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特許拒絶査定不服審判

2015-016244

インク組成物、記録物、記録方法および記録装置

審判番号
2015-016244
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2013-187923
請求日
2015年09月02日
審決日
2017年03月21日
公報発行日
2017年07月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】セイコーエプソン株式会社
  • 【請求人代理人】特許業務法人 信栄特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 國島 明弘
  • 審判官 冨士 良宏
  • 審判官 岩田 行剛
分類
P18 .537-WZ (C09D) / P18 .537-WZ (B41M) / P18 .537-WZ (B41J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2013-187923「インク組成物、記録物、記録方法および記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日出願公開、特開2014- 28964〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、平成20年10月22日に出願した特願2008-272269号の一部を平成25年9月11日に新たな特許出願としたものであって、出願後の手続きの経緯の概略は、以下のとおりである。 平成25年10月 9日   手続補正書提出 平成26年 9月 4日付け 拒絶理由通知 平成26年11月10日   意見書及び手続補正書提出 平成27年 5月27日付け 拒絶査定 平成27年 9月 2日   審判請求書及び手続補正書提出 平成27年11月 5日付け 前置報告 平成28年10月28日付け 当審における拒絶理由通知 平成28年12月27日   意見書及び手続補正書提出 第2 本願発明 本件出願の請求項1ないし26に係る発明は、平成28年12月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は、次のとおりのものである 「 【請求項1】 中空樹脂粒子と、該中空樹脂の透明化防止剤とを含む水系のインク組成物、及び、保湿剤を含む他のインク組成物を用いて画像を記録する記録方法であって、 前記透明化防止剤が、水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物であり、 前記中空樹脂粒子が、その内部に空洞を有しており、その外殻が液体透過性を有する樹脂から形成され、 前記透明化防止剤の水/オクタノール配分係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール配分係数よりも大きく、 前記中空樹脂粒子が、スチレン、ビニルトルエン、エチレン、ビニルアセテート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル、ジビニルベンゼン及びアリルメタクリレートから選ばれる少なくともいずれかを重合させて得られたものである、記録方法。」 第3 当審における拒絶理由の概要 当審において、平成28年10月28日付けで通知した理由(以下、「当審拒絶理由」という)は、以下のとおりである。 「理由1.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 理由2.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 第4 当審拒絶理由2の妥当性についての判断 1.はじめに 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否か、すなわち、特許法第36条第6項第1号に係る規定に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)から、以下、当該観点に立って検討する。 2.本願発明の詳細な説明の記載事項 本願発明の詳細な説明には、次の記載事項(以下、「摘記ア」のようにいう。)がある。 ア.「【0005】 ところで、上記のような白色インク組成物は、白色以外のカラーインク組成物(以下、単に「カラーインク組成物」という)と組み合わせて使用される場合がある。この組み合わせ形態としては、白色隠蔽層形成や色再現性などの観点から複数の形態が考えられ、例えば、(i)メディア上に白色画像領域とカラー画像領域を形成して画像記録する形態、(ii)白色インク組成物により形成される白色画像層上に、カラーインク組成物により形成されるカラー画像層を積層することにより画像記録する形態、(iii)カラーインク組成物により形成されるカラー画像層上に、白色インク組成物により形成される白色画像層を積層することにより画像記録する形態、等が挙げられる。 【0006】 今般、本発明者らは、中空樹脂粒子を含む白色インク組成物とカラーインク組成物と組み合わせた記録画像は、長期間保存下あるいは高湿度環境下におかれると、画像品位が低下することを知見した。