る発明も、同様に、明確ではない。
(4)以上から、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
理由3(明確性要件)について
(1)本願発明1の「該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約1.07×10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップであって、該所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、該イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔を含む、ステップ」は、「該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間」であるのに対して、「該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」は、「該保持時間の少なくとも一部分の間」である。
すると、「保持時間」中に上記2つのステップがあると読み取れ、上記2つのステップの関係が不明である。
(2)本願発明1の「第1の時間」は、「該イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔を含む」ものである。ここで、上記「時間間隔」の終点は「トラップ中に到達するそのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する」までと考えられるが、始点が何であるのか不明である。また、「含む」と記載されているので、「時間間隔」の範囲が不明確である。
よって、「第1の時間」とは何であるのか不明である。
(3)本願発明1の「所定の持続時間」は、「第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され」るものであるから、上記(2)で示したように「第1の時間」とは何であるのか不明であるので、「所定の持続時間」も何であるのか不明である。
(4)本願発明1の「イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力」を、「上昇させる」時間を制限することの技術的意義が不明である。
(5)本願発明1の「該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」は、「含む」と記載されているので、「生成すること」の範囲が不明確である。
(6)本願発明1の「非定常状態圧力」が何であるのか、上記「理由1(7)」で示したように、明細書の発明の詳細な説明を参酌しても不明である。
(7)本願発明1を間接的又は直接的に引用する請求項に係る発明も、同様に、明確ではない。
(8)以上から、本願発明は明確でない。
2 当審拒絶理由についての判断
(1)当審拒絶理由の「理由3」「(2)」及び「(3)」について
ア 当審拒絶理由の「理由3」「(2)」及び「(3)」に対する請求人の本件意見書での釈明は次のとおりである。
「5.理由3(明確性要件)について・・・
(2)上記理由1の(1)、(3)をご参照下さい。
(3)上記理由1の(1)、(3)をご参照下さい。・・・
以上の理由から、理由3(明確性要件)は解消されるべきです。」
イ 本件意見書における「理由1の(1)、(3)」は次のとおりである(下線は請求人が付したとおり。)。
「3.理由1(委任省令要件)について
(1)本願発明の課題は、イオン冷却時間を短縮することであり、その解決策は、イオンの冷却速度を加速することです(本願明細書の段落0003、0004を参照)。イオンの冷却速度を加速させるために、冷却ガスが線形イオントラップ中に導入されます。イオン冷却時間の加速を増加させることは、冷却ガスが送達されない状況に対するものです(すなわち、ガス送達を伴わないイオンの冷却時間 対 ガス送達を伴うイオンの冷却時間)(本願明細書の段落0014を参照)。
上述した開示を考慮すると、イオン冷却時間を短縮するという課題、および、(送達されるガスの冷却を伴わないトラップとは対照的に)イオンの冷却速度を加速する目的で冷却ガスを送達するという解決策は、互いに矛盾するものではないというべきです。
冷却ガスの圧力および冷却ガスを送達するための時間の関係は、<参考文献1>(Collings and Romaschin, Journal of the American Society for Mass Spectrometry,2009,V20,p1714-1717)に示されています。<参考文献1>のFigure 2は、パルス弁が開放された後にトラッピング領域の中にガスを導入するための時間が、<1ms未満であることを示しています。時間t=0は、パルス弁に対する制御信号がオシロスコープおよびパルス弁の両方をトリガする時間です。パルス弁の開口は、トラッピング領域の中心から僅か0.022mに位置付けられます(膨張時の典型的なガス流速は、およそ750m/sです。これは、ガスが0.022m/750m/s=29ミリ秒でトラッピング領域の中心に到達することを意味します)。
さらに、冷却ガスの圧力と冷却ガスを供給する時間との間の関係、イオン閉じ込め装置の圧力と冷却時間との間の関係、冷却時間と圧力を上昇させる時間との間の関係は、
<参考文献1>において議論されています。特に、実験的に測定された圧力の例は、<参考文献1>のFigure 2に示されています。第1716頁第3段落左欄における議論は、パルス弁が開放されている持続時間に依存して、トラッピング領域内の局所的な圧力は、3.8e-4Torrおよび6.0e-4Torrであると結論付けています。冷却時間は、最初にイオンがトラッピング領域に進入し、トラップが閉鎖されたときから、その後にパルス弁が開放されてその後に閉鎖され、ガスがいくらかの時間にトラッピング領域の外部に分散することを可能にされ、走査が開始されるまでの時間です。この総時間は、パルスガスを用いることなしにイオンを冷却するために必要とされる時間よりも顕著に短いです。
真空チャンバ内には依然として基準圧力が存在するので、パルス弁が開放されていない場合であっても、イオンは常に冷却していることに留意する必要があります。
従って、理由(1)は解消されるべきです。
(2)・・・省略・・・
(3)1.07e-2Paを下回る圧力に到達するために、パルス弁が必要されていないという理由から、圧力増加に対する下限を少なくとも8e-5Torr(1.07e-2Pa)超に設定することが選ばれました。器具は、トラッピングチャンバ上のより低いポンプ速度、ガスが別の入口を通して連続的に追加される等の条件で稼働します。これらの場合の全てにおいて、イオンは、より低い圧力においてよりもより迅速に冷却しますが、外部のイオンの走査時のトラップの性能は最適ではない可能性があります。利得は、質量スペクトルの低下した品質によってオフセットされる冷却時間です。質量分析計は、依然として機能することが可能です。
85%~115%の冷却時間における拡散は、異なる質量および衝突断面積を有するイオンの冷却速度が認識される必要があるという理由から、含まれたものです。より大きいイオンは、軽いイオンと比べて、より多くの衝突を必要とし、それらの運動エネルギーをそれらの初期運動エネルギーの1%を下回るまでに低減させるためにより多くの時間を必要とします。これらの数字は、図4Aおよび図4Bのシミュレーション結果から導出されたものです。
多重荷電されたイオンもまた、ポテンシャルのオフセットの倍数である軸方向運動エネルギーおよび荷電状態でトラップに進入します(このことは、本願明細書の段落0034に記載されています)。イオンの運動エネルギーが高くなると、イオンから運動エネルギーを除去するために、より多くの衝突が必要とされます。これを行うためには、圧力が増加させられるか、または、パルス弁が開放される持続時間が増加させられる必要があります。本願の請求項3~10は、異なるサイズのイオンに対する要件を扱っています。トラップ内のイオンの全てが小さく、かつ、低い運動エネルギーのイオンである場合、パルス弁が開放される必要がある持続時間は、短いことが可能です。
本願の請求項12は、最適な質量選択軸方向放出のための望ましい圧力を規定しています。選択された値に対する理由は、上記理由(2)において議論されています。
従って、本願の請求項3~10、12における数値範囲の技術的意義は明確であるというべきです。
従って、理由(3)は解消されるべきです。」
ウ 当審拒絶理由の「理由3」「(2)」についての判断
当審拒絶理由の「理由3」「(2)」で指摘した、本願請求項1の「第1の時間」は、「時間間隔」の「始点が何であるのか不明であ」る点、及び、「時間間隔を『含む』」と記載されているので「第1の時間」の範囲が不明確である点についての釈明は、本件意見書の「上記理由1の(1)、(3)」の該当箇所(上記イ)には見当たらない。
そして、本件意見書の「上記理由1の(1)、(3)」以外の箇所にも、上記指摘に対する釈明は見当たらない。
さらに、当審拒絶理由に対する平成28年12月28日付けの手続補正では、本願請求項1ないし15は補正されていない。
したがって、平成28年12月28日付けの手続補正及び本件意見書によっては、当審拒絶理由で指摘した「理由3」「(2)」の明確性要件違反は解消されたとは認められず、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
エ 当審拒絶理由の「理由3」「(3)」についての判断
上記ウで述べたとおり、「第1の時間」とは何であるのか不明であるため、「第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され」るものであると特定される本願請求項1の「所定の持続時間」も何であるのか不明である。
また、本件意見書の「上記理由1の(1)、(3)」の該当箇所(上記イ)には、当審拒絶理由の「理由3」「(3)」で指摘した点についての釈明は見当たらない。
そして、本件意見書の「上記理由1の(1)、(3)」以外の箇所にも、「理由3」「(3)」で指摘した点に対する釈明は見当たらない。
さらに、当審拒絶理由に対する平成28年12月28日付けの手続補正では、本願請求項1ないし15は補正されていない。
したがって、平成28年12月28日付けの手続補正及び本件意見書によっては、当審拒絶理由で指摘した「理由3」「(3)」の明確性要件違反は解消されたとは認められず、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
(2)当審拒絶理由の「理由3」「(5)」について
ア 当審拒絶理由の「理由3」「(5)」で指摘した、本願請求項1の「該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」は、「含む」と記載されているので、「・・・非定常状態圧力を生成するステップ」の範囲が不明確である点に対する請求人の意見書での釈明は次のとおりである。
「5.理由3(明確性要件)について・・・
(5)上記理由1の(5)をご参照下さい。・・・・
以上の理由から、理由3(明確性要件)は解消されるべきです。」
イ 本件意見書における「理由1の(5)」は次のとおりである。
「3.理由1(委任省令要件)について・・・
(5)本願明細書の段落0035において、「所定の持続時間」という記載は、ガスが注入される期間と注入後遅延と呼ばれる期間との和を意味します。本願の請求項1において、冷却ガスは、所定の持続時間にわたり8e-5の事前所望の圧力を超えて上昇させるために注入されます。本願明細書の段落0035の記載および本願の請求項1の記載は矛盾しません。例えば、ガスは20msにわたり注入され、その後、圧力が8e-5Torrを下回るまで降下するのを待機するために、遅延(およそ10ms)が実施されます。所定の期間は、20ms+10ms=30msです。所定の持続時間は、保持時間と同一です。
本願明細書の段落0042において、>PCの圧力として、「事前所望の冷却圧力」が記載されています。Pcは、常に>PD(質量走査が開始される圧力)です。
本願の請求項1には、「該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約1.07x10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、・・・」と記載されています。
本願の請求項におけるPCの値に対する書き方は、PDよりもほんの僅かに大きいものであり得るか、または、顕著に大きいものであり得ます。PDよりも大きいことのみが必要です。唯一の要件は、所定の持続時間(または保持時間)の終了までに、圧力がPDを下回るまで減少することです。
従って、理由(5)は解消されるべきです。」
ウ 当審拒絶理由の「理由3」「(5)」についての判断
本件意見書の「上記理由1の(5)」の該当箇所(上記イ)には、当審拒絶理由の「理由3」「(5)」で指摘した、本願請求項1の「該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」は、「含む」と記載されているので、「・・・非定常状態圧力を生成するステップ」の範囲が不明確である点についての釈明は見当たらない。
そして、本件意見書の「上記理由1の(5)」以外の箇所にも、上記指摘に対する釈明は見当たらない。
さらに、当審拒絶理由に対する平成28年12月28日付けの手続補正では、本願請求項1ないし15は補正されていない。
したがって、平成28年12月28日付けの手続補正及び本件意見書によっては、当審拒絶理由で指摘した、「理由3」「(5)」の明確性要件違反は解消されたとは認められず、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
(3)当審拒絶理由の「理由3」「(7)」について
上記(1)及び(2)のとおり、本願請求項1の明確性要件違反は解消されたとは認められないから、同項を引用する本願請求項2ないし15の明確性要件違反も解消されたとは認められず、「本願発明1を間接的又は直接的に引用する請求項に係る発明も、同様に、明確ではない。」(「理由3」「(7)」)点は解消されたとは認められず、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
(4)当審拒絶理由の「理由1」「(5)」及び「(6)」について
ア 当審拒絶理由の「理由1」「(5)」及び「(6)」に対する請求人の本件意見書での釈明は次のとおりである(「理由1」「(5)」については、上記「(2)」「イ」参照。)。
「3.理由1(委任省令要件)について
(・・・途中省略・・・)
(6)イオン冷却時間の開始は、上記理由(1)において議論しました。パルス弁は、制御トリガから1ms未満で開放し、ガスは、数十ミリ秒以内にトラッピング領域に到達します。イオン冷却の持続時間もまた、上記理由(1)において議論しました。
イオン冷却の開始に関する追加的な説明は、以下に示すとおりです。
イオンは、それらがトラッピング領域に進入した瞬間に冷却を開始します。トラップが2msにわたって充填されると、充填期間の終了時にガスが注入されます。これは、充填ステップの開始時にトラッピング領域に進入したイオンが、充填ステップの終了時にトラッピング領域に進入したイオンよりも2ms長く冷却され得ることを意味しています。充填ステップ中に、トラップの背景圧力において冷却が行われます。充填ステップの終了時に、パルス弁が作動させられ、冷却ガスが注入されます。充填ステップの終了とトラッピング領域へのガスの到達との間の遅延は、本段落の第1文に記載されています。