上記(i)の形態においては、カラー画像領域と白色画像領域との境界部分において、白色画像領域側の境界部分の透明化が観測され、また上記(ii)(iii)の形態においては、白色画像層とカラー画像層とを積層することで形成された画像領域において、記録画像中に存在する中空樹脂粒子が透明化し、記録画像のカラー色味の低下が観測された。」 イ.「【0007】 そこで、本発明の目的は、中空樹脂粒子を色材として含みながら、他のインク組成物と組み合わせて画像形成に使用される際においても、時間経過や高湿度環境による画像品位の低下を生じさせないインク組成物を提供することにある。」 ウ.「【0008】 本発明者らは、上記透明化がカラーインク組成物に含まれる保湿剤が一因であることを見出した。通常、顔料系や染料系のインク組成物には、吐出性やインクの乾燥性の制御を目的としてグリセリンや糖類等を保湿剤として含んでおり、印刷物にはこの保湿剤がある程度残存している。そして、例えば、上記(i)~(iii)等の形態等によってカラーインク組成物と白色インク組成物とを組み合わせて使用した場合、記録画像中のカラー画像領域やカラー画像層に含まれるグリセリンや糖類等の保湿剤は、長時間保存下あるいは高湿度環境下におかれると、空気中の水分を吸水し白色画像に滲み出すことによって、または、空気中の水分を保持したまま白色画像に移動することによって、白色画像中に浸入する。白色画像中に浸入した保湿剤は、水分を含んだまま白色画像中の中空樹脂粒子の空洞に入り込み、その結果、中空樹脂粒子は光散乱による白色・隠蔽効果が発現できずに透明化してしまうものと考えられる。この透明化は、特に、ライトシアンインク組成物やライトマゼンタインク組成物などの色材濃度の低い(即ち、相対的に保湿剤が多く含まれている)カラーインク組成物と併用した場合に顕著に観測された。」 エ.「【0011】 本発明のインク組成物によれば、本発明のインク組成物と保湿剤を含む他のインク組成物と組み合わせて画像を形成した場合であって、例えば本発明の白色インク組成物と、保湿剤を含む汎用のカラーインク組成物とを組み合わせて画像を形成した場合においても、得られる記録物は、時間経過や高湿度環境によって中空樹脂粒子が透明化することはないため、長期に亘って高品位な画像を保持することが可能である。」 オ.「【0025】 2.透明化防止剤 本発明のインク組成物は、中空樹脂粒子の透明化防止剤を含む。 透明化防止剤としては、水/オクタノール配分係数が-1.0より大きく、且つ、25℃での蒸気圧が10Pa未満である、液体化合物または固体化合物であることが好ましい。より好ましくは水/オクタノール配分係数が-0.5以上であり、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である。中空樹脂粒子の透明化が防止される機序は明らかではないが、以下の2つのような機序と推測される。1つ目は、水/オクタノール配分係数において水に対する親和性がカラー画像の保湿剤に対する親和性より低い透明化防止剤は、白色画像とカラー画像により形成された記録画像中でカラー画像の保湿剤と同時に存在することで、空気中の水分よりカラー画像の保湿剤との親和性が高いため、水分の浸入を防ぐことができるためである。この時、25℃での蒸気圧が10Pa未満であれば、白色画像内において保湿成分として残存することができ、カラー画像から浸入する水分を抑制することが可能となる。2つ目は、透明化防止剤が特に固体化合物の場合、固体であるため画像内の移動量が極小である。従って、カラー画像から保水した保湿剤が浸入しても、中空樹脂粒子の空隙に浸入する前に当該保水した保湿剤を捕捉し、且つ画像内を移動しないため、白色画像の透明化を抑制することが可能である。」 カ.「【0026】 中でも、透明化防止剤として、好ましくはへキシレングリコールおよびトリメチロールプロパンから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはトリメチロールプロパンである。へキシレングリコールおよびトリメチロールプロパンは、グリセリン等とともに保湿剤としてインク組成物中に使用されることが知られているが、色材として中空樹脂粒子を含有する白色インク組成物に適用する場合には中空樹脂粒子の透明化防止剤として機能する。従って、当該白色インク組成物によって画像記録された記録物は、長時間保存下あるいは高湿度環境下でも中空樹脂粒子の透明化が抑制されるため、長時間に亘って高品位な画像を保持することが可能となる。 上記透明化防止剤の含有量は、総量で、白色インク組成物の全質量に対して好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは0.5~20質量%である。」 キ.「【実施例】 【0049】 以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。 【0050】 1.白色インク組成物の調製 表1に示す配合量で、中空樹脂粒子、定着樹脂、有機溶剤、透明化防止剤、第三級アミン、界面活性剤、およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例1、2、および比較例1~3の各インク組成物を得た。なお、表1の実施例1、2、および比較例1~3に記載されている数値の単位は、質量%であり、中空樹脂微粒子については固形分換算である。 【0051】 【表1】 【0052】 中空樹脂粒子は、表1に記載の市販品「SX8782(D)」(JSR株式会社製)を用いた。SX8782(D)は、外径1.0μm・内径0.8μmの水分散タイプであり、固形分濃度が20.5%である。 【0053】 「BYK-348」(ビックケミー・ジャパン株式会社製)は、ポリシロキサン系界面活性剤である。 【0054】 ウレタン樹脂は、「WBR-022U」(大成ファインケミカル社(製))を用いた。 【0055】 実施例の白色インク組成物は、透明化防止剤として、ヘキシレングリコール、トリメチロールプロパンを使用した。一方、比較例としては、通常保湿剤としてインク組成物中に含有される、グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量400)を使用した。表2に上記透明化防止剤の「水/オクタノール配分係数」および「蒸気圧(25℃)」を示す。尚、「水/オクタノール配分係数」は、OECDテストガイドライン107及び日本工業規格 Z7260-107(2000)「分配係数(1-オクタノール/水)の測定- フラスコ振とう法」により測定した。 【0056】 【表2】 」 ク.「【0057】 2.評価方法 2-1.白+カラー印刷後のカラー色味変化の評価 白の印刷には表1に記載の白色インク組成物を、インクジェットプリンタ(「PX-G930」セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのブラックインク室にそれぞれ充填した。このようにして作製されたインクカートリッジをプリンタに装着し、印刷試験を行った。 カラーの印刷には市販のインクジェットプリンタ(「PX-G5500」セイコーエプソン株式会社製)およびインクセット(EPSON IC9CL3337 フォトブラック、マットブラック、グレー、ライトグレー、イエロー、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタ)を用いて、印刷試験を行った。」 ケ.「【0066】 実施例の白色インク組成物とカラーインク組成物とを組み合わせることで形成された記録物は、長時間保存下や高湿度条件下におかれても、カラー色味の変化が殆どなく、また、カラー画像領域との白色画像領域側の境界部分での透明化も殆ど生じなかった。 一方、比較例の白色インク組成物による記録物では、白色画像の透明化が顕著に見られた。この透明化は、カラーインク組成物由来の保湿成分が空気中の水分を保水することによって白色画像に浸入したことによる影響以外に、白色インク組成物自体に含まれる保湿成分(グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量400))も影響したものと考えられる。」 3.発明が解決しようとする課題 本件出願の発明の詳細な説明には、「中空樹脂粒子を含む白色インク組成物とカラーインク組成物と組み合わせた記録画像」には、「長期間保存下あるいは高湿度環境下におかれると、画像品位が低下する」という課題があると記載されており(摘記ア参照)、その課題の解決について、「中空樹脂粒子を色材として含みながら、他のインク組成物と組み合わせて画像形成に使用される際においても、時間経過や高湿度環境による画像品位の低下を生じさせないインク組成物を提供すること」(摘記イ参照)と記載されている。ここで、摘記アを参酌すれば、上記「記録画像」の「画像品位が低下する」ことは、「(i)白色画像領域側の境界部分の透明化」、「(ii)(iii)記録画像中に存在する中空樹脂粒子が透明化」によるものであり、また摘記ウを参酌すれば、それらの透明化の原因は、「カラーインク組成物に含まれる保湿剤が一因」であるとされているから、上記「カラーインク組成物」は、実質的に「保湿剤を含むカラーインク組成物」を意図していると言える。また、「記録画像」における問題は、「画像を記録する記録方法」における問題でもあることは明らかであるから、上記課題は、本願発明の課題に相当するものと言える。 また、本件出願の発明の詳細な説明には、本願発明のインク組成物の効果について、「本発明のインク組成物と保湿剤を含む他のインク組成物と組み合わせて画像を形成した場合であって、例えば本発明の白色インク組成物と、保湿剤を含む汎用のカラーインク組成物とを組み合わせて画像を形成した場合においても、得られる記録物は、時間経過や高湿度環境によって中空樹脂粒子が透明化することはないため、長期に亘って高品位な画像を保持することが可能である。」(摘記エ参照)と記載されていることから、摘記イの「時間経過や高湿度環境による画像品位の低下を生じさせない」とは、「時間経過や高湿度環境によって中空樹脂粒子が透明化することはないため、長期に亘って高品位な画像を保持することが可能である」ことを意味していると認められる。 以上のとおりであるから、本願発明が解決しようとする課題は、「中空樹脂粒子と、該中空樹脂の透明化防止剤とを含む水系のインク組成物、及び、保湿剤を含む他のインク組成物を用いて画像を記録する記録方法において、時間経過や高湿度環境によって中空樹脂粒子が透明化することはないため、長期に亘って高品位な画像を保持することが可能である記録方法を提供すること」(以下、「本願発明の課題」という。)であると認められる。 4.判断 本願発明は、「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物であり」、「透明化防止剤の水/オクタノール配分係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール配分係数よりも大き」いものである特定の「透明化防止剤」を水系のインク組成物に含有させることを発明特定事項としており、摘記オ及びカのとおり、当該発明特定事項により本願発明の課題を解決しようとするものであると認められる。