運動エネルギーを1%未満にまで減少させるための時間は、図4Aおよび図5Bから決定されます。図5B(実験)は、いかなる冷却ガスの注入も伴わずに、FWHMがイオンm/z 922に対して>120msにおいて最小に到達することを示しています。トラッピング領域の中に注入された冷却ガスでのデータの再度の収集は、FWHMが遥かに短い期間(すなわち、30ms)において最小に到達することを示しています。図4A(シミュレーション)において、最小運動エネルギーに到達するためのイオンm/z 2800に対する時間は、3.5e-5Torrの背景圧力において約100msです。この時点において、質量走査を開始する前のイオン状態は、変化しません。イオンの10eVという初期運動エネルギーは、<0.1eVまたは<1%にまで低減されています(数字は、初期運動エネルギー、質量、衝突断面積、および静止環境圧力に依存して変動します。1%という値は、質量分析計において典型的にサンプリングされるイオンの大部分に対して良好なターゲットです)。
従って、理由(6)は解消されるべきです。」
イ 当審拒絶理由の「理由1」「(5)」及び「(6)」についての判断
本件意見書の上記アの釈明をみても、当審拒絶理由の「理由1」「(5)」及び「(6)」で指摘した、本願明細書段落【0036】の「所定の持続時間は、トラップにおけるイオンの平均運動エネルギーが、トラップ中に到達するそのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔の約85%から115%の間の範囲にあることが可能である。」の始点が何であるのか不明であるため、「所定の持続時間」とは何であるのか不明である点(「理由1」「(5)」)点についての明確な釈明は見当たらない。
そして、本件意見書の上記ア以外の箇所にも、上記指摘に対する釈明は見当たらない。
したがって、平成28年12月28日付けの手続補正及び本件意見書によっては、当審拒絶理由で指摘した、「理由1」「(5)」及び「(6)」の委任省令要件違反は解消されたとは認められず、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(5)小括
以上によれば、本願請求項1ないし15は特許を受けようとする発明が明確ではないから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
第4 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、以下のとおりである。
本件出願の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物
1.国際公開第2007/144627号(以下「引用文献1」という。)
2.特開2004-158267号公報(以下「引用文献2」という。)
文献2(特に【0019】)には,イオントラップにおいてイオンのクーリングを行なうために、イオントラップ4にイオンを導入し、イオントラップ内にクーリングガスを供給するクーリング動作を行い、その後にイオン排出動作を行うこと、イオントラップ4内のガス圧は、イオントラップ内にクーリングガスを供給するためにパルスバルブ47をオンしている期間は6×10-3Pa(5×10-5Torr)程度に維持され、パルスバルブ47がオフしている期間は1×10-3Pa(8×10-6Torr)程度に維持されることが、記載されている。
また、文献2には、イオントラップにおいて、クーリング動作時のみクーリングガスの供給を行うことが記載されており、また、クーリング期間は通常10msec~100msecであること(【0019】)も記載されている。このクーリング期間に関して、どの程度までイオンのクーリングを行うのか、イオンの運動エネルギーに関しては文献2には明記されていないものの、クーリングガスによりイオンの運動エネルギーを減少させてイオンを効率よく保持させること(【0017】)、クーリング時のみイオントラップ内にガスを導入することにより質量スペクトルのピークが良好に分離できるようになること(【0021】、第3図)が記載されていることからすると、どの程度までクーリングを行うかは当業者において適宜設定し得たことであるといえ、それに応じたクーリング期間とすることも、当業者であれば適宜為し得たことである。
そして、文献1に記載された発明において、文献2に記載されるような動作でイオンのクーリングを行うことも、当業者であれば容易に為し得たことである。
2 原査定についての当審の判断
(1)本願発明の認定
上記第3で検討したとおり、本願請求項1ないし15は特許を受けようとする発明が明確ではなく、また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載も、上記第3で検討したとおり、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本願請求項1ないし15は、「第1の時間」、「所定の持続時間」及び「生成すること」の範囲が特定できない。
したがって、原査定の理由を判断するにあたり、「時間間隔」の「始点」は実質的に特定されていないと解釈することとする。
また、その結果、「第1の時間」及び「所定の持続時間」の「始点」は実質的に特定されていないと解釈することとする。
さらに、「・・・非定常状態圧力を生成するステップ」の範囲は実質的に特定されていないと解釈することとする。
(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の記載がある(訳は、引用文献1の対応する公表公報である特表2009-540320号公報に基づいて、当審が付した。下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「The present invention is concerned with the thermalization of ions produced in mass spectrometers and hybrid mass spectrometers. In particular, the present invention relates to methods and apparatus for reducing uncontrolled fragmentation of externally injected thermally labile molecular ions in quadrupole ion traps (QIT).」
(本発明は、質量分析計およびハイブリッド質量分析計で生成されるイオンの熱化に関する。特に、本発明は、四重極イオントラップ(QIT)に外部から注入される熱的に不安定な分子イオンの制御されないフラグメンテーションを抑制する方法および装置に関する。)
(イ)「Accordingly, in a first aspect, the present invention provides a method of thermalizing ions in a mass spectrometer, said mass spectrometer having an ion source, an ion trap and a detector region, wherein said method includes the steps of: producing ions in the ion source whilst maintaining the pressure in the ion source below about 10-4 mbar; pulsing gas into the ion trap to achieve a peak pressure of more than 10-3 mbar and externally injecting ions from the ion source into the ion trap; and ejecting ions from the ion trap into the detector region whilst maintaining the pressure in the detector region below about 10-4 mbar. By providing an intermediate pressure transient within the ion trap whilst maintaining vacuum conditions in the ion source and detector regions, uncontrolled fragmentation can be significantly reduced and the sensitivity of the mass spectrometer improved.
In preferred embodiments, the present inventors have achieved this by providing a large volume of gas into the ion trap over a comparatively short timescale, and simultaneously pumping the ion trap at a relatively high speed so as to rapidly remove the gas. In particular, by rapidly removing gas from the ion trap, a significant reduction in fragmentation can be achieved whilst maintaining a high vacuum in the source. In this way, the advantages of a high vacuum ion source and/or high vacuum detector region can be preserved.
Preferably the pressure outside the ion trap (e.g. in the ion source and detector region) remains below about 10-4 mbar during thermalization of the ions, more preferably below about 10-5 mbar, and most preferably below about 10-6 mbar. Suitably the pressure outside the ion trap is maintained throughout the period of elevated pressure within the ion trap.
Suitably the pressure in the ion source during ion production is maintained below about 10-5 mbar, preferably below about 10-6 mbar. Suitably the pressure in the detector region during ion ejection is maintained below about 10-5 mbar, preferably below about 10-6 mbar.
Preferably the peak pressure of the thermalization gas pulse is greater than about 5x10-3 mbar, more preferably greater than about 10-2 mbar. These higher peak pressures preferably provide more efficient thermalization. Suitably, thermalization is achieved over a shorter period of time with these pressures. Suitably, the peak pressure does not exceed about 0.13 mbar (~10 mTorr), more preferably 10-1 mbar.
Suitably the gas pulse provides a pressure in the ion trap that is short lived in the sense that the pressure rapidly reduces to a value that is a small fraction of the maximum pressure, thereby minimising or preferably avoiding leakage. This pressure reduction time is defined as the time it takes for the pressure in the ion trap to reduce to 25% of the peak pressure, with the start time being the initiation of the gas pulse. Typically, initiation of the gas pulse includes generating a signal that triggers or initiates the gas pulse (i.e. releases the buffer gas into the ion trap). Suitably this is an electronic pulse that is applied to an inlet valve that delivers buffer gas to the ion trap. Preferably the pressure reduction time is less than about 40 ms, more preferably less than about 20 ms, most preferably less than about 15 ms. For peak pressures above about 3x10-2 mbar (20 mTorr) it is preferred that the pressure reduction time is 10 ms or less. For lower peak pressures, the pressure reduction time can be greater, e.g. 20 ms or less for a peak pressure below about 5x10-3, e.g. 1.3x10-3 mbar (1 mTorr).」
(したがって、第1の態様において、本発明は質量分析計におけるイオンを熱化する方法を提供し、この質量分析計はイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有し、この方法は、イオン源内の圧力を約10-4mbarより小さく維持しながらイオン源でイオンを生成するステップと、10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオンをイオン源からイオントラップに外部注入するステップと、検出器領域内の圧力を約10-4mbarより小さく維持しながらイオンをイオントラップから検出器領域内に放出するステップとを含む。イオン源および検出器領域内の真空状態を維持しながらイオントラップ内に中間圧力過渡変動を提供することによって、制御されないフラグメンテーションが著しく抑制され得るとともに、質量分析計の感度が向上され得る。
好ましい実施形態において、本発明者らは、比較的短い時間スケールで大量のガスをイオントラップに提供すると同時にガスを急速に除去するために比較的高速でイオントラップを排気することによって上記のことを実現している。特に、イオントラップからガスを急速に除去することによって、イオン源内の高真空を維持しながらフラグメンテーションの著しい抑制が実現され得る。こうして、高真空イオン源および/または高真空検出器領域の利点は維持され得る。