ここで、「透明化防止剤」という用語は、本件出願人が便宜上使用しているものであって、上記特定の「透明化防止剤」に該当する物を何ら限定するものではないので、上記特定の「透明化防止剤」には無数の化合物が該当するといえる。そして、これら無数の化合物は、本件出願の原出願の出願時における技術常識を参酌すれば、「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物であり」、「透明化防止剤の水/オクタノール配分係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール配分係数よりも大き」いものであること以外に、様々な特性を有していると認められる。 しかしながら、本件出願の発明の詳細な説明において、上記特定の「透明化防止剤」として具体的に開示されているのは、「トリメチロールプロパン」および「へキシレングリコール」の2つの化合物だけであり(摘記カ参照)、実施例により上記本願発明の課題が解決されることが確認されているのも、これら「トリメチロールプロパン」および「へキシレングリコール」を用いたわずか2例のみである(摘記キ~ケ参照)。 また、本願発明では、中空樹脂粒子としても多数の選択肢があるところ、本件出願の明細書の実施例において上記本願発明の課題が解決されることが確認されているのは、中空樹脂粒子として「白色中空樹脂微粒子SX8782(D)」を用いた場合だけである(摘記キ~ケ参照)。ここで、摘記カによれば、上記「トリメチロールプロパン」及び「へキシレングリコール」は「保湿剤」としても使用されるものであり、摘記ウを考慮すれば、それら自身が透明化の要因にもなり得るものと認められるから、中空樹脂粒子と組み合わせても所望の効果を奏しない可能性もあるといえる。しかるに、上記特定の「透明化防止剤」として「トリメチロールプロパン」及び「へキシレングリコール」を用いた場合でも、他の中空樹脂粒子と組み合わせた時にも同様の作用効果を奏するかは確認されていないと言わざるを得ない。 よって、これらの記載から、「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物であり」、「透明化防止剤の水/オクタノール配分係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール配分係数よりも大き」いという特性を有する「透明化防止剤」を用いさえすれば、本願発明の課題が解決することができるとすることはできない。 一方、本件出願の発明の詳細な説明には、透明化の原因に関して、「本発明者らは、上記透明化がカラーインク組成物に含まれる保湿剤が一因であることを見出した。・・・(中略)・・・カラーインク組成物と白色インク組成物とを組み合わせて使用した場合、記録画像中のカラー画像領域やカラー画像層に含まれるグリセリンや糖類等の保湿剤は、長時間保存下あるいは高湿度環境下におかれると、空気中の水分を吸水し白色画像に滲み出すことによって、または、空気中の水分を保持したまま白色画像に移動することによって、白色画像中に浸入する。白色画像中に浸入した保湿剤は、水分を含んだまま白色画像中の中空樹脂粒子の空洞に入り込み、その結果、中空樹脂粒子は光散乱による白色・隠蔽効果が発現できずに透明化してしまうものと考えられる。」(摘記ウ参照)と記載され、さらに、本願発明の特定の「透明化防止剤」の作用に関して、「1つ目は、水/オクタノール配分係数において水に対する親和性がカラー画像の保湿剤に対する親和性より低い透明化防止剤は、白色画像とカラー画像により形成された記録画像中でカラー画像の保湿剤と同時に存在することで、空気中の水分よりカラー画像の保湿剤との親和性が高いため、水分の浸入を防ぐことができるためである。この時、25℃での蒸気圧が10Pa未満であれば、白色画像内において保湿成分として残存することができ、カラー画像から浸入する水分を抑制することが可能となる。2つ目は、透明化防止剤が特に固体化合物の場合、固体であるため画像内の移動量が極小である。従って、カラー画像から保水した保湿剤が浸入しても、中空樹脂粒子の空隙に浸入する前に当該保水した保湿剤を捕捉し、且つ画像内を移動しないため、白色画像の透明化を抑制することが可能である。」(摘記オ参照)と記載され、上記本願発明の課題の解決に関する透明化防止剤の作用機序について、一応の説明がなされている。 しかしながら、これらの点は単なる推測にすぎず、十分な理論的裏付けがあるものとは言えない。例えば、1つ目の作用について、「水/オクタノール配分係数において水に対する親和性がカラー画像の保湿剤に対する親和性より低い透明化防止剤は、・・・空気中の水分よりカラー画像の保湿剤との親和性が高いため、水分の浸入を防ぐことができる」とあるが、「保湿剤との親和性」は、単に親水性であるか疎水性であるかによって決まるものでもないので、この説明が適切なものとは言えない。 さらに、上記のとおり、「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物であり」、「透明化防止剤の水/オクタノール配分係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール配分係数よりも大き」いという特性を有する「透明化防止剤」に該当する化合物は無数存在し、これら無数の化合物は様々な特性を有していると認められる。