好ましくは、イオントラップ外部(例えば、イオン源および検出器領域)の圧力は、イオンの熱化の間、約10-4mbarより小さく、より好ましくは約10-5mbarより小さく、最も好ましくは約10-6mbarより小さく保たれる。適切には、イオントラップ外部の圧力は、イオントラップ内の高圧の期間を通じて維持される。
適切には、イオン生成中のイオン源内の圧力は、約10-5mbarより小さく、好ましくは約10-6mbarより小さく維持される。適切には、イオン放出中の検出器領域内の圧力は、約10-5mbarより小さく、好ましくは約10-6mbarより小さく維持される。
好ましくは、熱化ガスパルスのピーク圧力は、約5×10-3mbarよりも大きく、より好ましくは約10-2mbarよりも大きい。これらのより高いピーク圧力は、より効率的な熱化を提供することが好ましい。適切には、熱化は、これらの圧力を用いてより短い期間で実現される。適切には、ピーク圧力は約0.13mbar(~10mTorr)、より好ましくは10-1mbarを超えない。
適切には、ガスパルスは、圧力が最大圧力よりもはるかに小さい値まで急速に低下するという意味では短期間の圧力をイオントラップ内に提供して、漏れを最小にするか、または好ましくは回避する。この圧力低下時間は、ガスパルスの発生を開始時刻としてイオントラップ内の圧力がピーク圧力の25%まで低下するのに要する時間と定義される。典型的には、ガスパルスの発生は、ガスパルスをトリガまたは発生する(すなわち、緩衝ガスをイオントラップの中に放出する)信号を発生することを含む。適切には、これは、緩衝ガスをイオントラップに供給する入口弁に印加される電子パルスである。好ましくは、圧力低下時間は、約40ms未満であり、より好ましくは約20ms未満であり、最も好ましくは約15ms未満である。約3×10-2mbar(20mTorr)以上のピーク圧力では、圧力低下時間が10ms以下であることが好ましい。より低いピーク圧力では、圧力低下時間は、より長く、約5×10-3を下回るピーク圧力、例えば、1.3×10-3mbar(1mTorr)では、例えば、20ms以下とされ得る。)
(ウ)「Preferably the method includes providing a plurality of pulses of thermalization gas to the ion trap. Multiple pulses can be used to cool multiple respective sets of ions (e.g. those produced as a result of each of a series of laser shots in a MALDI experiment), or to thermalize the same set of ions (e.g. repeated thermalization of the same ions whilst held in the ion trap). Furthermore, as part of the same experimental cycle, a plurality of gas pulses can be used, wherein the second and subsequent pulses are for translational cooling damping the kinetic energy of the ions, for example following isolation and/or dissociation events as encountered in, MSn experiments.」
(好ましくは、方法は、イオントラップに複数の熱化ガスパルスを提供することを含む。イオンの多数の各集合(例えば、MALDI実験において一連のレーザーショットの各々の結果として生成されるイオン)を冷却したり、同じ集合のイオンを熱化(例えば、イオントラップに捕捉されている間に同じイオンを繰り返し熱化)したりするために、複数のパルスが使用され得る。さらに、同じ実験サイクルの一部として、複数のガスパルスの使用が可能であり、第2のパルスと後続のパルスは、例えば、MSn実験で遭遇されるような分離および/または解離事象に続く、イオンの運動エネルギーを制動する並進運動の冷却用である。)
(エ)「Suitably the method includes trapping the ions in the trap following ion injection.
Preferably translational cooling of the ions is also promoted so as to enhance trapping efficiency of ions with large radial and axial excursions with initially unstable trajectories at the onset of the trapping field.」
(適切には、方法は、イオン注入に続いてトラップ内のイオンを捕集することを含む。
好ましくは、トラップ電場の発生時に最初は不安定な軌道を有する半径方向および軸方向の偏位の大きいイオンの捕集効率を高めるために、イオンの並進運動の冷却も促進される。)
(オ)「1. A method of thermalizing ions in a mass spectrometer, said mass spectrometer having an ion source, an ion trap and a detector region, wherein said method includes the steps of: producing ions in the ion source whilst maintaining the pressure in the ion source below about 10-4 mbar; pulsing gas into the ion trap to achieve a peak pressure of more than 10-3 mbar and externally injecting ions from the ion source into the ion trap; and ejecting ions from the ion trap into the detector region whilst maintaining the pressure in the detector region below about 10-4 mbar.・・・
5. A method of thermalizing ions in an ion trap, said method including the steps of; pulsing gas into the ion trap and pumping gas from the ion trap to achieve a peak pressure of more than 10-3 mbar; and injecting ions into the ion trap; wherein the pressure in the ion trap returns to about 25% of the peak pressure within about 40 ms from the initiation of the gas pulse.・・・
16. A method according any one of claims 13 to 15, wherein the width of the gas pulse at 25% of the peak pressure is no more than 30 ms.
17. A method according to any one of the preceding claims, wherein the width of the gas pulse at 25% of the peak pressure is no more than 20 ms.
18. A method according to claim 17, wherein the width of the gas pulse at 25% of the peak pressure is no more than 15 ms.」
(1.質量分析計においてイオンを熱化する方法であって、前記質量分析計がイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有し、前記方法が、
イオン源内の圧力を約10-4mbarより小さく維持しながらイオン源内でイオンを生成するステップと、
10-3mbarを超えるピーク圧力を実現するためにガスをパルス化してイオントラップ内に導入し、イオン源からイオントラップの中に外部的にイオンを注入するステップと、
検出器領域内の圧力を約10-4mbarより小さく維持しながらイオントラップから検出器領域の中にイオンを放出するステップと
を含む、方法。・・・
5.イオントラップ内のイオンを熱化する方法であって、
ガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをイオントラップから排気するステップと、
イオンをイオントラップの中に注入するステップであって、イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約40ms以内にピーク圧力の約25%に戻る、イオンをイオントラップに注入するステップと
を含む、方法。・・・
16.ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか30msである、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
17.ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか20msである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
18.ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか15msである、請求項17に記載の方法。)
(カ)図2(Fig.2)は次のものである。
(キ)引用発明
上記(ア)ないし(カ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「イオン源、イオントラップ、および検出器領域を有する質量分析計におけるイオンを熱化する方法であって、
イオン源内の圧力を約10-4mbarより小さく維持しながらイオン源でイオンを生成するステップと、
10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオンをイオン源からイオントラップに外部注入するステップと、
イオン注入に続いてトラップ電場によりトラップ内のイオンをイオントラップに捕捉するステップと、
検出器領域内の圧力を約10-4mbarより小さく維持しながらイオンをイオントラップから検出器領域内に放出するステップとを含み、
前記パルス化したガスは、イオンの運動エネルギーを制動する並進運動の冷却用である、
質量分析計におけるイオンを熱化する方法。」
イ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は質量分析装置に関し、更に詳しくは、イオン発生源と質量分析部との間に、イオンを一時的に集積して保持する、又は更に保持しつつ開裂させるためのイオン保持部を設けた質量分析装置に関する。」
(イ)「【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施例による質量分析装置について、図面を参照して説明する。図1は本実施例のイオントラップ型質量分析装置の要部の構成図である。
【0013】
真空ポンプ2により真空排気される真空室1の内部には、イオン発生源であるESI(Electro Spray Ionization)イオン源3、イオン保持部であるイオントラップ4、質量分析部である飛行時間型分析器(TOFMS=Time Of Flight Mass Spectrometer)5が配設されている。なお、本図では説明を簡単にするためにESIイオン源3、イオントラップ4及びTOFMS5が同一の真空室1内に配置されているが、これらはそれぞれイオンが通過する程度の小孔が設けられた隔壁で隔てられて成る、異なる真空室の内部に配置されていてもよい。また、イオン発生源や質量分析器は上記のものに限らない。
【0014】
イオントラップ4は、1つのリング電極41と2つの互いに対向するエンドキャップ電極42、43により構成されている。リング電極41には電源部45より高周波高電圧が印加され、リング電極41と一対のエンドキャップ電極42、43とで囲まれる空間内に形成される四重極電場によってイオン捕捉空間44を形成し、そこにイオンを捕捉する。また、エンドキャップ電極42、43にはそのときの分析モードに応じて適宜の補助交流電圧が電源部45より印加される。イオントラップ4の内部にはガス供給源46からクーリングガスを導入するためのガス配管48が接続されており、ガス配管48の途中にはその管路を高速に開閉するためのパルスバルブ47が介挿されている。なお、通常、クーリングガスとしては、測定対象であるイオンと衝突してもそれ自身がイオン化せず又は開裂もしない安定したガス、例えばヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N2)などが利用される。
【0015】
ESIイオン源3、TOFMS5、電源部45、パルスバルブ47の動作はコンピュータを中心に構成される制御部7により制御される。また、TOFMS5による検出信号はデータ処理部6へと送られ、データ処理部6で所定の演算処理が実行されて質量スペクトルなどが作成されるほか、必要に応じて定性分析や定量分析などの各種処理が実行される。
【0016】
上記質量分析装置の基本的な動作は次の通りである。ESIイオン源3では、ノズルの先端から帯電液滴を噴霧することでイオンを発生させる。発生したイオンはイオントラップ4内に導入され、イオン捕捉空間44に一時的に捕捉される。通常、イオントラップ4へのイオン導入動作時には、入射するイオンの運動エネルギーを減衰させるような電圧がエンドキャップ電極42、43に印加される。そして、全てのイオンを一旦イオン捕捉空間44内に閉じ込めた後、それらイオンを順次排出してTOFMS5に導入し、そこでイオンを質量数に応じて分離して検出器で検出する。その検出信号はデータ処理部6へと送られ、横軸を質量数、縦軸を強度信号にとった質量スペクトルを作成する。
【0017】
イオンはESIイオン源3から或る程度の高い運動エネルギーを持ってイオントラップ4内に飛び込むため、電極41、42、43に印加された電圧によって形成される四重極電場の作用によってのみでは充分にイオンを捕捉することが難しく、エンドキャップ電極43に衝突してしまったり或いはそのまま出口から飛び出してしまうイオンが数多く発生する。そこで、イオントラップ4内に飛び込んだイオンの運動エネルギーを減少させて電場により捕捉され易くするために、クーリングガスが機能する。すなわち、ガス配管48を介して供給されるクーリングガスのガス分子が適度な密度で存在すると、イオントラップ4内に入り込んで飛行するイオンは適度にそのガス分子に衝突し、運動エネルギーを奪われてその軌道が収束する。これによって、イオン捕捉空間44にイオンが効率良く保持される。そのためには、イオンを保持するクーリング動作期間の少なくともその一部期間では、クーリングガスを所定流量でイオントラップ4内に供給し続け、イオントラップ4内のガス圧を例えば6×10-3[Pa]程度に維持することが望ましい。