例えば、上記本願発明の課題の解決以前に、インク組成物の添加剤として用いるためには、それにふさわしい特性を有することが必要不可欠であるといえるが、本件出願の原出願の出願時における技術常識から見て、「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物」の全てが当該特性を有しているものとは認められない。また、「トリメチロールプロパン」及び「へキシレングリコール」のように「保湿剤」としても使用されるものについては、それ自身が透明化の要因になり、所望の効果を奏さない可能性がある。しかるに、仮に上記作用機序が適切であるとしても、単に「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物であり」、「透明化防止剤の水/オクタノール配分係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール配分係数よりも大き」いという特性を有することをもって、本願発明の課題が解決し得るものとは言えない。 以上の通りであるから、「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物」であって、「水/オクタノール分配係数は、前記他のインク組成物に含まれる保湿剤の水/オクタノール分配係数よりも大きい」ものを透明化防止剤として用いた場合に、上記本願発明の課題を解決することができるとは認められない。 よって、本件出願の原出願の出願時の技術常識に照らしても、本件出願の発明の詳細な説明に開示された事項を本願発明にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。 5.請求人の主張についての検討 請求人は、平成28年12月27日に提出の意見書第3頁において、 『本願明細書に記載の実施例は、水/オクタノール配分係数が+0.88のヘキシレングリコールや-0.5のトリメチロールプロパンを含む白色インクを、水/オクタノール配分係数がグリセリンと同程度のグリセリン類を保湿剤として含むカラーインクと併用した時には透明化防止効果が高い一方、水/オクタノール配分係数が-1.0のポリエチレングリコール、-1.36のテトラエチレングリコールや-1.76のグリセリンを透明化防止剤として含んでいる白色インクを、グリセリンと水/オクタノール配分係数が同程度のグリセリン類を保湿剤として含むカラーインクと併用した時には透明化防止効果は低いということを示していることがわかります。実施例から、白色インクの透明化防止剤の水/オクタノール配分係数が、白色インクとともに使用するインクセットの保湿剤の水/オクタノール配分係数より大きいときに本願発明の課題である透明化防止の効果が大きいことが読み取れます。 実施例は、白色インクの透明化防止剤として、白色インクとともに使用するカラーインクセットの保湿剤の水/オクタノール配分係数より大きい水/オクタノール配分係数を有する物質を選択することで本願発明の課題を解決できるということを示しており、本願発明は、この実施例が示している「白色インクとともに使用するカラーインクセットの保湿剤の水/オクタノール配分係数の値より大きい水/オクタノール配分係数値を有する物質を白色インクの透明化防止剤として選択する」という思想に加えて、さらにその効果が顕著である「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物」に限定するという思想も加えた技術思想をその趣旨としていて、実施例から読み取れる範囲内のものであることは明らかです。 したがって、本願発明は、本願出願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たしていると思料します。』 と主張している。 しかしながら、上記4においても指摘のとおり、本件出願の実施例は、「透明化防止剤」として「トリメチロールプロパン」および「へキシレングリコール」を用いたわずか2例のみであり、その比較例も「ポリエチレングリコール」、「テトラエチレングリコール」、「グリセリン」を用いたわずか3例のみである。加えて、本件出願の実施例・比較例においては、中空樹脂粒子として「白色中空樹脂微粒子SX8782(D)」を用いたものしか透明化防止効果が検証されていない。しかるに、このわずかな実施例・比較例の結果から、「白色インクの透明化防止剤の水/オクタノール配分係数が、白色インクとともに使用するインクセットの保湿剤の水/オクタノール配分係数より大きいときに本願発明の課題である透明化防止の効果が大きいことが読み取れ」るという主張が適切なものであるとは認めらない。また、透明化防止剤を「水/オクタノール配分係数が-0.5以上、且つ、25℃での蒸気圧が3Pa以下である、液体化合物または固体化合物」に限定したとしても、これに該当する化合物は依然として無数存在し、これら無数の化合物は様々な特性を有していると認められる。 よって、請求人の上記主張は採用の限りでなく、拒絶理由を解消する根拠となり得ない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、本件出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件出願は、その余の点について検討するまでもなく、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。

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2015-016244

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