【0018】
これに対し、イオントラップ4内へイオンを導入するイオン導入期間や、イオントラップ4からイオンを排出してTOFMS5へ導入するイオン排出期間には、上記のようなイオンとガス分子との衝突が発生しないことが好ましい。何故なら、イオン導入動作時にイオントラップ4内のガス圧が高いと、イオントラップ4内に入り込もうとしているイオンにガス分子が衝突して、その軌道を変化させてイオンの導入効率が悪化するおそれがあるからである。一方、イオン排出動作時にイオントラップ4内のガス圧が高いと、イオントラップ4から放出されようとしているイオンにガス分子が衝突してその軌道を変化させ、またイオントラップ4を出発位置とするときの初期エネルギーが変化し、TOFMS5へのイオンの導入効率が悪化したり、その導入方向がばらついたり、更には質量分離の特性に悪影響を及ぼしたりするおそれがあるからである。
【0019】
そこで本実施例では、制御部7は上記のような質量分析に伴う各動作に応じて、次のようにパルスバルブ47を制御する。図2はこのときの動作説明のための図である。すなわち、制御部7は、イオン導入動作→クーリング動作→イオン排出動作、という手順でESIイオン源3、電源部45、TOFMS5を制御する際に、イオン導入動作時に及びイオン排出動作時にはパルスバルブ47をオフ(閉鎖)し、クーリング動作時にはパルスバルブ47をオン(開放)する。通常、クーリング期間は、通常、10msec~100msecであるが、一般にパルスバルブはこれよりも遙かに高速でオン・オフ動作が可能である。従って、パルスバルブ47をオンしている期間、イオントラップ4内にはクーリングガスが一定流量で流れ込み、真空ポンプ2による排気速度とほぼ平衡して、イオントラップ4内のガス圧は6×10-3[Pa]程度に維持される。一方、パルスバルブ47をオフしている期間、パルスバルブ47の漏れ流量と真空ポンプ2による排気速度とがほぼ平衡し、イオントラップ4内のガス圧は1×10-3[Pa]程度に維持される。
【0020】
これによって、クーリング動作時にはイオントラップ4内を適度なガス圧に維持して、イオンの軌道を収束させることによりイオンを確実にイオン捕捉空間44内に保持することができる。他方、イオン導入動作時にはイオントラップ4内のガス圧が相対的に低い、つまりガス分子の密度が低いので、イオンを効率良くイオントラップ4内に導入することができる。また、イオン排出動作時にもイオントラップ4内のガス圧が相対的に低いので、イオンが適当な初速で適当な方向へ向かって排出され、イオンの質量分離が適切に行われるために、質量スペクトルを作成したときに各イオンのピークが良好に分離して現れる。
【0021】
図3は本実施例の質量分析装置における上述のような特徴的な制御の効果を、具体的に示す質量スペクトルの測定例である。図3(a)は本装置と同様の構成でイオン導入、クーリング及びイオン排出時にいずれも、パルスバルブ47をオン状態にしてイオントラップ4内を約8×10-3〔Pa〕に維持したときの質量スペクトル、図3(b)は上述したようにクーリング時のみクーリングガスをイオントラップ4内に供給したときの質量スペクトルである。前者では隣接するピークが重なり合っていてその分離が非常に困難であるのに対し、後者ではピークが良好に分離されていることが判る。すなわち、本実施例の質量分析装置によれば、質量数分解能が大幅に向上し、またより多くのイオンをTOFMS5へと導入することができるので、分析感度も向上する。」
(ウ)図1ないし3は次のものである。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されているものと認められる。
「イオントラップ4において、イオンを保持するクーリング動作期間の少なくともその一部期間では、クーリングガスを所定流量でイオントラップ4内に供給し続け、イオントラップ4内のガス圧を例えば6×10-3[Pa]程度に維持する、イオン導入動作→クーリング動作→イオン排出動作を行う方法。」
(3)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「質量分析計におけるイオンを熱化する方法」は、「ガスをパルス化してイオントラップの中に導入」するものであって、「前記パルス化したガスは、イオンの運動エネルギーを制動する並進運動の冷却用である」から、イオントラップにおけるイオンの運動エネルギーを制動(冷却)するための方法であるといえる。
そうすると、引用発明の、「ガスをパルス化してイオントラップの中に導入」するものであって、「前記パルス化したガスは、イオンの運動エネルギーを制動する並進運動の冷却用である」「質量分析計におけるイオンを熱化する方法」は、本願発明の「イオン閉じ込め装置におけるイオンの運動エネルギーを減少させるための方法」に相当する。
(イ)引用発明の「イオン注入に続いてトラップ電場によりトラップ内のイオンをイオントラップに捕捉するステップ」では、所定の捕捉時間の間、イオンをイオントラップに捕捉することは、当業者には自明である。
そうすると、引用発明の「イオン注入に続いてトラップ電場によりトラップ内のイオンをイオントラップに捕捉するステップ」は、本願発明の「保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップ」に相当する。
(ウ)引用発明の「ガスをパルス化してイオントラップの中に導入」するステップは、ガスを導入したイオントラップ内で「10-3mbarを超えるピーク圧力を得るため」のものであるから、イオントラップの少なくとも一部分における圧力を、所定時間、事前に設定された10-3mbar(0.1Pa)を超えるピーク圧力とするために熱化(冷却)ガスをイオントラップに導入するステップといえる。
また、引用発明の「10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入」「するステップ」は、イオントラップにおいて、定常状態圧力ではない10-3mbarを超えるピーク圧力を得るものであって、事前に設定された10-3mbarを超えるピーク圧力を得るものであるといえる。
そうすると、引用発明の、「10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入」するステップは、本願発明の、「該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約1.07x10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」及び「該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」と、「該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、所定の持続時間の間、0.1Paの事前に設定されたガス圧力を超えて上昇させるために、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」及び「該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該事前に設定されたガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップ」の点で一致する。
(エ)引用発明の「イオンをイオントラップから検出器領域内に放出するステップ」は、本願発明の「該保持時間の終了時に、該イオン閉じ込め装置から該イオンを放出するステップ」と、「該イオン閉じ込め装置から該イオンを放出するステップ」の点で一致する。
イ 上記アによれば、両者は
「イオン閉じ込め装置におけるイオンの運動エネルギーを減少させるための方法であって、
保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップと、
該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、所定の持続時間の間、0.1Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップと、
該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、該所定の持続時間の間、該事前に設定された冷却ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含む、ステップと
該保持時間の終了時に、該イオン閉じ込め装置から該イオンを放出するステップと
を含む、方法。」
である点で一致し、下記の各点で相違するものと認められる。
(ア)本願発明の「イオン閉じ込め装置におけるイオンの運動エネルギーを減少させるための方法」は、「保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップと、・・・該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」からなり、「イオンを保持するステップ」及び「冷却ガスを供給するステップ」と特定されるのに対して、引用発明の「質量分析計におけるイオンを熱化する方法」は、「・・・ガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオンをイオン源からイオントラップに外部注入するステップ」からなり、「ガスを導入し、」「イオンを外部注入するステップ」と特定される点(以下「相違点1」という)。
(イ)本願発明の「冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」は、該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、「該イオン保持時間未満の」所定の持続時間の間、約1.07x10-2Paの事前に設定された(冷却)ガス圧力を超えて上昇させるために、「該保持時間中に」、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップであって、「該所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、該イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔を含む、」ステップであり、さらに、「該保持時間の少なくとも一部分の間」、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップであって、該生成することは、「該所定の持続時間の間」、該事前に設定された(冷却)ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成することを含むのに対して、引用発明の「10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入」するステップは、ピーク圧力をどの程度の時間上昇させ、ピーク圧力(非定常状態圧力)をどの程度の時間生成するかが特定されない点(以下「相違点2」という)。
(ウ)本願発明の「冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」は、事前に設定された「冷却」ガス圧力を超えて上昇させるためであって、かつ、該事前に設定された「冷却」ガス圧力を超える非定常状態圧力を生成するのに対して、引用発明の「10-3mbarを超えるピーク圧力」は、冷却ガス圧力と特定されない点(以下「相違点3」という)。
ウ 判断
(ア)相違点1について
上記(1)で述べたとおり、本願発明の「第1の時間」は「・・時間間隔を含む」と特定され、「始点」が特定されていないと解釈されるから、当該「第1の時間」により特定される「所定の持続時間」の「始点」は、イオンのイオン閉じ込め装置内への供給開始時点の前後の任意のタイミングを含み得る。
また、引用発明も本願発明も(冷却)ガスにイオンが衝突しなければ熱化(冷却)することができないから、引用発明も本願発明も、イオンが通るタイミングまでに(冷却)ガスが存在すべきものであることは明らかである。
したがって、引用発明の「10-3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオンをイオン源からイオントラップに外部注入するステップ」においても、本願発明の「保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップと、該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約1.07x10-2Paの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」においても、ガス供給開始タイミングは、イオン供給開始タイミング等を考慮して適宜設定できるものである。
すると、相違点1は実質的な相違点ではなく、また、相違点であっても、引用発明から当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点2について
本願発明の「冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップ」が、該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、「該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間」、約1.07x10-2Paの事前に設定された(冷却)ガス圧力を超えて上昇させるために、「該保持時間中に」、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップであって、「該所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、該イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔を含む、」ステップであっても、「・・・する時間間隔を含む」「第1の時間」は、「・・・する時間間隔」以外の任意の時間を含み得るから、「第1の時間」で規定される「所定の持続時間」も、特定の時間に限定されないと認められる。
すると、本願発明と引用発明とで、ピーク圧力をどの程度の時間上昇させ、ピーク圧力(非定常状態圧力)をどの程度の時間生成するかの点での実質的な相違(相違点2)はない。
(ウ)相違点3について
本願発明も引用発明も、ガス注入前は高真空状態にあり、(冷却)ガスにより、所定圧力を超えて上昇させるものであるから、引用発明の「10-3mbarを超えるピーク圧力」も、冷却ガス圧力ということができ、相違点3は実質的な相違点ではない。
(エ)そうすると、本願発明は、引用発明と比較して、進歩性を奏する意味での相違点は存在しない。
(4)小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから拒絶されるべきものである。
また、以上のとおり、原査定の理由によって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-017016